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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第四章 伝説の征服点//in冥界&神界
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ろくじゅうはちかいめ 代償は

 聖神は口を開けては閉じて、早続きの展開にどうすればいいのか分からなくなった。鬼神の登場、シエルの仲間割れ、カレンとシェリアの突然の覚醒。

 そして目の前には、薄く微笑んだルネックスが光る剣をって立っている。彼に迷いはなく、一心に聖神へ報いを見せようと踏ん張っている。

 ぁ、と小さく声を漏らす。自分の目的は一体何だったのだろうか、手探りでも探しつかない。ようやく見つけたひとつの目的こそ、ディステシアのため。

 結局自分のために繋がる理由で、ディステシアを死なせることになったこの世界の罪を裁くという化けの皮を被って、聖神は剣を構えた。

 それでも、何処までも行くと誓った少年の想いの強さを超えられはしないだろう。


「それでも、それでも私の思いが一瞬でも貴様に勝つのなら、私はこの世界を壊しつくす! こんな世界は要らない!」


「そうかな。そうか。破壊の意味を持つ思いは、結局逃げだと僕は思うけどね」


「話は終いだ! さっさと死にやがれよ。お前も俺達についていれば、奴隷くらいの地位は与えてやったってのによぉ……!」


 大剣を担いで大言壮語を吐いたガレクルの言葉が強がりであることを見抜いたルネックスは、ため息を吐きながら眉をひそめた。

 明らかに大剣を持ち上げる手が震えているというのに、黙っていればまだ格好良く終われたかもしれないのに。

 ほらやっぱり、とルネックスは後ろを振り返る。カレンがすう、と目を細めており、フレアルとシェリアは今からでも殺しかかりに行きそうだ。

 フェンラリアはすでに上級魔術を練っており、いつ発射されてもおかしくはない。


 頼もしい仲間たちの嬉しい行動をルネックスは見つめながら、改めてこの自分より愚かな者達四人を目で一瞥する。

 ナタリヤーナとアデルに関しては、英雄たちと戦闘が終わった鬼神が引き受けている。

 この戦いに手を突っ込むのはルネックスと、カレン、フレアル、シェリア、フェンラリアの五人だけだ。私情があるんだろとヴァルテリアが「俺達は手を差し込まない」と気遣ってくれたのだ。


「つまり、この時に至っても君は僕に味方しないとそう言ってるのか。今からでも僕に味方してくれたら、生かしてはやれるけど?」


「ロゼスくんー、優しすぎるよー、何でこんなの生かすか意味わからないですー」


 そんなガレクルに対して恐れのひとつも見せずにえらそうに腕を組んだロゼス。フェスタの内心の怯えは、ロゼスの後ろに隠れることで紛らわされた。

 そうだ。フェスタは隠れることしかできない。誰かの後ろに隠れて、鬼畜な言葉と行動をする。責任は全部その人に擦り付けた。

 そんな格好の悪いことしかできないし、いつだって怯える自分がいることをフェスタは自覚していたのだ。まだ、救いはあった。


 そんな自分を、ロゼスが認めた上に手を差し伸べてくれるまでは、ずっと情けない自分に嘆いていた日々だった。

 自分がアデルだったら利用されていたとしても構わないし絶望なんてしないだろうな、と横目で情景を見送りながら、ルネックスに大言壮語を返す。

 しかしルネックスは呆れたように言葉を返すばかりだ。正直むかついた。


「僕にとっては、君達の方が生かしがたい、生かす意味の分からない輩だよ」


 短く吐かれた一言に、フェスタが何か言う前にガレクルがブチ切れた。大剣を振り回してははじき返される仲間を見て、フェスタは「ぁ」と息を吐く。

 どうして踏み込んでいけないんだろうか。弾かれて傷を折っていく友人を、どうして今のこの瞬間もロゼスの後ろに隠れているのだろうか。


「フェスタ、ガレクルの援護をよろしく。僕はそこにいる女たちでも薙ぎ払ってくるよ。スラインデリア、頼んだ」


「了解した。拙者も久しぶりに楽しめるようだな!」


「私を置いて行かないでくださらない? 仮にも仲間条約結んだじゃない」


 聖神とロゼスと、その頭の上で旋回するスラインデリアがフレアルたちに向かっていく。フェスタは自分の周りに盾をいくつも作り上げた。

 ロゼスの命令なら、命だって注ぎこめる。例え足が震えたって、例え指先が動かなくなったって、これは憧れた仲間の命令なのだ。


 死にたくない。痛いのは嫌いだ。傷つくのは怖い。それでも、自分は一度もされてこなかった『期待』をされているんだ。

 なら、魂を削ったとしても頑張れる。たとえ死んだって後悔はない。


「……ふむ。そういう戦闘態勢ね。悪くはない判断だと思うけど、僕にこの二人だけを回したのはいささか舐められすぎだと思うけど」


 戦闘態勢に入りながらも話し続ける余裕の体勢を崩さないルネックスを見て、ガレクルの額に焦りが生じた。

 自慢の磨き上げた大剣に剣を叩きつけられる。防戦一方だ。ルネックスは剣先に重心を回して、風を操り効果的に剣を振り回す。

 そうして出来上がった一撃は重く、叩きつけられるたびに大剣がミシミシと音を立てる。自分の誇りを壊されてたまるかとガレクルは踏ん張る。


 ルネックスが大きく剣を振りかぶった。隙だ、とガレクルは姿勢を低くしてわき腹を狙って大剣を振り切った。

 しかし大剣は容易く足で止められ、肩口に大きく剣を振りかぶったルネックスの不敵の笑みと共に肩から血が大量に噴き出した。


 追撃を与えようと思ったルネックスだが、もう一度剣を振り下ろす前に盾がそこに立ちふさがった。剣を叩きつけると共に盾は割れたものの、確実に一瞬の時間を与えてしまった。


 ガレクルはフェスタと共にルネックスから間合いを取り、双方の攻撃は容易く当たらない距離。ルネックスは煩わしさにひとつ舌打ちをする。

 聖神とロゼスとスラインデリアの天才三人がかりの猛攻にフレアルとフェンラリアがやや押され始めている。

 傷もどんどん増え、このまま戦闘を続ければいつか敗北する舞台になっている。


「君達の愚かさの代償は死だ。僕を怒らせたことを後悔しろ……先に貴様から行くよ、大言壮語を吐いた強がりの君から、ね」


 そうだ。物事は失うものと得る物が付き物であり、短く言えば『代償』だ。ルネックスが敗北するなら代償は死。

 ガレクルとフェスタが敗北するなら、彼らの代償も死。

 死すか、大量に失いその痛みを持ちながら生きるか。この戦を選んだ時点で、直感的にラグナロクを選んだ時点で、分かっていた。

 世界の巡回を知らなかった時。文献を読んで知った時。もっと強く思った世界の巡回。どれだけ失うか、ルネックスには分かっていた。


 世界を超えていく、論理を吹き飛ばしていく、既成概念に縛られずに生きていくには、仲間は事実的に不要なのだ。

 しかし仲間がいるその時点で、それは失うことの象徴。世界の巡回を成し遂げる者は、仲間が少なければ少ないほど良いのに。


「うるっさいうるさいうるさぁああいッ!」


 フェスタが大声で叫んだ。汚されてなるものか。自分たちの行動は正しいのだ。世界の巡回なんて元からある言葉なんていらない。

 新しい世界を創るんだ。新しい世界へ旅立つんだ。それの何が悪いんだ。何で、そんな風に言われなくてはならないんだ。


 自分にとってこれらは誇りだったのに。

 フェスタの手から五十を超える結界が量産される。次々に空間を支配するそれは、最も効果的にルネックスとの間合いを詰めていく。

 結界を壊されたとしても、フェスタもガレクルも傷ひとつ負うことは無いのだ。


 魔力が減ることに問題はあるが、魔力を惜しんでいる場合ではない。いざとなればロゼスのために命だって注ぎこむ事を約束している。


「世界の巡回をしたい理由を教えてあげようか。根本的な理由は君達と一緒だよ。多分、やりたいことに関しては君達が正しい。だとしても、僕は世界を全て捨てて違う世界に行きたくない。僕の仲間たちを、どうして放っていけるんだ」


「仲間をそんなに作るのが悪いんだよ! 結局はてめぇが悪いんじゃねえか!」


「……そう、なんだろうね。最後の最後まで僕は未熟だったよ。未来も見抜けず、その程度の洞察力しかなくて。結果的に君達と対峙して正しいことを主張する君達を殺すことになった。……しかし、考え方は正しくも、やっていることは愚かしい」


 ガレクルの叫びを遠回しに一蹴したルネックスは剣を振り上げて、右に左に斜めに二回振り下ろす。すると風の刃が結界を割いて行く。

 ひとつ、結界が減っていくたびにひとつ結界が増えて行く。結界の穴をくぐって全身に結界を張り巡らせたガレクルが間合いを詰めてくる。


 最初から未知だった、誰しもこんな舞台に立つはずではなかった、英雄にひとつも関係ない幼い子供たち。

 本当は世界の真理を知るはずもなかった、平凡に一生を終えるはずだった純真無垢な願いを持つ少年たち。

 ―――それでも彼らは、運命を超えて概念を壊すと誓って見せたのだ。


 その願いはきっと、英雄のように、輝いていて美しい。


「終わりにしようか。【―――静かに、優しく、それでいて、咲き乱れる、美しい華へと変われ『終焉ノ紅キ天使ハ啼哭スル』】」


 ―――ああ。いつだろう。

 ―――冒険者になろうと心に決めたときか。

 ―――どこかの文献で見たその言葉が、詠唱が、やけに心に響いたんだ。


 その一瞬の考えの後に、ルネックスの剣から真っ赤な竜が燃えた。それは、気高き火の女神に見え、たくましき紅き竜に見え、恐ろしき終焉の獣に見えた。

 世界を割く深く苦しく恐ろしい終焉の泣き声が響いた瞬間、フェスタの全ての結界が破壊され新たな結界が作られる前に竜がガレクルの心臓を貫いた。


 反応すら、できなかった。

 何も見えなかった。フェスタにとって、気が付いたら自分の前で気高き竜が信じた仲間を貫いて行き、そしてそれは自分に向かって来た。


「がっ、ガレクル―――!」


 自分の前にガレクルに手を伸ばしたことが、フェスタにとっての救いだったのか。わき腹を掠めた龍は、フェスタの伸ばした手を肩から切り取った。

 悲鳴すら上げられず死んだガレクルと、もだえ苦しみながら叫び声だけは上げずに噛み締めるフェスタを一瞥し、ルネックスはロゼス達に目を向ける。


 運良きことに、戦に熱中していた彼らはルネックスの視線に気が付かない。シェリアは気が付いたが、何もなかったかのようにふるまう。

 ルネックスがぱちんと手を鳴らすと、気高き火の女神と逞しき紅き竜が超高速で戦いの場に突っ込んでいく。

 それは、光の速度で行われていたことだった。


「ぅぁっ」


 その竜は貫けなかったもののスラインデリアの腹を叩き、大精霊特有の特別な臓器を傷つけられたスラインデリアは思い切り吐血した。

 ルネックスに気付いたロゼスは初めて瞠目し、ルネックスの後ろに目を向けて目を開けないガレクルと悶え血をちりばめるフェスタに視線が映る。


「……貴様」


「それだけの心はあったみたいだね。……その気持ちは、痛いほどわかるから」


 もしこの戦いにどちらが勝っても、心に深く傷を負うだろう。ルネックスは仲間が死んだ。ロゼスだって仲間が苦しむところを目撃した。

 助けられなかった。死なせてしまった。もしあの時自分がなりふり構わず突っ込んだら。そんな後悔は二人ともあるはずだ。


「……でも、それが代償だよ」


 そうだ。この戦いを選んだ時点でそれは確定事項なのだ。ルネックスの背後で嵐のように風を引き起こしていく火の竜が鳴き声を上げた。


「この戦いを選んだ僕らの、運命なんだよ」


 微笑んだ未来の英雄の瞳は、悲しみの色に深く染められていたのだった。

ようやく死んだ敵チーム( ˘ω˘ )


追伸

ルネックスの途中の詠唱は、プロローグに出た奴です。

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