マユの推理
「あの子、喋れない。と言うことは、アレやな」
薫は、発泡酒の缶をまた開ける。
何か閃いたようだ。
嬉しそうに一人で(うん、うん)と頷いている。
「カオル、アレって何だよ」
レイは
言葉は通じていた。
補聴器は付けていなかった。
それでも、喋れないって、あるのかと
「喋らない性分という事もある。理由は何であれ、詐欺の小道具としては都合が良いやんか」
つまり、加藤の子で無くても
わからない。
家族に見せかける為の小道具だと。
「そうか。家族じゃ無い、夫婦じゃ無い……だから『妻』がホステスで、同じ店のホステスと浮気でもない……」
「女は詐欺の相棒やろ」
「子どもの、母親だろうけど」
「それも、分からんで」
聖はレイの事が、改めて心配になってきた。
コザクラインコの剥製作りに夢中で
ちょっと忘れがちだった
<死の影>を背負った子どもが。
それで、
「インコ届けに、近々、また北新地へ行くんやろ。ついでに『シュガー』寄って、『加藤の嫁』を探って」
薫に軽く言われて
「うん」
と答えていた。
北新地のクラブなど、
一度も入ったことが無いというのに。
「そうか。行ってくれるか。ありがとう、な」
薫は、それから話題を変えた。
夏に出るゲームの話。
上機嫌で、飲んで食べて
今夜、工房に来た目的は果たしたという感じ。
うまく使われている気もするが、
(まあ、いいか)
と聖は思う。
薫の訪問は楽しいし、
薫の作る朝ご飯は美味しいのだから。
「カオルさんの推理通りね。サブロウと加藤は同一人物だと思うわ」
と、マユ。
「詐欺目的でミチルさんの家を訪ねた。うまく騙して、人づきあいが全く無いと分かって、居着いたのね」
「自殺を偽造し、詐欺師サブロウを消滅させて、洋館を隠れ家にしたのか」
「家に住まわせたという事は、ミチルさんにもメリットがあったとも考えられる。
加藤は上手にミチルさんに取り入った。その上に役に立ったから、13年も関係が続いた。
住込の使用人という立場だったとしたら……10年前に遺体で発見された女子大生も、共犯者かも」
<シュガー>に勤めていたのは偶然では無いと。
「加藤は『シュガー』と、その頃から関係があった、とか」
女子大生の検案結果は縊死。
精神疾患で入院歴、過去に自殺未遂有り。
自殺をほのめかす言動もあり、
遺書と見なされる紙に書いたメモも現場で見つかった。
「女子大生の死に事件性は無かった。カオルに聞いている。……まあ、加藤は人殺しでは無い。それは確かだ」
加藤の手に、<人殺しの徴>はなかった。
女子大生も、
ミチルも、
加藤が殺したのでは無い。
「『シュガー』に行けば、『奥さん』の事は分かるわね。レイ君のことも分かればいいわね」
「……うん」
手遅れかも知れない。
<死の影>が張り付いていた子どもは、
もう、あっちの世界に捕られてしまったかも。
そうであっても、
知りたい。
「あ、でもさ。北新地にインコを届けに行くとは、限らないんだった」
顧客には、出来上がったら山田社長に連絡、と指示されていたのだ。
「そうなの。でも、カオルさんに行くと行ったのだから、北新地には行かなきゃ。
インコの剥製は出来たの?」
「うん。今日、最終の手直しが終わった。納品できる状態だな」
「しゃあ、まずは山田社長に電話して……明日の夜には北新地に行けるかも」
マユは調査の結果が楽しみだと
キラキラした目で見つめた。
<幽霊>だった頃には
何も写っていない
淡いグレーの半分透けた瞳が。
不思議な事にキラキラと、輝いている。




