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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました  作者: 永瀬さらさ
第三部

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 半分魂が抜けたような顔でリリアはマークスに戸惑いがちに捕縛され、セドリックと一緒に回廊を引き上げていった。

 セドリックは正式な処罰があるまで、リリアと監禁されるべく西の幽閉塔に自ら行くと言っていた。その足取りが嬉々としていたので、監視をつけようとはかけらも思わなかったが、クロードの命令で一応アーモンドがついていった。


「……異母兄弟でも似るんでしょうか」

「何の話かさっぱりわからないわエレファス」


 余計なことを気づかせようとするエレファスをにらんだが、逆に心配そうな顔をされてしまった。その意味など決して察しない。氷の牢とかそんなものは存在しなかった。


 埃をはらい、立ち上がったところでクロードが振り向いた。


「アイリーン」


 体の方が先に反応して、ぐるんと背を向けてしまった。心臓が緊張でばくばくする。

 

 一瞬だけ見えた瞳の色は確かに赤。


 でも、今はこう、なんだかまともに見る勇気がない。


「怒っているのか?」

「そ、そうではありませんわ。ただこう……そう、心の準備が」


 胸の前で無駄に指を組み合わせたりして、唇をかみしめる。自分がなにを望んでいるのか、わかるようでわからない。


「すまない」

「で、ですから怒ってません。ただ、わたくしは」

「怖かっただろう」


 胸をつかれた。じわりと浮かんだなにかを、喉を鳴らして飲みこむ。


(怖くなんてありませんわ。だってわたくしはあなたの妻になる女だもの)


 そう胸をはって、走ってきた。不安にも恐怖にもかまっていられなかった。

 魔王の不在におびえる魔物達がいる。助けてくれる仲間たちがいる。泣いてる時間がどこにある、迷う理由がどこにある。強く、前を見据えて、決して揺らぐな。それが自分の役割で、使命で、誇りだ。


 でも、本当は。


「よく頑張ってくれた。もう大丈夫だ。おいで、アイリーン」


 いつだってアイリーンが欲しい言葉をちゃんとくれるのは、ただ一人。


 嗚咽をかみ殺して胸に飛びこんできたアイリーンをクロードは抱き留めてくれる。怖かったなんてつぶやきは、彼にしか聞かせない。


「み、みんな、は、無事、ですか」

「心配するな、無事だ。ゼームスとウォルトとカイルは怪我をしていたが、リュック達のところへ放りこんでおいた。レイチェルにも怪我はない」

「あの、あの、エレファスは」

「ああ……」


 ぱちんと慣れた指の音が響いて、ぼんっと背後で北の塔の床が爆発した。


「その下にレヴィ一族の人質が閉じ込められている。助けにいくといい」


 ほっとして、アイリーンはまぶたをおろし、クロードの胸に額を当てた。


「目も治すからあとで顔を出すように。アーモンドの件もわかっているから、逃げようなどとは思わないでくれ。君には聞かねばならないことがある」

「……はい、クロード様。俺が誰に仕えてあなたに何をしたか、すべてお話いたしま――」

「そんなことはどうでもいい。それよりアイリーンと関係があるとかなんとか言った件だ」


 クロードの口調がやや物騒なものになり、エレファスが凍りつく気配がしたが、もうまぶたが重かった。


「詳細を話してもらおう。君だけではない。全員、個別面談を行う」

「えっ……いやそれは、あの」

「決定事項だ」

「お、お待ちください。――アイリーン様! 説明を……アイリーン様?」


 ふわりと足が宙に浮く。横に抱き上げられたアイリーンは、がんばってまぶたを開いた。視界いっぱいにクロードの優しい顔が映る。


「あとは僕にまかせて、眠るといい」


 まぶたの上に唇が落ちる。

 愛しているという甘いささやきを最後に、アイリーンは意識を手放した。




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― 新着の感想 ―
[一言] 皇女ではなく、皇妃でした<(_ _)>
[良い点] 精神力が強い主人公はやっぱりいいです♪ よく頑張りましたよね、アイリーン嬢! 次からは・・・もう少し、行動する前に考えて欲しいですね(笑) というか、あくまでも自分で動くのは、周りを信用…
[良い点] アイリーンカッコいい‼️ 可愛い‼️すごく好き‼️
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