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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第五章 伝説の無敵点//in全世界
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はちじゅうろっかいめ 魔女界だね?

 ゲートが開いた。思わず目を疑ってしまうほどの幻想的な木が視界一杯に広がり、ルネックスとシェリアは思わず口を開けたまま塞がらなかった。

 当時魔女界を征服しようとしていたリンネとリーシャの様子もちらりと見ていたテーラは、この木に隠される真実を思い出して「あー」と目を細めていた。

 純粋無垢なリーシャが居なければ、今頃この魔女界は第二の戦争でも起きていたのではないかと思われるほど、アルト派とリンネ派で別れていた。

 その辺は過ぎたことなので詳しく話はしないが、魔女界を揺るがすほど両社の勢力が似ず劣らずを維持していたのは此処に住んでいる者なら誰もが知る事。


「―――人口二十万。頂点魔女、魔術師一万五千。機密組織十。魔女の才能を持つ者は十九万。魔術師一万。ようこそ、魔女界へ」


 魔法陣の上にて見事な礼をして見せた、両側に金色ショートボブの双子を控えた少年は淡々と魔女界の現状を述べて見せた。

 双子も主である少年に合わせて礼をするが、リーザート型ロボットである彼女たちの動作はややぎごちなかった。

 勿論、リンネが此処を訪れたときよりもずっとその動きは洗練されている。

 神界との戦にも参加しており、後方支援をしていた。彼女たちは不死身のロボットであるために、一度死んだら魔女界の魔法陣で復活して再度転送される。

 痛みという感覚もないため、死をめったにないイベントだと思っている。


 主にしがみついているその姿は、神界で死闘をしたとは思えないほど愛らしい。庇護欲をそそる、少し身長に合わない黒ローブがはためいている。

 しばらくして頭を上げた少年は、一同と一人ずつ目を合わせた。


「僕は魔女界の王、アルトです。この度は神界との戦、お疲れ様でした。当方政治的な立場もありまして、戦に参加できず申し訳ございません」


「いや、大丈夫だよ。この通り、僕たちは勝って戻ってきているから」


 淡々と述べられる謝罪のセリフと自分らは無事だという台詞。所詮は社交辞令に過ぎない言葉は、すぐに打ち切られ本題と移られる。

 それなりに整った顔をした少年もといアルトは自分の家があるだろう場所に案内すると言うので、お言葉に甘えて彼に付いて行く。

 彼が魔女界の整備された街を歩くたび、街の人から慕われていたり、羨ましがられていたり、どれも好意的な視線ばかりを向けられていた。

 リンネが神界で命を落としたことを知って、街の人々は当時から親近感を抱いていたアルトを励まそうとしていたのだが、彼は強い。

 神界で命を落とした人員が国に影響するために即座に魔女界を立て直すためにあちこちに人員を割いて、なるべく人々の不満が少ないようにと努力していた。


 それゆえの視線。それゆえの好意。

 そして、それは王である彼の努力の証拠であるのは間違いない事実。


 己の情に影響されず、常に民に気を配り命を愛し慈愛を尽くす。それは紛れもなく先代の王であり現在は魔女界を守る巨大な木として君臨する、とあるいつきの存在の影響が多かった。

 アルトはあの日からどれだけ努力を積み重ねてきたのか、あいにくルネックス達に聞く資格はないし、彼も二度と語ろうとはしないだろう。

 文献には彼が良き王だという事以外、きっと記されることは無いだろう。


 ―――ルネックス達に振り返った彼は、柔らかい笑みを浮かべていた。


「良ければあそこの屋台で食べていきませんか。僕も愛用している店で、小腹が空いたときによく来るんです。味は僕が保証しますよ、いかがですか?」


「あー、そうだ。そう言えばボクら朝ごはんしか食べてない。人間界の時間にしたら四日は過ぎてる……勇者あんま空腹感じないけど」


「私はアルトさんの言う通り少し小腹が空いた程度ですかね。……フェンラリアさんが無限収納に入れてくれた食べ物、今も少し残ってましたし」


 たまに少し食べて思い出を噛み締める。シェリアがそれを繰り返しながら涙を流していたのをルネックス達は知らないが。

 それでも今は笑顔を見ることもできない仲間を思い浮かべて、一行は目尻に涙を浮かべたがすぐにそれは消え去った。

 アルトに見えないたった一瞬で、彼らはどれほど思考したのだろうか。


 アルトの姿を確認した屋台の主人が、物凄く嬉しそうにぶんぶんと勢い良く手を振った。尻尾があれば激しく振っているだろうな、と考える一同。

 犬だ。犬だね。犬だよ。犬だな。と同時に発言した四人に苦笑いしたアルトは、急ぎ足で屋台の主人に向かって走っていった。


「いつものおすすめ、貰えるかな」


「おっす。勿論でやす! 根性入れていくぞみんな! 遅れるなよ!」


 厨房の方からおおー! と声が上がる。厨房は二つに分かれていて、現在店主が使っているのと店主の背後にある厨房。

 ここまで大きくなった屋台はめったに見るものではないが、まあ王であるアルトが愛用している店であるうのがインパクト強いのだろう。

 しかも噂通り味も絶品なので、客足は途絶えないどころか増えるのだという。


 しばらくしてアルトが持ってきたのは、あつあつの串焼きだった。羊の肉を使っているらしいのだが、特殊な魔術をかけたものらしい。

 めったに仕入れられない高級肉を、いつもの串焼きの価格でサービスをしてくれたということだろう。これは張り切り過ぎだ、と苦笑い。

 下手したら客が何人か消えていくようなことを平然と行うこの店は、サービス心満載なのが見て取れた。


「わぁ、これ凄く美味しいです! 特別な魔術を使うとこんなに変わるんですね。ほわー、人間界の屋台で食べる物も美味しいですけど、こっちも絶品です!」


「これはボクも予想外。これで貿易したいくらいだけどね……ボクも何回か食べに来たいなあ、結構人間界に近いしお手軽だよね」


「迅速に人間界への配布を手配しろ! ……と、言いたいところだがな。俺達も本気で平和になれたら魔女界に住み着いてやる……ふっふっふ」


「僕も同意見だよ、これは凄いね。今からやってほしいことがあるんだけど、それに組み込んでもいいかもしれないと思うんだ」


「喜んでもらえて何よりです。それに、彼らもとても喜んでいますよ。テーラ様、セバスチャン様、良ければぜひまたお越しください。ルネックス様、そちらの話題は僕の家に着いてからでお願いします、此処で話すのは人目もありますし……」


 シェリアの言葉だが、人間界の屋台で食べるものと比べるといくら何でも人間界の屋台が劣り過ぎである。

 そもそも魔女界そのものの文明が人間界よりも上なのである。竜界と精霊界、例外である聖界と冥界を抜いてどの世界とも一番近い。

 つまりどの世界の文明もこの世界には組み込まれているという事なのである。

 王城の食事と比べるとやはり屋台が劣ってしまうのだが、貴族が平民の食事に少し手を出してみたいなと思って手を出し、平民もなかなか、と思えるくらいには美味だ。


 テーラは人間界で当分他の世界に行くことはできないだろうが、たまに来るだけなのなら構わないと思われる。

 ただ、彼女が目を離したすきに何をされるか分からない。そのために実現できない話となってしまうと予想している。

 それはテーラ自身も分かっているようで、話しながらいつかね、いつか、と全くやる気のない言葉をアルトにかけていた。

 察したのかは分からないが、アルトは相槌を打って不満の欠片も見せなかった。


 セバスチャンは完全に興奮している。神界ではまともな食事はないし、人間界に下りたら降りたで戦いばかりが続いていた。

 まともな食事なんて何年ぶり、その久しぶりの食事でそれなり、いやそれ以上に美味い食物に出会えた感激は並の人間では分からないだろう。


 放しながら食べ歩きをしていると、その内アルトの屋敷について門をくぐる。メイドと執事らしき二人がルネックス達を案内して一番豪華な接客室に座らせる。

 勿論誰かが希望したわけではないが、こうしないと国民に示しがつかないとアルトは苦笑いをする。

 本当はルネックスの希望通り普通の部屋にすればいいし、王として客の要望に応えるのが一番なのだが、仮にも英雄のルネックスが訪れて普通の部屋なんて、知れ渡ったらそれなりに反感を買うだろう。

 彼らは魔女界という世界を平和にしてくれた、世界の恩人でもあるのだから。


 出された紅茶を一口。これは王城という例外を抜いて人間界でも平民がめったに飲むことはできないような、独特な香りがした。

 高級な物も送られてくるのでまあいいかと思って食べているテーラだが、自然と美味を好むようになった舌でも十分に美味しさがわかるものだった。

 人間界の王城と比べても、大差はない。魔女界の王城はもう少し先にあるらしいが、王であるアルトが一番好む紅茶らしい。

 まあ、それならそうか。と一同は納得する。そしてそれを合図に部屋の気配は途端に引き締められ、本題を始める緊迫とした雰囲気が漂い始めた。


「ただ話に来たわけではなさそうですので、そろそろ本題をお話願えますかね?」


「もちろん。あぁ、この世界に害のある話とかじゃないから、そんなに気を引き締めなくても構わないよ。君達に、平和のための貿易を提案したいんだ」


 そう言いながらアルトに書類を渡す。次元倉庫の中にはまだまだ大量に書類が入っている。二cmほどの分厚さを誇る書類にアルトは瞬間目を見張った。

 ぱらぱらとめくって内容を確認すれば、また目を見張る。目まぐるしく変わっていく表情に一同が笑いそうになるのを噛み締める。

 扉にて気配を消して立っていたメイドが思わず気になって気配をただ漏れにしてしまい、隣にいた執事に叱られていたのは見てみぬふりである。


「人間界に魔女界の文明と技術を教える代わりに、聖界が無償のいつでも協力。そう書いてあると思うんだけど……」


「え、えぇ、間違いはありません。ですが、これは僕ら魔女界が圧倒的に有利です。人間界に文明や技術を教えるだけで、あの聖界が何もかもに無償の援助協力ですよ?」


「まあ、絶対に了承してもらうために少し色を付けていたりもしてるよ。了承してもらえなかったら、結構大変なことになるからね」


 そう言いながら紅茶をもう一口。人間界に魔女界の文明と技術を教える代わりに、聖界が無償のいつでも協力、それは破格すぎると自分でも自覚している。

 魔女界の卓越した文明を人間界に伝える、それだけであの光の原点である聖界から軍事的にも、資金もどんなことも無償の協力を得られる。

 それは復興真っ最中の魔女界にとって願ってもいないことであり、絶対にありえないと目を背けていた事でもあった。


 正気か、と目の前の少年に聞く。少年ルネックスは優雅に紅茶を無音で置きながら、問題はないと微笑んだ。

 リリスアルファレットを丸め込むのは大変そうだが、シャルになついていてシャルも彼女に懐いているように見えるので大丈夫だろう。たぶん。

 ―――という不確定な状況に備えて、困難そうな世界には色を付けてあるのだ。


「……分かりました。世界を救った英雄を疑うだけ無駄でしょう。了承します。これはうまい所を突かれてしまいました」


「別にやましい事なんて考えてないから安心して。僕はすべての世界を平和にするためにしていることだから。それじゃあありがとう、またいつか紅茶でも飲みに来るよ」


「んじゃ、室内でゲート展開失礼しまーす!」


 席を立ってゲートの中に入り込む彼らを見て、アルトは表情を緩ませた。彼にしがみついていた双子が彼から離れる。

 ゲートがゆっくり閉まると共に、彼らは一斉に見事な礼をしてみせた。


 同時にゲートは閉じて、上昇するゲートが体が浮遊していると錯覚させた。

アルトはコレムと同じくらい賢い王です。前代の樹さんは登場していませんが、魔女界をずっと見守っています。

樹さんはまたどこかの小話に出も登場させようかなと思っていたりします。

わりと好感度が高いキャラなようなので……。

あと60話くらいで完結とか言ってますけど、減ったり増えたりする可能性g(ry


はい!

では実力(がない)派エリート(と思われない)は退散させていただきます!

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