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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました  作者: 永瀬さらさ
第四部

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39

 剣の柄から錆が剥がれ落ち、刃こぼれが聖なる力で覆われていく。

 神剣が、自力で修復しているのだ。


(まさか、復活するの……!?)


 聖なる紋様を刻まれた柄、そこから伸びる白銀の剣身。

 光り輝く、アシュメイル王国の宝剣。


「……神剣……」


 誰かがそうつぶやいた。

 宙に浮かび上がったそれが、きらきら光の粒子を巻きながら空から降りてくる――。


「あ――ア、ああああぁぁ!!」


 その幻想的な光景をアレスの絶叫が引き裂いた。

 振り返った全員が絶句する。

 神剣が生み出した光を呑みこんでいく闇。

 魔竜だ、と誰もが直感した。

 それがアレスの右腕の腕輪から溢れ出し、その腕を黒く染め上げていく。バアルが真っ先に叫んだ。


「アレス、その腕輪をはずせ!」

「か、からだが、う、動かなっ……」

「あら、ひょっとしてさっきのセレナの血がその腕輪についちゃったとか?」


 リリアを押しやり、アイリーンはアレスの腕輪目がけて聖剣を振りかぶった。

 ぶつかった瞬間、ぴしりと音を立てて腕輪が割れて地面に転がる。アレスが尻餅をついて座り込んだ。


「……どういうことだ、魔竜がどうしてお前の腕輪から現れる」

「こ、これは――……違います、何かの間違いです。魔竜じゃない、何か別の――っ」


 舌をもつれさせるアレスの腕を、腕輪から溢れ出た瘴気がつかんだ。どろりと赤い目が一つ開かれ、そのまま膨れ上がる。

 どぷりと沼に落ちるように、アレスの体が瘴気に呑みこまれた。


「ひぃっ……!」

「ア、アレス様が魔竜に食われた……っ!」


 そのまま魔竜は兵士の足を絡め取り、腰を抜かした女官を頭から呑みこむ。

 だが手当たり次第ではない。アレスの連れてきた者達だけだ。アイザックが舌打ちした。


「魔竜の監禁にかかわった奴はすぐ逃げろ! 魔竜に食われるぞ!」


 だがその警告も悲鳴も混乱も、赤い目が空に目がけて放った光線にかき消える。示し合わせたように空の上から魔竜が咆吼した。

 狙いは頭上のバアルの結界、内側と外側からの攻撃だ。


 ばりんとあっけなく、硝子のような音を立てて結界がはじけ飛んだ。

 聖なる力が目視できる者には、そのきらきら輝く欠片が、絶望の始まりに見えただろう。


 すかさずバアルが張り直した結界めがけて、もう一度上空から魔竜が口を開ける。

 ものすごい爆風が吹き荒れた。まだ魔竜の攻撃は届かない。だがその光線が徐々に近づいてくる。バアルが押されているのだ。


「防御は完璧じゃなかったの!?」

「先ほどまでとあきらかに攻撃の質が違う! あれはただの魔力ではない!」

「ひょっとして腕輪を通じてセレナの力で魔竜も強くなっちゃったとか?」


 呑気にリリアが解説する。

 殴りたくなる気持ちをおさえて、アイリーンは叫んだ。


「全員、後宮から退避なさい! バアル様、皆が逃げたら結界を解除して!」

「どうするつもりだ。あれはもう、神剣がきくかどうかも……!」

「チートで殴るのよ!」


 もはや誰も手に取ろうとしない神剣をつかみ、もう片方の手で避難し始めた皆と一緒に行こうとしたリリアの首根っこをつかむ。


「どこへ行くの。責任をとりなさい、あなたが……!」

「私はかっこいいアイリーン様を遠くから応援してるわ!」

「ああそう。つまりあなたはセレナよりも役立たずで、神の娘以下ということね?」


 ぴくりとリリアが眉を動かした。その手に神剣を押しつける。

 本当はまかせたくなどない。協力など死んでもごめんだ。

 だが魔竜はアレスを――人間を呑みこみ、セレナの血とやらで、もはやゲームの設定をこえる存在になっている。しかも、アイリーンの勝利条件は魔竜をたおすことではない。


「呑みこまれたアレス達はまだ生きてる。引きはがして、魔竜をただの魔物に戻すわ。その間あなたは魔竜を神剣で止めて頂戴」

「神剣は誰だって使えるのに」

「神剣を使ったってあんなもの、止められるのはわたくしかあなたしかいない! ――あなたならできるわね? わたくし、あなたを信頼していないけれど信用はしているの」


 ふうっとリリアが両肩を落とした。唇を尖らせて、可愛らしく首をかしげる。


「……ずるいわ、アイリーン様ったら。敵にそんなこと言うなんて、本当にかっこいい」


 そう言ってリリアはその手に神剣を取る。瞬間、呼応するように神剣が輝いた。

 それは神の娘も聖剣の乙女も凌駕する力だ。

 にいと唇の端を持ち上げ、悪魔のような笑みを浮かべてその女は笑う。


「一度だけよ?」

「わたくしだって二度とはごめんだわ」

「おい、もうもたないぞ! いいのだな、まかせるぞ!!」


 バアルの叫びにまずリリアが軽い足取りで前に出る。

 その横に並んで、二人で魔竜を見上げた。

 結界が消える。

 何をしたわけでもないのに、ぎょろりと無数の赤い目がアイリーンとリリアを捕捉した。誰が敵かわかったらしい。


「いくわよ。足手まといにならないで」

「アイリーン様こそ。私が魔竜を殺しちゃう前に頑張って」


 手を前にかざす。現れたのは聖剣だ。さらにもう一つ。

 もう、聖王の結界はない。

 アイリーンの影を媒介して、聖剣がクロードの魔力をまとう。

 これに断ち切れないものはない。

 このゲームのタイトルは、『聖と魔と乙女のレガリア』なのだから。



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