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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました  作者: 永瀬さらさ
第二部

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17


 困ったことになったとアイリーンは考える。


(今日はリュックとクォーツの共同研究室で、みんなと落ち合う予定だったんだけれど……)


 レイチェルはそもそも女性ということで夜間の見回りは控えてもらっている。

 アイザックは共同研究室で落ち合うことにしたので、別行動だ。

 どうにか自然に、離れなければならない――のだが。


「セレナちゃんにはびっくりだよねえ……」

「ずっと東の国に『女心と秋の空』という言葉があるらしいが、まさにそれだな」

「カイル先輩、それってどういう意味なんですか?」

「私も聞いたことがある。確か気持ちが変わりやすいという意味だった」

「なんっでゼームス会長もオーギュストも、カイル先輩とウォルト先輩までついてきてるんですか!」


 我慢できずカンテラ片手に振り向いて怒鳴る。全員がそろって顔を見合わせた。


「いやだって、あの話につきあうのはちょっとね……な、カイル」

「そもそも生徒会長がいなければ、会議にならない」


 先輩が堂々と逃げの手を打っている。頭痛をこらえながら、アイリーンはゼームスとオーギュストに目を向けた。


「なら、生徒会長と副会長が軌道修正すればよかったんじゃないですか?」

「断る。私は無駄な労力は払わない主義だ」

「あー俺も、ああいうのはちょっと苦手だし……」


 まさかの主人公補正で、攻略キャラ達が暴走を止められない現象だろうか。情けない。


「おいおい情けないねオーギュスト。お前、自分がフラれたって自覚ある?」

「えっ? 俺、フラれたんですか」

「乗り換えられたと知らぬは本人ばかり、だな」


 ウォルトとカイルにオーギュストが笑われている。

 ゼームスが呆れたようにつぶやいた。


「私は生徒会にわずらわしいことを持ち込まれなければそれでいい。……もうそろそろ目に余ると思っていた頃合いだった」

「……あのさあ。男だけしかいないから俺、言っちゃうけどさあ。……セレナの件なら俺、違うと思うんだけど……だってセレナ、俺が好きだったわけじゃないし」


 曖昧に笑うオーギュストに、全員が驚いた顔で注目する。

 アイリーンも苛立ちを忘れて尋ね返してしまった。


「どういうこと、オーギュスト」

「生徒会メンバーって目立つし女子に人気あるだろ。だからっていうか……その中で俺が一番とっつきやすくて、脈ありって思われただけかなって」

「……なるほど? 人気者の恋人になりたかったってやつか。ありそうだ。彼女は目立ちたがり屋だし」


 オーギュストはウォルトの分析を否定せず笑って誤魔化した。

 それでなんとなくアイリーンも今のゲーム進行を飲みこむ。


(要はこれ、あちこちにいい顔して誰も攻略できてない状態なんじゃないの……?)


 初心者がやりがちなプレイだ。いわゆるハーレムエンドがあればよかったのかもしれないが、『聖と魔と乙女のレガリア』シリーズにはない。

 こうなると、オーギュストルートにのせても失敗した可能性が高い。手を出さなくて正解だったとほっとする。


「その理屈で言うと、魔王への態度も同じ理由か? 皆がうらやむ男性の恋人になりたいという……馬鹿らしい。相手は魔王だぞ」

 肩をすくめたゼームスに、ウォルトがいやいやと笑う。

「でも皇太子で、あの美貌ときたら目もくらむのは分かるよ。しかも、彼女が憧れてやまないリリア・レインワーズ様の婚約者の異母兄弟だ」

「そして敵視するアイリーン・ローレン・ドートリシュの婚約者か。……まさか略奪をもくろんでいるのか? 恋愛にも節度は必要だろう」

 真面目なカイルは渋い顔をしている。オーギュストも眉根を寄せていた。

「泥沼とか苦手だよ、俺。仲介役どうするんだよ、ゼームス?」

「あれだけうるさいんだ。させるしかないだろう。それに――あの場では調子にのらせると思って言わなかったが、魔王からもセレナが指名されている」

 全員が驚いた顔になった。アイリーンもきょとんとしてしまう。


(何を考えているのかしら、クロード様。まさか浮気……わたくしに隠れて?)


 早急に側室に関する条件をつけよう。少なくともセレナは却下である。

「大丈夫だとは思うが、私も逐一確認して、警備に不備がないよう監視する。そのために夜回りにつきあってるんだ」

 セレナのあの熱弁から逃げるためではなくてか。

 そう確認したくなったが、やめることにした。それぞれ思うところがあるのだろう。

 ため息一つですませて先に進むと、みんながぞろぞろついてくる。

 オーギュストがはしゃいだ声を上げた。

「なんか夜回りって楽しいな。このメンバーで歩くのとか、初めてじゃないか?」

「確かに、そう言われればそんな気もするな。新鮮だ」

 頷くカイルにゼームスが鼻で笑う。

「たまたまだ。無駄な会話も必要ない」

「男同士でわざわざ集まって話したくもないしねえ。ね、アイリちゃん」

 わざとらしくウォルトがアイリーンの肩に手を置いたので、払ってやった。

「話したことなくて、今までどうやって生徒会回してたんです?」

「……なんとなく?」

 首をかしげたオーギュストに、うんうんとウォルトが頷く。

「それぞれ優秀だしねー」

「確かに、個々の仕事をこなせば円滑に動くものだ」

 生徒会が本業でない先輩二人は気楽なものだ。アイリーンは思わず、口をはさんだ。


「違うでしょう。ゼームス会長がまとめ役として優秀だからですよ」



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