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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第四章 伝説の征服点//in冥界&神界
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ななじゅうさんかいめ 未来は無限

 何が起きた。何がどうしてしまったんだ。凄まじい轟音と重なるようにして噴射するように発射された混沌の刃が弾けた。

 ルネックスでさえも、ナタリヤーナでさえも全てを捉えきる事が出来ずに、段々と空気中で膨れ上がってく闇の空間を見つめるしかなかった。

 視界不良好どころか何処をどう見渡しても闇で、敵の姿も味方の姿も誰一人としてとらえることができなかった。

 しかしその中でも、世界に味方されるルネックスは唯一視界を保っていた。


(アステリアさんとグロッセリアさんだ……なんでこうもみんな魂をかけて……。いや、魂をかける術じゃない。これは―――魔力噴出か!)


 世界の知識を手にいれたルネックスは触って気付いて感じて理解した。ロゼスがやった物は緊急時のための物で、しっかり訓練されてきたわけではない。

 しかし英雄たちとしては必殺の技として幾度も使ってきた技なのである。しかしこの魔力の量は、命を削るほどではないのか。

 剣を一振り。闇は消えない。剣を地面に突き刺す。周りだけが明るくなる。


 これでは戦えない上に、敵からの敵襲もあり得る。

 敵がどこにいるかは向こうも分かってはいないだろうが、好き勝手に剣を振り回されたらたまったものではないのだ。

 しかし同じ闇から生まれたアデルも徐々に触れて理解し見て自らの技術に落とし込んだ。それはルネックスよりも技術が上で、洗練されていた。


「ふん。まだ死ぬつもりはなかったのだがな……しばらく使ってなかったら鈍ってしまったか……しかしナタリヤーナのアデルへの援護は完全に止めてやった。あとは全部見えてるだろうお前に任せたぞ……」


 やけに疲れた表情をしたグロッセリアがルネックスの背後から声をかけた。問えば、此処での話し声は何処にも聞こえていないそうだ。

 グロッセリアは文字通り魂を削り瀕死状態だが、アステリアはまだ少しだけ魔力を残している。何千年もこの術を使ってこなかったおかげで、鈍ってしまったらしい。

 しかし青白い顔をして息を切らす彼女を黙って見ているわけにはいかない。


「僕に出来ることはありませんか?」


「本当なら魔力を分けろと言いたいものだが、今のお前が魔力を瀕死の女に分けてやる必要はない。あぁ、頼みごとがあったんだ」


「……それが僕のできることなら、精一杯やって見せます」


「そうか。頼もしい。……妹、スティセリアにこの腕輪を渡してやってくれないか。亡き両親の形見でな、英雄の名を引きつぐ証でもあるんだ……奴は十分強い……頼んだ……」


 地面にどかっと倒れこむように座ったグロッセリアが差し出した腕輪は、国王が付けるような物以上なほど輝いていて、神々しい光を放っていた。

 こんな物をいつも身に着けていたとは、ルネックスも気付かなかった。聞けば、いつもは腕輪の力を抑えているのだそうだ。

 先程の魔力大放出は少しこの腕輪の力を使ったが、亡き強大だった両親が残した魔力はいまだつきないようにみえる、と絶え絶えに彼女は話す。


 もう生きるつもりはない。必死に意識を保とうとしながらぽつりと呟く。


「今は妹に追いつかれそうなんだ……どうか追い越してくれるのを願っているよ……人の死により―――ひとは一歩成長する」


「グロッセリアさんッ……」


「行ってくれルネックス。聖神という名の皆の仇を取ってくれ。英雄とは……人の死にも動じない残酷な物さ……」


 最後に何かを求めるように手を天高く掲げたグロッセリアだが、しかしその手は力なく崩れ落ちた。英雄とは、死にたじろいてはならない。

 その見本とでも言うかのように、彼女の表情は薄く笑っていて、死への動揺も悲しみもなにひとつ見て取れなかった。

 ルネックスは涙を浮かべてはならなかった。英雄は常に強く誰かの上にあるべきで、涙を流してはならない義務がある事を知っていたから。


 アステリアももう少し戦ったら魔力が枯れたことで死ぬだろう。それは恐らく術を行った彼女自身も分かっている事だと思う。

 突然闇の霧が晴れたことに敵も味方も関係なく戸惑いの声を上げる。


 しかしルネックスは戸惑うこと無く息を切らすアステリアに目を向けた。


「そろそろ自爆時だと思うのだ。グロッセリア殿は……そうか。ならば自爆しよう。気を付けるのだぞ、ルネックス殿」


「魔王さん。……どうして、自分から破滅の道を行くのですか?」


 愚問だとわかっていながらも、ルネックスは問わずにいられなかった。


「簡単だ。これ以上生きていくことに意味がないからだよ」


 普通に戦ってその身を散らせるにしたら、あまりにも出せる戦力が低すぎる。どうせ散るならば命を賭けた必殺の技が好ましいだろう。

 それに、死ななかったとしても魔王が英雄と唱えられるなんて前代未聞。誰かの手によって歴史が作り替えられることは間違いなしだろう。

 そうしなければ、後世に語り継ぐ正義の物語に魔王が入ってしまうからだ。


 勿論アルティディアには女神教もあるし、魔王討伐団まで結成されているうえに勇者を目指そうとする者なんて年々と増えている。

 そんな者達が魔王を正しき歴史の中に入れるなんて許可するわけがない。

 生きるにしても死ぬにしても、どうせ存在事抹消されるに決まっている運命なのだから、少しでも勇者になれるだろうルネックスに助力したい、ただそれだけ。


 にこりと微笑んだアステリアは狼狽える聖神と向かい合った。


「では、いきなり技をぶっ放すと驚くだろうから……これを受けてみるがいい」


「なんのつもり。私が避けないとも限らないじゃない。というか避けるに決まってるじゃない。真っ向から向かってくるなんて自殺行為でしょ?」


「ふむ。間違ってはいないと思うが―――貴殿は避けられんよ、防ぐか反撃するか、残される選択はそれのみさ」


 ぶわりと広がる闇にアステリアは身を任せた。魔力が抜かれ、魂をゆっくりと削がれる気持ちいいとは口が裂けても言えない感覚。

 口元から一筋流れる血筋も、どうせ消えるのなら拭う必要はない。闇の靄は徐々に影の手の形へと変わり、動揺する聖神に迫った。

 後ろの退路は新たな手が塞ぎ、左も右も影の手が覆い尽くしている。味方の援護も敵の増援も、対象の逃げさえも許さない、これは本物の必殺技。

 命をなげうって放つ魂の技は皆放って来たものだが、力任せの思いの鈍器ではなく、正確な祈りと力量をもってして相手に迫ろうとする気迫。


 一気にそがれるのではなくゆっくりと命とも言える魂がそがれていく感覚というのは、何とも言い難い物であった。

 もっと言えば、人間でも英雄でも死ぬときは魂が残される。

 それは、新たな体へ魂が記憶消去されて押し込まれるためだ。少なくとも、ルネックスが理解するこの世界ではそれが常識となっている。


 魂とは転生するための手段であり、魂を失えば輪廻転生は不可能である。つまり、死と生の世界を延々と彷徨うか生まれ変わることなく完全消滅するか。

 ―――その二つの選択肢を、ルネックスはばっさりと切り取れるか。

 世界を操れるのなら、もしかしたら。それもアデルに聞く必要があるかもしれない。どちらにせよアデルを殺すつもりはないのだから。


 ルネックスは思考を一度止めて影の手と光魔術の争いを一瞥してから、戸惑いながらあたふたするスラインデリアに意識を向けた。

 魔力を高めていく。もっと、もっとだ。もっと高みへ。

 体内に残る魔力を欠片残さず、手に集めていく。それは直前で自分の意識により風と火を重ね合わせた魔術―――風火滅業ヴィアロストの準備を整える。


「ゆけ。我が命じる。我の思うがままに暴れ行くがいい―――……」


「ま、まさか貴様―――ッ!?」


 気が付いたスラインデリアが振り向くも、放たれた魔術は目を持たない。一直線に彼女に向かっていき、激しく爆裂音を響かせる。

 疲労困憊の彼女が生きられる確率はゼロ以下で、世界から味方されていることも含めて絶対に死ぬことを確実とした攻撃でもあった。

 ルネックスは大精霊ともあろう彼女の体が地面に堕ちたのを一瞥した後、顔を青ざめさせるアデルと状況を掴めない英雄たちの方をくるりと振り向いた。


 聖神の方向を振り向きもしないまま彼はゆっくりと歩み始めた―――。




 人間界では二週間半ほど。神界では約二時間ほど。アステリアの姿は存在せず、聖神の相手をするのは疲労困憊となったゼロとヴァルテリア、リンダヴァルトの三人だ。

 勇者と大英雄の二人は全くと言っていいほど疲労を見せず、彼らは体力値は三分の一ほどしか減っておらず、魔力も三分の一しか減っていない。

 武器の耐久値の方が減っているのを聞いて、苦笑いを浮かべたくなるほどだ。


「私は……勝利する……私は、このままでは……このままではいけない……」


『―――そうか。しかし貴様の想いが我らに勝つと思わないで欲しい。確たる目標がある我らは……? なんのつもりだ、その手は』


「……! ゼロ殿、離れろ!」


 アステリアの影の手の攻めにより、魔力はそこまで減らなかったものの魔力を減らさないことを重視した聖神の体力は三分の一程だ。

 肩で息をして、しかし疲労を悟られぬよう極限までの努力をするが、精神と内心は彼女の必死さには応えてくれなかった。

 明らかに疲れている。息を深く吸っては深く吐き出しているのもその証拠。

 何より、ステータス鑑定阻害を弱めてしまうほど彼女は余裕がなくなったのだ。


 だが―――生かされても死んでも、罪の重さから魂に枷をはめられて転生することは長い年月が必要になるだろう。

 その知識は神が持つべき知識であり、腐っても神の一柱である聖神も知っていた。


 どうせなら死にたくない。

 それを原点の思いに悲鳴を上げる体を必死に支えてゼロに手を伸ばした。疲労困憊同士だ、まともに戦ったら散るだけだろう。

 何より、ゼロより早く気付いたヴァルテリアが剣を構えている。


「私は……私は強くなる。私は、負けることなど許されないッ……!」


『ぅぐあァっ……』


 聖神は人間の心臓がある辺りに手を突っ込んだ。不死の神に心臓などはないが、どくどくと溢れ出てくる血は本物である。

 しかしその程度で殺せるとは思っていない。聖神は開けた穴に手をねじ込み、魔力を手にまとって幻想的な奥さらに奥に踏み込む。

 体内を超えた神のみの体の領域。人間も持つ、唯一神と同じように世界から与えられた空間。―――魂のある場所。


 そこには何もない。悠々と結界が立っており、安易には踏み込めない。

 しかし、そこにはステータスも記憶も、すべて含まれている。魂を操る闇魔術は、だからこそ英雄にしか使い手が居ないのだ。

 ヴァルテリアもいきなりの事で戸惑うが、今攻撃したらゼロごと当たってしまう。このまま二人ともに滅するか、いやしかしそれは英雄がしていい事なのか。

 英雄が何だの語っている未来の勇者の先輩として、正々堂々戦うことを十八番とする勇者一行にとって、それは正しくない。


 しかしこのままだと、元から疲労しているゼロが死ぬことは明らか。何をどうしたってゼロが死ぬのならば、いっそ攻撃した方が―――。


「貴様らも言うように未来とは幾先まである……世界が味方など、私には、関係ない事だぁ……さぁ、私の力となれッ……!」


『うぐっ、ヴァルテリア殿、攻撃をしてッ、くれっ……このままだとッ、我の、今のステータスが足されてしまうっ……!』


「ちっ。いくぞ、リンダヴァルト!」


 その結界を突き破って手当たり次第に魂を壊しながら、ルネックスが行った吸収に似た魔術を自分とゼロに施していく。

 ルネックスやアデル程精密な工程はできなかったとしても、抵抗のできないゼロにとっては十分脅威になりうる。

 それが分かっているゼロは、精一杯声を張り上げて現状を伝えた。


 それが最後の体力で、それ以降ゼロは少しも抗うことができなかった。ヴァルテリアが魔力を纏った剣を用意する。

 リンダヴァルトからの返事はなかった。沈黙の肯定だけがそこにあった。

 仲間の死は幾度も見てきている。分かっている。幾度の悲しみは意味を成さないことも分かっている。英雄の涙は無為だって分かっている。


 ―――けれどどうしても、声を張り上げてくれた彼女を切り捨てることは耐えがたかった。


 鍛錬された魔力のうごめきが、聖神とゼロを直撃した。恐らく、聖神の盾が衝撃の三分の二を防いでしまうことだろう。

 しかし抗うすべのないゼロは、ステータスを全て奪われた彼女は魔術を放たれる前からその命火は消えてなくなっているから。


 そうだよ。未来は無限さ。どこまでだっていけるさ。

 じゃあさ。目の前の状況ってもしかして―――自分たちが作ったんじゃないのか?


 退こうよ。

 優しく甘い囁き。いつだって神経の奥深くから、体が悲鳴を上げるたびに、心が絶叫を上げるたびに弱音を内から吐いてくれる。


「「いや、それは許されない」」


 ―――一気に何人もの仲間を失った真の勇者ルネックスが待っているからだ。

聖神は死にません。言った通り三分の二を防御したからですね。

聖神さんには、最後最大の、作者を、きっと読者様を怒りにまみれさせる行動を起こすかと思います。

いやぁ、あの用意した最後は……反省はしている後悔はしていない←

えーっと、この物語が終わったら土下座します。なので状況を見守ってやってください(;´・ω・)

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