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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第四章 伝説の征服点//in冥界&神界
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ななじゅうはちかいめ 二度と戻れない

 自分が自分でなくなる感覚がするのを確かに感じ取れた。それでも、手足も攻撃も自分の思う通りに動いているのは確かだ。

 明滅する意識とは裏腹に、片時も離れず手足は自分の意識の通りに動いた。

 気付けば聖神の目の前に居て、気づけば手から盛大な閃光が噴き出していた。その魔術は生きているかのように世界を保護し、ルネックス一行にも盾を展開させ、聖神の心臓めがけて一撃必殺の光の槍を突き立てていた。


「ぁ……私は……」


 固定されたままの聖神が最後の力で天に向かって手を伸ばし、ゆっくりと瞳に光が無くなり、瞼が重くなって行く。

 最後に出る無数の後悔も、所詮は最終である。敗退してしまった敗者に、勝者はいくらでも無理な要求ができてしまうのがこの世界であるからだ。

 味方がロゼスしかいなくなった今、聖神が復活することはかなわない。あとは、システムが聖神の魂にどんな厳罰を与えるかである。


 そこまで考えたルネックスだが、塵となった聖神と少しの時間差で地面に打ち付けられた。その意識はなくなっている。

 魂と魔力、体力の過剰使用によって強制休憩モードになっているのだ。

 魔力と体力が両方ゼロだと命にもかかわってくるので、シェリアが急いで魔力注入をしている。シャルがこちらをちらりと見て驚いていた。


「……それじゃあボクは先にアデルたちの方に加勢しに行くよ。セバスチャン、行こう。あと一押しでロゼスの方も崩れるとボクはもくろんでるからね」


「ああ、分かった。ルネックスの方はいいのか?」


「ボク的には構わないと思うよ。ボク達はあくまでも他人だしね」


 確かにテーラとルネックスはお互い同じくらいの実力なので高め合ったりと親しくなってはいるが、やはり一時的な協力を結んだ他人なのである。

 ずっと一緒にいる、と制約を刻んだ彼女たちとの仲とは比べるべくもない。

 親しくなったからと言って、正しい距離感を間違えてしまうことをテーラは絶対にしない。距離感の問題はしっかりと世界と現実という先生から教わったつもりである。


 ただ、そうでなくても今は自分達が駆けよるべきではないのは普通解るものであろう。

 彼らのために、彼らへの脅威になりうるものを排除する。彼らは英雄になんてなるはずのなかった普通の少年少女たちなのだ。

 強くなったと言えど、英雄や勇者に<内装>される強靭な心も純粋無垢な並ではない正義感も存在はしないのだ。

 微笑んだテーラは体中に武器を纏ってゆっくりと歩んだ。


「くっ……世界の概念がルネックスに味方したのか……僕に勝ち目はない、という事か。そうなら―――潔く散ろうではないか!」


 情景を見ていたロゼスが今も攻撃を繰り出すアデルとシャルに突っ込んでいった。

 本来なら勇者パーティの勇者であるか、それともその中の一員になるだろう事は確定した彼には、たぐいまれなる精神力があった。

 正義感があると言われれば、彼自身も世間も中途半端にあるかどうかわからないと口をそろえるだろう。

 この愚かな世界を救うと口では言っているが、それにどれだけの犠牲が伴うかどうかなど考えず一直線に後先考えず突き進んでいるのだ。


 それも自分で分かっているからこそ、持ち前の並でない精神力を糧に遥か上の強敵へ挑んでいった。

 

 聖神がいるならば、壁にしてでも何にしてでも逃げて、立て直して新たな仲間を作り自身を高めるべく何年間も粘るつもりだった。

 それももう叶わないだろう。目を閉じて開けた。その時は一瞬。


「―――だが、わざわざ殺されてやるつもりはない!」


「こっちだって、容易くやられるつもりはないよ。夢半ばに儚く散る準備ができているというなら、人数の利も活用していく」


『説明してやる必要はありませんわ。行きますわよ』


「もち」


 ロゼスの技を軽く回避しながら皮肉じみた言葉を吐くテーラに、明らかな技量の差を感じつつも棘のある言葉には反応しなかった。

 世は広い。いずれ不満を持つ強者も現れるかもしれない。もしかしたらそんな者は居ないかもしれないが、その者に託してもいいかもしれない。

 

 覚醒を何重もかけて、目の前で強者の力を何度も見せられたテーラは、もうロゼス程度の敵に苦戦することなどない。


『行くよー……』


 眠たげにシャルが手を伸ばし、その先からは無数の透明の布のような物が現れた。こんな物いくらでも回避できる、そう思ったロゼスだが思わぬ布らしき物の性質に目を丸くする。

 少しでも触れれば驚異の粘着力で粘着しまとわりついて離れず、くねくねと生きているかのように軌道が定まらないのでいつものように回避もできない。

 叩き落す技も使えず、一度でも纏わりつかれてしまうと布を操るシャルにその個所を引っ張られて気を取られてしまう。


 そんな意地悪な技を放ってきているシャルだが、アデルもテーラも無視できない強敵である。趣味の悪い攻撃を避けながら自分より何段も上の強敵を退けなければならないのだ。

 それに、ルネックスが起き次第カレン達も加勢してくるだろう。

 そこまで考えたロゼスに次第に焦りが浮かび上がり、足が地面を踏むたび焦燥が響き渡る。

 もしかしたら、本心からは諦めていなかったのかもしれない。


「やっぱ君、往生際が良いってワケでもないみたいだね。最初は珍しく潔く散る気になったかなと成長に喜んだのにね。ボクにこんだけ喋らせるくらい動きが鈍ってるじゃない。あと誰かから一撃でも放たれたら死ぬんだから、遺言でも述べたら?」


「そうだね……最後に言いたかったことと言えば……やはり恨み言になってしまう。それでもいいなら言わせてもらう……ガレクルとフェスタに罪はなかった」


「……それで終わり?」


 動きが鈍ってやがて片膝をついて肩で息をし始めたロゼスに機関銃を突き付けたテーラが、無機質な目を向けながらも小さな情けをかけてやった。

 彼が語ったのは、どれだけ切迫した状況でも自分に付いてきてくれて、最初から最後まで励ましてくれた最高の仲間たちであった。

 彼らは自分についてきただけであって、罪はない。

 そう語ったロゼスの言葉に内心で驚愕しながらも、テーラは機関銃の引金トリガーに重ねた手に力を入れた。


 どんな結末が待っているのか分かったロゼスは、これ以上抗うこともなくゆっくりと目を閉じた。

 それでもやはり諦めることは億劫だったのか、最後の抵抗としてそのまつげから流れるようにして頬に一筋涙が落ちた。

 見届けたテーラは、静かに引金トリガーを引くのだった。そして最後に。


「でもね。聖神なんかよりも、ずっとボクはキミの事嫌いじゃないよ」


「……そうか。それは、嬉しいな―――」


 最後に少年に似つかわしい儚げな笑顔からもう一筋涙がこぼれると同時に、せめて綺麗にとテーラは彼の後頭部を貫くだけにとどめておいた。

 原形もとどめずに死んでいった者達の事を思えば、これは最大限の情けだった。

 足先から塵となって消えていく彼の魂も、きっと世界のシステムから厳重な処罰を食らうことになるだろう。

 それでも最後まで抵抗を見せて、システムの手まで煩わせることになった聖神への罪はもっと重いはずだ。


 あまりにも潔く無さ過ぎる聖神と比べれば、彼はまだ良かったのかもしれない。

 それでもこの戦火に巻き込まれ悪役となってしまったからには、この結末以外存在しなかった―――かもしれない。

 テーラは戦闘の終わりに天を仰ぐと、丁度ロゼスの最後の欠片が消えていくところだった。

 満足げに頷いた彼女は、次にルネックス達がいる方へ視線を向けた。


「テーラさん……終わった、んですか……?」


 戦闘の時とは考えられないほど弱々しい笑顔を浮かべながらそう問うルネックスに、テーラは余計なことは言わずこくりと頷いた。


「終わったよ。長い事よく頑張った。人間界ではたくさんの人が待っているはずだから……世界の亀裂は任せて」


『やるよー……えーい……』


 相変わらず眠たげに手を掲げたシャルの手からばしゅ、と音がする。次の瞬間には天空に無限の透明の盾がひろがっていた。

 多分これは、この世界の果てまで包み込んでいるのだろう。

 そして完全にそれが世界に溶け込めば、世界の亀裂は瞬く間に消え去った。


 これが光の原始点。これが、幾多の加護を一身に受けて自分も加護を与える身となった何よりも聖なる存在。

 この者こそが、闇と拮抗する光の力を最初に持った一人の少女なのである。

 ルネックス達があれほど手を焼いていた世界の亀裂を封じただけでなく、雷が地面を打ち風が吹き荒れ火が燃え盛る恐ろしい情景までも消し去ってしまった。

 それを簡単に成し遂げた少女は誇らしげに手を腰に当てている。


 まあ、相変わらずその目は眠そうで美しい白髪は長すぎて地面を引きずってはいるが。


「さて人間界に行くけど……世界のゲートを開くほどの魔力残ってるかなあ。帰る時のこと一切考えてなかった」


 苦笑いをしながらテーラが指をパチンと鳴らすと、華を散らすような黒髪が鮮やかに煌めく透き通った銀髪へと変わった。

 これが、普段の『テーラ・ヒュプス』の形態である。戦闘時に使ったものは彼女の本気であり、彼女にしかできない特別な覚醒の仕方でもある。


 それはさておき、ひびの入った大剣ガイアを担いだヴァルテリアがややドヤ顔で前に出てきた。


「それは俺とリンダヴァルトに任せてくれ。体力ばっか使ってたから魔力は……三分の二ほど残っててな。やっぱ分数ってつかれるわ」


「そりゃそうだぜ師匠。分数とか高度数学だぜ? 英雄や大貴族くらいだよ、んなもん使えんのは。まあ、任せろ!」


「じゃ、任せようかな。ルネックスは立てる?」


「はい。勿論です。すみません、最後まで手を煩わせることになってしまって」


 いやいやあ、と言いながら手を振るヴァルテリアは神剣ガイアを降ろし、それが壊れないギリギリのラインで魔力を注ぎ込んだ。

 リンダヴァルトは人間界と神界を繋ぐゲートを出現させるための魔法陣を創り出し、ヴァルテリアがそこに魔力をたっぷりと流し込んだ。

 透明なゲートが浮かび上がり、神聖な煌めきはとても神界らしかった。


 戦いの終わりへの達成感がどっと心に流れ込んできて、終わったことは分かっても実感を掴めなかった頭が露骨な喜びを浮かべた。

 それは、この場にいる全員が見せた変化だった。

 この戦いで全員が成長した。やりたいことも増えた。ゲートに足を踏み込んだルネックスは明日の事、明後日の事を考えて思わず感激の涙を浮かべそうになってしまう。


 それでも今は笑顔を見せるべきだと思い、一番重症のシェリアをリードした。その後ろからカレンが乗り込んでくる。

 人数ギリギリの大きさのゲートが閉じて、ゆっくりと転送を始めた。

 気付いたら、急な気候の変化に驚く人々の真ん中に堂々と現れていた。虹がかかり、太陽の光が爛々と輝いている。

 人々は一瞬何が起きたのか理解できず、次の瞬間に胸を叩く歓声が響いた。


 地面を震わせるほどの声で湧き上がる歓声に、ルネックス一行は自分達でも気づかぬうちに笑顔を浮かべるのだった。

英雄が哀しみの涙を見せられなくても、喜びの涙はいくら何でもできます!(笑)

さすがに喜びの涙も流せなかったらとんだブラック企業です((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル


それにしてもようやく戦闘が終わりました。

途轍もない達成感とようやくほのぼのに行けるという嬉しさがこみ上げてきます。

次話はハーライトさん達が熱い抱擁を(ry

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