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加藤の告白

「昔、寸借詐欺のような、しでかしました。でも、ミチルさんには何もしていません。調べてくれたら分かります、第一ミチルさんを騙すなんて無理でしょ。あの人は……、」

 加藤(本名だった)とミチルの出会いは

 やはり、詐欺目的の訪問だった。

 13年前、楠酒店で6万だまし取った後、

 辺りの家を物色し、

 洋館を、訪れた。


 加藤の仕事のリスクは少ない。

 (東京の大学生、遠縁かも知れない)

最初の挨拶で、相手の反応を伺い、

騙せないと感じたら、間違いを謝り去るだけの事。


ところが、ミチルは、詐欺と見抜きながら解放してくれなかった。

「常習犯なんだろ。アンタ、捕まるのは時間の問題だよ。刑務所行きは間違い無いね。せっかく男前に生まれてきたのに、なんだって使い道を間違えちゃったのさ」

 ミチルは、詐欺師と分かった上で、加藤を家の中に招いた。

 

家の中には若い女が居て、

 コーヒーを出してくれた。

 住み込みの使用人が居たのだ。


「圧倒されたんです。実は、自分は元々俳優になるつもりでした(養成所に通ったが全く芽が出なかった)ミチルさんは女優オーラが凄かった」

 ミチルに問われ、自身の事を包み隠さず話した。

 出身は栃木で

 高校卒業後、

 地元の工場で働いていたが、

 どうしても俳優になりたくて、

家出同然に、東京へ出た。

居酒屋でアルバイトをしながら俳優養成所に通った。

だが、お金ばかりかかり、

デビューのチャンスは夢のまた夢だったと。

「とにかく、当時は、金に困っていました。オーデションを受ける為にプロに写真を取って貰えと紹介されたり、卒業公演のノルマも……。卒業してからは、エキストラの仕事しか無かった。エキストラといっても、遠くで顔もわからないような群衆です。それでも俳優の卵なんだから、着るモノには金をかけました」

バイトの収入ではとても足りない。

カードローンに手を出す。

返済できない。


「何もかも嫌になって、人生諦めました。死に場所探して、放浪の旅に出たんです。……残金が1万くらいになって、東尋坊で死のうと決めました。最後に近くの民宿に泊まり、ちゃんと布団で寝て、御馳走を食べようと思いました」

その民宿で、

加藤三郎、と宿帳に書いた(本名)

すると、

経営者の老夫婦が

「東京の、○○ちゃんの、お孫さんやね。夏休みに北陸を回るから、行くかも知れないと聞いてた、本当に来てくれたんやね」

誰かと、間違われた。

が、明日死ぬ予定の身にはどうでもいいこと。

面倒くさいから適当に頷いた。

翌朝、宿泊料はいらない、と言われ、

(金沢も行ってみたら)

と5万、くれた。

それに、味をしめてしまった。

つまり、

死ぬのを止めて詐欺師になったのだ。

全国を回った。

詐欺は、賭け事のようで面白かった。

どのような演技をしようかと考えるのは面白かった。

時には野宿をしたが、

殆ど、屋根の下で眠ることが出来た。

ホテルだったり旅館だったり。

飲み食い、宿泊費に困ることは無かった。

1年、詐欺の旅は続いた。


「ずっと続けるつもりかい? 捕まるよ、絶対。どうだい、暫く此処に腰を落ち着ける気はないかい? ほとぼりが冷めるまで匿ってあげても良いんだよ。もちろんタダというわけにはいかない。それなりに仕事はして貰う」

思いがけないミチルの提案だった。

加藤は元々、行き当たりばったりの性分で

将来のことなど何も考えていなかったので

威圧感のあるミチルに、なんとなく従う事になった。


<サブロウの死>を偽装したのもミチルのプランだ。

洋館での暮らしは、悪くは無かった。

加藤に与えられた仕事は、

主に、遠出するときの運転手と力仕事。

近くへの用事は、ミチルが着飾って自ら運転した。


「ミチルさんは高級ホテルのスイートルームに泊まるのが趣味でした。あまり遠くでは無い、京都、大阪、三重……車で行ける範囲です。月の半分はホテルに居ました。私はシングルに泊まりました。どれだけのお金持ちなんだろうと思いましたね。小遣いも沢山くれました。用事のないときは、北新地へ飲みにいきました。インテリで金持ちのフリをして上客になりました」


「つまり、ミチルさんとの関係は雇われていただけというコト? あの、10年前のシュガーで働いていた女子大生は……関係ないんですか?」

 聖は聞いた。


「ああ、ナミちゃんの事ですね。関係あります。シュガーで出会ったんです。可哀想な子で……」

 アルバイトでホステスをしていたが、

 外見も性格も向いていない。

 すこぶる客に評判が悪い。

 ママは辞めさせたいが、苦学生で困っているのを知っているので

 気の毒でクビにしづらい。

 丁度、ミチルのところのメイドが辞めたがっていた。

 加藤は、後釜に紹介した。

 だが、試用期間の、住み込んで三日目に

 忽然と消えた。


「森で首を吊っていたんですね。知らなかったんですよ。遺体が発見されるまで。神経質そうな子だと思ってたけど、精神病とは、知らなかった。……ミチルさんは関わり合いになりたくないと言いました。私は逆らえる立場ではありません」

 と、いう事らしい。

 これも事件性は無かった。

 本当だろうか?

「本当です。シュガーのママはミチルさんから口止め料を受け取っています」

 <加藤の妻>が、初めて口を開いた。


「その頃から、私、三日に一度くらいミチルさんのところで家事手伝いをしていました。数年前からはミチルさんのふりして、買い物や銀行に行く仕事が増えましたけど」

 やはり、ATMに写っていたのは

 この女が変装したミチルだった。


「指示に従っただけです。ミチルさん急に太って……醜い姿を晒したくないと、言われて」

 元女優の粋なイメージを

 壊したくない

 (太って醜いお婆さんになったね)

 などと噂されるのは

 プライドが許さなかったという。

「その頃から、病院も遠くに替えたんです。姿を、知っている人に見られたくないと、夜に車で出て、病院の近くのホテルに泊まって……」

 診察の後も、洋館に帰るのは深夜になってからだったと。

 それくらい、近所の目を避けていたという。


「屋敷の下に新しく家が建ったのも嫌がっていました。近所に人が住むと想定していなかった。幸い、空屋のままでしたけど。誰か人が入らないか確認しに何度も見に行きました。あるとき、お婆さんが花を供えているのを見ました。加藤に言うと、心当たりが有ると」

 それで、13回忌に空屋の住人を装って声を掛けたという。

 加藤は、楠のバーチャンに申し訳なくて泣いたという。


「会えて嬉しかったです。ボクがサブロウだと気付かなかったみたいだけど」

 騙して金を取ったくせに、

 加藤は、ぬけぬけと言った。


「お二人さんが、その元女優さんに、雇われていただけというなら、なんで死んだときに、すぐ届けないで、芝居して、うちへ来て、剥製屋のにいちゃん、呼び出したんや?」

 鈴子は怒っている。

 まんまと騙された当事者だ。

 追求せずにはいられない。





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