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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第三章:恋は大騒ぎ
48/80

48:女子会

 翌日の金曜日の夜、夕食とお風呂を済ませた咲良と由香は、自分用のクッションと飲み物やお菓子を持って葉奈と真紀の部屋へ向かった。予定されていた女子会の会場が葉奈達の部屋になったのは、彼女達の部屋には真ん中にラグが敷かれ、小さな丸いローテーブルが置かれているからだった。


「女子会って言うだけで、なんだかワクワクするね」

 真紀が嬉しそうに言うのを、咲良も釣られるように笑って同意する。普段からお互いの部屋を行き来してお喋りするのは日常茶飯事だ。なのに、改めて『女子会』と言うだけで、変なワクワク感があるのは妙なものだ。

 ウフフと嬉しそうに笑いあった咲良と真紀を、少し覚めた目で見た葉奈は「箸が転んでもおかしい年頃なのね」と呟くように言った。


「まあ、まあ、今日は咲良からのとっておきの報告があるから」

 由香の言葉にギョッとした咲良は、彼女のほうへ視線を向けると、ニヤリとした笑顔に再びギョッとした。

「あ、あっ……あの、報告と言うか……何と言うか……」

 咲良がしどろもどろに言いかけたのを、真紀と葉奈は不思議そうに首を傾げる。

「あの……この前葉奈ちゃんが言ってた噂の事だけど……」

「噂? ああ、やっぱり咲良ちゃんと石川君が付き合ってるのって本当なんでしょ?」

 葉奈がズバリと核心を突く。あまりの直球に咲良が固まっていると、真紀が驚きと共に興奮した声を上げた。

「わー、咲良ちゃん、本当なの? ホホエミ王子とお付き合いしてるの?」

 真紀の嬉しそう声に我に返った咲良は、覚悟を決めたように口を開く。

「そ、そうなの。な、なんだか、そんな事になってしまって……」

 咲良はしどろもどろになりながらも、認める事で報告を遂行した事にした。そして報告できた事でやっと胸のつかえが取れたような気がしたのだった。


「ねぇ、ねぇ、どちらから告白したの?」

 真紀が興味津々の表情で咲良を見つめる。

「あ、あの……私から」

「わぁー咲良ちゃんすごい! 勇気ある!」

「石川君って、私が知ってるだけでも結構告白されてるけど、全部断ってるって言う噂だよ」

 興奮気味の真紀といつものクールな葉奈の言葉は続く。

「じゃあ、石川君も咲良ちゃんの事、好きだったんだね」

「そうだろうね。石川君、咲良ちゃんとの噂の事を尋ねられる度に嬉しそうに肯定してたから」

 自分の事のように喜ぶ真紀に冷静に同意する葉奈は、意外にこう言う恋愛事にも情報通だ。

 二人の対照的なリアクションを恥ずかしそうに頬を染めて受け止める咲良と、その横でニヤニヤと皆の様子を見ていた由香も対照的だった。


「咲良も高校の時からの片想いが実ってよかったよねぇ」

 由香の言葉に葉奈と真紀は驚きと共に声を上げた。

「えっ! 高校の時からって!」

「あー! それで!」

 最初の声は純粋に驚きの声を上げた真紀で、後の方は何やら思い当った様な葉奈の声だった。

「石川君が高校がどうのって言ってたけど、まさか同じ高校出身なの?」

 スルリとバラした由香を睨むように一瞥した咲良は、葉奈の問いかけにしぶしぶ頷いた。

「キャー! 咲良ちゃんって、一途!!」

「石川君を追いかけてQ大へ来たの?」

 益々興奮する真紀と冷静に質問を重ねる葉奈にタジタジになりながらも、咲良は「違うから」と反発した。

「私は飯島彼方の講義が受けたくて、Q大を目指したの!!」

「でも、最初は石川君がQ大へ行くって知ったからQ大に興味持ったんでしょ?」

 咲良の言葉にニヤリと笑った由香が追い打ちをかける。

「咲良、もう素直に認めちゃいなさいよ。最高の結果になったんだから」

「そうよ、そうよ、咲良ちゃん。片想いの相手と上手く行くなんて、羨ましいよ」

「咲良ちゃんって、結構大胆だったんだね」

 由香、真紀、葉奈の順に皆が嬉しそうに言う言葉を、咲良はまだ何処か複雑な思いで受け止めていた。


「由香も報告しなきゃだめでしょ!」

 ここで咲良は反撃するように声を上げた。

「えー?! 由香ちゃんも彼氏できたの?」

 またもや真紀は嬉しそうに声を上げる。

「ま、まあね。それより、真紀ちゃんと葉奈ちゃんはどうなのよ」

 自分に矛先が向かった由香は、慌てて話を逸らした。

「あ、由香、ずるい」

「そうそう、きちんと報告しましょうね」

「二人とも春爛漫って感じね。もう夏だけど」

 一人温度差のある葉奈の言葉に、由香は噴出して笑った。

「春爛漫って……。葉奈ちゃんっていつもクールだけど、恋愛事には興味ないの?」

「ん……他人の感情の揺れや行動を観察するのは面白いと思うけど、自分の事になるとイマイチ良く分からないよ」

「そう言えば以前に葉奈ちゃん、イケメンが嫌いみたいな事言ってなかった?」

咲良は以前に聞いた葉奈の言葉を思い出した。

「ああ、それは兄貴達のせい」

「葉奈ちゃんもお兄さんがいるんだ?」

「双子のお兄さんらしいよ」

真紀がニコニコと答える。

「どうしてお兄さんのせいなの?」

「一応兄達はイケメンって言われるしよくモテるらしいけど、自分達もそれが分かってて来る者拒まずで、二股三股上等の兄達を見てると、イケメンなんてチヤホヤされていい気になってる自惚れ屋なんだと思うよ」

 葉奈は嫌そうに言い捨てた。余程兄達を嫌っているのかと、咲良は唖然として聞いていた。

「えー!! イケメンの双子兄? 見てみたい! 他所の女性には酷くても、妹は可愛がってるんじゃないの?」

 由香がすかさず『イケメン』と言う言葉に反応して声を上げた。

「無い無い無い! そもそも兄達は私の事、妹とも思ってないし。あいつらの中では妹じゃなくて弟らしいから。私はどうでもいいんだけど、あいつらに近づく女子達に絡まれるのがウザイ」

 (もしかして、私のお兄ちゃんって、すごく良いお兄ちゃんなんじゃ……)

 咲良は葉奈の話を聞いて、自分の兄を思い出していた。

 弟だと思われていると言う葉奈は、確かにボーイッシュな雰囲気もあるけれど、決して男に見えるわけじゃない。

「葉奈ちゃん……どうでもいいって……。ダメでしょ! 可愛い妹アピールしなきゃ!!」

 由香がまたしても声をあげた。その隣で真紀はオロオロしている。

「可愛い妹って言われてもなぁ。そう言うのは私には無理だから。真紀ちゃんと同室になって、益々実感したよ」

「えぇ、私?」

 葉奈の言葉に真紀が驚いたような声を上げた。

「そう、真紀ちゃんって本当に純粋で女の子らしいよね。妹にしたいタイプだよね。真紀ちゃんって本気で白馬の王子様が迎えに来てくれるって信じているような感じでしょう? 」

「いや、そんな……王子様が迎えに来てくれるなんて思ってないよ。ただ、誰にでも運命の人がいるって思うの。両親のように大学で運命の相手に出会うのが夢なだけだから」

 葉奈の言葉を聞いて真紀は慌てたように訂正する。その様子を見ていた咲良は、真紀が以前から自分の両親は大学で知りあって学生結婚したのだと、嬉しそうに話していたのを思い出した。 

 自分の両親の出会いに憧れ、自分にも同じ様な出会いあると素直に信じる真紀が、咲良はとても羨ましいと思った。そして、自分の両親の事に思いを馳せた。

 咲良の両親は、互いの上司の勧めによる見合いだった。咲良はその話を聞いた時、少しガッカリした事を覚えている。そして、恋愛に晩生(おくて)な自分は、やはり両親のように見合いをするのだろうと諦めにも似た予感を覚えた事を思い出した。

 両親の恋愛に関する話を聞いた事がなかった咲良は、唯一恋愛らしき話として入学式の日に聞かされた父親の憧れのマドンナの話が、今も心に引っかかっている。まるで咲良と王子の未来を暗示しているような気がしたからだ。

「私も運命の人ってあると思うよ。咲良だって、石川君の事、運命の人だと思わない?」

 由香は真紀の話に共感し、それを咲良にも求めた。

 王子が運命の人のはずがないと、咲良は心の中で激しく否定したが、この時は賢明にも首を傾げるだけにとどめられた。

「皆その時好きな人が運命の人だと思うんじゃないの?」

 葉奈の冷静な推察にも、咲良は心の中でちょっと違うと反論したが、もちろん口には出さなかった。今の微妙な立場がバレ無いように、余計な気を遣う羽目になったと王子に対する恨みは募っていくが、それでも憎みきれない自分に呆れてしまう咲良だった。



「それで、真紀ちゃんは運命の人に出会えそうなの?」

由香は、先程まで葉奈のイケメン兄に向いていた興味を、真紀の運命の人へと向けると、ニコニコと尋ねた。

「出会いのチャンスがなくて……でも、まだ始まったばかりだし……」

「ダメダメ、最初が肝心なんだから、もっと積極的に行かなくっちゃ。女の子ばかりのサークルじゃなくて、男子の多いサークルに入ってみるとか? アルバイトをするとか?」

 由香が指摘するように真紀が大学で入ったサークルは『手芸サークル』だった。同じ家政学科の友達に誘われたらしい。真紀の趣味が手芸とお菓子作りと言う古き良き時代の女子の王道の趣味で、真紀の周りにはそう言う女の子が多いようだ。

「男の人の多いサークルもアルバイトも父が許してくれないと思う……」

「えー!! 何それ。咲良のお兄さんといい勝負じゃない。妹だとシスコンだけど、娘だとなんていうんだろ?」

 少ししょんぼりしたように言う真紀に由香は驚いて声を上げた。

「心配性で過保護な親バカ?」

 由香の疑問にぼそりと答えた葉奈の言葉に、咲良はプッと噴出した。

 自分の話題から離れた事に安堵していた咲良は、そう言えばいつの間にか由香の話題からも逸れていると気付いたが、まあいいかと皆の会話を楽しんでいた。


「ねぇ、歳の差ってどのぐらいまでが恋愛対象だと思う?」

 先程までシスコンだ親バカだとひとしきり会話が盛り上がった後、真紀が急にまじめな声で皆に問いかけた。

「真紀ちゃん、まさか、出会いが無いからって、運命の人の対象を大学生から範囲広げようと思ってる?」

 由香が怪訝な顔をして問い返す。

「い、いや、そういう訳じゃなくて、最近歳の差婚とかよく聞くけど、みんないくつぐらいまでなら良いと思ってるのかなって、ちょっと気になったから……ほら、最近アイドルの女の子がずいぶん年上の人と結婚を発表して話題になってたじゃない?」

 焦った様に説明する真紀の話を聞いて、咲良もそのアイドルの話題を思い出した。確か父親ぐらいの歳の離れた人と結婚したと言う話だった。そのニュースを聞いた時、咲良はそんなおじさんと結婚なんて考えられないと思ったのだ。

「私はそんな歳の離れた人は無理。話題が合わないもの。付き合っている人は4つ上だから、そのぐらいまでかな?」

 由香が歳の差婚をばっさりと切り捨てるのに、咲良も「私も無理」と同意した。そして由香が何気に彼の話をしている事に内心苦笑する。

「由香ちゃんの彼って4つ上なんだ?」

 敏い葉奈が目ざとく指摘する。

「何よ、私の事はいいのよ。そう言う葉奈ちゃんは、歳の差婚ってどうなの?」

「結婚自体考えられないから……ねぇ。でも、急に歳の差婚なんて言い出した真紀ちゃんは、実はファザコンだったりして……?」

 葉奈は相変わらず自分の事になると冷めた返事だが、他人の話には鋭く突っ込みを入れる。

「あーそう言う事か。真紀ちゃんって同世代の男の人は怖いけど、父親ぐらい年上だと安心できるとか?」

 由香も同じ様に遠慮なく指摘する。咲良はと言えば、ただ葉奈も由香も鋭いなと感心するばかりだった。

「そ、そんな事ない……と思う。でも、同世代の男の人とどう接したらいいかわからないの」

 しょんぼりと答える真紀が気の毒になった咲良は、「今まで周りに同世代の男子がいなかったから慣れていないだけだよ。そのうちに慣れるから」と慰めるように言った。

「そうよ、だから、接する機会を増やさなきゃ。どう、私たちのサークルに入らない? イケメン王子が二人もいるし」 

「そのイケメン王子の一人が女嫌いの篠田さんで、もう一人が咲良ちゃんの彼でしょ? ぜんぜん売り文句にならないよ」

 由香と突っ込みを入れる葉奈のやり取りは、漫才を見ているようで面白いなぁと咲良は二人のやり取りを興味深く見ていたが、自分の名前が出てきてギョッと驚いた。

 (彼だなんて……慣れないよ)

 咲良は王子との偽りの関係を否定できない事に胸を痛めた。


「由香ちゃんたちのサークルの活動日って水曜日でしょう? 手芸サークルも同じなの。せっかくだけど……ごめんね」

 真紀が申し訳なさそうに言うのを聞いた由香は、ハーと大きく溜息を吐いた。

「真紀ちゃん、運命の出会いを信じるのはいいけど、運は自分で引き寄せるものだよ。努力と決断も必要!」

 上から目線の偉そうな由香の発言を聞いて、咲良は内心苦笑する。

 (由香だって告白する事、なかなか決断できなかったくせに)


「出会いの運命を沢山引き寄せるのも、その後発展させるのも努力が必要って事だね」

 葉奈が話をまとめると、真紀は神妙な顔で頷いた。まだ何か言いたそうな由香を、咲良が「まだ大学は始まったばかりだもんね。時間はたっぷりあるよ」と制すると、真紀は安心したように微笑んだ。

「まあ、真紀ちゃんが焦ってないのなら、いいけど……」

「由香ちゃんありがとう。私のためにいろいろ助言してくれて。でも、そんなに焦ってないから。また何かあったら、相談に乗ってね」

 真紀の言葉に由香が「もちろん」と返すと、皆が笑顔になった。そうして、女子会の夜は更けていったのだった。



 

 

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