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サブロウの悪事

「セイ、加藤さん、一家で居なくなったのね」

マユは、子どもが心配だと、言う。

「わけがわからない……一体、加藤は何者なんだ」

 

<新しい綺麗な家>は、加藤の家では無かった。

<建築デザイナー>も、嘘のようだ。


「『嘘』が大きすぎるわ」

「とても感じの良い一家だと、思ったのに。飼い犬を亡くして悲しそうだった。本当に」

「空屋に勝手に住み、犬まで飼っていたって事ね」

「そうなる。随分前から勝手に住んでいたらしいな。酒屋のお婆さんが去年の春に、家の前で会っているからね」

「じゃあ、突然出て行ったのは、思いがけなく、洋館に警察官が来たからかも」

「そうかも。最初はカオルが、刑事だとは加藤に言ってない……途中で分かったんだ。色々調べられる前に、逃げたのか」

「実際、カオルさんは、調べて空屋だと、分かったのだから、そうでしょうね」

「バレなかったら、あの家にずっと住んでいたのかな」

「……ずっとは、無理よね。だって、いつかは正当な持ち主が、やって来るわよ。……いつかは……それはこの2年の間にもあったかも知れない。やっぱり変だわ。差し押さえ物件に、勝手に住み着くなんて、大胆で危険過ぎ……不可能なんじゃない?」

 マユは、加藤一家は、あの家に住んで居なかった、と、推理した。


「それは無いよ。だって去年の春、酒屋のバーチャンが会ってる」

 

 家族三人と、可愛い柴犬で、あの綺麗な家に暮らしていた。 

犬の死と、不気味な<お供えの花>に怯えていたじゃないか。

 

だが、マユの推理は当たっていた。


三日後の夜に

 薫が、また夜食と酒を携えて、工房にやってきた。

24時過ぎ。

コンビニで半額になった稲荷寿司、サラダ、サンドイッチがテーブルに並んだ。


「家の中は見たんや。2年前に完成した、綺麗な状態やった。屋内に関しては誰かが立ち入った形跡は無い。庭には侵入者の跡があった。庭に車を駐車した形跡と門柱に(表札を貼り付けていた)両面テープ、がな」

 きっぱり言った。


「一体どういう事やと思う?」

「そんな……だって、あの人は……死んだ犬を抱いて……悲しそうにしていたんだ」

「セイ、庭に犬がおった形跡は、無かったで」  


 薫は、加藤との出会いからの、

詳細を、改めて聞きたいと、

 手帳を出して、書き留める用意をしている。

 

聖は

<山田動物霊園>に呼び出されたことから

 思い出せる限りを語った。

 <楠酒店>に一緒に行ったことも。


「『サブロウ』と女子大生に続いて、犬が同じ場所で死んでいたと……成る程な。『サブロウ事件』も話に 出てきたんやな」

 何かわからないが、思い当たることがあるような口ぶり。


「『サブロウ事件』を知ってるの?」


「話には聞いている。俺にしたら、よく知ってる山で起きた事件や。チェックしてる」

「酒屋のバーチャンが、サブロウのオートバイと荷物と遺書だけが見つかり、遺体は発見されなかったと言ってたけど」


「その『サブロウ』やけど、全国各地をオートバイで周り、年寄りを騙して、金を盗っていた、悪い奴やねんで」

「えっ……じ、じゃあ、酒屋のバーチャンの親戚っていうのは、」

「従兄弟の孫、やったな。嘘やろ」


 もしかしたら遠縁かも知れないと、

 感じの良い青年が、店を尋ねてきた、と言っていた。

 疎遠になっている従兄弟が大勢いて

 誰かの孫かと、歓迎した。

 そして

 立ち去り際に財布を落としたと、言った。

 成り行きで(人情で)数万、渡した。

 

「同様の手口で、全国から被害届が出ていたらしい。オートバイ、東京の大学生、サブロウ、共通する事柄から同一犯やと推測している。楠本のバーさんみたいに、騙されたと気付いていない年寄りが、被害届以外にも有るやろな」

 まず、老人一人暮らしの家を(干してある洗濯物などで)物色。

 表札と同じ名字で名はサブロウ、東京の大学生と名乗る。


 「サブロウ、は偽名か」

 「そう。特定できていない。乗り捨てたオートバイは盗難車で、指紋に一致する前科者は出なかった」

  つまり、サブロウを特定できないまま、

  その足取りは、消えた。


  サブロウ名の遺書とオートバイと鞄を

  残して、消えた。




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