警察官たち
タロたちが暴走族を救助して
ロープウェイで学校に搬送した翌日、
つまり、県知事ゴンドウが県民に向けた
緊急放送を行って2日が過ぎた朝のことだった
指定避難所の学校の校舎の屋上で
ひと騒ぎが起こっていた
ここには、ロープウェイの発着場があった
この校舎の屋上は、手前が3階建て、
奥が4階建ての段差状になっていた
3階建ての屋上にウィンチを動力とした
ドライビングシーブと
無動力のアイドルシーブが設置されており、
4階建ての屋上に、主索ワイヤーと
動索ロープを方向転換させるための滑車が
設置されている
そして、3階建ての屋上には他に、
マンションから送られてきた物資が
保管されていた
そして、そこは今、数人の警察官が
占拠していた
この避難所の名目上のリーダーである警部と
彼の補佐である2名の警部補、
巡査部長と融通の利かない女性巡査の計5名が、
山と積まれた物資の側に陣取っていて、
彼らをSS団員をはじめとする
学園の生徒たちが取り囲んでいた
生徒たちの先頭に立つのは、SS団の団長にして
生徒会長のケンイチだった
「はい、そうです。え?やっぱり、あの4名が
県知事ゴンドウと繋がっているんですね!
さすが宝堂さん、凄いです!
もう、協力者名簿を暴いてしまいましたか
まあ、ビーグル社のCEOですら
味方ですからね...
その分野に関してはもはや不可能は
ないでしょうからね
....ええ、女性の巡査が一人、
彼らの側についている以外は
他の警察官たちは、
バリケードのパトロールとか雑務とか
いろいろと理由をつけて散らばっています
まあ、良く言えば中立、
悪く言えば日和見でしょうね」
長身に眼鏡の下の鋭い眼差しの、いかにもな
外見のケンイチ
威風堂々と5人の警察官の
前に立ちはだかっていると言いたいところだが、
彼はスマホを片手に通話をしていた
アーチェリー部に所属する生徒たちが、
4階の屋上からリカーブボウを構えて
矢で5人を狙っている
ケンイチは、耳からスマホを離して言った
「繰り返し申しあげている通り、この物資は
十文字さんから送られてきた
私の個人的な所有物です。
あなた方が独占することはできません
すぐに、この場から退散してください、
さもなくば...」
警部がシグ・ザウエルの銃口を
ケンイチに向けて言った
「黙れ、ガキが!ここの避難所は
私が指揮を任されているんだ、
勝手な行動は許さんぞ!
大体、この物資もショッピングモールから
不正に取得したものだろう、
我々が押収して管理するのは当然だ」
がなり立てる警部の背後には、
ロープウェイのワイヤーがまっすぐに
遠方に見えるマンションに向けて伸びている
ここからだと、ほぼ水平に伸びた
金属製ワイヤーと2本のロープが、
はるか彼方のマンションの手前で急激に
上向きにカーブしているように見える
そして、動索ロープを動かすための
ウィンチは、回り続けていた。
この状況でも、作業員が縮こまりながらも
黙々とウィンチを操作していた
ケンイチの視線は、警官たちではなく
背後のロープウェイを向いていた
再び、スマホを耳に当てて小声で言った
「はい、後10分ほど
引き延ばせばいいんですね...
やってみます」
まずは相手を挑発して高ぶらせた後、
徐々にこちらから歩み寄る姿勢を見せ
クールダウンさせるか?
それとも、最初は下手に出てから徐々に
ヒートアップさせるか?
時間をうまく割り当てて、10分後に相手を
油断させるか、
怒りで正常な判断が出来ないように
仕向けなければならない
ケンイチはスマホを耳から離すと、
眼鏡を人差し指でクイッと直す動作をした
自分は、その外見から
ちょっと危険そうな男だと思われている。
しかし、あの人は
”本当に危険な男”なのだ
本心では、なんとか穏便に済ませたいと
思っている
「今朝、唐突に強権を発動させたあなた方に
我々は困惑しています。
出来れば話し合いで穏便な解決法を
考えましょう」
ケンイチの言葉に、警部は激怒した
「話し合いだと?ふざけてるのか!!
お前たちは何をしているのか
分かってるのか!
学生風情が、警察官に歯向かって
ただで済むとでも...」
しばらく一方的にがなり立てる警部
警部と、警部補2人の手には、
シグ・ザウエルP230という小型の自動拳銃が
握られていて、
巡査部長と女性巡査の手には、
スミスアンドウェッソンの
チーフリボルバーだ
3階屋上では、5丁の拳銃が
彼らを取り囲む生徒たちに向けられている
そして、4階屋上のアーチェリー部員は8名だ。
リカーブボウというベーシックな形状の
弓に矢をつがえて、警察官たちを狙っている
他にSS団員たちと、屈強なスポーツ部の
部員たち
しばらく、警部の罵詈雑言を聞いた後、
ケンイチが静かに言った
「あなた方がこういう行動を取った理由は
分かりますよ。
原発にある県庁と
連絡が取れなくなったんですよね?
警部さん、警部補さん、巡査部長さん、
あなた方は県知事ゴンドウに
身の安全を保障されていたんでしょう?
我々に、見込みのない一斉避難を
強行させた後、
自衛隊のヘリでこっそりと逃げるつもり
だったんでしょう」
ケンイチは続けて言った
「そこの女性の巡査さん、あなたはなぜ、
この人たちの味方をするんです?
彼らは私たちと同様、あなたをも見捨てる
つもりなんですよ!
そこまで規則にしがみつく
理由が分かりません。
いくら県警とは言え、県知事やこの人たちに
忠誠を誓って何になるんですか」
いかにも融通の利かなそうな女性巡査は、
チーフリボルバーをケンイチに向けた
ケンイチは、時間を稼ぐかのように
ゆっくりと女性巡査に向けて語り続けた
ズダンッ!!
ふいに銃声が鳴り響き、ケンイチの側を
7.65ミリ拳銃弾がかすった
ケンイチは一瞬固まったが、ハッと後ろを
振り向いた
良かった、誰にも当たってない....
警部の持つシグ・ザウエルの銃口から
煙が立ち昇っている
警部の拳銃を持つ手はプルプルと震えていた
「お前は一体、何を知っているんだ?
クソ、あの十文字とかいう女といい
お前らといい、何を企んでいる!!」
そう、自分は
リバーサイド同盟を知っている...
ケンイチの息が荒くなった。
銃弾がすぐ側をかすったという恐怖が
今になってこみ上げてきたのだ
生徒たちも後ずさり始めている
しかし、ケンイチは言った
「僕たちは生きるのに必死なんです!
いけませんか?
例え、ここの物資を押収して、あなた方が
つかの間の独裁を試みたとしても、
もはや誰も言うことは聞かないでしょう!」
ケンイチは視線を警部の背後に向けた。
そして言った
「お願いします、これがおそらく
最後の警告です。
僕たちに降伏してください、お願いします!
......
僕たちに行動を起こさせないでください」
警察官たちの背後では、ロープウェイが動き、
マンションから送られてきた物資がこちらに
やってくるのが見える
それは、ワイヤーモッコに包まれた
木製の箱に見える。
昨日は、暴走族6人が、このロープウェイで
2回に分けて運ばれてきたのだ
目の前の警察のお偉いさん方は、そのことを
知っているのだろうか?
まるで無警戒だ
警察官たちが、ちらりと背後を振り向いて
やってきた荷物のほうを見た
ケンイチは覚悟を決めて、
彼らの注意を反らすべく大声を出した
「あなた方は本当に愚か者だ!
希望を持った人間がいかに強いか
それを知らないなんて!!!
さあ、僕たちの怒りを思い知るがいい」
5人の警察官が一斉にケンイチのほうを見た
同時に、ロープウェイで運ばれてきた木箱の
中から、ひょっこりと何者かが姿を現した
ヘルメットを被り、特殊部隊のようなスーツを
着込んでいる。
そして、旧ソ連製のアサルトライフル、
AK-74を構えていた




