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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第三章 伝説の最高点//in全世界
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ごじゅうにかいめ それでも突き進むかな?

『アァアアアア―――』


 鬼が、鳴いた。メルシィアの周りにいくつもの髑髏が渦巻いており、彼女自身は神々しいと言えるほどの光を放っていた。

 かつて悪の王にとどめを刺したその剣―――聖剣グエンストリーム。

 恐らく、神級鍛治師のベアトリアならば血の涙を流して欲するだろう。


 それほど、氷の刃は美しかった。慈悲の無い光。髑髏のさらに上に作り上げられていく氷。これは、儚い少女の夢を捨てた救世主の、純真とは全く言えない一撃。

 ならば―――とリンダヴァルト、ルネックスは、それを迎え撃つ魔術を練る。


 どうして、人の想いを受けとめられずにいられるのか。攻撃を避ける方がいいが、こんな状況で避けられるものか。

 メルシィアの想いが最強なのだ、と騒ぐ人間どもよ。


 ―――ここに、それ以上の者が何人もいることすら分からない愚かな人間どもよ。


 罰を、受けるがいい―――。


「はぁああああああああッ!」


「倒れは……しなァいッ!」


 リンダヴァルトの聖剣エクスカリバーが竜を纏って迎え撃つ。咆哮を上げて髑髏を跡形もなく、銀の軌道が切り裂いて行く。

 氷の刃が無数に小さく竜の体に傷を刻み込んでいく。

 リンダヴァルトの強さが一番だとは言わない。メルシィアの思いがリンダヴァルトの下だとは言わない。何故なら人の実力は、覆るからだ。


 ―――だが、それでもリンダヴァルトの目には絶対的な信頼があった。


 ベアトリアが心を込めて作った『ソレ』を構えるルネックス。弓だ。禍々しく漆黒の闇を纏う刃に、邪竜が描かれたその本体。

 魔弓グリモワールの闇を貪るように広がる光は、未だ止まりはしない。


「絶対必撃」


 小さくつぶやき、それを放つ。竜の体に吸い込まれるように吸収されたそれは、しばらくした後にひときわ強い光を灯した。

 竜の再度の咆哮に、想いの弱さと言う名の隙はもうない。二つの最強の想いを融合したそれは、今度こそメルシィアの『ソレ』を打ち破っていく。


 だが、メルシィアは少しも怯みはしなかった。後ろから放たれる魔術を十一人の女神が受けとめ、舞台を彼女一人に捧げているのだ。

 彼女だって、信頼がないわけではなかった。むしろ、リンダヴァルトほどに信頼が宿っていた。だからこそ、彼女は詠唱する。


 ―――だが、天才メルシィアはやはり『弱さ』『己の器』を忘れたのだろう。


 ―――はたまた、進んでいく人生のどこかに置いてきたのだろうか。


「終焉の闇―――! 我が手に、収まれぇっ!」


「援護するわ! グレード・アップ!」


「「我らが十女神の唱える星の輝き・スターフレア!」」


 ―――どちらでもいい。メルシィアにとって負ける理由にはならないのだから。


 確かにルネックスの実力と、リンダヴァルトや魔王の出現には危惧した。だが、世界の巡回のスイッチを押せなかったメルシィアとして。


 リンダヴァルトに勝つことは救世主としての誇りを守るためにも必要なのだ。信じてくれる、後ろの仲間の女神たちのために。


「倒れはしない、と言って来たな。……わたしだって倒れたいわけがないだろう?」


 初めて見えた瞳の色は、ばちりと雷がほとばしりそうなほど強い思いを持った、深い紫の、それでいて透明な瞳だった。

 その色に押し負けたのか、霧を纏った黄金の竜が錆びたように力尽きて消える。


 グエンストリームは、伝説だと言われるエクスカリバーよりも強かった。そうだ、リンダヴァルトよりも前にメルシィアは存在した伝説。

 

 メルシィアは、忘れられてしまったのだ。

 彼女の名前は覚えられているのに、仲間の名も、その武器の名さえ。強力な武器という書き方しかされていなかったのだ。


 忘れられる恐ろしさと言うのは、リンダヴァルトだって知っている。そのために幾度狂ったのか分からないのだから。

 だが、目の前の少女は安定、発狂、どちらだって選びはしなかった。


「わが想いよ―――弾けろ」


 全てを乗せた、今度こそ渾身の一撃。魔王が発動準備をしていた技を発動する。ヴァルテリアが無駄にデカい刀身を構えて待つ。

 だが、それでも闇を乗せた紫電には勝てなかったのだろうか。


 グレードアップで力を増した一撃に。流れる星のように闇を照らす女神の全力の攻撃に。その思いだけの攻撃に足りなかったのだろうか。


「ふぅぐっ―――……」


 ベアトリアの盾。彼女の自信作にひびが入る。ルネックスの顔が苦痛に歪み、ヴァルテリアの神剣が危機を察知し警鐘を鳴らすが意味はない。

 魔王の無限の闇は、光を含んだ闇の電撃に飲み込まれていく。

 リンダヴァルトの無限の英雄の光は、悲しき悲劇の英雄に吸い込まれていく。


『―――エラー処理完了。

   進化系の呼び出しを確認。個体名:アルフィナ・クラウンの覚醒。

   代償の魂の用意OK。発動を開始いたしますか?』


 ルネックスを現実に呼び戻した、懐かしき相棒の声だった。


「アー……ナー……? アーナー、だよね?」


『―――否。私は個体名アルフィナ・クラウン。自意識体002番。

   アーナー・クラウンの魂を糧にした代償を確認。私の呼び出しの確認。

   ただいまより、全てを代償にした自爆を開始します』


「アルフィナ、消えてしまうの? い、今までどこで、何をしてたの?」


『―――エラーの復旧。アーナー・クラウンの全能力の謎の消去エラー。

  ただいまより、アルフィナが御主人様とアーナーの呼び出しに対応しました』


 それではまるで―――答えになっていないじゃないか。

 この場でルネックスが押し負けてしまったから、アーナーが命を賭ける結果になってしまったのではないか。

 そもそも、彼女はなぜエラーになってしまったのか。


「僕のせいなの?」


『―――模範的な回答ではございません。

   自意識体003番アーナーの破損の理由は、聖神の後ろからの手回しです。

   ただいまより、全てを代償とした自爆を行います』


 あのダンジョンで出会った、アーナーもといアルフィナ・クラウン。初めから生きる理由を決められた、もうひとつの悲劇のヒロイン。

 彼女には自由がない。彼女には感情がない。彼女には、個体としての進化しか残されていない。


『―――アーナーの残された意識から、御主人様に突き進めと言っていることを確認。

  アルフィナやアーナーのことをお忘れになった方がよろしいでしょう』


 いきなり進んだ場面。それでも、無理だ、とルネックスは叫びたかった。だが、その前に―――全てが爆発した。

 目を見開いても、真っ赤な輝きしか、見えなかった。


 ―――また、聖神なのか。


 どうしてここまで、邪魔されるのか。傷だらけな体でそう考えてしまう。

 アーナーに何度呼びかけても、もう答えなど返ってこない。消えてしまったのだ。小さな残骸をルネックスのために使ったのは、彼女の意識。


 感情が生まれたことに喜ぶべきか。消えてしまったことに嘆くべきか。


 ―――ルネックスが今すべきことは、そのどちらでもないことは確かだった。


「リンダヴァルトさん! ヴァルテリアさん! 魔王さん!」


「う、うぉお……今の凄かったな、お前がやったのか? すげぇな……って、なんでそんな悲しい顔をしてるんだよ?」


「……僕の、仲間が、自滅をしてまで僕らを助けてくれたんです。もう、彼女はいないんです……聖神が裏から手を回していたんだそうです、僕が、僕が弱かったからですか……?」


 強くなった。でも、心は幼い少年のままだった。ひょい、と弱い自分が顔を出したのは、ルネックスも気付いていた。


 だが、大英雄ヴァルテリアはそれを許すほど甘くは無かった。


「お前は弱くないだろ。言っとくけど俺何回も経験したぞ。世界の巡回ができなかった俺に負けんなよ、少年。気の毒に思うなら突き進め。弱く縮まるならやめちまえ。今のお前に残された選択がそれだけってことは覚えろ。……笑えよ、未来の英雄」


「師匠の言う通りだぜ。俺みたいになるなよ~くっくっく。自虐もやってみて楽しかねぇな。その仲間の思い背負ってけよ。お前の仲間はそろって尽くしてくれるんだから、くれぐれも負けんじゃねぇぞ。冥府で対面する顔がねえっての」


 二人の大英雄に論される未来の英雄。魔王アステリアは、そのほのぼのした情景を目を細めながら見ていた。

 突き進まなくてはならない。残された選択はそれしかない。

 何より、全てを巻き込んだのは、それを選んだのは、ルネックス自身なのだから。


 のしかかる信頼と期待、それを無視するわけにはいかない。少なくとも、ルネックスは。彼は純粋な英雄なのだから。


 遠回しに褒められたルネックスは、えへへ、とポリポリと頬をかいた。


「ぅ……っく……いき、なり……何だというのかぁっ……」


 天使たちはすべて消滅した。ただ、瀕死のメルシィアの体だけがそこに残っていた。もう、彼女は戦えはしない。

 彼女は後悔の色などない。英雄として、想いで押し負けてしまったのだから。


 後悔よりも、恥ずかしさが上回る。

 中衛や後衛に比べて戦う量が少なくなってしまった周りを見て、メルシィアは状況を理解し「そうか」とぽつりとつぶやく。


「負けてしまったか…………認めよう。破壊の王よ、貴様の、否、貴殿の器は確かなものだった。貴殿を……信じよう……」


 メルシィアは、そう言い残して目を閉じた。体は塵となり、消えていった。だが、地鳴は終わりはしなかった。

 次の戦いが始まることを、予言していたのだ。


 ルネックス達は構える。自分の弱さを見せてくれた英雄メルシィアの言葉と、消えたアーナーとアルフィナの思いをかみしめる。


 負けるものか。負けるわけにはいかない。

 ―――たとえ瀕死になっても、それ以上へ突き進まなくてはならないのだから。


「ありがとうメルシィア。君は良い敵だったよ。永遠にキミを忘れない。―――だから、冥府で一緒に成功を祝おうよ」


 ルネックスは人間。世界の巡回をしたら永遠の寿命を得るが、いつかそれを手放してしまうかもしれない。

 かつてメルシィアがいた「そこ」へちらりと目を向けて、目をそらす。


 メルシィアのこともアーナーのことも、今引きずるつもりはない。だが、ルネックス達を上回る勢いの想いたちを、覚えておきたかった。


 自分そのもの以外覚えてもらえず、世界の巡回を迎えられず、幾度も自分の存在意義を疑った少女の想いを。

 ルネックスだけに尽くし、ルネックスのために消えた、儚い悲劇のヒロインを。


 ―――自分たちは、彼らの全てを覚えておきたかったのだ。


「よくもやってくれたわね。私はルシファー。天使よ。最上級の、ね……今まで通り簡単にはいかないわよ」


 人間というものをとびぬけ、神へ至る天使全てを統べる神ルシファー。燃え上がる髪をかき上げ、彼女はルネックスを見据えた。


 次はどれほどの想いを教えてくれるのか―――。


 リンダヴァルトとヴァルテリアの間では、そんな考えが見え隠れしていた。

 そして、戦闘の第二幕が幕を開けたのだった。

早くも犠牲者その一です。

最終的に残るヒロインは三人四人ほどにするつもりですので。

最初からハーレムだらけの物語にするつもりはないので、ある程度要らない人物は消します。


消えちまったメルシィアですが、内心では主人公にしていいほど気に入っていたり。

アーナーとアルフィナが一番悲劇のヒロインだったり。

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