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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました  作者: 永瀬さらさ
第三部

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33


 リリア様と初めて話したのは、半年ほど前です。皇太后の使いで向かった貴族のお茶会で、貴族のご令嬢に囲まれていじめられて、頭から紅茶をかぶってました。さすがに第二皇子の婚約者を見て見ぬふりはまずいと、魔法で綺麗にしたんです。魔道士だと不気味がられるかと思いましたが、魔法が素敵だと喜んでくれたのがとても新鮮で。


「そのあたり大体わかるからカットしてくれないかしら、ただの定番演出でしょう?」


 ……。

 リリア様は俺の名前をご存じでした。セドリック様から聞いていたそうで。俺の境遇も知っていました。巷では庶民上がりの男爵令嬢、教養も礼儀もなってないと言われてましたが、ずいぶん勉強しているのだと見直しました。


「狙っている人間のことは調べ上げるわよ、当然じゃない。ちなみにわざと間違いを口にしてわざわざ指摘をうけて、素直さをみせるところまでセットよ。まさか、それで可愛いなと思ったりしてないでしょうね?」


 ……。

 俺はその頃、疲れてました。


「優しくすれば一発で落ちる、かっこうの狙い目だったわけね。だから狙われるのよ」


 ……こ、皇太后から気に入られて、村に便宜もはかれるようになった。それを快く思わない村の人間が増えてきて。


「あなたは頑張ってるのにって理解されてときめいたのね。ちょろすぎない? それで? 彼女のためにも村を救うためにも、反乱をなんとかしなければならない、そのためにとかそういうところ? でも彼女は俺を一人で戦わせるだなんてできないと言って、首をつっこんできたんでしょう。それに彼女自身も問題を抱えてたりとかしたんじゃない? さあ続きをどうぞ」




 両手を牢の床について、エレファスがうなだれた。


「……。あの……アイリーン様。ちょくちょく口をはさんで俺の大切な何かを折るの、やめてもらえませんかね……」

「それで折れる何かなら折れてしまいなさい。大体、綺麗に取り繕ってるけど、あなたのやっていることは完全に横恋慕よ。どうせ胸に秘めてる内に盛り上がっちゃったんでしょう。あるわよね、そういう背徳感が好きなお年頃。彼女が幸せなら俺は、っていう」

「あの……ほんとやめてもらえませんか……恥ずかしくて死にたくなってきた……」

「それで? 何も知らないはずの彼女はこう言い出したんじゃない? このままだとレヴィ一族が滅んでしまうって」


 アイリーンは未プレイだが、魔王復活をもくろむエレファスがラスボスとして設定されている以上、レヴィ一族が助かるとは考えにくい。悪役令嬢のアイリーンと同じように魔王の光線で一発排除か、ナレ死がいいところだろう。

 そう読んだうえでの発言だったが、エレファスの驚いた顔からすると、当たりらしい。


「……変な夢を見ると言っていました。俺は元々、その相談を受けていて……未来が見えるようなんです。元聖剣の乙女とはいえ、魔力もない少女です。最初はただの夢だろうと思ってたんですが、本当に当たるんです」

「……たとえば?」

「最初はレスター卿の勤める部署で起こった汚職です。税金の横領なんですが、レスター卿に罪をかぶせようと画策していると。半信半疑でレスター卿が調べたら本当だった」


 レスター攻略ルートにあるイベントだ。目を細めるアイリーンにエレファスは続ける。


「それだけではありません。セドリック皇子の暗殺未遂事件の犯人や、小さいものだと夕食会のメニューまで。皇太后のなくした宝石の在処なんてものもありました。そしてミルチェッタで魔物が反乱を起こすことも予知した」


 ずいぶん細かくゲームの内容を覚えている。自作自演もまざっているが、そこは素直に尊敬した。知識の使い方も絶妙だ。相当ゲームをやりこんでいるのだろう。


「……それで、彼女のレヴィ一族を滅ぼされるっていう言葉をあなたは信じたのね」

「とても嘘だとは思えませんでした。現に村は魔王を魔物に覚醒させようと秘術を開発してしまった。それがばれればどんな形であれ、ただですむわけがない。それに彼女は――あなたに奪われた聖剣を、取り戻していたんです」


 さすがに驚いて顔をあげた。エレファスが鉄格子ごしにアイリーンを見つめ返す。


「どうやってかは知りません。でも俺にはそれが、彼女の夢のとおり、魔王が復活する証拠にしか見えなかった」

「……。だからあなたは、わたくし達に最初からつこうとは考えなかったのね」

「ええ。あの予知めいた力は恐ろしい。聖剣まで復活させた。だから魔王が最後に勝てるとは思えなかった。魔王は魔物として覚醒しても、リリア様の聖剣に斃されるだろうと……だからクロード様が人間のまま記憶を取り戻しかけたのには驚きましたが」


 だとするとあのクロードの半覚醒は、イレギュラーな展開なのだろうか。


「このままでは彼女の予知どおり、一族が滅ぶ。そう思った俺は、皇太后に話を持ちかけました。レヴィ一族のしていることを皇太后の手伝いに見せかけるために、秘術に細工をし、彼女から聖剣の力を借りて……あの夜クロード様を刺して、皇城に運んだのは俺です」


 あっさりした自供だった。もう隠す意味がないのだろう。


「クロード様の体内を巡る魔力回路を遮断し、皇太后の魔法具に魔力を流す。そういう術をかけました。……結局リリア様の言ったとおり、それでクロード様が記憶喪失になってしまってぞっとしましたが」

「じゃあそのあともわたくし達についていたのはリリア様の命令なのかしら?」

「それは皇太后の命令です。……リリア様はクロード様の介抱に夢中で、会っていません。舞踏会の時、彼女が止めに入るのを心配してたんですが、俺に視線一つくれなかった。もちろんそれで有り難かったわけですが……まるでもう用事がすんだみたいだ」

「まあ実際そうなんでしょう」


 エレファスは攻略すれば魔王を復活させるラスボスにならない。つまり、クロードは魔力も記憶も戻らず人間として生きていく展開になる。そこがリリアの狙いだったのだろう。


(ゲームの展開と真逆の行動を取ると思ったら、攻略済みだったってことね……)


 そのうえクロードを攻略しようとするわ、本当に節操がない。

 エレファスは力を抜くように息を吐き出す。


「やっぱりそうなんですね」

「あら、ずいぶんあっさり認めるのね。あんなに切なく悶えていたんじゃないの」

「やめてくださいそういう言い方。そもそも、あなたの監視でそんなこと気にしてる場合じゃなかったですよ。男装して敵陣に平気で乗りこむわ、嫌がる魔王様を追いかけ回すわ、魔物を捕獲しようとするわ。……それに」


 不意に言葉を切ってエレファスが言葉を切ってアイリーンを見た。

 二つの鉄格子に遮られることなくまっすぐ飛んできた強い視線に、アイリーンは怪訝な顔をする。


「なに?」

「いえ。……結局一緒です。俺は、一族を救いたかったので、あなたにはつかなかった」


 後悔はしてないと言いたいらしい。


「それにしてもよく喋るわね。まさか諦めたの?」

「……有り体にいえばそうですね。魔力はからで牢から出られないし、連中はあと半刻もすれば皇都に転移して攻め込むでしょう。魔力の回復を待つ時間もない」

「ちなみにどうして魔力がからなの」

「あなたが聖剣で根こそぎ俺の魔力を奪い取ったんですよ。それで強制転移も失敗して、よりによって故郷に落ちたんです」

「そう。聖剣が魔力をね……だからわたくしはこんなに元気なのかしら?」

「は?」


 聖剣を呼び出した瞬間、手首両足を縛っていた鎖がばりんと音を立てて割れた。

 聖剣は人間にはきかない。だが物には有効だし魔力に至っては破壊し放題だ。聖剣も出番を待ち構えていたように妙にきらきらしており、鉄格子を切ったら見事に粉々に砕け散った。魔力が付加された牢だったらしい。

 堂々と牢を出たアイリーンは、鉄格子ごしにエレファスを両腕を組んで見下ろし、尋ねた。


「さて、わたくしはあなたの故郷を救えそうね。言いたいことはあって?」





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