表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第六章 伝説の終結点//in人間界
120/135

ひゃくよんかいめ 夜の告白だね?

 ことん、とグラタンが机に乗せられる。これはシェリアが最近習得した料理で、本人は肉じゃがに追いつく程ノリノリで作っている。

 なぜかというとルネックスにチーズが好評だったからだ。ここ最近はテーラに頼んで材料を用意してもらっていることが増えている。

 チーズは地球にしかないため、通信機が大いに役立っている。


 ふんわりとチーズの香りが部屋充満し、ルネックスも久しぶりに少年らしい表情で目を輝かせていた。

 重たい事ばかりを考えているルネックスが少年のように喜びの笑顔を浮かべていられるのも、シェリアお手製の料理を食べているときくらいだろう。

 喜んで料理を食べるルネックスを、シェリアは幸せそうな顔で見つめている。


「美味しいですか?」


「あぁ、うん。美味しいよ。というか、チーズ大量にテーラさんから仕入れてきてるよね、向こうは大丈夫なの? 迷惑とかになってない?」


「あぁ、次元の扉を無理やり開いてチーズを取り出しているらしいんですけど、その程度だけじゃ魔力は少しも揺るがないそうです」


「やっぱりテーラさんは次元が違うよ、でもその扉で昔の世界に帰れないの?」


「最近帰れるくらいの扉の大きさを開けるようになったらしいです。まあでも、帰らないそうなんですけどね。やりたいことがたくさんあるのだそうです」


 明らかなテーラとの次元の違いを感じたルネックスは、微かに顔を引きつらせる。もっとも世界のシステムから見ても、二人の間には次元ほどの違いはないのだが。

 グラタンを食べながら、二人は会話を進めていく。中には研究や実力の状態などの現状報告や、純粋なラブラブ会話が交えられていく。

 最も二人にリア充な自覚はなく、普通の会話を進めているだけと思っているのだが。


「ルネックスさんの言う魔術の原理とか、よくわかりませんね……詠唱短縮をするのなら、文字を細かく切り取ればいいんじゃないですか? それとも詠唱陣のように、魂に詠唱を刻むか」


「確かにそうだね、気分が高揚していると基本的な事を忘れてしまう。試してみるよ、ありがとう」


 そういうルネックスの顔はややぎこちない。シェリアもそれに気づいてはいるのだが、連日徹夜の疲れだろうと思って触れないでおいた。

 そんなシェリアの様子を見ながら、ルネックスはふうと一息つく。自分のぎこちなさが彼女にバレなかったための、安心のため息だ。


 彼の手には、一枚の紙きれがある。よくある、日ごろから文字の練習をしている日本学生・・・の端正な文字が書かれている。

 また、彼のぎこちなさもこのたかが一枚の紙きれに書かれた文字によるもの。


(テーラさん……せめてやりかたくらい教えてくれたらいいのに……)


 『今日の夜、必ず告白』

 今日もチーズを大量に持ってきたテーラが、ルネックスに残していった紙きれだ。今日が終わればテーラは歴史改革活動を始めるため、此処に来るのは随分先の事になるだろう。

 そのためにテーラは最重要事項を残していったのだが、これが最近いい感じに生活をしていたルネックスに、新たなスリルを体験させるキーワードとなっていた。

 告白の「こ」の字もしたことがなかったルネックスは、必然的にうんうんと悩む結果を強いられることとなった。


 その緊張をほぐすために、大口でグラタンを頬張る。現在のチーズは恐らく一年以上毎日グラタンを食べても切れない程の量だ。

 そのためルネックスが少し多く食べただけでは揺るがない。というか、毎日グラタンを食べることは無いので次テーラが来る少し前に切れる計算だろう。


「ルネックスさん、テーラさんによると、今日の夜ってすごくお星さまが綺麗なんですって。良かったら一緒に見に行きませんか?」


「え、う、うん。勿論だよ。そんなに星が綺麗なら、僕も見てみたいからね。最近は仕事をしてばかりで、ゆっくりする時間が少なかったし」


「そうですよ、私のこともたまには構ってくださいね。確かに私は訓練中ですけど、それでも声をかけてくださればマッハで飛んでいきますから!」


 シェリアが両手を拳にして胸の前でむん、と意気込む。彼女はルネックスと同じ二十二歳だが、未だに十七歳の時と同様このような仕草が似合っている。

 彼女ほど可愛い系の仕草が似合う者は存在しないと言えるほど、それは様になっている。まあ、歳だけ数えれば彼女はニ十歳越えだ。

 しかし、英雄は英雄になった時点で寿命が止まる。寿命の概念と共に、体が成長することはもうない。

 なので彼女は十九歳辺りの年齢のまま止まっている。元から童顔をコンプレックスにしているため、十五歳辺りの少女とそう変わらない。


 シェリアの可愛さを語るのはここまでにして、ルネックスは冷汗をかいていた。

 恐るべしテーラの回り込みに、だ。いつだったか彼女は陰で誰かを支えるポジションが好きだと言っていたのを彼は思いだす。

 テーラはその気になれば星だって操れるのだから、彼女の言葉に嘘はない。ただ、告白のステージは完全に整っている。

 勇者になる時も、英雄をたくさん集めて彼のためだけのステージを整えてくれた。外見では何もしていないように見えるが、彼女は―――、


「じゃあ、僕は食べ終わったし、仕事を続行するよ。夜は暗くなるから、ライトの魔術を発動させてね。それじゃあ僕は」


「はい。あ、でもレディファーストですから、ルネックスさんの方が早く来ないとダメですよ!」


「うん。そうするつもりだよ。それでも危ないからライトは発動させてね」


 いつものシェリアは従順だ。ルネックスは勿論、シェリア自身もそれを自覚している。彼女はギャップを見せようと悪戯な言葉を発そうとしたらしいが、それに気付かなかったルネックスはいつもの笑顔で言葉を返す。


 グラタンを食べ終わり、そう言い残して去ってしまったルネックスの後姿を、シェリアは苦笑いで見ていた。鈍感を相手にするということは、恋する乙女にとってはつらいのである。


「全くルネックスさんは手ごわいですね。負けちゃいます」


 しかし、恋する乙女とはその辛さを跳ね飛ばすような力がある。


 小さくはにかんで頬を赤く染めたシェリアは、突如キッチンを片付けていないことに気付き、ばたばたと忙しくキッチンに駆けだした。


 ――それは、その名の通り、『恋』という名の強烈な力である。



 夜。

 ルネックスの人差し指の指先にはほんのりとライトの光が、淡く灯されている。自身の手で設置したキャンプファイヤーの横で彼は星空を見上げていた。

 目を閉じれば、最初村でイジメられていた時の情景がよみがえる。そして、シェリアなどの仲間との出会い。戦闘。今に至るまでの流れ。

 あまりに濃すぎる人生で、どの時間も楽しかった。どの時間も過ぎてほしくなかった。


「……はぁ」


「―――ルネックスさん、寒いので今日テーラさんが差し入れてくれたコーヒー豆でコーヒーを作ってきました。どうぞ飲んでみてください」


「って、それ、シェリア才能あるよ。コーヒー豆はどれだけあるの?」


「えーと、一か月毎日飲めるくらいの分です」

 

 コーヒー豆やチーズ以外にも地球専用食品を、テーラは大量に持ってきている。恐らく次元倉庫かどこかに入れているのだろうが、起動している間は常時魔力消費中。また彼女の強さが垣間見える瞬間でもあった。


 ルネックスはまたも苦笑いで返し、シェリアが隣に来ると渡されたコーヒーを受け取る。一口啜ると、濃厚な香りが口に広がる。


「凄いね……」


「いえいえ、きっと材料が良いんですよ!」


 いや、それだけで作れるものなのか?

 ルネックスはそう思ったが、シェリアが本当に材料の良さだと思い込んでいるようなので、それ以上のコメントはやめておいた。

 一番は、告白だ。何をどうすればいいのか全く分からず、シェリアが黙り込んだためにルネックスも黙ることとなり、二人して同時に星を見上げる。流れ星や奇怪な形をした大きな星など、空にはたくさん散りばめられている。

 良く星空なんて見たことがなかったため、ちょっと感動がこみ上げる。


「……神様、神様」


 シェリアが流れ星に向かって祈りの言葉を届け始める。どうやら声を上げていることに気が付いていないようなので、ルネックスは聞いてはいけないかと思い顔を落として、黙ってコーヒーを啜る。しかし次の瞬間噴き出しそうになることを彼はまだ知らない。


「神様どうか、ルネックスさんが私の事を好きになってくれますように」


「―――」


 ―――今、何と言った?

 ルネックスは思わず頭が真っ白になる。彼女の言葉すらもテーラの計画の一品なのではないかという勝手な推測が、頭をよぎる。

 しかし彼女を信じたい。いや、彼女はそもそも自分が好きなのか?

 いや、好意を寄せられている事は勿論知っている。彼女の好意が恋愛だという事ももちろん知っているが、いやしかし―――、


 混乱するルネックスの脳内をよそに、シェリアは目を閉じてただただ祈り続けている。先ほどの願いが彼女の純粋な気持ちだと示す行動でもあった。

 告白しなくては。今すぐ。今だ。

 そう頭で思っていても、ルネックスは恋愛に関して積極的になれないヘタレチキンだ。いざ既成事実になれば大丈夫だが、自分から告白というのは緊張する。



「―――シェリア、僕は、君のことが、好きだよ」


 

 その言葉の意味をきちんと理解してもらえるように、聞き逃されないように。ルネックスはしっかりとシェリアの目を見て告げる。

 少し緊張で声は震えているが、シェリアのあの言葉を聞いた後だ、振られるかもという不安はない。

 昔から好意をぶつけられているための耐性という理由もあるが。その分の緊張を受け取ったのは、告白された身であるシェリアだった。


「こ、声に出ちゃいました? あれ? えっ、でも今の告白ですよね。私ですか? 私に告白……私に好きって言ってくれているってことなんですか?」


「うん。シェリア以外に此処に他の人間はいないよ。実は神界で戦闘をしている間に、テーラさんと恋愛の話が少しだけあって。その直後に君が好きだって気付いた」


 真剣に話すルネックスに、シェリアも段々と調子を戻して、ふわりと女神のような神々しい笑みを浮かべる。

 それは、思わずルネックスも話すのを止めて見惚れてしまうほどの物だった。

 やがてシェリアは嬉しそうな微笑みを崩し、ボロボロと涙をこぼしてルネックスの胸の中に飛び込んできた。


「わっ!」


「すみません……っ! 泣きたくないって思ってたんですけど、嬉しくてっ……!」


 シェリアはそのまま涙を流し続ける。ルネックスは慌てるのを止め、慈しむような笑顔で彼女の髪の毛をぽんぽんと撫でる。

 その後涙が止まった彼らは、黙って星を見上げた。つう、とシェリアの頬に涙が流れる。英雄として涙を流してはいけないという法則は、この場所では発動しない。

 世界のシステムだって黙って見守るほどに、二人の心は幸せで満ちていたから。


「……流れ星だ」


「今度はルネックスさんがお願いをしてください。私もしたんですから!」


「神様――、シェリアとずっと幸せになれますように」


 ルネックスはふ、と微笑み、シェリアは薄く頬を染めた。地面に付いたシェリアの手に、ルネックスは無意識に手を重ねる。


 少し冷めてしまったコーヒーが、二人の後ろに見守るように静かに鎮座していた。

あと一話、この調子でほのぼのが続きます。もうちょっとだらだら展開にお付き合いくださいませ(;^ω^)

まあ、今回はだらだらの中に告白を入れたので、ちょっとは「おおっ!」という感じになったのではないかと思います。

結構時間をかけて執筆した下りなので、喜んでいただければ幸いです。

これからルネックスとシェリアをどんどん活躍させていきます。そうそう、ヒロインたちやちょくちょく出てくるテーラさんも、活躍させていきます。

多分これ以上人が死んだりはないと思いますし、大商人の使い道も披露していこうと思います!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ