始まり
第三位階下位
「はぁ、はぁ……!」
どうして、こんな事になっちゃったんだろう……。
後ろを振り返ると、夜闇の中を駆ける複数の影が迫っていた。
一匹の黒いウルフとそれに追従するウルフの群れが私達を追い掛けて来ている。
人と狼、速度の差は歴然で、もう数十メールもすれば追い付かれてしまう。
「はぁ、はぁ……も、森の出口よっ!」
カレンの必死な叫びと同時に、アリシア姉さんが私の手を強く握り締めた。
二人も分かっているのだろう。
此処から草原に出ても、街まで辿り着く前にウルフに追い付かれる事を。
私が逃げなければ、二人がこんな目にあう事は無かったのかな……。
「大変っ、人がいるわ!」
カレンの焦った様な声に視線を前へ向けると、森から草原へ歩く人影が見えた。
教えないと、その人まで巻き込まれてしまう。
「逃げっ!?」
カレンが人影に声を掛け様とすると、その言葉を遮る様にアリシア姉さんが強く手を握って来た。
此方から姉さんの顔を伺う事は出来ない。
「ーーあ」
人影の横を通り抜けた。
黒いローブを羽織ったその人物は、光の加減のせいで男なのか女なのかも分からない。
ただ、振り向いた私が見た物は。
暗闇の中にありながら桃色に光って見えるその人の瞳と。
それへ襲い掛かる狼の群れ。
光に包まれ何も見えなくなる前に。
その瞳と。
ーー目が合った気がした。
◇
「はぁ……はぁ……どうし……っ!」
走り過ぎたせいか頭の中が真っ白になっている中、カレンの声が聞こえた。
周りを見渡すと、いつの間にか私達は街壁の前にいた。
カレンの言葉が不自然に途切れたのを訝しみ、カレンが見ている姉さんへ視線を向けるとーー
「っ!」
ーー姉さんは真っ青になって震えていた。
「はぁはぁ……わ、私……人を……!」
そうだ……私達……あの人を囮にして、逃げ延びたんだ……。
私達が殺したんだ。
カレンがアリシア姉さんを抱きしめた。
「う、うぅ……うぇ、ひっく、わ、私が……!」
「アリー、違うわ。私達、よ……。私達が……うっ……私達が殺したんだわっ!」
二人は抱き合って泣き始めた。
ーー殺した。見殺しにした。
真っ白な頭の中で、そんな言葉が繰り返される。
ずっと。
いつまでも。
あの桃色の瞳を。
ーー忘れる事は無いだろう。
◇
早朝。
開いた門で、住民証を見せ、街に入ると、すぐ様四人部屋の宿を取った。
ギルドへの登録は後でやろう。
今はもう、動く気になれない。




