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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第五章 伝説の無敵点//in全世界
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きゅうじゅうはちかいめ 裏の陰謀だね?

 大商人ブロック・ダイアリーはその商売の才能を生かして、数々の大商売を成し遂げてきた。その勢いは、かつて奴隷大商人だったハイレフェアを追い越すほどだった。

 彼は雑食である。奴隷も、食品も、武器も魔導書も、しいては建物だって、依頼されればなんだって上手く商売してみせた。

 鮮やかな手さばき、驚異の商売力。

 彼に巡り合えば、彼の商品に目を留めれば、三十分後にその商品は相手の手の上にある。


 彼はそんな商人だ。ブロックは誠実な商人である。それは本人も心がけてきたことだった。誰かを潰すなんて、間違ってもやらない者だった。

 でも、彼が道を踏み外したのはいつだっただろう。


「あぁぁあああああああああああああああああっ!」


 ガシャン、と暗い部屋の中でボトルが砕け散った。破片が地面に散らばり、暗い中でも光る装飾にぶつかって、勢いが止まる。

 ブロックはそんなもの気にかけやしなかった。頭に浮かぶのは、あの薄い笑みを浮かべた少年の顔だけだった。


 名声が高まった。商売相手も増えた。そんな自分を乗り越えようとした者もいたけれど、他人は他人自分は自分を貫き通した。

 でも目の前の少年は、あまりにも憎たらしかった。

 自分が何年もかけて手にいれた『名声』をあっという間に手にいれて、やっとのことで目にした国王の姿を手軽に見れて。

 欲しかった国王との信頼を、たった一言で手にいれて。


 ―――ふざけるなよ。


 この上を這い上がる気力は無かった。もっと進化、なんて若い頃のやる気は起きなかった。そう、大商人ブロック・ダイアリーはついに堕落した。


「貴様、はあやつの監視をしろ」


「はっ」


「貴様はその隙を見て出来るならば奴を殺せ。不可能だと思ったらすぐに下がれ」


「承知っ!」


「……ダイム、少女の方を誘拐しろ。その程度ならできるだろ」


「了解でございます」


「ついでに貴様の部下全員に大賢者の監視と牽制を命じておけ……今日は疲れた」


 ダイムと呼ばれた若い男はこくりと頷く。他に命令をされた部下達は全員消えていったが、彼だけは此処に残っている。

 未だ三十代は突破していないグロックでは、夜を越す徹夜は不可能だ。勿論したことはあるが、その翌日は大変な事になる。

 こんな時ダイムは空気を読んで退出するのだが、今日はどうしたのだろう。


「グロック殿……もう一度この計画を考え直してはどうでしょう? 英雄と勇者の相手をするのですよ。私はおすすめしません」


「ダイム。私の近くにいるのなら知っているだろう。私はもう堕ちた。堕ちた後の運命はもう、ないんだ。こうして散れば、私の名には勇者との対決が刻まれる。なぁ、名誉的な最後だとは、思えないか?」


 久しぶりに聞いた主の弱音と本音。大商人になってからは、プライドの関係もあり何があっても決して弱さを見せなかった、グロック。

 ダイムは黙って退出するしかなかった。敗北は覚悟の上。意味のない恨みなのは、知っていて。それでも感情が体を追い越している。


 湧き上がっていく止められない恨みは、堕落に誘う事を彼は知っているからこそ。勇者と対決したという結果を残して散る選択をした。

 従者としては、そんな無茶をしてほしくはない。でも、主である彼が決めたことだ。

 後悔も意味はない。ダイムは寂しさの色を瞳ににじませながら、グロックが大商人として築いた資金の表しである長い廊下を歩いた。



 息をひそめる。大商人屈指の暗殺者として、彼にもプライドがあった。暗殺者としての、たゆまぬ努力を積んできたがための矜持があった。

 足音のひそめ方も、空気との同化の仕方も。空気ひとつ動かさず、を前提にした血反吐を吐くかのような訓練の繰り返しの産物。

 後をつけるくらい問題は無い。彼にはそんな自信があった。いつも通り仕事すれば―――。


「問題ない、っていう自信は評価しよう。でも、色々足りないことと踏み外したことが多すぎるよ。……だから、ごめんね」


「ぅ……ぐっ……」


 ルネックスは男の首にナイフを当て、しかし力を入れることは無い。正面に素早く回り込み腹にかかとをめり込ませる。

 絶妙な力加減が込められている――、という感想は、男がそう感じる前に気絶してしまったために浮かべられることは無かった。

 しかしもし気絶していなければ。男は確実にそう思っただろう。


「……さて。テーラさんによるとシェリアが狙われてるらしいけど、あの子なら大丈夫、だと貴方も思いますよね、コレムさん」


『大丈夫だ。後のことは私に任せてくれ』


「頭を使うところだけ任せてしまってすみません。こっちも――行きますよ」


 テーラが開発し、極秘に上層部だけに普及した通信機で通話を取るルネックスとコレム。その向こうから、大帝国を治める帝王の薄い笑い声が聞こえた気がした。


 ―――その瞬間、少年の姿が掻き消えた。


「あがっ!?」



「んぐっ……」


 適当に街をぶらぶら歩いていたシェリアは突如口に布を押し込まれ、路地裏に引きずり込まれていくのを感じた。

 さすがは大商人、使う毒もまた強力な魔物に使うタイプであり、常人は即死だ。しかしシェリアは気絶したふりをしながら色々考え込んでいた。


「よし……これで守れます」


 思わず口角を上げている男。

 あまり負けたままではルネックスに申し訳ない―――、ルネックスのパートナーとして舐められたくない―――、そう思ったシェリアは立ち上がる。


「―――何がよし、なんですか? 何を守るつもりなの、でしょうか?」


「……!? うぁ」


 後頭部の衝撃。ダイムがシェリアの意識が戻ったことを悟る前に、すでに彼の意識は無くなっていた。

 シェリアは動いていない。一歩も、だ。それなのに空気も次元も置き去りにして、仮にも少女が男の意識を刈り取った。

 でも、それは彼女にとって当たり前だ。勇者に現在一番近くで寄り添う者として、当たり前に成し遂げられるべきことなのだ。


 ダイムの忠誠心も、ここまで築き上げてきた能力も、英雄の前ではまるで無力だ。悔しがってはならない。反応の隙も無く負けたのなら、ダイムに反省も後悔もする資格はない。認めるべきなのだ、己の無力さと無知さを。


「ルネックスさん。こちらシェリアです。こちらは完了しました。毒がずいぶんなものでしてね、また耐性の無限記号が一個増えましたよ」


『シェリア君……今の君がステータスを見たら大変な事になるんだから。目が痛くなるでしょ? あと、お疲れ様。あとはテーラさんとコレムさん次第だよ』


「あのお二人なら大丈夫だと信じています。あ、そろそろ合流しましょう!」


 そろそろルネックス不足だ―――、なんていう乙女らしい言葉は強制的に飲み込み、ルネックスの頷く声が聞こえたシェリアは歩みを速めたのだった。

 大商人を味方に引き入れる。確かに難しい事ではあるが、ルネックスならば大丈夫だと思っている。何故なら第一皇女さえも、説得してしまったのだから。



 銀色の髪をなびかせて、テーラは高い研究所の頂点にしゃがんでいた。その手には通信機を持っていて、その顔はやや青い。

 高所恐怖症ではあるのだが、地上の様子を観察するためにはこの地点が一番良かったのだ。本人が良いと思っているかは別にして。

 地上では透明の姿になった約二十人ほどの男たちが切磋琢磨して研究所の中に入ろうとしている。しかし入れない。

 何故かというと、テーラがそれなりの魔力で結界を施したからである。


「うーん、これ程の魔力で手こずってるんじゃあ意味ないか。さすがに弱いな、いくらボクの結界でもひびくらいは入れてくれないと」


『テーラさん、さすがにそれは無理だと思います。あ、シェリアから連絡が来たのでそろそろ終わらせちゃってください』


「おーけーおーけー。あ、そうそうシェリアちゃんへの告白忘れないでね。この調子だと随分先になりそうだけど、人生一大事だからね?」


『わ、忘れませんよっ! は、はやく終わらせちゃってください……!』


 ぶつ、と通信が切れる。短い関係ではなく長らく友人関係が続いているので、最初は敬意ばかり言葉に表していたルネックスも友人のように会話している。

 まあ、勝負して勝率が五分五分の相手として敬語は相変わらずだが。

 テーラは切れた通信機を握ってニヤニヤと微笑み、研究所を飛び降りる。彼女は高い所から見下ろすのは恐怖だが、飛び降りるのはできるのである。


 たっぷりと時間をかけて、男たちの後ろに回り込む。ぱちん、と指を鳴らすと彼らの透明化魔術が一斉に解かれる。

 その上に着けていたベールまで魔術で外され、素顔が思い切り明らかになる。


「だ、い、けんじゃ……!?」


「ご名答だよ。という事で素顔が明らかになった君達は捕まるよ。だってここは帝王様が運営してるんだもん。そこで騒ぎを起こそうとしたんだからあとはお察しの通り。しかも狙いがボクらなら、まあ君らみたいな仕事してるんなら察せるよね。そう言う仲間、何回も見送ってきたと思うし」


「な、何のつもりだ……!」


「―――ということで」


 声を絞り出した男の言葉を無視して、テーラはにこやかな笑顔を浮かべる。数秒前のニヤニヤとは真逆の表情である。

 テーラの言葉に僅かな希望でも見出したのか、何人かの雰囲気が和らぐ。勿論テーラは後輩を狙った者達をこのまま逃がすはずもなく。


「証拠になるし、このままテレポートで帝王様のとこまで送っちゃうね。君達の未来は帝王様に握られてるけど、まあ頑張って?」


「ぁ……」


「慈悲とかボクは与えないから。勇者と英雄に喧嘩売った末路ってこと。あと私情も入れると、ボクの後輩を狙おうとした罰ってとこかな?」


 そう言いながらテーラはテレポートを無詠唱で発動させる。大人数なため、大きな魔力の波動に風がはためき、銀髪が美しく揺らめいた。

 そんな幻想的な風景を見た男たちは、声を上げる暇もなく姿を消したのだった。

 勿論、先程見た幻の光景とは真逆の真っ暗な未来へと、真っ逆さまに。


「おっしルネックス。こっちは終わったよ。告白の未来に向かって光輝こうぜ。ってことでばいちゃ~。職員たちが無事か確かめに行くから」


『て、テーラさんっ! なんてものを言い残していくんですか。テーラさーんっ!』


 今度はこちらから通信を切る。満足げに微笑んだテーラは通信機を仕舞うと、研究所の奥からルカが走り出てきたのが見えた。

 両手を広げて抱き留める仕草をすると、ルカはその中に力強くタックルしてきた。


「お゛ぐっ……!」


 まあ、これも現在となっては日常茶飯事である。ちなみに痛くはない。



 コレムはルネックス、シェリア、テーラからそれぞれ通信を貰った後は通信機を仕舞い、彼の視線は目の前に転がる二十人の男に向けられていた。

 帝王として処罰はするべきだ。しかし彼らも従っただけ。判決はとても難しいといえよう。良心と帝王としての尊厳がせめぎ合っている。

 本来ならば尊厳を優先すべきなのだろうが、コレムの中ではその尊厳のために民を容赦なく処罰していい、とは納得できなかった。


「こんな時にルネックス殿がいれば……いや、頼り過ぎるのもいけない。私自身の決断をせねばならない……」


「父上。調べ終えました。グロック殿は今回に限ってのみの悪事を働いていたようです。そのほかは誠実的に活動しておりました」


「セシリスか。ありがとう。頼んでおいたことも……」


「はい。準備を終えました。父上はこれからどうなさるつもりですか」


「かの者らの処罰について決める。セシリス、お前も手伝ってくれ」


 セシリスはこくりと頷き、メイドが凄まじい速度で持ってきた椅子に腰かける。丁度父であるコレムの隣だ。

 セシリスは王座に興味がなかった。権力に意味を見いだせなかった。

 でもこれならいいかもしれない。王ならばスリルある人生を送る事が出来る。セシリスはふっ、と笑うと、意識を男たちに向けなおした。








<準備セット登録ロード。新しい英雄の準備が完了エンドしました>


<更新アップデートします。アルティディアは待機してください>


<更新アップデート過程アップロード通信コンティニュー終了フィン>

ルネックス達も十分裏の陰謀なので、裏の陰謀でタイトルをまとめました。

まあ、陰謀をしているのは世界のシステムなんですが。

システムとの対決?それとも決着?については僕ブレでは完結しません。

次の英雄になりますね。その辺に着いては書かれませんが、いつか蛇足として書こうかな。

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