表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜色の盾  作者: 白兎 龍
第一章 魔境
18/59

第17話 蜂の巣へ

第四位階中位



 道中疑問に思っていた事を思い付くままに質問した。



 『落とされた時にその針とか顎で抵抗しなかったのか?』と聞くと。

 『そもそも噛みつこうにも速く動けないから当たらない、針は空中でしか使わないから失念していた』と言った。


 『蜂は普通対象にとまってから針を刺すんじゃないのか?』と聞くと。

 『それだと敵に攻撃されるだろう? 針は飛ばすものだ』と呆れたように言う。



 『それが飛ぶのか!?』と驚いて人の指位の大きさがあるエリートの針を触っていると。


 『は? ……そんなわけが無いだろうに』とさらに呆れたように呟いた、しかし。


 『あぁ、ミツキは私達の事を何も知らないのか、それなら当然か? すまないミツキ』と律儀に謝ってきた。

 異文化交流ならそう言う事もあるのだろう、魚を生で食うなんてあり得ない、とか。


 『別に気にしてないさ。それより、針、どうやって飛ばすのか見せてくれないか』と言うと。


 『むぅ、疲れるから狩り以外ではやらないんだが……まぁミツキの頼みだからな』と言って了承してくれた。

 両手でエリートの体を支え、手近な木に向ける、桜色の瞳と思考加速を発動。


 エリートを見ると、体内の魔力が太い針に集められていく。


 尾先を木に向けると、針にある小さな穴から髪の毛程の太さの長い針が、相当な速度で射出された。

 その針は木を二本貫通し、止まった。


 『これが獲物を仕留める時の針だ、そしてこっちが』そう言うと再度針に魔力を少し込め、射出した。


 今度の針は一本目の木に少し刺さって止まった、よくみると木に空いた穴の隙間から液体が漏れている。


 『これが獲物の動きを止める針』と言った。

 毒針で動きを止めて貫通針で止めを刺す。思っていた以上に強い連中だったらしい。


 『本当はもう1つあるんだが、それをやると私は死んでしまうからな、やらないぞ?』とエリートは恐ろしいことを言った。

 どうやら彼女達には自分の命を犠牲にして使う大技があるらしい。敵対していなくて良かった。





 地図を見つつ歩いていたが、このままの速度だと日単位で時間がかかるだろうと判断した。


 北東の森は高い木が少なく地形はなだらか。

 その為まっすぐに進むことができ端から端までは走れば1日とかからない。


 しかし、南東の森は入り組んでいて不自然に倒木が多い、その上起伏が激しく進みづらい。



「とばすぞ?」

「ウン?」



 再びエリートを両手で持ち上げると、小脇に抱えて走り出した。



「オオ! ミツキハハヤイノダナ」

「まぁな」



 ジョブがより上位の物に変わったお陰だろう。

 足場の悪い荒れ道、もとい道なき道を安定して走り抜ける。


 日が昇っているというのに森の中は暗く、桜色の瞳を常時使用しなければ危険。その上地図がなければ自分が何処にいるかもわからなくなりそうだ。


 しかし、何だ、うむ。



「……動物が見当たらないんだが、もしかして……」

「チガウゾ」

「……」

「オオキイノダケダゾ」

「……」

「チガウカラナ?」

「まぁ、冗談ダヨ?」

「……」



 森の全てを見たわけではないが、北東の森は草食の小型~中型の生物と虫が生息していた。


 北西の森は浅い場所までしか入らなかったが、鼠が穴の中に飛び込んだのを見掛けた、虫も多くいたように思う。


 南東の森は動物が今のところ一切見当たらない、虫は多分落ち葉の下とかにいるんだろう。

 南西の森は入ったことがないのでわからない。


 口を突いて出たちょっとした冗談。

 普段ならこんなことは言わないのだが、エリートは何やら気安い雰囲気を持っている。



「お前……気に入ったぞ」

「?......ワタシハミツキノコト、スキダゾ」

「それはどうして?」

「オンジンダシ、ヤサシイ、ソレニ.....キヤスクハナセルカラナ」

「?」

「モウスグツクゾ」



 森が開く、エリートが最後に呟いた一言が気になりつつも、視線を前に向け。



「ッ!?」



 絶句した。


 想定していたよりずっと巨大な巣。

 横にも縦にも大きく、地図を見るに下にも広がっているようだ。


 蜂も大量にいる。

 空中に、巣の壁に、地面に。

 その数たるや千や二千ではきかない。


 そしてなにより、平原の中央に堂々と立ち此方を睨み・・つけている巨大な蜂。



「ハニービーエンプレスか」



 間違い無いだろう。

 ほんわかと優しい薔薇の女王や、小さな群れを率いる蜥蜴の王とは明らかに違う。

 集団を率いる正真正銘の王者の威圧。



「マ、マッテクレ!」



 エリートが慌てたように声を上げる。


 それは、流れるように剣に手を添えた俺に対してか、殺気と魔力を撒き散らし此方を威圧する女帝にか。



「き……さま……私の大事な家族をそれ以上傷つけてみろ……血の一滴すら残さず消し飛ばしてくれる……っ!!」


 静かな怒りと言うよりは噴火直前の火山。

 澄んだ琥珀色の魔力が暴風のように吹き荒れている。


 エンプレスの琥珀色の魔力で、徐々に魔法が形成されていくのが桜色の瞳の力で分かる。

 その威力も。


 込められた魔力はクイーンの一撃と同等かそれ以上。

 クイーンの攻撃は空中で放たれたから分かりづらかったが、もし地上で放たれていたらその被害は計り知れない。

 辺り一体が消し飛ぶのは間違い無いだろう。



「アルジ! ワタシノハナシヲキイテクレ!!」



 エリートの声が聞こえているのかいないのか、今助ける、待っていろ、などと何やらぶつぶつと呟いている、正気じゃないな。



「アルジ! ミツキダ! コイツガワレラヲタスケテクレタミツキナンダ!!」



 その声が響くと威圧感がすっと無くなった、それでも魔法はまだ維持されている。



「ワタシノイノチヲタスケテクレタ! オンジンダ!!」

「それは、本当か? 言わされているんじゃないのか?」

「ホントウダ、ミツキガイナケレバワタシハシンデイタ!」

「……」



 魔力が霧散した。

 剣に添えていた手を離す。



「……ついて来い、中で話を聞こう」



 女帝はそう言うと、巣のなかへと入っていく、此方に針を向けていた蜂達はそれぞれ別々の動きを取り、解散した。



「......」

「ミツキ、スマナイ、イヤトハオモウガ、ナカニハイッテクレ」

「.....あぁ、わかった」



 暗い蜂達の巣。

 何が有るか分からない、十分に警戒していくべきだろう。





 巣に入ってまっすぐ、いくつか広間を通過して少し行くと、直ぐに巨大な広間に出た。

 空に大きな穴が開けられているようで、その広間は明るい。

 そこにいるのは女帝のみ、地図上でも伏兵はいなさそうだ。


 小脇に抱えたエリートが動く。

 地面にそっと下ろした。


 それからは、エリートによる俺の説明が始まった。

 いつのまにかエリートの口調が丁寧語に変わっている。


 簡単な説明を終えた頃には女帝の威圧感が完全に霧散していた。



「.......そうか」



 女帝はそう呟やくとしばらく、何かを考えているように黙り込んだ、そして。



「わかった、下がって良い、ミツキは残れ」

「ハッ」



 そう言うとエリートは何度も此方を振り返りながらも後ろの通路に消えていった。



「......」

「......」

「すまない」

「......」

「ご、ごめんなさい」

「......」

「ゆ、許してくれぇ!」

「わ、わかった」



 俺は面食らっていた。

 最初にあれだけ威風堂々としていた女帝が、部下がいなくなるや否や急速に縮んだように感じた。


 その時、クイーンの時に気付いた俺の子供センサーが判定を下した。


 即ち、お子様だ、と。


 ーー俺も大概おかしいな。


 ほっと安心したようにしつつも、少し落ち着かない様子を見せる女帝にゆっくりと近付くとそっとその頭を撫でる。



「な、なんだ? やっぱり怒ってるのか?」



 あれだけの力を持っていて、多数の部下を率いている、そんな女帝がびくびくと此方を伺っている理由は、恐らく自分を許せないからだろう。


 根は優しいのだ、俺は俺の直感と女帝を信じる。



「大丈夫だ、怒ってない」



 我ながら恐ろしいほどの変わり身、子供判定が下ると意識がぱっと切り替わる。



「そ、そうか」



 今度こそ本当に安心した様子の女帝。



「本当にすまないミツキ、私の部下の命を救ってくれてありがとう。この恩は必ず返す」

「いいさ、当然の事をしただけだ、友達を守るのは当たり前だろう?」



 そうやって、子供モードに陥った相手を慣れた手口で、懐柔誘導。

 俺の無い部分の記憶が気になって仕方ない。





 最初の内は困惑していたが、ニコニコモードの俺が新しく身に付けた技術である癒しの手で女帝を手懐ける事に成功した。


 ……俺、何しにここに来たんだっけ……あぁ、そうだ。



「解体」

「むぇ?」



 女帝の大きさは大型トラックくらい、その巨大な蜂の口からは先程から意味をなさないふわふわ声が聞こえていた。

 ややハスキーな声が台無しである。



「解体だ、蜥蜴の解体、頼めるか?」

「あ、ああ、もうおしまいなのか.....」

「うん?」

「い、いや! 何でもない……こほん、大切な部下を救ってくれたミツキには何かお礼をしなければな、蜥蜴の解体以外に何かしてほしい事はないか? 可能な限り力になろう」



 そんなことを言う女帝。

 そもそも蜂と言う生き物は、通常かなりドライな生き物だ。


 働き蜂は外敵を追い払うのに刺したら抜けない針を刺して内蔵を引き抜かれて死ぬ。

 雄蜂は一度女王蜂と交尾すると死に、女王蜂すら、子蜂が産めなくなると追い出される。


 それなのに、この大きな蜂達は仲間を大切にしている、ただの蜂とは思わない方が良いだろう。



「今のところは特にないな」



 欲しいものも特になく、してほしいことも解体ぐらいの物だ。



「そうか.....では心ばかりだが、歓待を受けてくれないだろうか?」



 蜂達の歓待とやらは気になる。

 だが、時間がいくらあるか分からない以上早く狩に戻りたい……どうするか。



「花園で取れた特別な蜜やうまい果物もあるぞ」



 ……いや、まてよ? 自分のレベリングも良いが、味方を増やすのも良いんじゃないか?蜂達は相当に強いからな。



「お、お土産も沢山用意しよう!」



 となると歓待を受けて仲を深めるのも良いかもしれないな、よし。



「ほ、他にも色々あるからな!!」

「わかった、世話になろう」

「そ、そうか、良かった……こほん、では(みな)に指示を出そう、その間は好きなようにしていてくれ、巣の中を散策しても構わない」

「わかった」



 そう言うと、俺は女帝の間から退室した。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ