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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第四章:夏休みは修羅場
78/80

78:カミングアウト【咲良視点】

 兄のいきなりプロポーズ騒動が収まり、他のお客様が帰られた後、両家で再び和やかな歓談をしていた時、両家公認の仲になった二人がもう一度咲良と駿にお礼を言った。

 それを聞いていた周りは、どう言う経緯で咲良と駿が兄達の誤解を解く事になったのか、尋ねた。そこで説明しだしたのは、駿だった。


「実は、僕と咲良さんはサークル仲間なんです。僕は高校の時は咲良さんの事を知りませんでしたが、サークルで同じ高校出身と知り、それから仲良くなりました。そんな時に、咲良さんのお兄さんが共同研究のために大学へ来られ、咲良さんとお兄さんが一緒に居る時に、姉と僕とが遭遇したんです。姉と咲良さんのお兄さんはお互いの事に気づくと、言い合いを始めました。それは五年前にお互いが裏切られたと思っていたからです。二人の様子を見ていると、お互いが誤解している事に気づきました。それで、咲良さんに二人で協力して姉達の誤解を解こうとお願いしたんです。二人で姉達それぞれに話を聞き、益々誤解している事を確信したのですが、最初はなかなか本人達が5年も前の事だからと納得しませんでした。でも、咲良さんのお兄さんは何か思うところが有ったのか、いろいろ調べてくださったみたいで、自分たちが騙されていた事を知ったそうです」

 咲良はドキドキしていた。駿が一体どこまで話してしまうのかと。どうにか無難なところで一息ついた時、咲良は心の中で安堵の息を吐いた。すると、大樹がその後を引き継いで話し始めた。


「確かに騙されたんですが、綾さんと私はお互いにまだ子供で、どんな言葉にも惑わされない程の絆を結べていなかったのだと思います。今回二人で話し合って、その点は反省しました。私達は駿君と咲良に切っ掛けを貰い、未来に向けて一緒に歩んで行こうと決意するに至ったのは、今回このパーティにお誘いいただいたお陰です。なかなか面と向かって綾さんと話が出来なかったのですが、このパーティがその機会をくれました。さらに言えば、父親達の二十七年ぶりの再会があったからだと思います。父親達がQ大で出会い、Q大で再会し、私達もQ大での再会です。何か不思議な縁を感じますね」

 大樹の説明に、皆が感心したように聞き入った。咲良は大樹が話した『Q大での不思議な縁』が自分にも当てはまるんじゃないのかと思い至った。


「あの、Q大の不思議な縁と言えば、僕と咲良さんもそうです。同じ高校だったのに言葉を交わす事も無く、Q大で初めて知り合い、サークルや姉達の誤解を解く事で仲良くなり、今日お付き合いを申し込み、了解を得ました。僕達も宜しくお願いします」


 (ええっ! 何どさくさに紛れて、カミングアウトしているの?!)


 駿が大樹の話を受けて便乗するように告白した瞬間、咲良は唖然としたまま固まった。どうやらどちらの両親も同じように唖然とし、大樹と綾は顔を見合わせて苦笑している。


「さ、咲良、本当か?」

 父親がどうにか我に返ったのか、咲良に駿の告白の真偽を問いかけた。咲良もその問い掛けで我に返ったが、驚きと羞恥で俯いたまま視線をさまよわせる。


「まあまあ山野、もう大学生なんだ、本人達に任せたらどうだ?」

 駿の父親が、懐の広さを表すように理解ある発言をする。


「で、でも……親元を離れているから、余計に心配で……」

 尚も言い募る父親に、咲良はまだ子ども扱いされているようで悲しくなった。


「お前の所の息子は良くて、うちの息子はダメだと言うのか? それならうちの綾も親元を離れているから、許さない方がいいか?」


「そ、そう言うつもりじゃ……」


「お前の心配も分かるが、もう大学生なんだから信頼してやったらどうだ」

 咲良の父親は返す言葉もなく、考え込んでしまった。


「あなた、彼は親達に話さず隠れて付き合うことも出来たのに、こうして私達に話してくれたのよ。とても誠実だと思うの。咲良と彼を信じましょう」

 母親の力強い言葉に、咲良は胸が震えた。


「そうだな、話してくれた彼の誠意を信じるよ。咲良を宜しく頼む」

 父親も母の口添えに納得したのか、駿を信じてくれたようだ。駿も神妙な表情で「わかりました」と答えている。


「綾に引き続き駿まで、山野家とは深い縁があるみたいね。咲良さん、駿を宜しくね」

 駿の母親が、優しく笑って咲良に声を掛ける。咲良はこんな時なのに、この人がマドンナなんだと思い出し、その聖母のような微笑に見惚れた。


「こちらこそ宜しくお願いします」

 咲良は緊張しながらも深々と頭を下げた。


 皆の前での駿のカミングアウトは、咲良にとって恥ずかしすぎる行為だったが、兄達の事があったせいか、それ程突っ込まれる事はなかった。

 一番危惧していた兄の反応も、肩透かしを食らったようだった。

 (あんなに昨夜は怒っていたのに、納得してくれたのかな?)

 駿が言っていた様に兄が許していたと言うのは本当だったんだと、咲良はようやく安堵した。


 その後、茉莉江と婚約者の純も山野一家に紹介され、石川家、山野家、神崎家の三家族で和やかなひと時を過ごした。そして、大樹と綾は二人揃って、大学の地へと帰って行った。




 その夜は、夕食までご馳走になり、両親と共に帰って来た咲良は、家に着くなり緊張が緩んだ。そして、怒涛のように過ぎた一日は、どこか夢のようで、咲良は幸せな溜息を吐いた。


「咲良、咲良が高校の時に憧れていた王子様って、駿君の事なんでしょう?」

 リビングで一息ついていた咲良に、母親がお茶を入れながら、さり気無く訊いた。咲良は驚いて絶句していると、テレビを見ていた父親も驚いて咲良を見た。


「い、いや、あの……」

 咲良は再び駿のカミングアウトの時と同じ羞恥心が甦り、どう答えようかと言いあぐねる。


「ふふふ、咲良もなかなかやるわね。まさしく王子様って感じのイケメン君じゃないの。逃がさないように、頑張らなきゃね」


「お、お前、何だか、怖いぞ」

 父親が戸惑い気味に言った言葉に、咲良は激しく共感した。


「あら、大樹にしても、咲良にしても、こんな良いご縁、なかなか無いわよ。親同士も仲が良いし、実家も近いし、言う事無いじゃないの」


「おいおい、未成年の学生だぞ。まるで縁談の話のようじゃないか」

 母親の言葉に父親が、わざとからかうような口調で抗議する。


「だって大樹は結婚を前提にって言っていたし、私は22歳で結婚したから、咲良だってすぐですよ」


「ま、まさか、卒業と同時に結婚なんて……」

 父親は母親の言葉を受けて、余計な想像をしたようで、咲良な内心嘆息する。


「お父さん、お母さん、二人とも飛躍しすぎ。それに、彼はどんな美人でも選び放題のイケメンだから、私といつまで続くか分からないじゃない。そんなに心配しなくても良いから」

 咲良は呆れた様に、それでいて自嘲気味に釘を刺した。


「咲良、あいつはすぐ心変わりするような奴なのか? そんな奴なら、付き合うな。咲良を傷つけるような奴は許さん」 

 釘を刺したつもりが、地雷を踏んだようで、咲良は思わぬ父の怒りに驚いた。


「咲良は自分に自信がないから、そんな事を言うけど、今日の駿君を見ていたら、私は信頼できると思ったわ。それなのに、咲良がそんな事を言っていたらダメでしょう」

 母親の指摘は的を射ていて、咲良は何も反論できない。


「ちょ、ちょっと待って。私の事よりお兄ちゃんだよ。結婚前提にって言っていたけど、お父さんとお母さんはいいの? 向こうは凄いお金持ちだよ」

 このままでは益々追い詰められると思った咲良は、兄の話を持ち出した。本当は兄達の事はここまで思っていなかったが、自分の事を振り返った時、そう思ったのだ。

 駿は只でさえ高スペックな王子様なのに、あの自宅を見た時、レベルが違いすぎると思ったのだ。


「確かに自宅も豪邸だし、会社もこの地域ではかなり大きな方だろう。大樹がいきなりあんな事を言い出したから、お父さんも気になって石川に話をしたんだ。でも、心配するなと笑われたよ。自分の時はまだ学生で、何処の馬の骨か分からない状態だったから大変だったけど、それと比べたら、大樹は社会人としてきちんと働いているし、親も何処の誰か分かっていて信頼ができるから、余程良いと言われたよ。あいつもマドンナにいきなりプロポーズをしたから、大樹の気持ちが分かるんだろう」

 父親の話を聞いて、それは高スペックな兄だからじゃないだろうかと、咲良はまだ心の中で卑屈に考えていた。



  

 


 


 

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