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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第二章:憧れのその先
26/80

26.友の過去

お待たせしました。

遅くなってすいません。

お気に入りを消さずにいてくださって、嬉しいです。

初めての方も、どうぞよろしくお願いします。

 由香の様子が変だ。

 でも、皆といる時はいつもと変わりなくて、同室の咲良だから気付いたのかもしれない。

 部屋へ戻ると、どことなく元気が無くなり、溜息をついてボーっとしている由香。

 最近何かあったと言えば、あの幼馴染と出会ったことぐらいで……。

 幼馴染が原因だろうか?

 咲良が気になって「何かあったの?」と訊いてみても、由香は「何もないよ」と答えるだけで……咲良はしばらく様子をみようと傍観していた。

 

 翌週の月曜日、咲良は2時限目が終わると同じ専攻の彩菜と学食へ向かった。由香とは取っている講義が違ったので、学食で待ち合わせていた。

「彩菜ちゃん、由香まだみたいだね。席だけでも取っておこうか?」

 学食に着いて見回しても由香の姿は無かった。「そうだね」と彩菜は返事をすると窓際のテーブルへ向かって歩いて行くので、咲良もその後に続いた。

「彩菜ちゃん、今日はクラブの先輩はよかったの?」

 席に着いてから、咲良は思い出したように彩菜に訊いた。彩菜は陸上クラブの先輩にお昼によく呼び出される。高校の時からの先輩で、仲がいいらしい。

「大丈夫だよ。今日は呼び出し無し……って、心配される程先輩の所へ行ってるかな?」

「ん……なんだかお昼はいつもいない感じ?」

「そんな事無いよぉ。でも、ちょっとここのところ、クラブ内で揉めてた事があったからかな?」

「ふ~ん。もう解決したの?」

「うん、まあね。……ねっ、あれ、由香じゃない?」

 彩菜が窓の外に視線を向けて指をさした。咲良も同じように視線を向けると、男の人に腕を掴まれて、言い合いをしている由香の姿が目に入った。

「あっ、あれは、由香の幼馴染」

 咲良はこの間由香が再会して、その次の日に咲良に話しかけて来た由香の幼馴染だと確認した。

「えっ? 幼馴染って……もしかして、恭ちゃんって言う人?」

「そう、確か恭ちゃんって呼んでた。彩菜ちゃん、知ってるの?」

「顔は知らないけど……幼馴染の恭ちゃんって言う人だったら、由香がずっと好きだった人なのよ」

 彩菜は由香と同じ高校出身だから、由香の高校時代の恋愛についても知っているのだろう。

 咲良が彩菜の話に驚いている内に、由香は幼馴染と学食から遠ざかって行く。

「あー、由香、どこへ行くんだろ?」

 二人して窓越しに由香と幼馴染の姿を目で追う。そして姿が見えなくなり、戸惑いながら顔を見合わせた時、咲良の携帯メールの着信メロディーが流れた。


『ごめん。急用ができたから、二人で食べてね。よろしく』


 咲良は由香からのメールを読んでハーと溜息を吐いた。その様子を見て彩菜が「どうしたの?」と訊ねるのに「由香、来れないって」と答える。

 たった今、すぐそこまで来ていた由香が幼馴染と消えてしまったのをまざまざと見ていただけに、なんとも言えない気分になった。

「幼馴染と何かあったのかなぁ? まあ、とにかくお昼食べよ?」

 切り替えの早い彩菜を恨めしげに見上げ、咲良も立ち上がった。


「ねぇ、由香が幼馴染を好きだったって、本当?」

 咲良は日替わり定食のトレーをテーブルに置き座った途端に、気になっていたさっきの話の続きを始めた。

「ホント、ホント。たぶん由香の初恋の人だと思う。もう一途に恭ちゃん、恭ちゃんって言ってたよ。彼が家庭教師でね、テストで良い点を取ると遊びに連れってもらえるんだって喜んでたし、恭ちゃんと同じQ大へ入るんだって、すごく頑張ってたのよ」

「えー! そんなに好きだったの? でも、この前幼馴染と再会した時、由香、すごく素っ気なかったよ?」

「由香は高校二年の終わり頃失恋したの。恭ちゃんに大人な恋人がいるのが分かったみたいで、自分みたいな子供は妹としか思われてないって諦めたみたい。そんなにすぐに忘れられないだろうなって思ってたけど、その後は一切恭ちゃんの事は言わなかったし、突然髪をバッサリと切って、告白してきた同級生と付き合い始めたのには驚いたけどね」

 彩菜はその頃の由香の事を思い出したのか、少し暗い顔をした。

「そっか……。由香はね、Q大へ入った事話して無かったから、気まずかったって言ってたけど、本当は会うのが辛かったのかな?」

「どうだろう? 前はあんなに懐いてたから、やっぱり気まずかったのかも?」

 高校の時からの友人の彩菜でも、今の由香の気持ちまでは分からないのだろう。咲良は何となくもどかしい気持ちになった。

「由香ね、幼馴染と再会してから元気ないの」

「えっ? 朝はそんな風に思わなかったけど、そうなの?」

「うん、みんなの前ではいつも通りにしてるんだけど、部屋へ帰ってくると溜息吐いてボーっとしてる」

「そうなんだ。やっぱり、あんなに好きだった気持ちは、すんなりとは消えないよね。でも、ちょっと安心した。あんなに一途に好きだったのに、あっさりと別の人と付き合いだしたりしたから、由香の恋愛感に付いていけないって思ってたんだ」

 ずっと友達として由香の事を見てきた彩菜は、由香の失恋後の変化に戸惑っていたのか、本音を吐露した。

 それにしても由香は、自分の気持ちを友達にも言わず、抱え込んでいたのだろうか?

 咲良は由香と出会ってから、由香の胸の内を聞いた事が無い事に思い至った。

 (私の事は根掘り葉掘り訊いて来るのに……)

 そして、今までの由香との会話を思い出していた咲良は、自分の心の奥底にわだかまっていた由香の言葉を思い出した。

 『もし本当に好きな人に、処女は重いから嫌だなんて言われたら、どうする?』

 もしかしたら、あの幼馴染に由香自身が言われた言葉なんじゃないだろうか?

 あの時は友達のことだと言ってたけど、友達の話だけで、自分の考えを変えられるような事じゃないと思う。でも、自分自身が言われた事なら、それも好きな人から言われたら……。

 (私だったら絶対にその人の事幻滅してしまう)

 由香も幻滅して気持ちをリセットしたんじゃないだろうか? それでもやっぱり長く好きだった気持ちは消えなくて、苦しんでるんじゃないだろうか?

 でも、でも……。 

 咲良は、話し掛けて来た由香の幼馴染を思い出した。あの彼が大切にしてきた幼馴染にそんな事を言うような人にはとても思えなかった。

 確かに恋愛対象と言うより、可愛い妹を思う兄のような雰囲気だったけれど、それなら直一層、性的な事は言わないだろうと思う。

 (あの歪んだ妹愛の兄でさえ、露骨な性的表現はしないよ)


「咲良ちゃん、そろそろ時間だよ」

 咲良がグルグル考え込んでいると、彩菜が声をかけて立ち上がった。その言葉に我に返り、咲良は戸惑い気味に彩菜を見上げる。

「ねぇ、由香に会ったら、どうする?」

 午後からの講義は由香も一緒なのだ。

「どうするって……由香は見られてたなんて思って無いだろうなぁ。幼馴染の事、知られたくないかも。由香の昔の気持ちを知ってる私には特に……」

 彩菜は複雑な心境を表すように眉間にしわを寄せた。

「じゃあ、由香から話してくれるまで、待ってる方がいいと思う?」

「うん。今はその方がいいかも」

 

 由香がどんな気持ちでいるのか分からないけれど、彩菜にしたら昔の彼女を知ってるだけに戸惑いも大きいのだろう。

 由香も由香だ。自分一人で抱え込まないで、少しぐらい吐き出してくれたらいいのに……と咲良は脳裏に溜息を吐いている由香を思い浮かべていた。

 

 午後の講義で顔を合わせた由香は、昔の由香の気持ちを聞いてしまったせいか、どことなく無理をしているような気がして、咲良は胸が痛かった。

 その後も由香の方から話し出してくれないだろうかと思いながら、咲良は一人悶々と過ごしたのだった。










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