表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

薫の推理

「サブロウの遺体は出なかった。手書きの遺書があったが、詐欺師だけに、本当に自殺したか疑わしい」

 罪が発覚した頃合いを見計らったように、

<サブロウ>の自殺。

偽装工作かもしれない。


「他にも、妙な事が分かった。セイ、これ見て」

 カオルはスマホの画像を見せる。

 コンビニのATMらしきところに

 和装の女が立っている。

 斜め左上から撮っている。

 浅黄色の着物。

 白髪をアップに結い上げている。

 白っぽいショールで襟元は隠れている。

 

「須永美千留の、生前の姿や。2月11日にコンビニの防犯カメラに残っていた」

「これが……ミチルさん、なんだ。確かに、かっこいいバーサンかも」

 斜め後ろの高い位置からの画像でも

長身で、着物を着慣れている粋な風情は分かった。


「身長は164センチや。それで、この見た目やと、推定体重55キロ。ところが、溺死体の推定体重は(溶け出した脂肪、脱衣所にあった下着、ルームウエアから)95キロ前後、なんや」

「短期間で太ったの?」

「3Lサイズの下着は洗いざらし、やった」

「えっ、じゃあ、死体は別人?」

「それは無いな。高血圧で通院していた病院で確認した」

「と、いう事は……ATMに写っているのは、ミチルじゃないのか」 

「綺麗な婆さんで評判やった、皆がミチルと思っていた、この人物は、誰かの、成りすまし、や」

「成りすまし……変装って事?」

「多分」

「いつから?」

「分からん。ミチルと親しい人物が、この村には居ないからな」

(ミチルさんはね、早くに東京に出て、十五年くらい前に村に戻ってきた。誰とも付き合いは無い。

別世界の人やからね。女優さん、やったの)

 楠本酒店の老人は言っていた。

 常に和装で、

 水色の軽自動車を自分で運転して、

 駅前のコンビニやスーパーに出現していたと。

 

「後始末を引き受けてくれた、遠縁の人の話では、多くの負債があったらしい。ミチルは元々資産家の一人娘や。親の遺産が億はあった筈。それを、この10年で使い果たし、さらに、カードローンやらなんやら」

「……誰かが、ミチルさんになりすまして、金を引き出していたのか」

 一体、何処の誰が、とは思わない。

 <加藤>が絡んでいると、

 疑わずにはいられない。



「加藤の、詐欺師サブロウの仕業かも」

 加藤とサブロウは同一人物ではないかと、

 薫は言う。


「まさか、それは無いだろ。加藤は酒屋に行った。昔騙したバーサンと、普通に話していた」

「13年経っているんやで。バレない自信があったかも。癖の無い顔立ちや。一度見たら忘れない顔では無い。体型が変わり雰囲気が変われば、まさか同一人物とは思わないやろ。ほんで、ATMの女は、加藤の嫁、ちゃうか? 」

 見直すと、背の高さや顎の感じが似て居る。

 手はレースの手袋。

 首はスカーフ。

 年齢をごまかせないパーツはきっちり隠して、

 顔だけならメークで老婆になれそうだ。


「セイ、加藤は、ミチルが風呂場で死んでいるのを知っていたと、考えられへんか?」

 家の中から悪臭がすると最初に言い、

 なぜか、真っ先に2階の部屋を調べた。

 そして、最後に、家から出てきた。

 

「あちこち触って、指紋が出ても疑われないよう、工作したかも。つまり加藤は洋館に出入りし、ミチルを騙して金を盗み取っていたんや。」

 自分が通報したら、正体がバレると考えた。

 かといって、放置したままでは落ち着かない。

 いつか発見され、事件性があると見なされれば家宅捜索。

 家中の指紋を採る。

 困ったところで、詐欺師の頭に、今回の筋書きが閃いた。

 誰かと一緒に第一発見者になればいい、と。

 通報はソイツに、と。


「つまり、俺に近づいたのは、溺死体を発見させる為だと?」

「うん。近所の霊感剥製士、コイツにしようと」

「わざわざ山田霊園経由で、俺に近づいたの?でも『死んだ犬』は? 花を供えに来たバーチャンと、女子大生の遺族に会ったのも、事実だし」

  加藤の家が、空屋だったなら、

  どうやって住人を装えたのか?

 

「酒屋のバーさんが、お供えに来たのは13回忌だけやないと思う。

 予測して待ち伏せてたんや。命日は、偽装した本人なら知っている」

「女子大生の家族は? 命日にきたとは限らない」

「父親と、姉やったな。でも、確か母子家庭、一人っ子やったで」

「……作り話なのか」

「事実と嘘を織り交ぜて、霊感剥製士に相談する奇妙な話をこしらえた。実際、成功したやんか。セイは、家まで見に行き、自然な流れで、洋館に一緒に行った。巧妙な筋書きや。刑事のオマケは、想定外やろうけど」

  詐欺師の作り話。

  まんまと乗せられたのか。

「犬は……詐欺の小道具、なのか」

「柴犬やったな。交通事故で死んだと、言ってたんやな」

「うん」

「そんな怪我、やったんか?」

「……打撲。車に当てられたと……悲しんでいたし、不審に思わなかったよ」

「それは、子どもが犬について何か言っていたから? あの子は幼すぎて、演技は出来ない。よおく、思い出して」

  セイは記憶を辿る。

  <死の影>を背負った

  あの坊や。

  可愛らしい顔は、はっきり思い描ける。

  シロが飛びついても怖がらなかった。

  加藤は

 (レイは犬が好きですから)

  と、優しい父親の顔で言った。

  ……で?

  あの子は、レイは、何と言った?

  思い出せない。

  記憶に無い。

  ……なにも、喋らなかったのか。

「あ、」

  聖は、レイについての、ある事実に気がついた。

「セイ、どうや?」 

「カオル、俺、あの子の、声を、思い出せない。あの子が何か喋った、そんなシーンは無かった」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ