彼の知らぬ間に起きた出来事 三 蜂の女帝は負けられず
敵が来る事は分かっている、なればこそ戦える者だけを連れて来た。
数を増やしても、いたずらに家族を失うだけ、それだけは避けなければならない。
薔薇の人は戦いに参加出来ない。
体中に刃のある竜もあれっきり昏倒したまま。
私がやらなければならないのだ。
◇
そして、その時は訪れた。
山から飛んで来た四体の竜。
私たちは先手必勝とばかりに魔法の針を打ち込む。
しかしその針は、1匹の竜が起こした強風で吹き飛ばされてしまった。
竜は何事か呟くと、内2匹、赤と茶色の竜が進行方向を変えた。
行き先は、薔薇の人のいる方向。
飛び立ち、行かせまいと追い掛ける。
勿論、残った2匹はそれを許さず。
『はっ! 後ろが隙だらけだぞ!』
そう言って飛び掛かって来たのは緑の竜。
私はそれへ確殺を祈って針の魔法を打ち込んだ!
『ぐっ!? が、ああぁぁぁーー!!! き、さまぁぁーーっ!!!』
確殺はならなかったものの、馬鹿の一つ覚えの様に突っ込んで来る竜に、とどめの一刺しを打ち込んだ。
「っ!」
しかし、その一撃は空中に突如として現れた氷の盾に防がれてしまった。
『まったく、役に立たない小僧ですね。森の木っ端共に此処までやられるとは……主様の顔に泥を塗るつもりなら、いっそ私が殺して差し上げましょうか?』
『す、すまねぇ姐さん……でもあいつ、結構強くーー』
『言い訳を言ってる暇があったら戦うか死ぬかしなさい』
『ひっ、す、すまねぇ、すまねぇ』
会話している間に隙があればと期待したものの、緑の竜はともかく青白い竜には隙がない。
早くこの2体を倒し、薔薇の人の救援に行かなければならない。
それらを打ち倒したらミツキを助けに行かなければならない。
だと言うのに……。
『四の五の言わずにやりなさい』
『う、うっす』
緑の竜の高まる膨大な魔力、それを平然と見ている青白い竜。
私は……勝てるのか?
◇
激戦だった。
そして、及ばなかった。
死者がいないのは幸いだが、撒き散らされた暴風は容易く子供達を吹き飛ばして行った。
そして私は、羽を切り落とされ。足を穿たれ。牙を捥がれた。
意識も既に朦朧としている。
『ふぅ、ふぅ、手古摺らせやがって』
『ふむ、まぁまぁやりますね』
空中には、身体中が穴だらけになっている緑の竜と、殆ど無傷の青白い竜が飛翔していた。
『そ、そうですよね!』
『言葉を話している暇があったら、さっさとトドメを刺しなさい』
『は、はい!』
緑の竜は口腔に魔力を溜めて行く。
放たれる風の暴威は容易く私の命を奪うだろう。
だからこそ、せめて最後に一撃を食らわせてやる事にした。
私には……私達には、命を懸けて放つ必殺の攻撃方法がある。
竜の魔力が高まるのと同時に、私も魔力を高めて行く。
そして、その瞬間は訪れた。
「ミツキ……さようなら」
薄れ行く意識の中、竜が風のブレスを放つと同時に、ポツリと別れの言葉を零した。
そして、必殺の一撃を放とうとした瞬間。
目の前で恐ろしい程に膨大な魔力が弾けた。
既に半ばまで闇に投じられていた私の意識は、目と鼻の先で爆発した魔力に当てられ、一瞬で刈り取られた。
「キュア!」
最後に聞こえたのは、可愛らしく高い声。
見えたのは緑の小さな塊。
そして、緑の竜のブレスを貫き弾き飛ばす一条の閃光だけだった。




