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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました  作者: 永瀬さらさ
第五部

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 どれもこれも転移しまくってくれる人物でよかった。

 エレファスが息を吐き出すと同時に、皆も肩の力を抜く。ジャスパーがその場にどっかり座りこんで天井をあおぐ。


「あー完全に魔王様が魔王様だった、おっかねえ。しかも息子の体ってなんだそりゃ」

「クロード様の体が完全にのっとられたんでしょう。だから髪の色も変わった――」


 口元を覆って考えようとしたら、地面がゆれ出した。

 わっとドニが声をあげてベルゼビュートにしがみつく。


「何、まさか魔王様?」

「違います、これは――聖なる力だ、しまった! 離れましょう!」


 玉座を中心にして聖なる力が膨れ上がっていく。呑みこまれたら完全に魔力が使えなくなる。

 少しでも中心から離れるべく、慌てて駆け出したエレファスに皆が続く。翼を広げたベルゼビュートとアーモンドが先行した。


「何か邪魔がいたら倒してかまわないな」

「頼みます――っていうか、ベルゼビュートさんもアーモンドさんも正気ですか!?」

「? どういう意味だ」

「オレ様、元気!」


 どうも魔王という存在は維持されているからか、まだ正気なようだ。だが安心してはいられない。

 今、エレファス達を呑みこもうとしているのは聖なる力の結界だ。それに呑まれたら魔力は使えなくなるし、アーモンドのような弱い魔物はどうなってしまうか。


 だが回廊に出たところで、逃げ場がないことに気づいた。


 足を止めたエレファスにぶつかったジャスパーが文句を言おうとして黙り、レイチェルが青ざめる。わあっとドニが歓声を、ベルゼビュートとアーモンドが感嘆の声をあげた。


「この王宮、浮いてますよすごい!」


 ハウゼル女王国は天国と謳われる、楕円形の島国だ。

 その美しい楽園のような島から、中心にある王宮が浮き上がっている。がらがらと石畳の通路が崩れ落ち、回廊の向こうが空と海だけの景色に変わっていく。

 遅れて、背後から結界の薄い膜に呑みこまれた感覚がした。身を震わせたベルゼビュートが膝をつき、アーモンドがへなへなと落ちてしまった。エレファスもしびれた指先に、事態をさとる。

 もう魔力が使えない。


「アーモンドさん、大丈夫ですか!? ベルゼビュートさんも」

「あ、ああ……俺は大丈夫だが……魔力が使えないくらいで」

「オレ様、力、入ラナイ……オ菓子……」


 抱き上げられたアーモンドがレイチェルからちゃっかりお菓子をもらっているが、そんなにのんびりしている場合ではない。

 そうしている間にも、王宮はどんどん上空に昇っていく。聖なる力はすでに宮殿全体をすっぽりと覆っていた。魔力も使えないまま飛び降りれば確実に死ぬ。


「な……なあ、これってやばいんじゃねえの?」


 ジャスパーの不安を裏付けるように、甲高い音が突然鳴った。目くらましの結界を使っていた魔力が感知されたのだ。

 回廊の奥、石畳の隙間からうごめいて見えるのは、もはやお馴染みかと思うほど見慣れてきた白い兵隊だった。初めて見るジャスパーが声をあげる。


「何だよあれ!?」

「味方じゃないことだけは確かです! 逃げないと」

「逃げるだと!? 俺は戦うぞ!」

「馬鹿言わないでくださいベルゼビュート様、あなた今、普通の人間と能力変わりませんからね!? ついでに俺も今、普通の人間の中で最弱まで落ちましたからね!」

「それ自慢しちゃだめなんじゃないのかなー」

「で、でも逃げろってどこにですか!?」


 レイチェルの質問に、一斉に皆の視線がエレファスに集まった。

 気まずい気分でエレファスはそっと目をそらす。


「魔力が使えなくなったので、建物の構造の細かい所まではもう……」

「いきなり役立たずになりすぎだろ、もうちょっと頑張って欲しいぞ若者よ!」

「と、とにかく逃げましょう。ほら、きましたから!」


 きっちり二列になった白い兵隊がこちら目がけて槍をかまえた。回廊が広くないせいで、もたついているのが不幸中の幸いだ。

 だが追いつかれたらまずいことに変わりない。

 一目散に走りながら、ジャスパーが帽子を押さえつつ叫ぶ。


「と、とにかく安全な場所だよな。えーっとあれだ、なら厨房!」

「ちゅ、厨房ですか?」

「この国は火をおこすのも水を用意するのも魔石とか神具を使うんだよ! なら結界の対象外になってたりするんじゃないか!? 結界はったら料理できませんって不便すぎるだろ!」

「この建築様式だと厨房は別棟になってるだろうなー、あり得るかも。えっと厨房だったら造り的にこっちです!」


 エレファスは反論せず、ジャスパーとドニを見る。内心、驚いていた。魔力も使えず戦えない人間が、知恵だけで切り抜けていこうとする姿に。

 魔力も聖なる力も本来的には人間の力ではない。人間の力は知恵だ。知恵を使って道具を作り、知識を得て技術を伝え、それを次代へ引き継いで重ねていく。


(……ああ、だから魔物はこの人達にも敬意を払うのか)


 魔力は使えなくても、そのために学んだことは残っている。それは技術であり、知識だ。

 もしあのクロードもどきが神だと言うならなおさら、それしか戦う術はない。

 腹をくくって、エレファスは叫ぶ。


「ではまずそこに向かいます! あと魔石や聖石や神具、使える道具があったら回収しましょう。聖王様との連絡手段になるかもしれませんし」

「えっそんなことできんの?」

「俺が使えるのは魔力ですが、理論は聖なる力でも同じはずです。使いますよ意地で! あとは聖石か神剣の作りかけがあればドニさんが武器も作れるでしょう、それでベルゼビュートさんが戦えるはずです!」

「なるほど、お前賢いな! さすが王の自慢の魔道士だ!」


 ベルゼビュートの褒め言葉に、エレファスは目を丸くしたあと、当然ですと笑って頷き返した。



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