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悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました  作者: 永瀬さらさ
第三部

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132/344

31


 昨晩の豪雨のせいで地面がぬかるんでいる。

 足をとられそうになったレイチェルを、オーギュストが支えてくれた。


「ごめんな、もう少しだから。あ、おぶろうか?」

「だ、大丈夫です。――ゼームスさん達は、大丈夫でしょうか」

「あー大丈夫大丈夫、あの三人強いし。それにしても警備厳しいな、皇都」


 建物の陰から大通りを見たオーギュストがため息をつく。

 第五層まで騎士団がうろうろしているせいで、さっきからなかなか移動が進まない。


「アイリーン様達がまだ見つかってないってことでしょうけど……」

「でもゼームス達と郊外で戦闘が始まったことはいくらなんでも伝わってるだろ。……いやあの三人で全滅させてたら知らないけど」

「人間兵器“名もなき司祭”と半魔とはいえ人型の上級魔族だもの。威力偵察の騎馬隊じゃかなわないでしょ」


 突然背後からかけられた声に振り向いた時には、もうオーギュストが短剣を弾き飛ばしていた。そのまま腕をひねり上げられた相手に、レイチェルは驚く。


「セレナ様」

「いたっ痛い放しなさいよ乱暴者!」

「静かにしろ」


 セレナから奪った短剣を喉元に突きつけて、オーギュストが低く告げる。

 セレナは息を呑んだようだった。


「今は遊んでる場合じゃないんだ。抵抗するなら容赦しない」

「……。助けてあげるって言っても?」


 オーギュストが目を眇める。レイチェルは唇だけで笑った。


「ついでに魔王様の居場所も教えてあげる。どう、悪い話じゃないでしょ」

「なんのためにですか? セドリック皇子とリリア様は皇太后様にかわいがられているでしょう。今、クロード様を助けようとする理由があると思えません」

「あるでしょ。魔王様の記憶が戻った時、セドリック皇子は見逃してもらえる」


 それはつまり――レイチェルは思わずオーギュストと顔を見合わせてしまった。


「私も愛妾になる以上、セドリック皇子にはそれなりの地位にいてくれなきゃ困るわ。だから急いでるのよ。で、どうするの? 私はこのままあんた達を皇帝側に突き出してもいいんだけど。言っておくけどこれ、親切心だから。感謝してよね」

「なんでそんな親切するんだよ、セレナが」


 喉元に剣を突きつけられたまま、セレナはレイチェルを真顔で見返して、嘆息した。


「……その格好。あんた、あの女の身代わりになって、囮にさせられたんでしょ」

「……」

「やめたら? あの男」

「……」

「えっ、いやなんで黙るんだよレイチェル! ア、アイザックは絶対、あんな頼みしたくなかったって! 内心つらくてもああするしかなかったって、そういうのわかるだろ!?」

「自分に惚れてる女には何しても許されるって勘違いする男って、何様なの?」

「ですよね……」

「なんで俺がそんな目で見られ――ってそんな話じゃないだろ!」


 オーギュストが叫んだところで、誰かいるのかという声がかかった。セレナが舌打ちする。


「あんたがうるさくするから」

「えっ俺のせい!?」

「で、どうするの。ついてくるのこないの」

「……ゼームスさん達との合流を手伝ってください。あなたはいざという時、私達を皇太后に売って難を逃れることだって考えてるはず。だったらそれくらい協力してくれますよね?」


 にっこり笑ったレイチェルに、セレナは毒気を抜かれた顔をしてから嘆息した。


「及第点の返答ね。わかったわ、こっち。ついてきて」

「――おい、いたぞ! 聖騎士団のっ……!」


 狭い路地裏に入ってきた騎士達を騒ぐ前にオーギュストが昏倒させていく。こういう時のオーギュストの剣さばきは迷いも隙もない。先導で走り出したセレナが殿を務めるオーギュストに少し視線を投げた。


「あんたもせっかく聖騎士団に入ったのに反逆者扱い。将来台無しね」

「なんで反逆者なんだよ。聖騎士団って皇帝陛下の直轄騎士団だろ」


 クロード・ジャンヌ・エルメイアが皇帝になるならば、オーギュストは反逆者でもなんでもない。

 この状況でそれを信じて疑わないオーギュストに、セレナがけっと舌打ちした。


「な、なんで俺、助けてるのにそんな態度ばっかりとられるんだ……?」

「オーギュストさん。今はとにかく逃げるの優先ですから」


 微妙にセレナの気持ちがわかる分、無難に誤魔化そうとした。オーギュストは納得できていない顔で走りながら、レイチェルに小声で尋ねてくる。


「……アイザックのこと、嫌になったりしないよな?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと仕返ししますので」

「あ、仕返しするんだ……」


 当たり前でしょ、とセレナが前から大声で返す。

 オーギュストは複雑そうな顔をしていたが、レイチェルはセレナ様もとは言わずにおいた。




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