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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました  作者: 永瀬さらさ
第三部

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32


 誰かが喋っている。夢うつつで、意識がはっきりしない。


「俺を解放してくれ。戻らなければ皇太后様に裏切者と見なされて、村が焼かれる」

「皇太后“様”かい。ずいぶん向こうの生活が馴染んでるんだろうなあ、お前は」

「自分一人が俺達の命運を背負っているとでもいいたげだ。いつからそんなお偉くなった」

「そうじゃない……! 俺だって村を助けたいと思ってる、だから」

「そのための魔王復活を邪魔したのは他でもないお前だろうが、エレファス!」


 魔王、エレファス。


 アイリーンは瞳を開いた。が、起きることはできなかった。両手と両足が鎖で縛り上げられている。冷たい石畳の床、目の前には鉄格子と、数人の男達の影が見えた。通路を挟んだ向かい側にも牢がある。その内と外で何やら言い争いが続いていた。


「お前が魔王覚醒の秘術を勝手に書き換えたってわかってんだよこっちは! どこまで日和見なんだ。魔王さえ竜に覚醒させちまえば皇都は今頃、陥落してたのに……!」

「聖剣がある以上、魔王が覚醒したとしても切り札にできない! それに、皇都には人質の女や子どもが大勢いる、それを見捨てるなんてできるわけないだろう!?」

「多少の犠牲はやむを得ない! あいつらだって皇族共に飼い殺されるよりマシだろ!」

「そんな馬鹿な話があるか! とにかく戦うのは今じゃない、もっと冷静に」

「おいエレファスよ。そりゃいつだ、十年後か、二十年後か」


 しゃがれた老人の言葉に、静寂が満ちた。アイリーンはじっと目の前の牢を見つめながら聞き耳を立てる。牢の中に誰がいるのかは、その前を陣取る男達のせいで見えない。


「女子どもを人質にとられ続け、魔道士の数もだいぶ少なくなった。この先、今以上に戦力があることは、もうねえだろう」

「……それは……わかります。でもだからこそ、別の解決法を考えないと」

「皇太后に尻尾を振った裏切り者が何を言ってやがる……! どうせ自分さえよけりゃそれでいいんだろ、お前は」

「今も昔も、お前達一家は媚びることしか考えねえ」

「やめねえか。こいつの死んだ親父がエルメイア皇国に命乞いしたから、俺達は飼い殺しでも生きてこられたんだ。……余計なお世話だったってだけでな」


 吐き捨てるような最後の言葉が、エレファスの立場を物語っている気がした。


「話は終わりだ。俺達の魔王覚醒の術は効いてる。あとは魔王を操って、混乱する皇都に攻め込めばいい。お前の首を皇太后に送りつけないのが精一杯の身内の慈悲だよ。お前がつれてきた女は見せしめに連れて行くぜ。どっかの貴族なんだろ、いい服着てやがる」

「あとでゆっくりかわいがってやんねーとなあ」

「……も……」

「あ?」

「――俺にもかなわない魔道士達が束になって、何をするかと思えば。無抵抗な女性に乱暴することか」


 がしゃんと派手に割れる硝子の音が響いた。鉄格子に葡萄酒の瓶がぶつけられたらしい。硝子の欠片が、アイリーンが横たわる牢の前まで飛ぶ。


「ちょっと魔力が強いからって、偉そうな口きいてんじゃねぇよ!」

「おい今ならこいつ魔力がカラだ、牢の外に引きずり出して体でわからせてやった方が」

「あ、あの、あの! しょくじ、もってきまし、た」


 乱闘の予感を、小さな子どもの声が遮った。さすがに子どもの前で乱暴を働く気はなかったのか、舌打ちした大勢の大人達がぞろぞろと奥の階段を登って出て行く。かわりに盆を持った子どもが急いで向かいの牢へと近寄る。


「エレファス兄ちゃん、大丈夫?」

「……ああ、大丈夫だ。それよりお前、どうしたんだ。こんなところにきて」

「姉ちゃんが持って行けって、ごはん。……ほんとに魔力からっぽじゃん、どうしたんだ?」

「ああ。……とある御方に無茶をさせられたせいでね……」


 子どもが呆れた声を上げる。


「兄ちゃんが魔力を根こそぎなくすなんて、どんな化け物相手にしたんだよ」

「――それより、皇都に攻め込むって話は本当なのか」


 エレファスが食事を受け取るために鉄格子に近づき、ようやく姿が見えた。暗がりのせいか、疲労が濃く見える。口調にいつもの穏やかさもない。


「うん、本当みたいだ。……あいつら、昨日から反対する奴は全部裏切り者だって閉じ込めたり、家族人質にとったりして、誰も逆らえないんだ。止められなくてごめん、兄ちゃん」

「お前が謝ることじゃない。……やっぱりきっかけは昨日のあれか」

「うん……魔王の魔力が復活しただろ。俺達の術は発動してるって、それで一気に盛り上がってる奴らも多くて。魔王が操れる、今が戦う時だって……」


 覚醒というのはあの舞踏会の時、クロードの片目が赤に戻ったことを言っているのか。だとしたらずいぶん早合点だ。奇しくもその原因をエレファスがため息がちに答えてくれた。


「今までこちらの状況を教えてこなかったのが裏目に出たな。俺があれは魔王の覚醒じゃないと説明しても、信じてもらえなかったよ」

「俺とか姉ちゃんとか、エレファス兄ちゃんに助けてもらった奴らは信じてるよ! そもそもあいつらだって村にいられるの、エレファス兄ちゃんのおかげじゃん! 兄ちゃんが自分一人で仕事を全部こなすって皇太后にかけあってくれたから、今、人質以外みんな村で生活できてる。なのに自分たちが村を救うって、えらそうにさあ……!」

「仕方ない、色々あるんだ。……いいか、いざという時は逃げるんだ」

「……でも、逃げるって言ってもさ……」

「俺が、なんとかする。だてに皇族の奴隷を長くやってないさ」


 子どもが心配そうにエレファスを見る。それは先行きへの不安ではなく、エレファスを案じるものだと、エレファスは気づいているのだろうか。

 食事を終えたエレファスに早く戻るよう言われ、子どもが振り返り振り返り、階段を登っていった。じじっと地下の蝋燭が燃える音が聞こえるほど静かになってからようやく、エレファスは大きく息を吐き出す。


 二人きりだ。

 もうそろそろ頃合いだろうと、アイリーンは起き上がる。


「どうするの、これから」

「……アイリーン様。起きてらっしゃったんですか。いつから」

「早く止めないと、今度こそレヴィ一族は滅びるわよ。奇襲はできるでしょうけど……」

「物量で負けるのは目に見えてますからね。結局、リリア様の予言があたったわけだ」


 すうっとアイリーンの目が冷めた。


「……あなたのご主人様はリリアなのね? 皇太后ではなく」

「ご主人様、というなら皇太后で正解ですよ。リリア様は俺が一方的に……なんですかその汚物を見るような顔。ちょっと傷つきます」

「……顔は努力はするわ。続けて。場合によってはあなたを見捨てるけど」

「俺、まだ見捨てられてないんですか? それは驚きだ」


 茶化すようにエレファスが笑う。そしてぽつぽつと語り始めた。




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