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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました  作者: 永瀬さらさ
おまけのおまけ(子世代)

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小さな白い花たちの冒険(2)

 普段、きちんとしているという評価はなかなか大事だ。

 クレアは普段から使用人たちを困らせたことはない。わがままに見えるアリアも、わきまえるべきところはわきまえている。王女の理想と言われるエステラに至っては言わずもがなだ。

 そして三人が寝間着姿で一部屋に集まって夜更かしする――というのは、三人集まれば『いつものこと』と処理される。お菓子やお茶を持ちこみ夜更かしをするのだとはしゃいで、結局は日付け変更前には寝落ちてしまう子どもたちの集まり。大人たちはそう思っている。

 だが、こちらだっていつまでも子どもではない。日付けが変わるまで頑張って起きていることだってできなくはないのだ。


「日付けが変わる頃までには帰らないと、さすがに気づかれるかもしれません。お父様たちの耳に入ればそれこそどうなるかわかりません。それまでには戻りましょう」


 というエステラの提案に従い、日が暮れるなりすぐに出発したから、日付けは変わる時間までもう少しある。


「魔物たちが言うにはこの湖で最後なんだが」

「白い花は咲いてませんね」


 ぐるりとあたりを見回して、エステラが結論を出す。

 ええ、と声をあげてアリアがまたへたり込んだ。


「ここまで頑張ったのにい」


 なあ、とクレアは離れた木の上からこちらを見ている白いカラスに向けて声をかける。


「シュガー、本当にここで森にある湖は最後か?」

「仰ル通リデアル、王女様!」

「白い花がないならないって先に言ってよお」

「行ってみなければわからないと仰ったのはアリア様です」

「そうだけどお……おかしいなあ、ほんとにないのかなぁ。白い花」


 満月の浮かぶ湖を見つめながらアリアがぼやく。エステラが考えこんだ。


「……湖ではなく、白い花のほうから場所の検討をつけてみるのはどうでしょう」

「白い花なんてそう珍しくもないぞ?」

「魔王の森で、という指定はヒントにならないでしょうか。たとえばエルメイア皇国の象徴は百合だと聞きましたが、その線ではいかがでしょう?」

「あっ、魔界の花!」


 叫んだクレアに、アリアもエステラも顔を向けた。


「聞いたことあるぞ、お祖母様から! お祖父様から魔界で咲く白い花を贈られたって」

「アリアも知ってる! お母様が大事なアイテムだって言ってた! それじゃない!?」

「でも、魔界……ですか……どうやって行くんでしょう……」


 もっともなエステラの疑問に、クレアも両腕を組む。


「古城に出入り口があるって聞いたことはあるけど、どこかわからないんだよなあ。魔術で隠してあるんだ」

「あー、エレファスおじさんのやつかあ。あれはアリアもむりぃ。も、すっごいんだもんあの魔術と罠。近づくだけで気持ち悪くなっちゃう」

「お父様も難しいと仰ってました。魔術を消すことはできてもその時点で気づかれるし、別の罠に引っかかると」

「あれに気づかれずに突破できるのはシャルルくらいだろうなあ」

「……シャルル様、ですか?」


 怪訝そうにエステラが問い返したが、クレアも詳細を説明できるわけではない。大体、ここで弟を呼び出すのは論外だ。


「他に出入り口があるとは聞いたことはないし……いったん帰って対策を練るしかないか?」

「えーそんなあ。アリアの王子様、ルクス以外の!」

「そこは諦めたほうがいい」

「わたくしもそう思います」

「何よお、ふたりして! アリアにはなんでも叶う魔法の呪文があるのに!」


 首をかしげたエステラに、クレアは教える。


「リリア叔母様直伝のやつだ」

「ああ……リリア様のですか」

「その言い方、信じてないぃ! ほんとなんだから! なんだっけ」


 ええと、と考えこむあたり、果たしてアリアもどこまで本気で信じているのだろうか。


「思い出せそうですか」


 だが、エステラが真面目な顔で待っている。意外だった。案外、本当に出会いを求めているのかもしれない。


「待って待って。ええと確か……きけかこよ! ひらけみらいよ! われわせいとまと! おとめの……れ、がりあ……おつぐお、とめなり……? 確かそんなかんじ!」

「けっこう長い呪文だな。よく覚えてたな、アリア」

「えへへ、頑張ったんだ。これはね、アリアが女王になったらって……」


 突然、地響きが鳴った。会話が止まる。

 と思ったら、突然足元が真っ暗になった。影が丸く、まるで穴があいたように伸びる。


「え」

「え」

「これは」


 地面に穴があいたのだ。当然、落ちる。

 王女様、という焦った魔物達の声が聞こえる。大丈夫だと答える間もないまま、あっけなくクレアたちは落下した。



■ ■ ■



 シャルルががばっと起き上がると同時に、ルクスが反応した。


「どうした」

「……魔界に落ちたっぽい」

「はあ? なんで……原因はアリアだな。いつもそうだ」


 嘆息して、ルクスが椅子から立ち上がる。そして棚から防寒用のマントを取り出した。


「……何してんだよ」

「迎えに行くだろ」

「父上に報告したほうが」

「おれとお前が行ったほうが早いって。それにさすがに魔界からじゃ、あの三人でもすぐには戻れないんじゃないか? お祖母様とお祖父様を起こすのも悪いだろ」

「そりゃあ、そうだけど……」

「なんだよ、迷う理由あるか?」

「……視てたってばれたら、気持ち悪がられ……ぶっ」


 そろいのマントを顔面に放り投げられた。


「おれも行くから早くしろ、父上たちに先に気づかれる。エステラ王女が怒られるのは可哀想だろ、アリアと姉上のせいで」


 マントを羽織ったルクスにせかされ、しぶしぶ袖を通す。窓を閉めて、部屋の鍵も閉めたルクスが準備運動のつもりか屈伸を始めた。


「でもアリア、迎えにこられたら嫌がるだろうな。ははははは」

「そこで笑える神経がわかんないんだけど……」

「尊敬していいぞ、おれはお前の兄上だ」

「しないよ」


 でも、伸ばされた手は取る。転移はあっという間だ。兄の前でだけは、シャルルは力を控えなくていい。隠しても今更だからだ。

 生まれたときから一緒にいる兄は、赤と紫のこの目も当たり前に受け止めている。引け目はないし、シャルルも遠慮しなくていい。

 古城の地下、迷宮になっている場所のさらに下。師匠の魔術の結晶が施された縦に長い穴底にぱっと出ても、ルクスは楽しそうに周囲を見ている。


「いつも見てもすごいなー、お前の師匠が作ったこの魔術。これ抜けられる奴、天才だろ」

「自慢かよ、本気になれば通り抜けられるくせに」

「そりゃまあ、穴は見えるけどな。でも糸を通すみたいな小ささだ。絶対疲れるしやりたくない。効きもしないお前につかまってるほうが楽」


 兄の目には、魔術をすり抜けていく自分の姿もお見通しだ。


「効いてないわけじゃないよ。分解と同時に再構築してるだけ。このやり方なら師匠は侵入者がぼくだって見逃してくれるし」

「分解と再構築とかかっこいいな! よし、そのままかっこよく助けにいこう」

「やだよ」

「エステラ王女に魔王だって思われたくないから?」


 黙ったシャルルに、ルクスが呆れ顔になった。


「子どもだなーお前」

「同い年だろ! 生まれた日まで同じだよ。送り出すまではやるから、あとはルクスがなんとかしろよ。姉上もアリアもうるさいから関わりたくない」

「いいけど、いいのか? エステラ王女にいいとこ見せられないだろ」

「だからそんなんじゃないって! それに、エルメイアの皇太子が助けたほうが格好がつくだろ、外交的にも」

「そりゃまあな。でもおれは、お前が皇帝になると思うけど」


 双子ではあるが、第一皇子はルクスだ。明るくて社交的な兄は、大雑把すぎる物言いやあまりある行動力を問題視されているものの、民の人気も高く頭も回る。一方のシャルルはひととの付き合いはさけているし、古城にこもりがちで社交界にほとんど顔も出さない。引きこもりで根暗な皇子と陰口をたたかれている。父親譲りの顔立ちをしているせいで、お姫様などと揶揄られたこともある。

 どう考えたってルクスのほうが皇太子にふさわしいし、既に皇太子として扱われている。それをひっくり返そうだなんて誰も思わないだろう。

 兄の目は色んなものを見通すけれど、いくらなんでも自分が皇帝になるなんていうのは夢を見すぎだ。


「馬鹿なこと言ってないで、行くぞ」


 相手にせず、シャルルは穴底に落ちる。するりとつま先から抜け出たそこは、魔界だ。人間が入っていい場所ではない。

 だが自分はいつかここに還るんだろう。――ひょっとしてルクスはそう思っていることも見抜いているのかもしれない。

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