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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第六章 伝説の終結点//in人間界
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ひゃくごかいめ それからの日常だね?

主人公らの視点と見せかけて、、、

 その日、コレム・カリファッツェラはベッドに寝込んでいた。異世界アルティディアでは男も女も一律して、平民ならば六十、七十歳まで生きられる。

 貴族ともなれば八十、九十歳辺りだろうか。つまり、今年で六十一歳を迎えるコレムはすでに貴族の中でも高齢の域に達そうとしている。

 それに彼は帝王だ。ただの王ではなく、大帝国を治める王だ。心労も並ではない。ここまで長々と述べて何が言いたかったのかと言えば―――、


 彼は今、不治の病を抱えている。


 幾度、幾人の宮廷治癒師が何をしたって治る事のなかった、まごうことなき呪いの病。呪いとは、現在でも治療法が発見されていない魔力の流れ方が突然変異する現象のことを言う。

 彼は今魔力が流れるべきでない――体外に流れ続け、魔力を常に垂れ流したまま。正当な魔力回路を持たなくなった彼は、いつ暴走してその身ごと大爆発してもおかしくない。

 それでもコレムは政務を行い続けた。その体が朽ち果てるまで、国のために働き続けた。その結果、彼は動くことすら億劫になり、現在に至る。


「……」


 明日、明日だ。コレムが六十一歳の誕生日を迎えるその日に、セシリス・カリファッツェラが、カリファッツェラ大帝国帝王となるための即位式が行われる。

 コレムが同席することは、もうできない。彼にはもう動く力もない。

 その病がいつか治ったとしても、彼の精神が動くことを拒むだろう。それはコレム自身も分かっているからこそ、自身の誕生日の日にセシリスを即位させると決定した。


 セシリスは冷酷な一面もあり、とても優しすぎる一面もある。しかしその優しさで刑罰の手が下せないような、中途半端な者ではない。

 時には身内に。時には見知らぬ者に。時には愛する者に。彼はいつだって、厳しい言葉を投げかけるときは本当に厳しい。

 コレムのように半端な優しさを持たず、コレムのように優柔不断な性格でもない。彼はきっと、コレム以上の帝王になれるだろうとコレム自身が予想している。


「……ルネックス殿」


 彼は、そっと、少年の名を零す。

 少年ならばコレムの病など簡単に治せるだろう。しかし恐らく少年が治しに来ても、コレムはきっと拒むことだろう。

 華やかな少年の未来を、コレムは自分などに邪魔させたくはなかった。


「貴殿の栄光を、祈る……」


 コレムはそっと目を閉じた。眠りについた彼の頬に一筋の涙が流れたことを、彼自身すらも気付くことは無かった。

 

 そして枕元に置いた通信機から、大商人の声が聞こえたのを、しかしコレムは一歩の差で聞くことはできなかった。



「えっ……」


 ご存知大商人グロックは、切れた通信機を見て呆然としていた。コレムへの通話だったのだが、ここで切られると非常にまずい。

 グロックはルネックスに釈放されてから、救いの言葉を投げかけてくれたコレムに報いるために、彼の病を治せるようにあちこちに奔走していた。

 ようやく結果が出そうになったというのに、応えてもらえないとは……。


「どうするか、私は一応罪人だ。軽々しく帝国の門をくぐれるはずがない」


「そうですね……どうします?」


「―――私に任せろ!」


 図ったかのように、女の声がダイムとグロックの間から投げかけられた。赤い髪をなびかせた女―――ハイレフェアだった。

 彼女は世界の巡回中の功績もあり、帝王に面会することも難しくはない。

 ダイムとグロックはそれを知っていたが、彼らは悩む。大商人としてのプライドか、情報を伝えられる確実性を優先するか。


「……すまないが、頼んでも構わんか? 私が無力で済まない」


「いや、問題はないさ。私もコレムの体調が心配だからな。それに、ルネックスに見つかるわけにもいかん。早めに解決することが必要だ」


 ハイレフェアは素早くダイムの手にあった書類を奪い取ると、つかつかと大帝国の門を潜っていく。その後ろ姿を、大商人とその従者はただ呆然と見つめていたのだった―――。



「ふむ。意外に簡単だったな」


 大帝国の門は、コレムの病の治療に関する資料を持ってきたと言うと、すんなりと通してくれた。まあ、ハイレフェアだからでもあるが、彼女ですらもう少し時間がかかると思っていたのに。

 それほどコレムの存在は重要で、それほど慕われ、大切に思われているという事。

 そういう関係は凄いと思うと共に、ルネックスの周りでもそのような事が発生していたなと思い、ハイレフェアは思わず口角を上げる。


 コレムの部屋が見えてきたというくらいの距離で、迷路とも言える廊下にある幾多の曲がり角の中のひとつから少年が出てくる。

 明日即位する少年―――セシリス・カリファッツェラ。


「その資料は僕に任せて。僕に渡したって言えばあなたには何も疑いが掛からない。あの大商人からの資料を信じる大貴族は少数だからね。まあ、事実を知る者も少数だけど、その少数のほとんどが批判者アンチだから、用心して困ることは無い」


「そうか。貴殿がそう言うのなら任せよう。しかし、彼の体調が良くなったらよければ報告して欲しい。私も心配だからここまで来たのでな」


「知っているよ。見ていたから。勿論、使者を通じて報告しに行ってもらう。あなたがこの資料を渡されなかったら、僕が受け取るのも随分後になっちゃうだろうからね。それじゃあ、父様を救いたいから、先に行かせてもらうよ」


「ああ。朗報が来ることを祈っている」


 ひらひらと手を振って去っていくセシリスの後姿に、ハイレフェアは冷静な声を投げかけた。その後は執着せずに、来た道と同じ道を、今度は反対に歩いて去っていく。

 セシリスは彼女の気配が去っていくのを感じた後、くい、と口角を上げた。そして彼も振り返らずに、まっすぐ父の部屋へ歩いて行く――、



「父様。セシリスです。お加減は?」


「私は、問題ない……それよりお前は忙しいだろう。なぜ私の部屋などに来た?」


「息子ですから、父様を心配するのは当たり前です。……ですが、今日はそれだけではありません。大商人が、父様の病を治せる者達を見つけたそうです。こちらの資料は僕も目を通していますので、安心してご拝見ください」


 ベッドに衰弱した様子で横たわる父を見て、セシリスはやや眉をひそめた。昔の元気で活発な父を思い出して、涙が出そうだったから。

 しかし彼は持ち前の冷静クールさを存分に発揮して、コレムに持ってきた資料を渡す。

 息子としてだけでなく、これから国を治める者として、セシリスを導く役目を持てる唯一の人物であるコレムは必要だ。


 政治的な駆け引きには、セシリスはまだ疎い。まだコレムに教えてもらうことは沢山ある。これは急病で、セシリスはまだ王になるための全てを知っているわけではない。

 一方でセシリスの即位に明確な反対の気持ちを抱いている者は少なく、セシリスの即位を応援する者が多いのも事実。

 ただ、彼は優柔不断がない代わりに、極度の心配性であるのが特徴である。


 ―――それはさておき。


「その資料に記されている通り、ステルティアの女神教ならその不治の病を治す術を持つそうです。それを持つのは『博愛』担当のサーシャと『忠義』の教皇のみ。二人の力を合わせてようやく父様の病を完治させることができる」


「女神教か……今までお前たちは、私の病を治せる者がいないか懸命に捜索していたことを知っている。しかしなぜ今の今まで、見つからなかった?」


「忠義の教皇は、僕らと関わりたくないんですよ。しかし、大商人とその従者の懸命の説得により、納得したそうです。それに、博愛のサーシャも教皇が動かねば自分も動かない。教皇を先に動かしたのは正解だったと、資料にはコメントしてあります」


 少しの情報も逃さないように、大商人はひとつひとつのことを詳しく記した。自分の見解も書くことで、もっと女神教を分かってもらう作用もある。

 その辺りは大商人としてのプライドと技術、その他全てが凝縮されている。文章技術も非常によく、手慣れな事がよくわかる。


「……諦めてはいけない、ということか」


「諦めないでください」


 ―――僕が諦めるまでは。

 セシリスはそうコレムの耳元で囁き、席を立つ。資料は未だコレムの手に握られたままだ。彼は振り返らず一直線に扉に向かっていく。

 しかし出ていく寸前、彼は一瞬だけ、振り返らずに父に言葉をかけた。


「ただ、どうするかは父様の決断次第。誰も強いたりはしません。ただ、僕にはあなたが必要だ。それだけは覚えておいてください」


 それだけを言い残して、セシリスはぱたんと扉を閉めた。さらり、と水色の髪が彼の目にかかり、丁度その表情が見えなくなる。

 彼はうつむいている。唇をかんでいる。自分では父を救えないという事実に、悔しい思いを抱いている。

 政治的に。感情的に。彼の優しさは完璧と言えるもの。


 しかしそれはまるで勇者ルネックスのように、完璧でありながらも哀しさを含む、生涯しっかりと報われないような性格でもあった。


「あぁ、丁度よかったよ、ハーライト」


「だっ、第一皇子様ッ!? な、な何事でございましょうか!?」


「ははは、そんなに緊張しなくても良いよ。僕、魔術について勉強したいんだ。今の家庭教師じゃあ、最低限の護身術しか学ばせてくれないからね。本格的に、戦えるような実力が伴うもので。僕とは、友人のように接して欲しい」


「そっ、そそ、それならっ、不束者ですがよろしくお願いします……ってこれはおかしいだろ! えーっと、よろしくお願いします!!」


「あっははは! 敬語は無くてもいいからね。名前は無理して呼び捨てなくても良いけど、そんなに無理してるような敬語で話しかけられても可愛いとしか思えないから。よろしくね?」


 一階に向かおうと、最寄りの階段で降りようとしていたハーライトを捕まえて、セシリスはにこやかに笑いかける。

 セシリスに会ったのはまだまだ二回目。一度目もまともに話して居ない。そんな者が第一皇子とまともに話せるかと言えば答えは否。

 彼もそれを知っていたので、ハーライトの態度に対して何も言わない。というか、可愛いとすら思っていたので尚更だ。


 コレムの病。それに続くグロックの活躍。そしてセシリスの才能が覚醒する予感。ルネックスのおかげで、世界の人々が回ろうとしていた。



「ふむふむ、生け花とはこういうものなのですね……」


 ルネックスからの告白の後、シェリアは更に女子力を磨いている。生け花、料理、編み物、それらを同時に行っているのに、手元に狂いはない。

 勿論、実力を磨くのも毎日行っている。ルネックスのために。世界のために。自分を待ってくれる誰かのために。

 

 ―――彼女は誰かのために動ける人だと、他でもない彼女を愛する者が言う。



「ああ、魂にやっと刻めた……」


 シェリアへの告白の後、ルネックスは更に魔術研究の腕を進化させた。魂に術式を刻んだり、その他諸々の研究結果を出している。

 勿論、魔術に関して研究しているため、彼の実力は彼が思わぬうちに急速な成長を遂げている。

 まあ、ルネックスに実力が及ぶ者でなければその変化は分からない。今の彼が全力を出せる相手ではないと、自分の実力が分からないからだ。


 ―――彼は決めた目標を必ず達成できると、他でもない彼を愛する者が言う。

ほのぼのになりませんでした(゜-゜)

コレムさんの病に関しては、グロックさんを助けた理由のひとつを見せるために、最初からあった設定です。

後付けじゃないですよ。っぽい感じにはなってますけど。

実はここで敵襲が来るか、コレムさんが病に倒れるか、で悩んだんですけど、敵襲だと解決までが長くなりだらだらしそうだったので、急病に設定しました。

制作秘話ってやつですね。えっ、要らなかっただって?( ˘ω˘)スヤァ

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