さんじゅうごかいめ 奴隷育成計画かな?①
綺麗に何列かに並んで最初は素振りをさせる。武器についてはルネックスを気に入った例の貴族―――ハンス・ミレドゥイから支給してもらった。
勿論そのお返しとしてミレドゥイ家に無条件で協力することを命じられたが。
奴隷たちの余りの天才的な出来にルネックスも最初は驚いた。
鑑定していくとそれなりのスキルを持っていたり才能が偏っているが平均よりは上のステータスを持っている者が多かった。
やはり奴隷になっているとある才能もないもの扱いになってしまう。
「……よし。これからスキルを持っている人と持っていない人、と二つに分けるよ。君はこっち、君は向こうだね」
ルネックスは両方を同時に教える術は持っていないが、頭を頼りにする。
スキルを持っていない者でも特に呪いでもかかっていない限り属性というものがある。そして武器への適正がルネックスには見えるようになっている。
鑑定のレベルが上がったからか、Sが一番高くFが一番低いランクでその者の魔術や武器への適正が分かるようになっていたのだ。
鑑定で正確に分けていくと、ルネックスは満足そうに頷いた。
「【ハイグラビティ】!!」
「【ファイア……って、うおっ!?」
スキルは持っていないが魔術の適性が高いリファリス。彼女の属性は割と珍しい「重力」だ。ルネックスも見たときには感嘆の声を漏らしていた。
こんな才能をつぶしてしまうとは奴隷制度はやはりだめなものだ。
魔術の適性が高い者でもう一度グループを分けてチームを組んで模擬戦闘をする。
中でも重力を操るリファリスが一番強かった。
火を操るガレドを圧倒させ地に伏せさせたのだ。
「我の願いを聞き届けよ……【バースト・エプリズン】」
「ぎゃぁあ!!」
「次元も常識もねじ伏せよ【次元雷剣槌】」
スキルを操る者達の中で一番なのはやはりこの二人だ。アリアの「バースト・エプリズン」はユニークスキルで光を纏う弓を放つ能力。
マリアのユニークスキル【次元雷剣槌】は次元を超える威力を持つ雷で作られた剣を頭上から落とすという素人が見たら不可思議に思えるもの。
いくらここが魔術を扱うのが基本な世界でも、だ。
すると後ろで爆発が起き、ルネックスは急いで振り返る。
「無限の成長……限りない魔力……我が願いを聞き届け、我が魔力を吸いつくし全てを蹂躙せよ【エクスプロージョン】」
火属性神上級魔術のはずなのだ。しかし、何かが違う。
彼女―――リスマイヤが放ったのは爆発系魔術で使いようによっては何百体の魔物を全滅させられる神魔術だがこれはその次元を超えている。
ルネックスが水の結界を展開しなければ全員死んでいたかもしれない。
「すみません、マイマスター……でも私これもう一発できますよ!」
「え、いや、その、その属性は訓練する必要があるね。これから何人か僕がこの手で訓練させる必要のある者を選ぶ」
「条件はありますかー?」
「強ければいいんだよ。つまり僕の目に留まるくらい活躍すれば条件を満たせる」
【スキル「限界突破」を入手しました。また、このスキルは他の人に使うこともできます。自分に使うことももちろんできます】
ルネックスの言葉が響きあちこちで話し声が聞こえると同時に声に負けないように機械合成された音と言える声がルネックスの脳内のみに響いた。
『スキル程度の役割、アーナーがやってしまいますのに』
「はは」
同じ脳内では専属がすねているがルネックスは苦笑いでその場をしのぐ。この声は神が作り出した存在で、ルネックスに破壊はできるが難しい。
すべての魔力を消費して出来るかどうかと行った所だ。
何故ならこれは唯一神、全知全能神――ゼウスが作り出したものなのだから。
「【限界突破!】」
『限界突破!』
アーナーを装備すると装備した者のスキルが自動的にアーナーにも共有される。つまりルネックスとアーナーの二人でスキルを使うことができるのだ。
『限界突破の度合いを選ぶことができます。小・中・大・神』
「神で」
『神で』
迷わず今突破することができる最高ランクを選んで奴隷たち全員にかける。魔力消費が激しく、半分以上ごっそりと取られてしまった。
いくら神の領域を超えたルネックスでも百を超える人数に神ランクの魔力を流し込んだらそれほどの代償はあるだろう。
そして奴隷たちは神の領域をまた超えてしまうのだった。
「こんな簡単に、超えてしまうなんてね」
「どうしましたか?」
「ううん、何でもない。ただ成長度に……感心してただけだよ」
「何か力が漲ってきます! 御主人様のおかげだと思っています。それで聞かされたんですけど、計画って何ですか?」
「もう知っていたんだね」
活発な性格であるミレイユ・レーゼルが皆怖くて言い出せなかった「計画」について手を上げて聞いた。すでに緊張は解かれているだろう。
しかし一部の怖いもの知らずを抜けばほとんどが暴力を受けていたりする。
そんな過去は彼ら、彼女らに確実に恐怖を植え付けている。
いきなり従えとは言わないし、無理に従えるように言ったら信頼度が一気に下がる。
「実は――――――」
包み隠さずまんべんなく、ルネックスは自信の計画を伝える。
「みんなを巻き込んでしまったことは謝りたい。でも僕の計画を進めるために本当に必要なんだ、僕に協力、してくれる?」
「―――勿論です! それが私達に出来る精一杯の恩返しですから!」
そうにこやかに応じたミレイユと迷いのかけらもなくうなずいた皆の顔を見て、ルネックスは直感的にそれが心からのものだと分かった。
ふ、と笑ってルネックスはミレイユの頭をそっと撫でた。
「ぁ」
「あ、ごめんね。それじゃあ次は相性の悪い属性のグループを作ろう。火と水はこっちで魔術耐性と魔術師はこっちで―――」
顔が真っ赤に紅潮したミレイユの事に気付かずルネックスは次のことを進めていく。相性の悪いものを得意に操る者と対戦する練習だ。
得意なことばかりをやっていても何も成長しないのは彼自身が最も知っている。
剣タイプと魔術タイプや時間停止魔術に長けた者と重力を操る者。
最初の内は相性が悪いのが響いたようで思ったように術が発動しないなどの事が遠巻きに見てもはっきりとわかるくらいに多発していた。
しかし徐々に相手の弱点を発見していき正確に突くことができるまでに至った。
―――そろそろかな。
言えば何でもできてしまう物わかりのいい彼らを愛おし気に見つめ、ルネックスは試合を止めて皆を整列させた。
「次は―――僕の放った一撃をみんなで止めて見せて」
「!?」
神の領域を超えてその上の領域も突き抜けようとしているルネックスの一撃は重い。たとえどんな低級魔術だったとしても、だ。
ルネックスが放とうとしているのは神上級火属性魔術「エクスプロージョン」。
そしてエクスプロージョンと合体して放つのは上級水魔術「アクアブレッド」。
水の柱を火を纏わせることで攻撃により威力が弱まるのを止め、エクスプロージョン自体の攻撃力をアクアブレッドに染み渡らせる。
ルネックスの持つ魔術の中でも中級くらいに至る魔法だ。
勿論これはルネックス基準で。
神を超えただけの、しかも超えたばかりの者にとっては神上級すらも超えている。
「【エクスプロージョン・アクアブレッド】さあ止めて見せろ! 僕に従うと決めたのならその意地を見せる時だよ、遠慮なく自分の今できる最上級をぶっ放して!」
「はぁああああ!!」
「ああああああ!!」
「せいやぁあああ!!」
多々ある色鮮やかな属性が集まって虹色となりオレンジと水色の高熱のまとう氷に遠慮なくぶつかっていく。
どちらが押されているのかと言えば奴隷たちの方だった。
一人で何百人に抗うその力はさすがに皆驚いた。しかしその手を緩めることは無い。
「勝たなきゃ、だめ!!」
重力で叩き落そうとするが、火に叩き返され無理矢理重力を違反される。即死魔法で効力をなくそうとするものの火が氷に染み渡って復活した。
なお、火の強さと威力は変わらない。
「私達は、期待に、応える、絶対、そうしな、きゃ!!」
火と水と完全複製の属性を持つ三人が前に出てくる。その後ろでは同じ火と水を持つ属性たちが控えている。
一斉に水が凍って火が纏っていく、何百個もの火の塊が集まり、やがて威力はエクスプロージョンを超える寸前まで昇っていく。
氷に染み渡る炎を重力魔術で自由自在にあやつる。
火と炎が使えない者達も魔力だけを流して補助に回る。
「マイマスター。完全コピーというのは、こんな使い方もあるんですよ」
そう言って完全コピーの使い手―――アリシアは手を空に向けて掲げた。とたん同じ威力を持った氷に火を纏ったものがいくつも出現する。
しかし消費魔力が半端なく、アリシアはそれっきり動くことができなくなった。
威力でルネックスに追いつくのはこれで十分、後は意地と魔力の尽きる速さだ。
ルネックスの魔力が先に尽きるのか、奴隷たちの精神と魔力が先に尽きるのか。
「よくやるね。でも―――終わりだよ!」
まだまだ底を見せていなかったのか―――。
ルネックスがさらに魔力を込めて奴隷達の攻撃をズズ、と押していく。奴隷たちは顔を歪ませながらも何とかその重圧に耐えた。
―――そこで、奥からとある少女が出てくる。
「【魔力流回路崩壊】」
「っ!?」
少女はまとまって行動するのが苦手で、その分能力が高く計算力も高かった。彼女―――リカにとってルネックスが本気を出そうとする瞬間がチャンスだったのだ。
膨大な魔力を流すには集中が必要で、回路に規則良く流す必要がある。
少しでも出す量が違ったり集中が欠けると魔力が崩壊して死に至る場合もある。
リカはルネックスが生きることを信じていたのだ。
ルネックスの魔力回路は歪み、行き所を失った膨大な魔力は一度集中を失ったがすぐにとりもどしたルネックスの手によってまた彼の身体の中へと帰っていった。
ルネックスの放った氷の塊も奴隷たちの放った氷の塊も魔力回路崩壊の余波によって消し去られていたのだ。
元は禁忌とされた神も恐れたスキル。
そのスキルを持っていたからこそリカは奴隷に落とされたのだ。
「驚いたよ、まさか本当に殺す気で来るとはね」
「そうしないと負ける。私は勝つ。勝たなきゃだめなの」
そう言ってリカは拳を握った。
ここまで能力を使いこなせるなら十分だろう。魔力だけを流して対象の魔力回路に傷ひとつ付けないという技術を持った時点ですでに評価は満点だ。
ルネックスは満足そうに笑って、訓練終了の号令をかけた。
奴隷育成って言うとなんかゲームみたいですけどルネックスは至って真剣です。
ふざけているのは作者だけです。
「作者のことは嫌いでも、ルネックスの事だけは嫌いにならないでください(´;ω;`)」




