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桜色の盾  作者: 白兎 龍
第一章 魔境
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彼の知らぬ間に起きた出来事 一 大樹は眠る

第五位階上位

 



 ……儂が自我を持ったのはいつの事だったか。



 深く静かな森の中。


 何一つ変わる事ない日々を積み重ねた。



 嵐が吹き荒れた時は根を広げ同胞を支え。



 雨が何時までも降らない時があれば、誰よりも深くに根を伸ばし地下水を汲み上げた。




 そんなある日の事である。




 儂の前にが舞い降りたのは。




『森を統べる長よ、我が名はクーテレンスト、風天竜クーテレンストである』




 あろう事かその緑の竜はただの木でしか無い儂に話し掛けて来た。




『我が声が聞こえるだろうか?』




 声と言われても分からぬ。

 聞こえていてもそれを伝える術がない。




『良かった、聞こえているようだな。我は死に場所を探している。この深き森には貴方の偉大なる御力が満ちている事が分かる。この森は良き森だ』



 成る程確かに、森の同胞を守り、小さき者たちを守り、永きに渡りこの森を守って来た。


 しかし、いつの間に長となっていたのか。

 ともあれ良い森と褒められては、自分の事のように嬉しく思う。



『どうかこの森に。貴方の同胞に。我が身を迎え入れては貰えないだろうか?』



 構わない、森を壊さぬのなら居ても良いだろう。

 そもそも儂には貴方の行く道を遮る力は無いのだから。



『力が無い? それは間違いだ。成る程確かに今の貴方の力は我に及ばないだろう、しかし、森の守りを捨て全ての力を一つ場所に集めればその限りでは無い』



 森を捨てる必要がある力など。どの道力とは言えぬであろう。



『然り、森を育むは未来を開くに通り。我が力は破壊の力、貴方の力は育む力。そうであればこそ貴方の魂は高潔だ』



 高潔など……住むのは自由にすれば良い。森を裏切らぬ限り森は貴方の味方だ。



『偉大なる貴方のお側で死を迎えられる事に感謝を。我が風天の加護に誓って、我はこの森の仲間だ』



 そう言って森に住み着いた大きな同胞は、そのしばらく後、雨の続く日の夜、崖にできた亀裂の中で静かに息を引き取った。





 それから更に時がたったある日、見知らぬ竜が儂の前に舞い降りた。



『お前がこの森で一番強いやつか?』



 偉大なる力を身に秘める者、貴方は何者かの?



『俺様はツーベフロイア。炎天の加護を授かりし者。この森の近くで古き友が死を迎えた。お前がやったのか?』



 古き友とはクーテレンスト殿の事か?



『そうだ、この森で最も強いのはお前だろう? 俺様は仇討ちという名目で強き者と戦いに来た』



 そう言って闘志を剥き出しにする心優しき者に儂はクーテレンストの最後を伝えた。


 すると、かの赤き竜は静かに顔を伏せた。


 森を統べる儂は、地に落ちて草を濡らす思いがあったのをただただ黙って見守った。



『そうか、クーはそう逝ったか』



 俺様も身を落ち着ける時が来たのかもしれない。


 かの偉大なる竜は静かにそう言うと、山の頂上へと飛び去った。


 いつでもこの森へ来るが良いと伝えたが、竜は此方を一目見た後、何も言わずに居なくなった。





 長い時がたった、ある晴れた日、またもや儂の前に竜が現れた。



『お前がここいらで一番強い奴だな!』



 現れたのは身体中に刃を生やした若竜であった。



 儂が強かったとして、お主は何とする?



『俺は強い奴と戦う!』



 何故に闘争を求める?



『知らん! この身が戦いを求めているのだ!』



 ふむ、しかしーー



『問答無用!』



 襲い掛かってくる若竜を取り押さえ、その身に溢れる魔力を見る。



『ぐぅ、離せ! 俺と戦え!』



 魂が何か強い力によって覆われている。


 儂は若竜に魔力を流し込み、その強い力を剥ぎ取った。



『グ、ガッ! アアァァァァーーー!!』



 若竜は絶叫を上げると意識を失った。



 その強い力は捕まえようとする儂の手を強引に引き千切り、何処かへと消えて行ってしまった。



 夜、若竜が目を覚ました。



『ぐ……俺は……?』



 目が覚めたか、若いの。



『……俺は一体』



 何かに取り憑かれていたようだが?



『そうか……目が醒めた気分だ、ありがとう、森の長』



 ……何処か行くあてはあるかの?



『……すまない、何も覚えて居ないんだ』



 そうか、なれば森に住むと良い。



『良いのか? 俺はあんたを……その、殺そうとした』



 良い良い、其処まで強く無かったからの。



『ぐ、……すまない、世話に成る』



 新しい同胞が増えた。





 またしばらくの時がたったある日、若竜が傷だらけになって帰って来た。


 身体中の至る所が熔け崩れ、刃の多くが割れ砕けていた。


 だが、彼よりも重症の者がいた。



『爺さん! こいつらを助けてくれ!』



 若竜が背に担いで連れて来たのは、薔薇の精と蜂の娘。

 2人は目も当てられない程酷い傷を負い、その命はもはや風前の灯火と言えた。



 儂は森に力を借りて、どうにか2人の命を繋ぐ事が出来た。


 その後、2人は無事に回復し、付近の森に巣を構えた。

 感謝はこの後の生活で示します、と言って森の世話をし始めた。


 言うなればその時、若竜も含め、孫が3人出来た様な気であった。





 しばらくの平穏が過ぎ去った。


 森の深くより声が聞こえた。



『戦い、蹂躙したたかい苦戦せよたたかえ!』



 儂が逃してしまったあれ・・が帰って来たのだ。



『強敵をこそ求め、果てに屍山血河を築き上げ、それを墓標に死を迎よう! あぁ! 戦い、蹂躙したたかい苦戦せよたたかえ!』








 ーーと ど け ぇ ぇ ぇ ぇ ‼︎ ‼︎




 青年の叫びが聴こえる、桜色の瞳を輝かせ、命を燃やさんばかりに闘志を滾らせる。


 暴威を振るう魔竜に向けて撃ち込まれた一撃は、見事に魔竜の魂と深く混ざり合った巨大な力のみを打ち砕いた。


 倒れ動かなくなった青年。


 森を守ってくれた彼に何とお礼を言えば良いのだろうか。



 ともあれ、その傷付いた体を癒そうと根を伸ばしーー



『ふふふ、ようやく見付けたぞ』



 根が全て凍り付いた。



『下賤なる森の者共め!』



 舞い降りたのは一匹の偽竜、それもただの偽竜ではない。


 氷の様な外殻を備えるその偽竜、その内に秘める力は並みの物ではない。



『一度ならず二度までも、我が愛しき主人あるじを傷付けて!』



 その女竜は魔竜の死体に凍てつくブレスを吹きかけ凍りつかせる。



『? 何故こんなところに人の小僧がいるのでしょうか?』



 女竜はボロボロの青年を掴んだ。



『まて、その者をどうするつもりだ』


『ん? 枯れ木が私の道を阻むつもりですか? ふむ、この小僧、森の者共には余程大切と見える。ふふふ、これを連れ去ったら多少は嫌がらせになるかしら?』



 まずい、そう思わずにはいられない。


 この森を助けてくれた青年が、明らかに敵意を向けてくる偽竜に何処かに連れていかれてしまう。


 倒さなければならない。


 儂が森から魔力を吸い上げ、攻撃に転換しようとすると。



『あら? ただの枯れ木と思っていたら、随分と強い力を持っているのね。私も本気を出さなければなりませんね』



 そう言うと、女竜は格に見合わない・・・・・・・程の莫大な魔力を瞬時に練り上げ氷のブレスを吐き出した。


 戦いの練度が違うだけではない、何か別の力が影響している。



 わかったのはそれだけだった。




 

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