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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: load
第五章 伝説の無敵点//in全世界
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きゅうじゅうさんかいめ 魔女の森だね?

「そうでしたか。……我が姉は、しっかりやったと思いますよ。話を聞くともし自爆してなかったら、情勢が変わっていたらしいですからね。あの人は、そう言う人ですよ」


 全てを聞いたスティセリアの表情は一片も変わらなかった。出された紅茶が冷めかけたころ、彼女はコップを持ち上げて紅茶を一口啜る。

 黒魔導士はどちらかと言うと忌み嫌われている。元は此処に住んでいたグロッセリアが英雄になりに行くと言った時は、まさにバカだと思った。

 まさか成し遂げて、まさか勇者に協力した一味になれて、勇者の戦闘の状況を左右した重大な鍵になっていたとは。


「それで、話はそれだけではありませんよね、勇者様がわざわざ姉の殉職を伝えに来るわけがないと私は思っておりますが?」


「うん。……それなんだけどね、グロッセリアさんからブレスレットを預かってるんだ。聞くと、黒魔導士の頂点としての資格の証だって」


 紫の水晶が埋め込まれた、シンプルであり芯の強さと華やかさを併せ持つ神秘的なブレスレット。それこそ何百代も続いた、黒魔術の頂点の証拠。

 ちなみに黒魔術と闇魔術は違う。黒魔術とは魔女の称号を持つ者しか取得が不可能だ。今はなきリンネや魔女の才能を持ったリーシャならば、登ってこられたかもしれないが。

 しかし先ほども言った通り黒魔術は好かれていない。しかもどちらかと言うと忌み嫌われている。なので、魔女界でも黒魔術を扱おうと思う者は居ない。


 そんな黒魔術の初代発明者、グローリア・アスレイト。


 そして現代黒魔術の天才、グロッセリア・アスレイト。初代から現代にいたるまでに、それぞれ頂点に立つ者が手渡しして来た、ブレスレット。

 黒魔術の伝説の家アスレイト家の者ではないが、勇者の手渡しなら御託は十分だった。

 スティセリアは自分の術が未熟だという自覚はあった。どれだけ練習しても、グロッセリアには追い付けなかった。

 こんな自分で、いいのか。そう思いながらブレスレットを受け取る―――。


《此処には、お前が黒魔導士の頂点になるための秘訣が書いてあるよ》


《お前がワタシを追い越せなかったのも当たり前さ。だから今それを伝授しよう》


《お前はそれを扱えるだけの力量があるとワタシは思っている》


《お前が今これを見ているという事は、ワタシがこの世にいないという事だからな》


《すまなかったね、秘訣がなくては頂点に立てないのに、そのままでワタシを超えろと厳しい訓練ばかりさせてきて》


《だが分かったろう? ワタシが死んだんだ、ワタシたちアスレイト家の誇りを守れるのはお前だけなんだ》


《ワタシがこの世から消えたときお前はワタシを引き継ぐ。そう決めていたんだよ……お前は、ワタシの期待にしっかり応えてくれた》


《さあ、頑張ってくれ。改新されたこの世で生き抜け。ワタシ達の誇りを守り抜け、貫け。上で期待してるぞ、しっかりとやりな!》


 その文章の書かれた金色のパネルをスティセリアは震える手でスライドする。すると、魔導書のように魔女の秘訣がずらりと記されていた。

 こらえ続けてきた涙が、ポロリと落ちる。姉を失って悲しかった。でも家の誇りを守るしかなかった。でもそんな資格すらないと思っていた。

 他でもない、自分の愛する姉から認められた。でも、彼女は今ココに居ない。


 スティセリアがあれだけの呪いに死なずに耐えきれたのも、あれから迅速な回復が出来たのも、全てが厳しい姉の修行のおかげだった。

 ふざけるなと思った。ひどいよと思った。やめろよとも思った。強くなったら恨みを返すなんて、思ったこともある。

 でもその全てが自分を思っての行動だった。そう思うと、涙が溢れてくる。


「……僕のブレスレット、弾けちゃったんだ。その中に住んでいた、女の子と一緒に。その子も、僕に誇りを残して去ったんだ。仲間だね。もう少し力を付けて、冥界の深海部に入れるようになったら、彼らを探しに行こう」


「……っはい。……その冥界の深海部とやらは、神界を撃退した勇者であっても入れないような場所なのですか?」


「入れる。でも今の僕には資格がないと思ってる。僕が強くなかったから、みんなを守れるくらいの力がなかったからみんなを死なせたんだ。その時の力の倍くらいは付けていかないと、会いに行けないよ」


「そうですね……道理が通ります。私も……力を付けて姉に会いに行きます」


 ある者は一番の親友である大精霊に。ある者はたった一人の親族である姉に。二人してブレスレットと共にあった生活をして、二人してブレスレットと共に大切な人が別れを告げた。

 だから、ルネックスとスティセリアは分かり合えた―――。

 ―――一方、とても涙もろい性格をしているシェリアは顔面がぐしゃぐしゃだった。


 フェンラリアと長く一緒に居た仲間だ。そして、彼女も姉であるファリアを失くしてしまっている。大切な物を、失くしてしまった一人なのだ。

 感動する物語が大好きな彼女は、こんな話を聞いて涙をこぼしてしまったのだ。


「それでブレスレットも届けたけど……ちょっと興味本位で聞かせてもらいたいんだ……」


「はい。お答えできることならお答えしましょう」


「君はどうして、あんなところにつかまってたの?」


「ああ……実はこの魔女の森で変異が起きましてね。結論から言いますと、本来あるはずのない靄の魔物の出現、そしてその靄の魔物は魔王を名乗り、世界征服をしようとしている……まあ、放っておくと人間界に及びますね」


「だから名目上は此処の王である君を監禁していたのか……でもそのブレスレットがあれば、その魔王には負けないってことかな?」


「はい、恐らく負けることはありません。あれの力量は知っています。呪い以外の能力はなく、一瞬の隙を見せてしまったから監禁されたのです」


 隙を見せるなとあれだけ姉に言われたのに、とスティセリアは悔しそうに歯嚙みをして、スーツの上にコートを着た正装の服をぎゅっと握る。

 いつ着替えたかと言うと、ルネックス達に紅茶を出したときである。この服も代々継がれてきた、瘴気からの影響を少なくする効果付きのコートだ。


 秘伝の無いスティセリアと同じ力量という事は、グロッセリアの半分の力を少し上回っている程度か。それでも並の冒険者では決して倒せない。

 普通の英雄でも一人だけでは手こずる相手だろう。ルネックスでもシェリアでも倒せなくはないが、ルネックスは呪い系の相手と相性は良くない。

 シェリアの援護に回るとしても、シェリアの魔術は破壊力が大きい。靄に対する魔術を行使するのなら、破壊力重視ではなく速度重視。

 しかし速度を重視する魔術を多量に持つルネックスでは相性が悪い……。


 どれだけどの世界にも影響せず、どれだけ早くその靄を始末できるか。この二つのポイントが、どれだけの被害になるかを左右している。

 今も何人かの王になれそうな実力者が捕まっているとスティセリアは言う。本当は自力で解決したかったのだが、とも付け加える。

 ルネックス達に助けられたとはいえ、実権を握っているとは言えないものの、魔女の森を任されたのは自分なのである。

 誰の手も借りずに現れた脅威を討伐したいと思うのは至極当然の事だが。


「今回ばかりは多分君とは相性が悪い、そして僕とも、此処に居るシェリアとも。だから、伝手を使って援助を求めようと思うんだけど」


「伝手ですか……。あ、そうでした。その靄は女の子のシルエットだったはずです。髪の毛は足まで付いているとなんとか判断できました。服はスカートかワンピースかだと思います。紫の靄と違って真っ黒なシルエットなので、見つけやすいとも思います」


 スティセリアも見覚えのないシルエットが居たからこそ何とかしようと、まずは刺激系の魔術を放ってみたのだ。

 しかしそれを放つまでもなく敵意十全で反撃され、そこで隙が出来たのだろう。混乱した状態で自分と同等の敵と戦えば、捕まるのも当然の事。

 そう思いながら考え込むルネックスに、スティセリアは何かを思い出すような仕草をする。


「どうしたの?」


「ああ、あの。実は、私が三十年かけても使えなかった呪術無効の魔導書があるんです。体に纏う感じで使うんですが、私はどうしても魔力を平均的に体に纏えなくて」


「ふうん……もしかしたらシェリアが使えるかもしれない、その魔導書、持ってきてくれるかな?」


「分かりました。今日は私の家に泊まってください。姉用に部屋が余分に余ってますからお使いください。もう少し会議していきますか?」


「あ、ちょっと作戦会議。伝手の事なんだけどね、やっぱ君にも断りを入れておいた方がいいかなあ、と思って」


 姉の分の部屋にはもちろんベッドもひとつしかないのだが、それには気付かないルネックスとシェリア。そしてスティセリアまでもが気づかない。

 客を招くと言い出した者としては気付くべきである事なのだが、魔王を名乗る靄を退けられる策があると聞いて、気持ちが舞い上がっていたのだろう。

 ルネックスの言葉はいつも正論だ。それを今日、この短時間で身をもって知ったスティセリアは姿勢を正して彼の言葉を聞く。


「此処から一番近いティアルディア帝国に協力を要請しようかなあと思うんだけど」


「いくら一番近いとはいえ、この魔女の森ですよ? 開拓もされないこんな森の救援をいきなり押し寄せていいのですか?」


「大丈夫だよ。交渉はそれなりに得意でね。それに、最近生まれた勇者から直々に援助を求められたってだけで言い利益になると思うよ、ティアルディアは商人大国なんだし」


 余裕そうにそう言うルネックスのそばでうんうんと大きくうなずくシェリア。仲間への信頼、揺るぎない大きな志。

 勇者の少年は、愛する姉が命を賭けてまで補佐することに値しただろう。彼は、もっと遠くまで語り継がれるべき人物だと、スティセリアは思った。

 此処ルネックスは話を終わらせ、切り上げる。スティセリアははっと顔を上げ、姉の部屋の鍵をルネックスに渡す。


「鍵を閉めると自動的に部屋に結界魔術がかけられるようになってます。セキュリティって言うんですかね、そういうのはばっちりですので!」


「あれ、それって異世界語じゃなかったっけ?」


「ああそうでしたね。グロリアは……グロッセリアは一度だけ大賢者様に会ったことがあるんです。その時に教えてもらったそうで……」


 この家はシンプルで、一階がスティセリアの部屋、二階がグロッセリアの部屋だ。案内の必要もないため、少しの立ち話である。

 それからルネックスとシェリアは二人で二階に上がり、ベッドがひとつしかないことに気付く。

 そして同じくそれに気づいたスティセリアが階段を駆け上がり、解決策が見当たらずしばらく固まり、ルネックスがソファで寝ることとなった。


 そんなどたばたもありつつ、太陽がまた昇る頃までルネックスとシェリアが二人で魔導書の研究をする事になるのだった。

〇ル〇リのオーダーが溜まってきたせいで更新の間が空いてます。すみません。本気で反省しております。

更新させていただきました。特急の更新です。。。

これからも頑張ります。

何卒これからもよろしくお願いいたします。何せ完結が近づいてるので!

何せあと40話ほどで完結すると思われるペースですので……!あと少し、よろしくお願いしますね!(何回目)

余談ですがスティセリアは気に入ってるかもしれません(笑)

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