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カボチャの為に、金が鳴る

「なんという硬さだ」


 僕らの攻撃に、相手はただ笑っているだけだ。銀の銃弾も効かない、物理にも強いってどんなんだよ!?


『ふははは! そんなものか! ゆくぞ、ぺポブレード!』


 葉っぱが高速回転して頭上を薙いでいく。


「どうしたら……どうしたらよいのだ!」


――スナコさんが動揺している。そんな、まさか!? どうして、どうしてこうなった!?




   **********




「とりっく、おあ、とりぃとぉ」


 今年もハロウィンだからと、たまちゃんが近所を巡りお菓子を貰い、スナコさんが回収するという綺麗な連係が完了。家に帰ってみんなで甘いものでも食べようかと話しながら帰宅したら、アパートの前には人影が。


「あ、スナコ先輩! 助けて下さい!」


 猫耳魔女仮装のレイカちゃんだった。




「また怪しい実験していたのかあの会社は」


 呆れるスナコさんに、黙ってカボチャケーキを食べるたまちゃん。アブリャーゲの会社の怪しい実験部門が、自動でハロウィンのお菓子を回収する物を開発していたら、完成した途端に何かに操られて暴走しているらしい。治安部門が対処に回ってるけど、まともに勝てないそうだ。それに……


「それに、ご町内で一番お菓子がある場所を狙ってるみたいなんダギャ!」


 僕がゆっくりと部屋を見渡すと、足の踏み場がない程のお菓子たち……。――ってうちピンチじゃん!?


「私の甘いものを奪おうとは不届きものだな」


 呼吸するかの様にお菓子を口に放りこみながら、スナコさんは立ち上がると宣言する。


「誰に喧嘩を売ったか分からせてやる」


 口の端にチョコレートがベタベタじゃなかったらかっこよかった。




「距離千……。山あいの峠道より国道に侵入。速度時速30キロ。信号で停止。かなりの安全運転を確認」


 やけに丁寧な運転でこちらに向かってくるのは……


「でっかいカボチャー」

「カボチャ……だと……」

「全自動ハロウィン式カボチャ戦車ぺポ2号です。火力は自衛隊並みを目指したそうですダギャ。……です」


 どうみても巨大なカボチャ。それが車道を原付並みの法定速度で走ってくる。いかにもハロウィンなくりぬきがされた口元目元からは砲塔が覗いている。とりあえずぺポカボチャなのは間違いない。――うちの実家でも秋口に売れるからと、何年か前から作ってたし、この前もタヌキたちと一緒に収穫した写真がメールで来てた。


「破壊していいのだろう?」

「データは取ってあるし、外側はただのカボチャだから問題ないって言ってました」

「それにしても大きいよねー」


 二階建てのアパート位、つまり僕らのアパート位の大きさのカボチャが迫ってくるって凄いんですけど。ハロウィンのイベントの一環という事にして、アブリャーゲの人たちが交通規制しながら、広場に誘導している。――微妙に言うこと聞いてるし!

 でもじわじわと明らかにうちに向かっている。と、砲塔がこちらを見て、カボチャがにやりと笑う。――補足されたっ!?


「第一射……てっー!」


 スナコさんの無線により、たまちゃんがロケットランチャーを撃ち込む。


カキーン


 カボチャの皮部分に当たったけど、跳ね返されて空に上がったロケット弾は綺麗な花火として打ち上がる。喜ぶ町の住人。


「かなりの硬さだな。……たまよ、移動してBポイントへ向かえ。私も合流する」


 狙撃用スコープから目を離すと、僕らはありったけのお菓子を背負って移動を開始した。




 お祭りなんかで使っている大きな広場に、巨大なカボチャが迫り来る中、そらさんが消防車に乗ってやって来た。


「なんか火器を使うなんて物騒な事が聞こえたから、御倉の神様の権限をお借りして借りておいたわ」


 何故か華麗にターンして停車する消防車。――やたらと運転上手いな天さん。


「来るぞ。第二射よーい……てぇーっ!」


 たまちゃんが丁寧に狙ったロケットランチャー第二射目は、くりぬいてある目の部分に綺麗に入る。さらにスナコさんが伏せていた姿勢で狙撃したライフルの弾は、何故かカボチャから突き出している砲塔に直撃。


「やった! 命中ダギャ!」


 動きを止めたカボチャ戦車に、アブリャーゲな方々とレイカちゃんが喜びの声を上げる。すると、カボチャから声が。


『ふははは……! 復讐の時成就の為に、大地よ、私は帰ってきたぁー!』


 一瞬ちらりと顔を見せたのは去年のハロウィンで封印されたはずの、何だか左手が疼きそうな人! ――まさか一年越しに復活するなんて。だからカボチャも操られていたのか。


「誰だあれは」

「誰だっけねー」


 すっかり忘れているスナコさんとたまちゃんの反応に、怒り狂ったカボチャの怒濤の攻撃が始まった。

 砲塔からは小さなカボチャが飛んできて着弾地点にジャックオーランタンがわらわらと生えてくる。さらにはツタと葉っぱが伸びてきて、振り回しながら突進。口の形の隙間から甘い香りを漂わせて、それを吸ったアブリャーゲの人たちがバラバラと幸せそうに眠りにつく。


――意外と強いぞ! 銀の銃弾も効かないし〜って、去年効いたのあったじゃん!


 空さんを振り返ると、待ってましたと消防車がエンジンを吹かし、素晴らしいドライビングテクニックで攻撃を回避しながらホースが、ノズルが、カボチャに向く。


「食らいなさい! こんな事もあろうかと給水しておいた、清水!」


 そう、お豆腐作りにかかせないそれは、我が町の経済を支えたといっても過言ではなく、大学でも歴史的価値があると教授がうんぬん〜と、僕が喋っている間に、カボチャから悲鳴が上がり、中からドラキュラ的な格好した人が水で流されて勝敗は決していた。




   **********




『昨夜ハロウィンパーティーの為に町内を練り歩いたカボチャの出し物に、アブリャーゲコーポレーションの株価が一時期値上がりしたとの事です。続いてはスポーツの話題です……』


 翌朝のニュースで淡々と語られるカボチャ戦車の話題。騒ぎに慣れた我が町の人々はアトラクションで済ませていたらしい。平和だ。


「レイカよ。珈琲に砂糖は?」

「これだけ甘いのあるのに入れませんよ!」

「甘い美味いー」


 無事に操作を受け付ける様になったカボチャ戦車は、アブリャーゲコーポレーションで回収。お礼として、カボチャのお菓子がトラックで運ばれ、ひたすら食べている最中なのだ。

 でもやけにカボチャづくしだけど、まさかこの素材は……。


「企業秘密ダギャ!」


 レイカちゃんは怪しく笑うと、続々と運ばれてくるお菓子に、一緒に舌鼓を打つのであった。イタズラもお菓子も今年は充分な感じで、僕らのハロウィンは終わっていくのだった。

※去年のハロウィンの時に出てきた方でした。今回も、説明もありません。

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