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桜色の盾  作者: 白兎 龍
第一章 魔境
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第42話 起き掛けの喧騒

第五位階下位




第二位階中位

 





「ああ………しい……ましい」



 暗い、暗い、闇の中、ふと聞き覚えの無い少女の声が聞こえた。


 時折間近でピチャピチャと水の音が響いている。



「…の力、…しい、ああ、妬ましい、羨ましい」



 体は凍り付いた様に動かす事が出来ず、感覚すらも曖昧だ。



「この瞳が、この力が……欲しい」



 地図や鑑定がピクリとも反応しない、魔力自体が何の反応も示さない。


 出来る事があるとすれば、瞼を持ち上げる事だけの様だ。


 そして、先程からその瞼の上を何か暖かい物がのたうっている。



「いっその事抉り出してしまおうか・・・・・・・・・・



 ゆっくりと瞼を持ち上げると、一瞬光が射した物の、直ぐに何かに塞がれてしまった。


 その暖かい何かは俺の右目を塞いでいる様だ。


 どうやら、右目の視力が回復した代わりに今度は左目を失明したらしい。


 暖かく、湿った何かが眼球に触れた。



「むぁ?」



 視界が開けた、即座に周囲の状況を取得する。


 天井と壁、ゴツゴツとした岩に囲まれている。

 と言うより、洞窟の中なのだろう。



 目の前にいる人物、歳の頃は十二程。


 鮮烈な程に赤い髪。


 勝気に吊られた赤い瞳。



 そこには、全裸の少女が居た。



 俺の腹の上に跨っている様だが、特に拘束する意思は無いように見える。

 動かせはしないものの腕は自由だ。


 問題は敵か味方か、少しでも情報を探るべく、赤い瞳をじっと見つめる。



「ほう、起きたか……あぁ、その瞳、実に良い」



 少女は一つ身震いすると、俺の眼球に舌を這わせ始めた。


 今すぐ死ぬ、と言う訳では無さそうである。



 ふいに押し寄せて来た眠気に俺は意識を手放した。





 ふと、意識が浮上した。


 ただ単純に目が覚めただけ。


 あの少女は相変わらず俺の瞼を舐め、頰を齧り、喉に噛みつき、胸元を唾液で濡らしている。


 それは淫靡と言うよりも、まるで捕食されている・・・・・・・かの様だ。



 ……どうやら感覚が戻って来ているらしいな。

 一先ず安心。


 一生身動きが取れない。と言う訳ではなさそうである。



「……お前は……何者だ……?」



 鑑定が機能しない為、仕方なく彼女に声を掛けたが、たった一声掛けるだけでも一苦労だった。



「ふも?」



 喉元に噛み付いていた少女は、俺が目を覚ました事に気付いていなかったらしい。



「おお、また目覚めたか、眠っていれば良いものを」



 少女はそう言うと、俺の目を覗き込む様に顔を近づけて来た。



「……良い、実に良いな……もっとその瞳で私を見ろ、その瞳を私に見せてくれ」



 少女は頰を上気させブルリと震えた。

 辛抱堪らんと言わんばかりに俺の頭を押さえつけると、目玉を舐め、啜り始めた。



 ……結局何者だよ……。



 闇に促される様に、少しずつ意識が薄れて来た、きっとまた眠るのだろう。




 ーー私は炎天竜、力を欲する者。




 声が聞こえた気がしたが、何を言っているのかは良く聞き取れなかった。





 またもや意識が戻る。


 今度も多少体が回復しているらしいが、やはり魔力はうんともすんとも言わない。



「……何故お前は俺を殺さない?」

「むぇ?」



 彼女は力を欲すると言っていた、俺の目玉を喰らえば力が手に入ると言う様な事を言っていた。

 当然、俺には抵抗をする術は無い。



「また起きたか。話しを聞かない奴だな。眠っていればより早く力を取り戻せように」



 少女は俺の目を覗き込む。

 慣れたのか頰を上気させるだけだ。



「何故喰らわぬかと? ……簡単だ、私は分を弁えている。お前の魂を喰らい尽くすに私の器では事足りぬ」



 少女のくれないの瞳は、何処か悔しげな輝きを灯した。



「無理に喰ろうてしまえば、私の魂の器は砕け、私は災禍を振り撒く獣と成り下がるであろう」



 少女はほぅ、とため息をつき、濡れた瞳で覗き込む。



「……お前の魂は美しい、お前が精霊の類縁である事も理由の一つだろう。その瞳を透かして見えるこれが、お前の魂、心。私は欲しいのだ、お前の事が。それこそーー」



 ーー喰ってしまいたい程に。






「キュ! キュア!」

「むむ、困った」

「キュア!!」

「そう、怒るな」

「キュアー!!」

「むぅ……確かにお前はこれと絆を結んだのだろう、さりとてこれは私が貰った宝だ、譲るつもりは砂粒程も無い」

「キュアーー!!」

「お前と事を構えるには今の私では分が悪い」

「キュ! キュキュ!」

「誰が返すか、さっきからお兄さんお兄さんと鬱陶しい。本調子であれば追い返してやった物を」

「キュア!!」

「はん、私とやる気か? 生まれて間もない小童風情が大口を叩く」

「キュキュキューー!」

「ほざけ! 如何に魔眼や魔角、風天の加護を持とうと、使いこなせぬのでは無いと変わらぬ! 意思一つで覆る程、私の積み上げて来た時は軽くなど無いわ!!」

「キュア!!」



「うるさい」



 騒がしい声に目を覚まし、少し慌てて動かせるだけの魔力を込めて威圧を放った。


 状況が全く分からないが、俺の動けない内は争い事は起きて欲しく無い。


 薄れゆく意識の中思った事は。



 ……今のってリリだよな……無事で良かった。






「仕方あるまい、このまま話していても平行線を辿るだけだ」

「キュア、キュキュ」

「欲張りめ、妥協しろと言っている、しかるにお前は話を聞かぬ」

「キュキュア!」

「小難しい? 普通であろ。煙に巻く? はぁ、言葉の通じぬ小童はこれだから……」

「キュアー!」

「地団駄を踏んで騒ぎ散らかせば今度は嫌われるやもしれんな」

「キュ」

「お前はこれが欲しい。さりとて私もこれが欲しい。勿論これが持つ力の事もある、これが欲しいのは一人二人ではあるまい」

「キュア」

「如何に私が強くともこれを欲する者共に容易く勝てるとは思わない。それは当然お前にも言える事だ」

「キュ!」

「最後まで話も聞けぬか? 誰にも負けはせぬと? これだから物の通りも分からぬ小童は」

「キュキュキュキュー!」

「誰がババアか! 口汚く意地汚い小娘がっ! 私はまだ十年も生きておらぬ!!」

「キューアキューア」

「馬鹿はお前だ! ど馬鹿が!!」



「……騒がしい」



 幾らか仲良くなったらしい、この調子で仲良くなって欲しい物だ。



 

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