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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第四章 伝説の征服点//in冥界&神界
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はちじゅういっかいめ 再会の泣き声

 朝の清々しい風景のオトをバックに、五時の鐘が大きく鳴った。時計などの道具は戦闘により大幅に量が削れ、長い間使われなかった鐘を使うことになっている。

 まあ、鐘に限らず他の日常用品も巡回によって不足しているが。システムが改められ、新たな技術もそのうち導入されるだろう。

 もう一度人間界が神界に及ぶまで、彼らがゆっくり成長する時を見るのが楽しみだ。


 皆より一段も二段も早く起きているのに、疲れは皆と同じくらい取れているだろうルネックスがまぶしく差す登ったばかりの太陽に、そんなことを思いながら光を遮るために手を額にかざした。

 起きたならばカレン達ならルネックスの部屋に入ってくるだろう。そうしないのなら、まだ寝ているという事だ。

 テーラが起きているかは分からないが、勝手に部屋には入っていけないだろう。


「ふう。ちょっと暇だな……ははっ。コレムさん準備万端だなぁ」


 両手を高く上げた伸びをしたルネックスがやけに広い部屋の中を見渡すと、王の血を持たない者が見れる最大限の禁書シリーズが置いてあった。

 ルネックスが読んだことのある物が大半だが、読んだことのない物もあった。それに興味を引かれたルネックスは読んだことのない物から手当たり次第机に積み上げた。

 早起きでも起きるのは六時なのが常識だ。少なくとも一時間は本を読みふけっていられる。

 

 そして、いつも早起きのテーラもさすがに疲れていたようで、皆は二時間半の七時半辺りに起きてルネックスの部屋の扉を叩いた。

 今回は魔界と竜界をシェリアかカレンかフレアルか、で選ぶだけだ。テーラは何をしていても大丈夫だが、どうやら此処にいたいようで全員揃ったところで静かに腰かけた。


「……わたし魔界やる……ひねくれた魔界を治める……! 絶対に……!」


「わー、カレン凄い雰囲気が凄い! ……てことで私竜界やるってことね! ルネックスのお父様のいる所を治められるなんて最高の名誉じゃない」


「ははっ。二人ともありがとう。すぐに決まったね」


 ちなみにルネックスの父リネスだが、今回の戦いに参加していない。竜界は確かに平和だが、その分蓄えた強力な者がとても多い。

 政治もどの世界よりもやりにくく、一番大きい理由が貿易を結んでいる世界が多かったことだ。

 名前のない無名の辺境、つまり発展途上の世界などとも力のある者を貸し合ったりと、少しも手が離せない状態らしい。

 しかも、戦前が一番そういうのがピークだったらしい。

 発展途上の自分の世界を、戦闘から守るために様々な大小の世界が動き出していたという理由が大きい。


 武力六割論理四割の竜界で、事務仕事を得意とするリネスはとてもと言えるほど貴重な人材である。

 神界へ行っている間の時間に何年もあるのだから、リネスが離れているブランクの時間で様々な不和が現れるのは確実である。

 その他も色々と複雑な世界なので、結局彼は渋々引き下がることにしたのだ。

 渋々と言うのには理由があり、他界から誰かを―――という決断をしたくなるくらい息子の戦いに参加したかったらしい。

 まあ、確かに父として許せはするがリネスは国の王に近い立場なのだ。

 そこは「まぁまぁ」とルネックスが彼を抑えた。ルネックスがじきに抑えに行かなければ、飛んできそうな予感がしたからだ。

 

 実際、ルネックスが来なければ行こうかなと思っていたのは今や内緒の話である。


 フレアルとカレンの話が付いたところで、シェリアがやや不安そうな顔をしてこちらを見ていた。確かに残った一人はルネックスと同行動とは言ったが、何も仕事を仕分けられないのは頑張り屋な彼女にとって不安な要素でしかないだろう。

 それを安心させるためにルネックスはふわりと優しく微笑んだ。


「シェリアにはフレデリカでは届かない人間界の民、自分達に近い者たちの守護を任せることにする。でも、僕と同行動ね」


「は、はい! 私も仕事がもらえました、やったあ!」


「よーし話ついたね? さて、また用事無くなったけど……」


 このまま他愛ない話でも話すか、と口を開こうとしたところに金で作られた、眩い光を放つ扉が軽く数回叩かれた。

 その優雅な音に反して扉は返事を聞く前に勢いよく開かれた。


 ―――正装をしたハーライトだった。


「よう。国王様との謁見が明日に決まったぞルネックス。今日少し会っても構わないが、どうなるかわからんがな」


「分かりました。明日のいつ頃ですか?」


「一時だ。微妙な時間帯な気もするが、頼んだよ」


「了解です。あ、ミェールさんに頼まれていたのですが、此処から連なって五つの部屋が使用中だと伝えておいてください」


「それ俺も知ってた。了解、伝えておくわ」


 目まぐるしくとんとん拍子で進んでいく話に付いて行けないメンツと、付いて行ける者達で別れた現場だった。

 ミェールから頼まれたことと、恩賞でも貰えるのだろう謁見の時間を伝え終わったのを見計らってテーラは心底呆れた顔で口を開いた。


 それは最後のハーライトの言葉から三拍。人が気味の悪い、話の切り得ない、と感じるのは六拍から上。三拍は丁度いい時間帯だ。

 計算しているのかは分からないが、彼女は丁度よく間を開けて話している。


「ハーライト……貴族にそんなことしたら、絶対許されないからね? ルネックスは優しいけどさ、ちょっと礼儀習った方がいいと思うよ。少なくとも、扉は返事をもらってから開ける物だよ……」


「そ、そうだった。ミェールさんに教わってたな……すまん、気持ちが逸ってたのかもしれん。……俺はここで退出する。ちょっと仕事があってな」


「ハーライトさんお疲れ様です」


 元のまさに少年とも言える、反抗期真っ最中のハーライトは期待の新人で、天狗にもなっていた頃なので誰にも注意されなかった。

 ミェールも一番忙しい時で、第一魔術隊長だった彼は、第二魔術副隊長であったハーライトにかまう暇もなかった。

 その時の隊長も責任感皆無だったので、礼儀系は何ひとつできないのだ。


 という事でミェールに色々習っているらしいが、少し気持ちが上回ったら忘れてしまうことが多いらしい。

 ハーライトが扉の向こうに去っていき、ぱたんと扉が閉まる音が静かに部屋に響いた。

 広大な部屋のため、その音は一般家庭より良く響いた。


「みんな疲れはとれてる?」


 新しい話題を出した方が良いな、と悟ったルネックスはこれから色んなところに挨拶に回る事を前提にそんな話題を出した。


「ん……疲れはとれてる……傷も治ってる……あえて言えばちょっとだるい……」


「私も大丈夫よ、問題なく竜界に行けるわ。さっき五つの部屋が使用中って言ってたけど、私達今日中に居なくなるよね?」


「計算の中だよ。謁見の時にミェールさんに会ったら伝えておくつもりだから」


「ふうん。当分ルネックスには会えないなあ。ちょっと寂しいわ」


 カレンはその目に焔を漲らせながら強く右手を拳にして握った。やる気を出しているのはいい事だ、とルネックスはそれを一瞥する。

 フレアルの言葉にも、急に転換した話題だが反応良く返す。ハイレフェアや国王コレム、待たせている者達はとても多い。

 しばらく行っていなかった冒険者ギルドにも行きたいと思っている。


 ルネックス自身、魔力の回復具合は六割と言ったところだ。早続きの覚醒に、魂が無理をしていたので実際体はついていけていないのだ。

 いきなり色んな世界を回るには少し無理がある。色んな人を心配させているのだから、まずは挨拶に行くのが妥当だと思ったのだ。

 フレアルも故郷に戻りたいと言っているので、しばらく彼女も同行する。竜界と魔界を放っておくわけにもいかないが、気持ちを後回しにし過ぎても良いことは無い。


 何事も、適度に。


 〇


 王城から出てきてから、一番先に向かったのはルネックスの、フレアルの故郷である、今は名前のついた村改め街だった。

 タルテス街。英雄フレアル勇者ルネックスの生まれた地として観光客が増え、戦で壊れたところも多いがやはり栄えているのがよくわかる。

 昼ご飯を早めに食べたいと思う人が食べているだろう、十時。さすがにこんな時に昼飯を食べるのは仕事尽くしの一部の人間だけだろう。

 そもそもこの時間に朝ご飯を食べている者の方が多いと思われる。


「懐かしいね……。あ、テーラさんは確か初めてなんでしたよね。此処が僕とフレアルの故郷です」


「へー。確か昔は村だったんだっけね」


 フレアルとルネックスが目を細める中、来たことのないテーラに気付いたルネックスはあわてて案内を始める。

 しかし、自分の故郷なのだからしっかりと見ろとテーラに言われたルネックスは本当にいいのかと問いつつも自分が引くことにした。

 それは、大きく鳴った自分の故郷を目に焼き付けたいという己の感情もあった。


 突然の訪問にも関わらず、村長である通称ファル爺が孫のリディアと共に今にも転びそうな勢いで走って来た。


「これはルネックスと大賢者様ではないか。よくぞ来てくれた。ゆっくりしていってくれ。宜しければ案内させてもらおうか?」


「村長! お願いします」


「私がやるー、私がやるのー」


 ルネックスが村を出ていったときのままの、折れたりしたのかつぎはぎの杖を地面に叩きつけながら、ファル爺が腰を低くする。

 このような対応も慣れているため、一行は何も言わずに彼らを楽にさせる。

 リディアは低い身長を大きく見せようとしてぐー、と呻きながら限界まで手を伸ばす。自分の事を注目してほしいがためだ。


 ファル爺は苦笑いをしながら、リディアと共にほのかな明かりがともされる街並みを歩いた。

 丁寧に工事された道路に宿、歩いて行けば王都の物とは大きな差があるが冒険者ギルドまでもが存在感大きく鎮座していた。

 現在この冒険者ギルドには王都の十分の一の人数がいる。王都以外の冒険者ギルドで、それだけの人数を集められたのは褒めるべきことだ。

 五百人当たりの冒険者と二十人の受付で成り立っているギルドである。


 また、この街の住人は千人ほどだ。ルネックスが出ていく前は二百人もいなかった『村』だった時代に比べれば、涙が出そうなほど成長したものだ。


「凄いですね。僕がいたときは、草が生えっぱなしだったのに」


「あっ。ルネックスが昔住んでいたところも、工事はなしだがしっかり維持されるように保たせておるぞ!」


「そうなんですか! それは有難いです……!」


 ルネックスの言葉に思い出したように目を見張らせたファル爺がやや急ぎ足で案内したのは、昔ルネックスが住んでいた小屋だった。

 見るに堪えられないほど木は腐り落ちていて、今にも落ちてきそうなくらい不安定である。今の王城の部屋とは比べたら可哀想過ぎる程である。

 フェンラリアと出会ったのも、シェリアと出会ったのも、ここまで登ってこられるきっかけが作られたのも全てがこの小屋から始まっていた。


 そりゃ観光客が増えるわけだ。勇者の始まりをこの目で見られるのだから。ちなみに冒険者が増える原因も、勇者がいる所で武力を見せられるなんて名誉だと若者が騒ぎ始めたのが始まりらしい。

 あまりの家の状態の悪さに、テーラが顔を引きつらせている。ルネックスから見れば、あの頃の情景と寸分も違わない。


 そしてルネックス一行は、気が済むまで駄弁って気が済むまで昔の家の中で遊んでいたり何かを食べたりするのだった。


 〇


 王都へ行ったり辺境とも言えるほどの街へ行ったりを繰り返していられるのは、単純にルネックス達のスペックが一般の人間を超えているからである。

 転移魔術を使える者なんて、賢者や魔術に生涯を捧げた者くらいである。

 そんなこともどこ吹く風。街の中は終戦したばかりのせいで人もまばらだが、視線を集めているのは確かである。

 その中で、誰の目も向けられない小さく暗い部屋の中。そこが、もうひとつの再会の現場であった。


「ハイレフェアさん。宮廷魔術師副隊長のミェールさんと付き合ってるって、本当なんですか?」


「ぶふっ、そ、それは何処で聞いた。私は付き合っている人がいると言っただけのはずだが……? 口を滑らせた覚えはない」


「メイドさんたちです。ちょっと耳に入って来たので」


 元奴隷商人のハイレフェアは、奴隷を売っていた店にルネックスとの思い出を探すために来たのだが、まさか本人が来るとは思っていなかった。

 しかも、入るやいきなりそのような爆弾発言をされてしまうとは。

 しかもしかも、ハイレフェアの後ろにはミェール達の後輩である、昔ルネックスがドラゴンから助けた四人がいるのだ。


 その四人も噂は耳にしていたが信じていなかったようで、ルネックスの言葉を聞いて目を見張っている。

 リィア、アルゼス、ウェラ、エェーラの四人である。


「ハイレフェア姉さん、あの噂って本当だったんですか……?」


「バカ、ルネックス様が言ってるんだから本当に決まっているでございます」


 リィアの呆然とした独り言に返されたのは、エェーラのやや特徴のある一言だった。ハイレフェアは真っ赤な顔でぷるぷると震えている。


「さ、再会はいいのだが……再会の仕方がややいじめではないかっ!?」


「えーっと、言ってはいけないことなのでしたっけ?」


「いや構わん。……っふう。その態度を見ていると何となく色々ほぐれてきたな。ただ、今日は思い出探しだけじゃなくやりたいこともあってな、すまんが、明日か明後日辺りにもう一度来てはくれないだろうか?」


「分かりました。忙しいところすみません。またお邪魔します」


 竜界と魔界にそれぞれ散っていったカレンとフレアルが居ないという事に触れず、ハイレフェアは去るルネックス一行に手を振った。

 さすがに空気が読めなかったかな、とルネックスは反省する。


 しかし、反省だけしても意味はないので明日は行動で表そうかな、と思うルネックスだった。一日の運動としては丁度よかったので、満足した一日ではあったが。

 その後も語り尽くせない言葉を存分に語り、未だ語り終えてはいないが各自眠りにつくのだった。

>>再会の泣き声


 誰 も 泣 い て な い 

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