表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました  作者: 永瀬さらさ
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/344

22


 晴天に子供が離してしまった風船が浮かび上がる。


 学園祭当日。すでに二日目の半ばをすぎた賑やかな学園内を、アヒルが走っていた。


『警備隊だ! 今その背中に隠し持った校則違反品、没収する!』

「!? 学園祭くらい見逃せ――うわっ」


 立ちはだかったアイリーンに刃向かおうとした生徒が、肩をつかまれて振り向き、硬直する。


『――さっさと隠したものを出せ』


 低い声の二匹目のアヒルにすごまれ、生徒が言葉もなくこくこくと頷いた。


「な、なんでアヒルなんだ……警備隊……」

「俺、あっちでも見たぞ、アヒル。全部で五匹いるって、数えた奴が」


 ひそひそ交わされる会話の間に没収品を確認する。魔香ではなさそうだ。


『じゃあ次にいきましょう、ゼーム……じゃない、ブルー』

『何故、私がこんな格好をしなければならないんだ……』

『あ、いたいたアイ……じゃない、レッド、ブルー!』


 コードネームを呼びながら、ぶんぶんと羽根を振った三匹目が近づいてきた。しかし、途中ですれ違った子供につかまってしまった。その横をアイザックがすり抜けてこちらにくる。


「どーよ、そっちの首尾は。アヒル生徒会長。あ、今はブルーだっけ」

『殺されたいか、貴様』

「俺を恨むより自分のくじ運を嘆けよ。あー着ぐるみ五つしかなくてよかった」

『――そもそも何故この格好なんだ、アイリ・カールア!』


 憤ったゼームスに、アイリーンは真顔で答えた。


『今はレッドと呼んでください。この格好だと、不意をつけるからですよ』


 嘘は言っていない。本音はいつクロードがやってくるか分からないからだが。


(クロード様、アヒルのこと気にしてたし。そうなると数を増やすしかないじゃない)


 それでこの有様だ。三匹目のアヒルが、子供とばいばいをしてやってくる。


『すごくうけてるなこれ。でも胸のリボンの色でしか見分けつかないのがなあ。あと、俺がピンクっていうのが納得いかない。レッドがよかった』


 そういってふさふさの胸につけたピンクのリボンをいじったのは、オーギュストだ。

 ブルーのリボンをつけたゼームスが、めげずにアイザックにくってかかる。


『そもそも、最初から警備隊だったのは貴様じゃないのか……!?』

「うちではそういう差別はしませーん。全員仲のいい下僕だろ?」

『誰が下僕だ!』

「はいはい。ブラックとイエローから報告。あっちも異常なしだって。あと、レイチェルがもうそろそろ昼食休憩しろって呼んでたぜ」


 ちなみにブラックにはカイル、イエローにはウォルトが入っている。

 二人とも死んだ魚のような目をしていたが、ちゃんと仕事はしているらしい。


『じゃあピンクとアイザックはあっちを回って。ブルー、次に行こうか』

『ブルーと呼ぶな』

『あ、待った。魔王様、どうも後夜祭までこられないっぽい。忙しいらしいよ。セレナが言ってた』


 オーギュストからの報告に、アイリーンは目をまばたく。そういえば、この間出した手紙の返事にも忙しくなる旨が書いてあった。


(アーモンドにいけない妻とか言われたけど……あれ、どういう意味かしら?)


 まだ何かぶつぶつ文句を言っているゼームスを無視し、てくてく歩きながら、首をひねる。

 何がいけないのだろうか。クロードが既に何度かセレナを呼び出しているのは確認済みだ。てっきり現地妻にでもする気かと思ったのに――側室などいらない君だけでいいと言う返事には、ときめいてしまったけれど。

 しかし途中で物陰に女子を引き込もうとしている男子を見つけ、天誅をかました頃には、すでに別のことに気を取られていた。


『まったくアシュタルトが襲撃してくるかもしれないっていうときに、問題行動の多い男子学生ばっかり……!』

『襲撃ががせだと思っているんだろう。実際、最初の村以外魔物の襲撃はないし、そもそもミルチェッタ学園をわざわざ狙う意味がないだろう。ここはただの学園だぞ』

『それは……』


 ゼームスの分析に答えを濁した。

 学園祭はゲームではエンディングに向けた重要な分岐点だ。後夜祭で誰と踊れるかによって誰のルートに乗るのかがほぼ確定し、逆に誰とも踊れなければ、一年で卒業してしまうエンディングを迎えることになる。さらに白百合姫の選考に当たって悪役令嬢の断罪イベントもある。

 そんなイベント盛りだくさんの学園祭の襲撃を予告されると、アイリーンはアシュタルトがゲームに関わりのある人物ではないかと警戒せざるを得ないのだ。


(レイチェルは学園祭の準備で後夜祭どころじゃないけど……)


 だが攻略キャラである生徒会メンバーと警備隊という形で接点ができてしまったし、油断はできない。


『ともかく、アシュタルトの襲撃が、狂言で終わればいいですけどね……』

『そうだな。――だがもし、お前の言うとおり誰かが私をアシュタルトにしたいのであれば、外部者が多い学園祭はチャンスだ。案外、襲撃予告はその目くらましの可能性もある』


 何事もなく終わればそれでいい。魔香のこともすべて。


 ――だが、事件は後夜祭の直前にやってきた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆コミカライズ試し読み◆
★コミックス発売中★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ