第15話 慣れた手口
第四位階中位
だが、縛られている今の俺ではどうすることもできず。
結局、戦闘が終わるまで縛られたままだった。
幸いな事に、此方を監視していたデスナイトは谷側に引っ込んで行き、此方の人的被害はゼロ......いや、俺が軽傷か......。
ともあれ、安全が確認された上で、森の中に撤退し、ようやく解放された。
寝床への帰還中、無事に敵を撃退出来たことに喜び健闘を称えあっている薔薇娘達のなかで、俺は一言も話さずただ歩き続けた。
別に怒りの感情は無いが、怒ってますよとアピールするためである。
結果、薔薇娘達は徐々に口数を減らしていった、寝床へ着いたときには笑顔さえも消えている。
寝床に入ると直ぐに端まで移動して寝転がる。
腕を枕にして壁の方を向くのもポイント、拒絶しているように見える筈だ。
これらの積み重ねが嫌われる原因になる。
うまくいってくれるだろうか?
眠気は無かったが、眠ろうと思うと直ぐに眠気がやって来た、俺は微睡みに沈むように眠りに着くのであった。
◇
朝、かどうかは分からないが、目が覚めた。
心なしか気分もスッキリとしているように思う。
俺は、当然のようにしがみついて寝ている薔薇娘達を起こさないように押し退け、起き上がった。
何時の間にか寝床の中央に移動させられている。
また何か勘違いされたのか、それとも集団で寝るのが普通なのか、判断材料が無いので放置する。
寝床の入り口は開いていた。
クイーンが見当たらない、外にいるのだろうか?
外に出て木を見上げる、そこにクイーンがいることは地図でわかった。
クイーンは長い枝の端に座って、月を眺めていた。
「......月は......綺麗ですねぇ」
クイーンの察知能力なら俺が起きた事にも気付いていただろう、突然話しかけられても特には驚かない。
「......そうだな」
無難に応える。
事実この世界の月は大きく、綺麗だったから。
クイーンが此方を向く。
「ミツキも綺麗ですよ」
「......そうか」
クイーンが何を言いたいのか分からない。
ただしその瞳は、優しさに満ち、口元に浮かぶ微笑は、どこか物悲しい。
「月には手が届かないんです」
そう言うと、クイーンはふわりと俺の前に飛び降り、歩み寄って来た。
「でも、ミツキには届きますよ」
そう言ってまた、抱き締められた。
ただし、今回のそれは優しさだけではなく、強く、強く。
「私達がそうであるように......人間さんもそれぞれ違う」
俺とクイーン身長は俺の方が僅かに高い、そっと背伸びをしたクイーンは額と額を合わせ、俺の目を覗き込んでくる。
「ミツキは、綺麗です......とても、折角手が届いたんです、離したくないと思うのは当然の事ですよね」
でも、と呟くとクイーンは俺の目を覗き込んだままじっと見つめて来た。
クイーンの赤い瞳は俺の瞳越しに何を見ようとしているのか。
「......」
「......」
沈黙は長い、それとも長く感じているだけか、ただただ見つめ合う。
しばらくすると、満足したのか、顔を離し、同時に手も離すと、振り替える。
俺の位置からはクイーンの顔は見えない。
「ミツキは強いです」
何時の間にか誤解は解けていたらしい。
「私が守る必要は無いのかもしれません」
そう呟くクイーンの声は......震えていた。
「ミツキは一人でも笑えます、でも、私にはそんな事出来ません」
「......」
「ミツキが居なくなったら私は笑えないかもしれない」
「……どうしてそこまで」
俺はそこまでクイーンに好かれるような事をしただろうか?
クイーンはしばらく黙り込んだあと、空を見上げた。
「.....私にはお姉ちゃんがいました、お姉ちゃんは物知りで、私に色んな事を教えてくれました、お姉ちゃんは人間さんの事もたくさん教えてくれました」
お姉ちゃんがいましたか......。
「人間には悪い人がたくさんいる、悪くない人も心が弱ければ悪い人になってしまう、その中で極稀に、あのーー」
クイーンは手を伸ばし、月を指差す。
「ーー空に輝く月よりも、綺麗な人がいるんだと」
手を下ろし、見上げていた顔を俯かせる。
「私はそれに憧れました。……だからでしょう、始めてミツキを見たとき、とても嬉しかった。ミツキが私を助けてくれたとき、ミツキの事が、輝いて見えた。……だからーー」
クイーンが振り向いた、頬に涙が伝っている、その笑顔はとても......美しく見えた。
「ーーミツキとずっと一緒にいたいです」
恋愛感情は分からない、そういう知識は無いから、そもそもこれは愛の告白なのか? ......わからん、分からないが......。
「.....ミツキ?」
クイーンの頬を両手で抑え、そっと瞳を覗き込む。
『桜色の瞳』では人の感情を見ることは出来ない、だが、やりたいことはそうじゃない。
どうやら、寂しがりやらしいこの少女を安心させるために。
「俺はいなくなったりしない、ずっと一緒にいる
「!.....ミツ.....キ、ミツキ、ミツキ!」
抱きついていくるクイーン、それを今度は俺が抱き締める。
ーークイーンは子供だ。親を亡くした子供。
ミツキ、ミツキ、と俺の名前を呼んで泣き付く子供の頭をそっと優しく撫でる。
その時、ふと思った。
どうしてだろうか......。
俺、子供の扱いが手慣れている......。
子供モードのクイーンを慣れた手つきであやし、俺の実力をそれとなく刷り込み終えた、ミッションクリアである。
超が付く美少女であるクイーンだが、子供だと思うと余裕で対応出来るし誘導も出来る。
甘えてくるクイーンを撫でつつ、今後の動き方を考える。
クイーンは森の防衛の為にここから動けない、プリンセスもだろう、あの大戦力を前にするなら、少しでも戦力は多い方が良い。
薔薇娘達をレベリングするのは無理だろう。
だとしたらやはり俺のレベルを上げて行くのが良い。それに、無詠唱や他のボーナススキルを取得すればさらなる強化が可能だ。
それだけじゃない、蜂の女帝と薔薇の女王、蜥蜴の王もそうだったが、スキルをうまく取得出来ればそれも大きな力になってくれる筈。
時間がどれ程有るか分からない以上、早めに行動すべきだろう。
宛はある。
北西の森、ハグトスの群れが複数あるあの森を殲滅すれば急激な強化が見込めるだろう。
たった十数匹で一気にレベルが上がったのだから。
ーーふと、気になった。
その感触が。
だから触った。
クイーンの薔薇に。
「あ......」
「ん?」
「な、何でもない......です」
そう言うとクイーンは抱き付く力を強めて俺の胸元に強く顔を埋めた、じゃあ遠慮無く。
スベスベと柔らかな感触。
「あ、あぅ」
匂いを嗅ぐと薔薇の上品な香りの中に甘い香りが混じっている。
しばらくそんなことをしていた。
時折クイーンはピクピクと動いたが、何でもないと言うので構わず撫でていた。
すると、突然背後から伸びてきた小さな手が俺の腹の辺り。ちょうどクイーンの目の前の辺りか。に抱きついて来た、腰に当たっているのは頭だろうか。
何かが接触した瞬間に地図を確認したので分かってはいるが、一応首を巡らし確認する。
そこには、プリンセスの一番幼い固体がいた。
腹の上に乗って寝ていたのをどけたから起こしてしまったのだろう。
「うみゅぅ、ミツキ.....」
......寝惚けているらしい。
とにかくプリンセスを寝床に連れていこう、そう思いクイーンの頭を一撫でしたところで、クイーンが固まっている事に気付いた。
「ん?どうした?」
「.......」
先程まで犬か猫のように甘えて頭を擦り付けて来ていたクイーンが完全に停止していた、いや少し震えているか。
不審に思い頬を抑えて顔をあげさせると。
「みひゅ.....き......」
見たこともないくらいに顔を真っ赤に染めたクイーン。
.....我にかえったか。
◇
「ミツキ、いってらっしゃい」
そう言ってニコリと微笑むのはクイーン、朝日に照らされるその笑顔は夜とはまた違った、元気成分がより多く配合された笑顔だ。
それに続いていってらっしゃい! と合唱してくるのがプリンセス達。
「あぁ、いってくる」
クイーンとプリンセスには、しばらく北西の森に行くとだけ言ってある。
地図で薔薇娘達にマーカーを付けておいた。
危険が迫れば地図が勝手に開いてそれを教えてくれるだろう。
強い固体が複数接近して来たときにも開くようにしておく。
これで安心してレベリングが出来る。




