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マユの警告

「セイ、幼なじみの刑事さんに、聞いた方がいいと思う」

マユは言う。

サブロウとは別の、もう一人の死者が気になると。

聖は、加藤レイを助ける事しか頭に無い。


「加藤家と関係ないと思うけど」

サブロウはどこで死んでいるのか分からない。

ただ一つの死体にすぎない。

「犬が殺されている。……次は、子どもかも知れないわ」

「……?」

事故だろう?


「庭から外に、どうやって出たの?」

「それは……」

スマホで撮った写真を見る。

ブロック塀は120センチ程の高さ。

黒い鉄の門扉に犬が通れる隙間は無い。


「門は閉まっていたと、奥さんは言っていた。でも、門が開いていないと犬は外に出られない。思い違いだな」

「違うと思う。絶対、それは無いから、引っ越しまで考えたのよ」

マユはきっぱり言った。

「では誰かが犬をさらって殺したの?」

聖は、首を横に振る。

不可能だ。


「庭に侵入して犬を捕まえて……無理だよ。吠えるよ。家の中の人に見つかっちゃうよ」

「犯人は塀の外から犬を呼んだの。窓や玄関から死角になる位置で。そして塀越しに抱きかかえたのよ」

「そんな事が出来るのは、家族だけだね。知らない人に尻尾振る犬なんて、滅多にいないよ」

柴犬の雄で1才。

山の中の一軒家で家族だけと過ごしている。

庭で放し飼い。

庭は自分の縄張りだ。

侵入者には吠える。


「犯人は知らない人じゃ無い。シロもセイの親しい人には尻尾振って付いて行くでしょう?」

「……知り合いか。何か恨みがあって犬を殺した……車の事故でなければ、殴り殺された事になる。酷い……うわ、坊やも危ないじゃないか。加藤さんに警戒するように言うよ」

犬が懐いている知人。

尚且つ恨まれている人物。

心当たりがあるに違いない。


「考えても該当する人は居なかったのだと思うけど。……それに、同じ場所で二人死んでいる。気味が悪すぎて……怪奇現象かもと。だけど、怪しい人物が出てきた。今は殺されたと確信しているでしょうね」


「それって、洋館のミチルさん? お婆さんだよ」

「ミチルさんじゃないでしょ。でも、一人暮らしかどうか分からない、と加藤さんは思ったでしょうね」

「確かにそうだ。洋館の住人がなんで犬を殺したと思うの?」

「理由はまだ分からないわよ。ねえ、家族じゃ無くても、犬を手懐ける事は出来るんでしょ?」


「感じのいい接触を繰り返したら、懐くかな」

「飼い主の知らないところで接触できそう?」

「あの家だと、可能かな」

家の周りは森だ。

木立に身を隠せる。

犬とコミュニケーションをとるのに

毎回触れ合う必要は無い。

たまに食べ物を与えて

週一くらい、遠くから声を掛ければ

フレンドリーな関係が出来上がる。


隣人なら、容易い。


「ねえ、加藤さんは、ミチルさんの車を見た事が無いんでしょう?

家の前を通るのも。随分奇妙じゃない?」

「水色の軽自動車だって。見たら記憶に残るよ」

「加藤さん夫婦は、隣人が犬を殺したかもしれないと、思っても不思議じゃ無いでしょ。とても奇妙な隣人ですもの」


「……あのさ、10年前に見つかった死体じゃなくて、すぐに調べるのは、洋館だと思うけど」

「もちろんよ。それはセイがすぐに出来るでしょう? 加藤さんと一緒に行くの。危険だから絶対一人で行かせないで。セイも一人で行かないで」

「……危険なんだ」

「とても。そんな気がする」


マユは怯えた目をした。


「セイが、心配。ホントに。最大限、警戒してね」

かつて無いほど、身を案じてくれる。

それ程までに恐ろしい奴が、洋館に棲んでいるのか?

犬を手懐け撲殺。

確かに悪魔の所業だ。

つぎに、あの子を

加藤レイを殺す予定か?

どんな理由があって、そうする?


聖は、瞬間、

生臭い臭いを嗅いだ。

洋館から降りてきた、風の臭いだった。





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