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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第六章 伝説の終結点//in人間界
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ひゃくじゅうろっかいめ エピローグ⑥だね?

「あたしのこと覚えてる? あーでも覚えてなかったらおこるよあたし……でもさすがに印象深いとおもうんだけど、その……わすれて、ないよね?」


 思い切りルネックスに抱き着いたフェンラリアは上目遣いで彼の瞳を直視して、それから自信なさげに俯いて、そして涙目になってぎゅ、と服の裾を握る。

 これは危ないと思い体をこわばらせたシェリアだが、ルネックスがフェンラリアに対する目は、仲間への慈しみの表情、ただそれだけだった。

 そこには恋愛感情など皆無だし、きっと彼にそんな気などないだろう。


 ただ、ルネックスは今までの仲間から好かれ過ぎていたのだ。いつ彼を奪われたって不思議じゃない___たまにシェリアはそう思えて来るから。

 ルネックスは鈍感だし、好かれてる自覚がないし、僕なんて好かれないよとか言ってはぐらかすし、あぁでもそんなところがどうしようもなく___


 ___好きになっちゃってさ。


「忘れたりなんかしないよ、フェンラリア。忘れてないから、しっかりと君に会いに来たんだ。僕がやるべきことをしっかりと終えたから。でもやっぱり見せたかったなあ、僕が成功したあの瞬間をさ……だってフェンラリアがいなかったら僕はここまで辿り着けなかったから」


「そんなことない……あたしるねっくす信じてた。あたし不安だったの、ながーい、ほんとに長い時間あたし此処にいたから、るねっくすもしぇりあもみんなもあたしを忘れてるんじゃないかなって。でも忘れられなかった……っ! あたしを、覚えててくれた……!」


 ボロボロと涙を流すフェンラリアの髪を、ルネックスはただ黙って撫でていた。寂しかったのだろう、苦しかったのだろう、見渡しても見渡しても生きる者がいない空間で、一人耐えてきたのだから。

 最も愛しいと思っていた仲間ルネックスがいなくて、最も頼もしい親友シェリアがいなくて、それでも大精霊フェンラリアは一人で成長しようと踏ん張り続けたのだ。

 覚えてる、覚えてるよ。ルネックスは優しい微笑みでそう繰り返し続けた。


 あぁ、どうしてだろう。

 シェリアは心の底からそう思っていた。自分は確かにルネックスの一番近くにいるんだ、それでいて、一番関係が深くて、一番愛し合ってて。

 告白もあっちからで。その時は凄く嬉しくて___。

 でも、ルネックスは他の人に対する態度とシェリアに対する態度が、あまり変わらない気がした。それどころかフェンラリアなどと一緒にいるとき、シェリアと一緒にいるときよりも気分が高い気がした。

 

 何と言う嫉妬なのだろうか。こんな感動な場面で、自分は何をしているのだろうか。そうは思っても、想いは溢れて止まらなくて____、


「シェリアお姉さんお久しぶりです―――です!」


「あらぁ、見ないうちに随分綺麗になってるわぁ! 色々あったのねぇ」


 そんなシェリアの心の嫉妬を吹き飛ばしたのは、かつてチームの癒しの存在であった幼女リーシャ、そして魔女リンネである。

 抱き着いてきたリーシャと、くすくす笑うリンネ。どちらも大人っぽくなっていて、特にリンネは大きく成長したような気がする。

 立ち止まってばかりいられないのだ。

 嫉妬してばかりいられないのだ。

 そうだな、勇者ともあろう者のパートナーが、うじうじ悩んでるわけにはいかない。


「……そうですね」


「何か言いましたか? ―――ましたか?」


「いいえ、何も言っていませんよ。お久しぶりです、リンネさん、リーシャさん。貴女達に会えるのを心待ちにしておりましたよ。テンプレートな台詞ではなく、本心から」


 これは一度別れた者達との再会ではない。地上ではもう二度と会えない者達の、きっとこれからも会えなくなる者達との再会なのだ。

 そこにテンプレートな、心のこもらないセリフなど入ろうものなら、世界から批判を浴びること間違いなしであった。

 特に、アルティディア全世界と繋がりを持てる冥界なら、もっとである。


「……ディステシアさんは、いないんだ……?」


「るねっくす、違うの。でぃすてしあさまはね……ずーっとまえ、あたしがここにくるずーっとまえから、魂ごときえたってきいたよ。たぶん、色々やってたんだと思うよ、でぃすてしあさまの事だから、きっと誰にも言わないで一人でかってに」


 フェンラリアはまたしゅん、として顔を伏せてしまった。フェンラリアは大精霊になったばかりのころ、若かったために妬まれもした。その妬みの視線から毎度彼女を守ったのは、精霊管理神であったディステシアその人だった。

 それに、ルネックスも幾度も助けられた。そもそも神界を知ったのは彼女がきっかけだし、彼女の修行のおかげで一歩目の覚醒を手にいれられたのだ。


 知らぬうちに、様々な人が消えていく。巡回とはそこまで残酷で、そこまで無感情に、機械のように淡々と仲間を消し去っていく。

 仲間たちの命がやがて成功につながる。成功を、命で買っているようなものか。

 ルネックスはそっと目を閉じた。ディステシアはフェンラリアがここにくるずっと前に魂ごと消えていた。なのに、今ごろ彼女の死に気付いた。

 あまりにも、ディステシアが不憫すぎて、あまりにも、彼女の人生が悲劇で。


 悲劇を言い訳にするなよとテーラに一喝されていた聖神なんかよりも、ずっと、ずっと悲劇の一生を送り続けていて、一言も弱音など吐かなくて。


 と、ここでフェンラリアが思い出したように懐を探りだした。


「これ」


 そう言って彼女が差し出したのは、一通の手紙だった。ルネックスはそれを受け取ると、フェンラリアはまた口を開いた。


「これは、でぃすてしあさまが消える前に辛うじてかけた手紙なんだって、だからるねっくすに渡してやってって、ふらんびぃーれが泣きながら言ってたんだ。ほんの少しだけしかないし、途中で切れてるみたいだけど、よろしく、だって。でぃすてしあさまの書置きが事務室にあってね。ろくな封筒も用意できないでごめんな、って……っ!」


 長い間世話になっていただけに、フェンラリアの瞳にはまた涙が滲みそうになる。長い間こうして話のできる相手がいなくて、自分の感情を抑え続けて、今やっと誰かに語る事が出来たのだからさもありなん。

 例え冥界でもさらなる成長を求める、パーティの中でも比較的強いとは言えなかったリンネとリーシャには話しかける暇がなかった。

 なにより、例え暇があったとしても彼女達にディステシアのことはわからない。


 なので、フェンラリア自身もさらなる成長を求めて、感情を振り払うかのように一心不乱に修行をするしかなかったのだ。

 いつもの彼女なら決してこんなことではめそめそ泣くことは無い。それはシェリアもルネックスも分かっていて、分かっていたからこそ、今この瞬間存分に泣かせたのだ。しばらくして、彼女は自ら涙を拭って前を見た。


「あのね、ろぜす達も来てる。謝りたいことがある、って。たぶんきっとあの戦いのことじゃない。この世界では、戦闘は許されてない。仲間を物理的に傷つけられることはないけど……来させても、いい?」


「僕は構わないけど、シェリア、君はどうする?」


「私も構いません。ルネックスさんが傷つけなければそれでいいので」


「やーだー、ラブラブじゃないのぉ、結婚してるだけあるわぁ」


「あ、でも正式な結婚式はまだみたいですね―――ですね。いつ行われるか楽しみです、あー、見に行けないのがすごく残念ですね―――ですね!」


 フェンラリアが不安そうに二人を見上げ、ルネックスは大丈夫だと頷き、シェリアもまた同じく。ただ、リンネとリーシャは別の方向で騒いでいた。

 ルネックスもシェリアも、物理は勿論精神的にも言葉などに簡単に屈するほど、そんな甘い世界を生きているつもりはなかった。

 どんな言葉で揺るがそうとしてきても、二人には決して離れない信頼の糸があった。


 二人で固く絆を結び合っていることを確認した時、後ろから声がかかった。


「随分、幸せな顔をしているんだね。僕たちをサラッと簡単にぶっ殺してくれたくせに、おひとり様エンジョイかな?」


「そんなつもりはないよ、ロゼス。見たところ君も幸せそうじゃないか、良かったよ。かつて対等にやりあった者として素直に祝福する」


「ふん、命がけのライバルなんて称号貰っても嬉しくなんかないよ。どうせ死んでるんだから変わんないと思うし」


「でも、お前のおかげで幸せになったのは確かだよー。今、段々と見つけつつあるんだー、ボクらが今魂だけでも生かされてる理由と、だからこその目標」


「殺されたときはマジでムカついたし、ぜってぇに殺してやるって思ったけどよ……なんだ、過程より結果重視にすると、感謝したくなっちまうくらいでよ……」


 相変わらずの上から目線。相変わらずの感謝と言いながらそれが微塵も感じられない高圧な態度。そして、彼らがいなければ起こらなかった様々な出来事を棚に上げての言葉選び。あんまりだ、と普通の人々ならばそう声を上げるだろう。

 ルネックスは普通の人間のまま暮らしたし、ディステシアは死ななかったし、聖神は彼を見つけなかったし、世界のシステムも動かなかった。

 どれもこれも、ロゼスら三人がいなければ起こらなかった出来事である。


 彼らが暴走を起こしたから、行動をとったから。だから起こった数々の出来事。だが、今更それを後悔したり、お前らのせいでこんなことが起きたのに、何故そんなことを言えるんだ、とつかみかかる気はルネックスとシェリアにはなかった。

 起きた出来事を変えることなんて、それこそ伝説を超えるナニカにしか出来ないことだろう。だから後悔したって、仕方がないのだ。


 彼らもそれが分かっていて、謝ったって何も意味がない事、逆にみじめなことが分かっていたからこそ、あえてこんな態度をとっているのだろう。

 だから、ルネックスやシェリアもそこをわざわざ気にはしなかった。


「……さて。そろそろ終わりの時間です―――です。寂しい気持ちはありますが、いつまでもここに生きる者がいれば身体に有害。パパ改めルネックスさんにそのような事になって欲しくはありません――ありません。ですので、see you!」


「そのエイゴどこで覚えたんだい?」


「この間テーラさんが訪ねてきたのよぉ。貴方達と同じ理由よぉ? 歴史改革を達成したから、ここにくる資格ができた、ってぇー」


「僕らももちろん彼女と会話をしたさ。同じように、喧嘩はしなかった。半殺しにはされるんじゃないかと予想してたから、君達は凄いと思うよ。僕ならそんなことはできない、あらためて凄さを感じるよ。君達に喧嘩を売っていたなんて、あのころの僕が信じられない」


 此処でようやく、ルネックスはテーラの歴史改革が成功したことを知るのだった。しかしそのことを問う前に、足元に転送の魔法陣が光ってしまった。

 時間切れは仕方ない。気になるならば、歴史書くらい取り寄せればいいだけの話だ。ルネックスとシェリアは微笑んで、全員に手を振った。

 キラキラしている笑顔も、明らかに強者になったのだろうオーラも全部、彼らの努力の証。そこに、敵も味方も、関係はない。


 ___人は一律して、努力をしている。


 努力をしているからこその結果。

 努力しなくては得られない結果。


 それが目の前にあるからこそ、人々は努力を信じて歩むことができる。


 たとえ一時は報われなくても、きっといつか役に立つ。

 さあ。

 そうして努力と失敗を味わって来た英雄や勇者が、敵味方関係なく過ごす最後のひと時が、今最後の終幕として始まる。

ひえぇ……あっという間にあと二話……!

一年以上も続いたんですね、この小説。いやでも、途中の長々しいスランプ期間も入れれば、一年も続いていないのかもしれません。

この前更新した日記帳のようなやつのように、私も記録しておけばよかったかもしれません。

ポエムみたいなことを言いますが、小説っていわば日記だと私は思うんです。その時の感情、気分によって書く内容や雰囲気が変わりますから。

あと、自分の今日送った人生を小説に組み込んだりも、たまにします。これを読み返すと、こんな気分だったんだなあ、こんなことしたんだなあ、こんな出来事あったんだなあ、って思えるんですよ。

だから今この回を書きながら思うんです。今、たとえ周りに敵がいたとしても、ずーっと、何年も後になって、その人にまだ恨みが残っているのかな、と。

残っていない、とは言い切れない。でももし友好的に接せるなら、進化したと思っていい。

つまり今日私が書いたこの回は、私が望む『私』の人生論という事です。

はい。久しぶりにあとがきでポエムを書きましたが、今回の話楽しんで頂けましたか? いやぁ、〆としては不十分だったので、あと二話伸ばすことになってるんですよね。

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