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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第五章 伝説の無敵点//in全世界
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きゅうじゅうきゅうかいめ 憤怒の手先に、だね?

 グロックの近衛騎士の役目も担っていたダイムは、傷だらけになりながらもようやくシェリアから逃げ出すことに成功した。

 町の者がたくさん集まる屋台の後ろに隠れたりと、ダイムは人のいない道で逃げる事を選ばなかった。英雄として、無辜の民を傷つけることは許されないとダイムは分かっていたから。

 それでも瀕死一歩手前なくらいの手傷を負い、グロックの部屋を叩く。返事はない。直後、グラスが割れる音が響いた。


「グロック殿!」


 何かおかしい、と思ったダイムは勢いよく扉を開けた。そこには、憔悴しきった『主』だった者の姿があった。

 酒瓶が情けなく地面に転がり、手にいれるのに苦労したと語っていた調度品も、元の形が分からないほどに壊れ切っていた。


 そしてもちろん、グロック自身も継ぎ接ぎの心を壊されていた。勇者と勝負どころか、手合わせすることもできなかった。

 全て先回りされた完璧な計画で、組み伏せられてしまったのだ。


「のう、ダイムよ。私の『意義』は一体何だったのだろうか……?」


 ダイムが入って来たことを音で感じ取ったグロックは、嘲笑の笑みを口元に浮かべながら震える声で彼の名を呼んだ。

 ダイムは静かに入室し、逆の手で扉を閉め、グロックをただ見つめていた。

 どう言葉をかければよいのか分からなかった。部下を大量に失い、帝王に罪を突き付けられ、残された道は抵抗して散るか、捕まって散るか。


 少なくとも今の彼らにとっては、退路など塞がれたと思っているのだ。


「……リベンジしましょう。私達がこんなにあっさりと負けるなど、信じられません」


「はっはっは、ダイムよ、貴様は反対派ではなかっただろうか。私を一度止めようとしたではないか。どういう風の吹き回しだ?」


「あの時は、ここまで無残に負けることは無いと思っておりました。ですが、罪は免れないと思っていました。でも、今は何も残っていないのです。抵抗する道ももはやない。ならば主の言う通り、歴史に名を刻める格闘をするべきだと思うのです」


 大商人グロック・ダイアリーは此処で終わるべき者ではない。それはダイムだけでなくコレムも同じく思っている事であり、だからこそコレムは彼の処罰を一旦保留にして思考期間を作ったのだ。

 つまりダイムは、その帝王の処置を逆手に取るということ。

 大商人グロック・ダイアリーが歴史に名を刻むために、善の道は歩めぬとも悪の道で精一杯の抵抗をしようと、彼はそう言うのだ。


 それは原初のグロックが思っていたのと同じことだ。自分は堕ちた。ならば善に戻ることは不可能なのである。

 少なくとも彼の世界観では、堕ちた者は戻れないという解釈があった。

 名誉的な最期を迎えたい。英雄と勇者を翻弄した大悪人―――、悪人であったとしても、そんな風に大々的に名を刻められればいいではないか。


 ―――そういう、ことか。


「ダイムよ。貴様も堕ちたのだ。私と同じ考えを持ったが最後、ならば私に付いてきて貰おうではないか。……気分が変わった。私は、まだ負けてはおらん!」


「グロック殿……! それでこそグロック殿でございます。不肖ダイム、どこまでも付いて行かせていただきます!」


 どこまでも歪んでしまった世界観。一組の少年少女の影響か? いいや、違う。世界のシステムがそうさせているのだ。

 どこまでも歪に、何処までも無残に、支配の能力を持つこそ世界は人を壊していくのだ。これは、その第一歩に過ぎない。

 二人はしかしその歪んだ世界観を受け入れた。受け入れたからこそ、行動した。二人はどうしようもなく、二人で完結したがっているのだ―――。



 ダイムとグロックは一週間の時間を使って、宗教代表国ステルティアに向かった。そこでは邪教も正教もありふれている。

 そこに足を踏み込むと、様々な宗教服を着ている老若男女を見かける。正義も邪も、ステルティアでは全てが正義だ。

 何故ならステルティアで全国民が信じている宗教、ステルティア教の教えで、自分の身を自分で守らなければこの国の民ではない、という言葉があるからだ。


「苦労したな、ダイム。ようやくだ。女神教を探そう」


「了解しました。……すみませんお姉さん、女神教はどこですか?」


「ああ、女神教ね。あんまりここで言わない方がいいわよ。私が女神教だからちょっと来なさい」


 黒い服を見に纏った、二十代くらいの女性に手を引かれたダイムとグロックは路地裏まで連れてこられ、女性は顔を見えなくしていた服の帽子部分をばさりと投げ捨てる。

 紫の髪にいくつも水晶が付いた、ラズベリーの瞳を持つ女性である。女性というからにはやや若く、さすがに老人まで年はとっていない。


「貴方達、女神教に入りたいんでしょ。絶賛人員不足だから、能力付属してもらえるわよ。私大司教だから、ここで決断してくれるならすぐに教会に連れてってあげる」


「入る。ここまで来たのは女神教に入るためなんだ。今更ここで後悔して止められるか」


「そう。それは良い覚悟ね。ちなみに女神教は此処ステルティアでも比較的嫌われているから、言いふらさないのが一番よ」


「大丈夫だ。それなりに修行を積めばここを出ていくつもりだからな」


「そうしてくれないと困るわ。女神教は散らばっていないといけないもの。様々な所を支配するのが、私達の教えなのよ」


 女は当たり前かのように、支配するなどという台詞を述べて見せた。まあ実際国を治めている王が女神教というのも、聞かないことではない。

 しかもそれなりに良く治められているので、咎められることもなかったのだ。そうして女神教の大司教の女は誇らしげに歴史を述べて見せた。

 聞けば教皇の男性の老人は魔術の達人で、ステルティアを治める王の近衛騎士なのだそうだ。

 

 もし彼がいなければ、女神教への風向きはもっと悪くなっていただろう。正義と邪悪が混ざった女神教は、元々良いとは思われていなかった。

 美徳と大罪、混ざり合わさった結果はゼロにしかならない。民たちはそんな解釈を多く持っていたのだ。

 しかし教皇がいたおかげで――、と女は女神教の拠点に向かいながら、まるで自分の事かのように瞳を輝かせながら説明していた。


 輝いている。二人は素直にそう思った。

 同時に、ここまで人を輝かせてくれる女神教の存在に期待を預けた。


「ところで私はまだ貴殿の名を聞いていないのだが?」


「わたしはサーシャよ。ちなみに博愛担当。ちゃんとした美徳よ。でもあなたには凄まじい恨みの力を感じるわ。その調子だと大罪デビューね」


「大罪、とはどれ程のランクなのか?」


「司教になると能力が貰えるけど、大司教になるとそうやってその称号と共に、その称号に合った能力が貰えるわ。自分を縛る代わりだけれどね。いきなり大司教になるのは難しいかもだけど、座席が空いてるのは本当だから」


 サーシャは弾む声で説明をする。どうやらこんなふうに説明できる機会も少なく、せっかくの機会だったので力いっぱい説明したかったらしい。

 ダイムとグロックもそれを突っぱねる程悪人ではない。サーシャに思う存分説明させた頃には、それなりに女神教に詳しくなっていた。


 女神教に向かう途中、何人かがちらちら振り返って来た。フードを被っていてもサーシャの存在は随分知名度が高いらしい。

 その『博愛』の称号故に、一日一度は誰かの喜ぶことをせねばならないのだ。それなりに嫌われている女神教の教徒が、である。

 そのため目立っているし、知名度も高くなっている。しかし女神教を誇りに思っているサーシャは視線など気にせずまっすぐ女神教の神殿に向かって歩いて行く。


「教皇様、ただいま戻りました。そうそう、女神教に入ってくれる人を二人も見つけちゃいましたよ。どうです、私の信仰を認めてくださいよ~」


「サーシャか、それは有難い。しかしまだだ。まだお前は未熟だ、教皇の座を譲ることはできぬ。何故なら客人をもてなせていないからだっ!」


「ハッ! グロック殿ダイム殿申し訳ございません! 今お茶の用意を」


 意外にここは楽しい所なのかもしれない。とダイム、グロックは思う。ちなみに二人の名前は道中にサーシャが聞いていた。

 女神像に背を向けた地点にある椅子に座った教皇は黙ってひげを撫でていた。真っ白な神殿に、一日何度掃除しているかも分からないほどぴかぴかに磨かれた床、壁、柱。


 どこからどう見ても嫌われている宗教だとは思えず、邪教が交えているとも見えず、見ていて逆に汚い心が洗われていくようだった。

 そんな二人の様子を、先程までひげを撫でていた教皇が満足そうに眺めて笑い声をあげた。


「私が一番こだわっているのが神殿の外見だよ。ところで君達は大司教を目指しているのかな?」


「私は能力が欲しい。私は味方が欲しい。私は、憎む相手にリベンジできるくらいの力が欲しいのだ……」


「うん。分かった。じゃあ君は『憤怒』だね」


 とんとん拍子で進む話に戸惑い、教皇が口にした称号をグロックがかみしめていると、突然厨房だと思われる場所から破裂音が響いた。

 そちらに目を向けると、お盆にお茶を乗せたサーシャが、お盆を地面に落としてお茶を散乱させた状態のまま固まっている。


「これこれサーシャ。今私が外見にこだわっていると言ったばかりなのに」


「な、な、な、なんで大司教にしちゃうんですか!? 私が美徳の称号を手にいれるまで三年もかかったのに! ひどくないですか!?」


「其方が女神教にはいった時は、まだ希望者が多々いたんだよ。競争率も高かったんだ。大司教が狭い道だって言われてた頃の話だしね」


 教皇が落ち着いた口調で荒ぶるサーシャと対話している間、グロックとダイムはずっと己の称号のことを思っていた。



「これで、勇者と英雄に対抗できるのだな」


「はい。さようでございます。グロック殿であれば、きっと能力を使いこなせる」


 グロックは洗礼を受けた後、体の中を渦巻く得体のしれない憎しみの力を感じていた。自分の感情を飲み込む代わりに、『憤怒』の力は己の願いをかなえてくれる。

 その証明に、既にじわじわと精神が蝕まれて行っている感じがある。でもそれほどに、恨みは増幅していたのかもしれない。


「のう、ダイム。貴様は付いてきてくれるか。たとえ私の行く道が、光のない救いのない報われない道だとしても?」


「はい。グロック殿が救われない道を歩むのでしたら、私だけ置いて行かれる道理はございません。ですからグロック殿、自信をお持ちください」


 グロックがダイムに救われたのと同じように、ダイムもグロックに救われていた。どうしようもなく完結している二人は、どうしようもなく二人でまた始まる。

 信頼して、信頼されて。

 行く道は正解ではなくても、二人で歩むのなら彼らにとってその道は正解だ。

グロックとダイム視点です。主人公じゃなくてごめんなさい。というか最近ずっと主人公じゃなくてすみません(;^ω^)

女神教は平和です。サーシャはギャップ萌えを狙っています。萌えましたか?←

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