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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました  作者: 永瀬さらさ
第一部

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 キース・エイグリッド。由緒正しきエイグリッド子爵家の次男で、クロードより二つ上の彼は、クロードが生まれる前からその従者になることが決まっていた。

 クロードが魔王だと周囲に疑われ出したのは、彼が五歳の時。庭で溺れたキースを、魔力を使って助けたことがきっかけだった。その後生まれたセドリックとの皇位継承争いで命を狙われるようになった彼を魔物が助けにくることが発覚する。

(多分、クロード様のことを皇帝達は隠していたんだわ……外聞を考えたのか、愛なのかは分からないけれど)

 それがキースの命を救ったことで、魔王だということが隠しきれなくなった。きっとキースは自分のせいだと責めたのだろう。だから今も、忠実に仕えている。


 魔王の意に反してもという、とても人間らしいやり方で。


 クロードに話を聞いた時に気づいてもよかった。魔物のために買ったというあの土地。伯爵領を丸ごとを安く買いたたけるわけがない。あれを買うために、幼い彼は魔物を売って資金を得た。恐らく、助けを求めてやってきた魔物を間引くか何かしたのだろう。結界内に入る前ならクロードには気づかれない。

 しかしたった一度で終わるはずだったそれは、何度も続けられることになる。

 断れば土地を取り上げられる。いいように騙されたことを相談できる相手もいない。彼はたった一人で戦い続けた。ほんのひとにぎりの犠牲で大勢の魔物を救う、そういう選択を自分一人に課してきた。

 それは人間側にも利益があったから続いていた取引だ。それが、リリアが聖剣の乙女として覚醒したことで綻ぶ。


(……あとはキース様が言い当てたとおりだわ。魔王がいなくなれば魔物は怖くない)


 魔王がいなければ魔物は群れることをしない。知能も低下し、大半が少々厄介なだけの害獣に成り下がる。人間が道具と知恵を使って数人がかりで狩るのもそう難しくない。しかも部位によっては非常に高値で売れる。それならば魔王を排除してしまった方がいいという連中が出てくるのは必然だ。聖剣の一撃で、魔王は消し飛んでしまうのだから。

 しかし、聖剣は魔物と戦う武器であり、人間にはきかない。まだ人間のクロードは聖剣で斃せないのだ。ならばいっそ、本当に魔物になってしまえ。それが魔王覚醒イベントが発生してしまう経緯だった。

 金が欲しかったからだと、キースはゲームで叫んでいた。割の良い商売ができるからこそ仕えたのだとクロードを嘲笑い、恩など感じていないと言い切る。

 けれど、それは優しい嘘だったのだろう。


『私はねえ、思ってるんですよ。……クロード様は魔物になった方が幸せじゃないかって』


 今朝、アイリーンの報酬に負けたキースはそう言っていた。彼の選択は、本来はクロードがすべき決断だ。その罪悪感を負わせるくらいなら、自分に情を残して人間のままでいるなら、いっそ自分を含む人間全てを憎んで魔物になってくれと、ゲームの彼は願ったのだろう。

 事実、ゲームでは怒り狂ったクロードがキースを自らの手で殺し、人間に絶望して竜に変わってしまう。

 ゲームの、特にセドリック攻略ルートの場合、卒業前に皇帝から魔物密売を解決するよう課題を出されたセドリックを手伝う形でリリアはかかわり、キースを疑いクロードにもそれを密告する。セドリック達と共に取引現場をおさえキースを捕縛しようとするが、そこでキースを殺してしまったクロードと鉢合わせする。そして絶望し竜に変わってしまったクロードを「あなたの悲しみを止める」と聖剣を使い消滅させる。

 ちなみにゲーム二週目のみに出現するクロード攻略ルートであれば、そこでクロードを人間に引き止める。キースに傷つけられたクロードを「私がいる」と癒やし、人間に戻すのだ。そして、リリアと生きていくことを決めたクロードは聖剣の乙女であるリリアとの対立を避けるべく、魔王としての立場を捨てる。魔物達を全て魔界に封印し、人間として生きていくのだ。

 そのあたりの記憶を全て取り戻したアイリーンが言えるのはただ一つ。


「なんって役に立たないヒロインなの……!!」


 キースが怪しいと気づいた時点で、クロードがどうなるか慮るべきだ。その上で行動するべきである。ゲームのリリアがやったことと言えば、キースの裏切りをクロードに見せつけ、傷つけ、そのくせ「悲しみを止める」と消滅させたり「私がいる」とクロードに全部捨てさせたり、やりたい放題だ。心底気に入らない。

 しかも、聖剣の乙女という魔物と相容れないリリアと魔物達を守りたいクロードがどう結ばれるかと思ったら、まさかのクロードが魔物を捨てるというおよそアイリーンの感覚では信じられない答えだった。


(わたくしは、絶対クロード様にそんな未来を選ばせない)


 アイリーンなら、クロードが望むものを全て用意してみせる。

 魔物も捨てさせない。大事な従者だって殺させたりしない。

 そのために必要なものは、全て根回しで決まる。戦いとはそういうものだ。


「――帰れと言っている」


 クロードの声が響いたと思ったら、扉が勝手に開き、廊下まで吹雪いてきた。

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