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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第六章 伝説の終結点//in人間界
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ひゃくきゅうかいめ 伝説到達だね?

「っという事でっ!」


 ぱん、と手を叩く音。それだけで全ての思考が中断しなくてはならなくなる。彼女の掛け声を無視すれば、どんな結末が迎えるかは分かったものではない。

 ルネックスにとっては、エリスの口にする情報は全て次代勇者に提供することができる。だから他の考えをして彼女の言葉を聞き逃すわけにはいかない。

 そのため、この場にいる全員がエリスの方に視線を向けることとなった。


「ほんとはルネックスくんが四天世界の王様になるって設定なんだっけど~、実は今システムから新たな命令がっ降りてきたみたいで~!」


「ほお、僕に関係ある事、みたいだね」


「もっちろーん。実は、この四人全員でバトルして、勝ちあがった人が王になれるって設定みたいなんっだ~!」


「……設定、か……うん。分かった」


 王になれるという設定。あくまでも、設定か。世界のシステムにとって、三千世界を管理することはおままごとでしかないというのか。

 彼らにとって全てはゲームなのか。彼らは何のつもりなのか。少なくとも今のルネックスにはそれが分からない。

 少なくとも今のルネックスは、エリスの言葉に従う以外の術はない。


 バトル、か。とルネックスは全体を見渡す。すでに机はなくなっていて、ルネックスらが立ち上がると椅子もなくなっていた。

 マリアンヌとケティスが強敵になりそうか。ライムも削ってきそうだ。そもそも彼らは王になるために統治王を目指している。

 ならば四天王の中の王を目指すことは当然。ルネックスを削りにかかるのも目に見えている。エリスは勿論高みの見物をしているが……。


 ベアトリアの剣を抜く。神々しい程の光が、歯車で満たされた空間を照らし上げる。


「ほう……上等な剣じゃな」


「……友人が、魂をつぎ込んで作った剣ですからね」


 へえ、とマリアンヌが声を上げる。どうやらロマンを好むらしい彼女は、少し興奮しているらしい。死んだ友人の話で興奮するとは、彼女の性癖も中々のものなのだろう。

 統治王はみんなして変人だという事は、ルネックスも良く知っている。そもそも英雄が変人だらけなのだから、なおさらだ。

 全員が構えをとる。真剣みを帯びた瞳に、恐ろしい程洗練された魔力の奔流。武器を構えているだけなのに、全てを壊しつくさんばかりの威圧感。


 最初に剣を振り上げたのは、ライムだった。そんなライムの後ろで、マリアンヌが杖を振るう。ケティスが科学と魔法の結晶を組み合わせた詠唱をする。

 やはりルネックスの思惑通り、三人は彼を狙って来た。恐らくほとんどがルネックスの実力を知りたいだけだろうが、戦略的な意味もある。

 三人で猛攻撃してルネックスが倒れそうになれば、四人で互角に戦うことができる。疲れた度合いも残る魔力も一緒なのだから。


 つまり彼らは互角な戦いを望んでいるという事。そして、八割がバトルジャンキーによる産物であることが分析出来る。

 自称バトルジャンキーではない者達ではあるが、それはあくまで自称。戦うことを好まないのならば、統治王などにはなれないのだから。


「剣技・剣王迫流閃ッ!」


「……シールドっ」


 剣独自の迫力という名の魔術をまとった剣を振り下ろしたライムに対抗するため、ルネックスは盾を展開した。

 その盾の後ろに素早く回り込み、剣と剣で相対する。剣士同士の戦いでは、両者が接近距離の間合いで戦うことを覚悟しなくてはならない。

 しばらく剣同士がぶつかり合う音が響く。このままでは終わらないことを悟った二人は、それぞれ魔術を剣に纏わせた。


 ライムは灼熱。ルネックスは――何処までも暖かい、風を纏う。最初に大精霊が見せてくれた風を、再現して。彼女が語った思い出を、思い出して。

 これは決して人を傷つけない心の魔術。これは決して人を苦しめない光の魔術。それは大精霊と出会って初めて心が成長した少年の、精一杯の恩返し。

 暖かい風を受けて、ライムは足がふわりと柔らかくなった気がした。体全体の力が抜かれていくような気がした。

 剣を握っても居られない。ルネックスの剣に対抗することなど勿論できない。


 ライムが地面に膝をつく寸前、マリアンヌの魔術が完成した。髑髏が取り巻く杖を振るう。見れば、彼女は体の装飾品から、その体本体までもが髑髏で取り巻かれている。アルティニという世界は、誰もが腐食の魔術を持っている。

 曰く、触れれば瞬く間に腐食が広がりその者は死ぬ。マリアンヌの最初の柔らかな笑みは何処にもない。あるのは、無限の破壊を試みる狂気の笑顔を浮かべる女だけ。


 ―――そしてそれは、マリアンヌの魔術が発動する寸前でもあった。


「っ……!」


 大量生産された髑髏が少しの隙間も見過ごすことなくルネックスを囲む。しかしルネックスは素早いステップですれすれながらも回避し続ける。

 その中で彼はひとつ気付いたことがある。ベアトリアの剣を、髑髏が嫌っている事。そして、ベアトリアの剣を彼らが腐食することができないこと。

 一度ベアトリアの剣で髑髏を切り裂いてみる。驚くことに、簡単に切り裂けた。


 しかし警戒すべきはその数。ベアトリアの剣の性質は光。腐食属性は光を嫌うという事か。本質は闇属性と同じ、違うのは腐食性能。

 ならば―――、


「灼熱奔流閃ッ!」


 光属性と火属性を組み合わせた、閃光属性。広範囲にわたる大破壊のための魔術であり、日常では戦争でもなければ使う機会は希少である。

 しかし、その広範囲な効果により、髑髏は半分以上が消え去った。しかしこの間もマリアンヌは髑髏を生成し続けている、油断してはならない。

 何より開始直後に姿を消してしまったケティスの攻撃も警戒しなくては―――、


「……っぅ!?」


『なるほどのう、ずいぶんな耐性じゃ。ちなみに魔力の残滓で儂を追うことは無理じゃぞ。魔力の性質を変えとるからの』


「わざわざ……言っていいんですか」


『言ったって変わらんからの。どうせ儂を見つけられんのじゃから』


 ルネックスの背後に現れたケティスが持っていたのは、まさしく科学の結晶である―――スタンガン。テーラが現在発明しようとしている代物だ。

 それを首に思い切り当てられ、最大電力を流し込まれる。しかし統治王とまで成長した彼がそう簡単に倒れることは無い。

 遠くも近くもない位置から、男性と女性の舌打ちの音が微かに聞こえた。


 やや剣を持つ腕がしびれている気がするが、気にしない。目を閉じて、先程感じたケティスの魔力、そして気配を察知しようとする。

 しかし、無駄だった。彼の言う通り、姿は見えないし気配も感じられない、そもそも魔力も辿れないのだから質が変わっているのだろう。

 どうやら何かの魔道具を使っているらしいが、マヤの強さを感じた一環だった。


「腐食――アンデット!」


「ネクロマンサーでもあるんだね?」


 髑髏を大量に噴き出してゾンビの形をかたどったアンデットが大量に進軍を始めるが、その全てがルネックスに止められる。

 片手は剣を握り、片手は首をさすっている。剣を握る手は利き手とは逆の方向なのに、相変わらずの威力にマリアンヌが顔を引きつらせる。

 例えばアンデットとライムが相対したとする。彼が盾を構える前にアンデットは彼を囲むことができるだろう。

 例えばケティスと相対したとする。勝つ気はないが、惨敗する気もない。しかしこの少年の前では、どんな迅速な技だって赤子が少し成長しただけに変わりない。


「これが、伝説になりうる者……なのね」


 マリアンヌのアンデットをも殺す勢いで、ライムの剣が纏う光は閃光となり一直線にルネックスまで伸びる。

 そうか―――、ライムは、彼は、まだ伝説に勝つことをあきらめてはいない。

 ライムの剣が防がれると共に、ケティスの拳銃がルネックスの肩を貫通する。彼の治癒で一部追いついたが、その傷は治りかけのまま治癒されなくなった。


 恐らく銃弾に込められた魔法効果だろう。ルネックスはひとまず灼熱地獄という名の業熱でライムを戦闘不能にし、マリアンヌのアンデットをタイミングよくすり抜け間合いに入り、素早く剣で殺さない程度に切り裂く。

 全員が統治王なのだ。傷ついた経験も少なからずあるだろう。ただ一度ルネックスの剣で傷つけられたくらいでどうにかなるほどやわではない。


 あとは、ケティスだ。見えない姿が、電流を流したり銃弾を撃ったりしている。反撃しなくては、と思い、テレポートを発動する。

 高速でのテレポート。最近転移系魔術を練習するあまり、センチ刻みでの転移が可能になっている。それを目にも止まらぬ速さで続けていく。

 ルネックスは早くとも一人だ。一瞬ではカバーできない箇所もあるだろう。ケティスはその死角の個所を察知してよけ続ける。


業火アルティメイデンッ!」


「ぐぅっ……!」

 

 逃げ続け、姿を消す魔術で延々と魔力を消費し続けたケティスに、広範囲魔術とルネックスの迅速転移を全て避け切れる術はなかった。

 業火を避け、ルネックスの剣に当たり地面に叩きつけられる。その腕には深々と傷がつけられている。

 肩から腰までざっくりと切られたマリアンヌとは対照的に、彼は間一髪で腕だけの損害に止めて見せたのだ。

 これがトーナメントではなければ、彼はまだ戦えると言って立ち上がっただろう。


「ふう。これで終わりで良いのかな?」


「こんな情景を見せられて、降参しない奴はいないわよ。一人であなたに飛び込んだら、やられる以外の道はないんだし」


 マリアンヌの傷はいつの間にか治っている。どうやらあの髑髏を取り込めば、髑髏の内装された魔力が自動的に傷を治してくれるらしい。

 どうやら試合中にも発動したかったようだが、間に合わなかったみたいだ。

 これで終わりか、と上を見れば、エリスが満足した笑みを浮かべながら拍手をしている。


「では、ルネックス君、あなたは今日から伝説です―――」



<称号:伝説を入手しました>

<只今より、ルネックス・アレキを勇者から伝説に昇格させます>



 目が覚めたのは、自分の机の上だった。机の上で寝ていたのか、という姿勢だ。もしかして今までのは夢だったのだろうか、と思ってしまう。

 しかし確かに伝説の称号を手にいれたのだ。ルネックスはようやく自身の夢を達成することができた。

 それを確かめるために、ステータスをオープンする。頭が痛くなるカンスト記号を無視して、いくつもある称号欄をスライドする。

 そこには間違いなく『伝説』と記された欄があった。あれは夢じゃない。


 自然と口角が上がる。そんな時、扉が軽く数回叩かれる。この家にはルネックスとシェリアしかいないのだから、彼女だろう。

 入っていいよ、と軽く言うと、扉が開かれる。予想通りそこにはシェリアの顔があった。


「あ、ルネックスさん! おかえりなさい。伝説になれましたか?」


「あぁ、シェリア。うん。僕は今日から伝説になるみたいだ。これからも呼び出されることがあると思うけど、ごめんね」


「いえいえ、大丈夫ですよ。料理はできてますので、準備ができましたらリビングに下りてきてください。今日はテーラさんの言う「ちゅーかりょーり」にチャレンジしました!」


 嬉しそうにルネックスがはにかむと、シェリアも嬉しそうにそう言って部屋から出ていく。さあリビングに行こう、と思ったが如何やら机の上に置手紙が置いてあった。

 

「……―――!」


 ルネックスの表情が、変わる。

 今日この瞬間ほど、世界のシステムという存在を恐れた時間はなかった。


―――


『世界の頂点、おめでとう。

 君の巡回での世界更新はきっともっと長く続くよ。

 何故かというと世界の頂点はシステムからの寵愛を受けるからね。

 ああ、そうそう、君はシステムについて研究したいんだよね?

 研究は構わないけど、実際に行動を起こすのはやめて欲しいんだ。

 色々あってね、こっちも。

 まあ、ひとまずお疲れ様。色んな方法でもっと頂点を目指して来てね!』



 ―――この瞬間ルネックスはもう、世界のシステムに対抗する術を持たなかった。

遂にこの作品の最終目標が達成されました。完結の匂いがぷんぷんしますね!

タイトルがブレスレットで、すでにブレスレットが壊れてしまっている、という質問を貰いましたね。知人から。

皆さんの中にも、ちょっと疑問に思った方がいるのではないでしょうかね?

まあ、じーっとみれば分かりまっせ。

僕のブレスレットが最強『だった』のですが。

だったんですよ。最強なのですが、じゃないんですよ。とか言ってるとフェンラリア悲しいなあ、、、

まあ、また登場しますよ。死んだお方たち共々、もう一度出てくる機会はございます。

惜しくもお亡くなりになりましたキャラのファンになってくださった方もいるのではないでしょうかなあと作者は淡い期待を持っております。

一人でもいいんですよ~。

その方に楽しんでもらえるよう、そして私のつたない文章をここまで見て下さった全ての読者様のために、これからも文章を綴っていこうと思います。

……なんかもう完結みたいな言い方になってますけど、まだまだ完結まではあとちょっとあります(笑)

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