PEACH TARO
あるところに、おじいさん(スナ彦)とおばあさん(天)がおりました。
おじいさんは山に「しばき」に、おばあさんは、川で大豆を洗っていると、川の上流からどんぶらこどんぶらこと、大きな桃が流れてきました。
「これはいいデザートになるわ!」
おばあさんは、喜んで桃を回収すると家路につきました。
「桃か。美味そうだな」
おじいさんはそう言うと、目にも止まらぬ速さで手刀を繰り出し桃を一刀両断しました。すると中から毛の塊が現れたではありませんか。
「あらあら、立派なマヌルね」
「ああ。しっかりとしたマヌルだな」
こうして桃から出てきたマヌルは、桃太郎と名付けられ、すくすくと大きくなりました。
ある日の事、大きくなった桃太郎はおじいさんとおばあさんに宣言しました。
「たまちゃんね、鬼ヶ島にいる鬼を退治したいな〜って」
おじいさんとおばあさんは目配せすると、唐突にきびだんごを作り始めました。ある程度の数になった頃に、作り続けるおばあさんを放置しておじいさんは語ります。
「いいか桃太郎。これは狐界隈に伝わる拷問術<食うだろうか、ね、食うだろうか>と、懐柔術<きびのだんごをおれやろか>だ。覚えていけば必ず役に立つ。いいな」
桃太郎は尋常じゃない速度で作られていくきびだんごの山に戦慄を覚えながら、その技を習得していったのでした。
「こゃ」
出発して始めに出会ったのは【こゃ】です。とりあえずマスコットにはなりそうなので、きびだんごを渡して連れていくことにしました。またしばらく歩いていると猿がおりました。
「どうしてこうなった。どうしてこうなった!」
とりあえず器用そうなので、きびだんごを渡して仲間にしました。何故だかブラッシングのテクニックは天下一品です。
また歩いていくと、むやみやたらに華美な服装に身を包んだ雉がいました。
「はろ〜桃太郎さん。私を連れていくといい事あるわよーん」
色気担当がいると華やぐだろうと、きびだんごを渡してついてきてもらうことにしました。
こゃ、猿、雉を連れて一行は旅を続けます。途中でいじめられている亀を助けたり、皮を剥がされかけたウサギを巨大なサメから守ったり、頭が八つ位ある巨大な蛇みたいなのを退治したりしながら、一行は鬼ヶ島の対岸の港町まで辿り着きました。
「うーみー」
「どうしてこうなった!?」
「こゃ」
「水着買わなきゃいけないわね」
しかし、港町はやけに静かです。うちひしがれている村人に話を聞いてみる事にしました。
「対岸からやってくる鬼が、美味しい油揚げを全部奪って、まずい油揚げに変えてくんダギャ……」
「もう随分と美味いお揚げを食べてなくておかしくなりそうダギャ」
「みんなは文句言うけど、マジ美味ダギャよ?」
渡された油揚げは、妙に生臭く、においだけでご勘弁な代物でした。こうしてはおれないと、村人に鬼退治の話を相談し、船を出してもらう事になりました。
鬼ヶ島は張り詰めた、ただならぬ気配です。おちゃらけた雉ですら静かになり、ただただ、こゃが一匹だけ空気を読まずに鳴くばかりです。
と、気付いた時には顔が四角い感じの、渇いた瞳の狐たちに取り囲まれました。
「所属と階級を」
「貴様油揚げを納品に来たのか」
「嘘をつくなら撃つぞ」
黒光りする鉄の筒は、ほっておくにはあまりにも危ない気配を放っています。桃太郎は懐からきびだんごを取り出すと、魔法の言葉を呟きます。
「きびのだんごを、おれ、やろか」
すると、なんということでしょう……! 辺りの狐たちは、みるみる仲間になっていきます。おそるべし……おそるべし! 狐懐柔術!
一個大隊クラスにまで増えた仲間を従えて、鬼のボスの居城へと向かいました。
「たのも〜」
「こゃ」
「どうしてこうなった?」
「そうそう、それでね、あのスイーツが本当美味しくて……」
玉座で片肘をつき、目を閉じていた鬼のボスは、ゆったりとした動作で後ろから角を取り出すと、頭の上の耳の間に装着します。ただのカチューシャです。
「反乱か? ……油揚げを奪おうとは……。実力というものが分かっていないようだな。まとめてかかって来るがよい……」
異常なまでのプレッシャー。圧倒的な殺気。桃太郎も、マヌルな尻尾が丸まります。しかしたしか正義の為にここまで来たのです。コマンドは【たたかう】【たたかう】【たたかう】【こゃ】しかありません。
空気に耐えられなくなった仲間になったばかりの元鬼ヶ島警備隊たちが一斉掃射をし、さらには巻き上がる煙に何やら球の様な物を投げつけ、数秒後に爆発。
「やったか!」
「俺たちの勝ち……うぐぁあ!」
早すぎる勝利台詞はフラグなのです。バタバタと倒れていく四角い感じの顔の狐たち、もとい元鬼ヶ島警備隊。
「えぇぇっ!? えーい、きびだんごを……」
しかし桃太郎が差し出したきびだんごは一瞬の内に、もっちゅらもっちゅらと鬼のボスの口の中へ。
「この支配者スナコに、かようなきびだんご等、腹の足しにもならぬ」
なんという強者なのでしょう……。攻撃力、防御力、さらには胸焼けまでの耐性ですら、他の追随を許しません。吸引力は落ちる気配もありません。さすがただ一つの鬼!
「こゃ」
しかし、そこでマスコット役に徹していた【こゃ】が突然光輝くと、背中から剣を取り出します。それは道中でなんとなく倒した蛇から出てきた、なんかすごそうな剣!
「こゃ」
桃太郎はそれを受け取ると無造作に振り抜きます。すると煙は晴れ、鬼の角は割れ、いきなり形勢逆転です。なんという規格外の武器。
「すまなんだ……」
こうして鬼たちは投降し、鬼ヶ島は港町アブリャーゲの占領下となり、世界は平和になったのでした。
チベタンサンドフォックスむかしばなし、おしまい
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「たまよ、これで眠れそうか」
「うむー」
「では夜も更けた。早く寝ることにしよう」
眠れないと言っていたたまちゃんに寝物語をしていた声も途切れ、辺りは静かになった。しかし、僕の目は冴え渡る。
――あれこれ混ぜ過ぎだよチベタンサンドフォックス! ていうか僕の扱いひどくない!? なんなの……何なの! しかも明らかに知ってる人しかいないのに……昔話じゃないよ! どうしてこうなった! どうしてこうなった!?
二人が寝息を立て始め、僕は心の中で突っ込みを叫び続ける。寝れない……眠れないじゃないかー!
「むにゃむにゃ……もう……お猿さん、うるさいよ……むにゃむにゃ……」
――起きてるよね!? 心の中を読んだよね!?
僕はこうして、二人の寝息を聞きながら、朝まで眠ることは出来なかったのだった。
キタ「ねぇ、こゃって誰……? 僕は出てないよね……。ヤジさんも出演してるのに、僕はいないのかい? スナコ、僕を出してくれよー」




