SW(すばらしく・ワンダフル)エピソードOINARI
は
るか
大宇宙
そこには
神秘が多数
ねむっている
心せよ若人達よ
大いなる危険も、
君を待っているはず
**********
「そうか。分かった」
夜遅くに突然スナコさんにかかって来た電話。僕もたまちゃんも目をこする中、電話を切ったスナコさんは支度を始める。
「スナ姉~どうしたのー」
「スナコさん今からどこかに行くの?」
僕らの問いにスナコさんは無言で窓から空を指差した。
そして今、僕は何故かチベットに仮設された発射台に。正確には発射台に設置されたメタルコャの中にいた。
「ヤジさん。いいかい? 単独で大気圏を突破、そして突入出来る改造を施し、さらにはアブラゲ砲も強化した。つまりこれはメタルコャじゃない……。メタルコャ改Ⅲだ」
広くなったメタルコャのコクピットルーム。大掛かりなシートが用意され六人が搭乗出来る。つまり、僕、スナコさん、スナコ兄、たまちゃん、キタさん、ギンコさんだ。
チベスナ基地から、色々な種類の動物たちの手で、続々と物資が運ばれて来て格納される。モニターが点灯し、スナコパパが神妙な顔で話し始める。
『では、諸君らにミッションの説明をしよう。某国の人工衛星が地球に落下する恐れがあると判明した。君たちスナギツネチームは、速やかにそれを撤去もしくは破壊し、地球に被害がない様にして頂きたい。尚、このミッションは極秘の為、他国並びに、他狐の援助は得られない。諸君らだけが頼りなのだ。皆、解ったかな』
僕以外は神妙に、でもやる気の溢れた顔で頷く。僕は未だに混乱している。――ちょっと待って……ちょっと待って……。Gに耐える訓練とか、なんかこう色々やらないといけないんじゃないの!? さっきまで僕寝てたんですけど、ねぇちょっと待って!
『作戦名:S W発令。検討を祈る。では宇宙へ!』
僕以外が、いい声でラジャーと答え、いつの間にか着せられていた宇宙服のヘルメットを装着する。
「行くぞ! 宇宙 へ」
――待って! 待って! 宇宙ですか!? 聞き間違えじゃないよねぇぇえ!
僕の叫びは、加速用のロケットの爆音でかき消された。
**********
「うちゅー」
「そうよ~。ここが最後のフロンティアよ、たまちゃん」
「そう……これは宇宙戦艦メタルコャが、お狐クルーのもと二十一世紀において任務を遂行し、未知の世界を探索して、新しい経験とお味を求め、人類未踏の宇宙に勇敢に航海した物語……」
ふわふわと宙に浮かびながら、たまちゃんとはしゃぐギンコさん。キタさんが一人で壮大なナレーションをしているけど、あんまり誰も聞いてない。そもそも話が凄い事になってますよ! むしろ、僕はもう後悔しそうな気しかしてないよ!
「目標接近までおよそ六時間」
「うむ」
何故だか、重力があるかの様にスタスタ歩いて指示を出すスナコ兄妹。僕だけおいてけぼり過ぎた……。
あちこち飛びそうになる身体と食べ物と格闘しながら宇宙食でご飯を食べ、浮き上がる身体でラジオ体操をし、段々と近付いてきた人工衛星に向かって進路を微調整。接近するとよく分かる。かなりのサイズがあるから、確かにこんな物が落下してきたらまずいね。
「これはさすがにここで砕いても、 デブリで滞留するし、太陽にでも投げ込むか」
「おーけー。じゃあスナコ、アームの操作はそこのレバーでよろしく。たまちゃんとギンコは、飛来物で大きめのサイズの物をレーザーで破壊。砕いても危なそうな物は、アブラゲ砲でふんわり包んでおいて」
「任せてー!」
「まかされた~!」
二人はいそいそと椅子の前に出てきたモニターを見ながら、同じく出て来たトリガーらしき物を引いていく。……シューティングゲームぽい。そして二人とも以上に上手い。
「キタさん、僕は……」
「スナコ! アーム速い。もっと慎重に。お兄さんフォローして」
「ああ」
――居場所が無い……。
僕は黙って、窓から見える地球を見て、本当に蒼い事を確かめていた。――あれ? なんか今、光った様な。
「よし。アーム接近。これは中々掴みにくいな」
「ギンコ、アブラゲ砲をふんわり柔らかモードに設定。人工衛星を包んで」
「はいはい」
「あの、なんかひか……」
「九時の方向から飛来物! たまちゃん、撃ち落として!」
「はいー! そ~れどーん!」
「あの……ひか……」
「掴んだぞ!」
「よし、いいよスナコ。そのままガイドビーコン方向……赤い光に従って」
「ひか……」
「ギンコ、真後ろ六時方向!」
――口を挟めない……。
そうこうする内に、巨大な油揚げで包まれた人工衛星は、メタルコャのにくきゅうアームに捕まれ、ゆっくりと移動を開始した。
「よーし、よしよしよし。そのまま太陽の方へ向かわせるからね。スナコそのまま固定で」
かなり神経を使ったらしく、スナコさんにしては珍しく汗をかいている。そしてみんながほっと一息ついた時だった。
――突然の衝撃。
――スナコさんが、アームから外れかけた人工衛星を必死に制御する。
――たまちゃんとギンコさんが、至近距離にまで来ていて気付けなかったデブリを攻撃する。
――キタさんが必死に機体の制御を行いつつ、状況を把握する。
――スナコ兄が、叫ぶ。
そんな中で、コクピットの後方部をかすめた何かは、メタルコャの外部装甲を一部破壊。端にいた僕を引っ掛けて反対側から宇宙へ飛び出していく……。
――つまり、僕は宇宙空間へ何かと共に勢いよく……。
「しまった! ヤジさんが!」
みんなの顔が驚きに染まるのが見える。僕は勢いで上手く閉じたヘルメットの中で頭を打ち付け、意識が無くなっていくのが分かった。離れていくメタルコャの中で、スナコさんが必死に叫ぶのが見えた。
**********
あれからどれ位の時間が経過したのだろう。目を開けると地球の蒼が遠くに見える。僕を引っ掛けたままの何かはどんどんと離れている気がする。このまま僕は違う星にでも行ってしまうのか。その前に僕が星になってしまうのか。酸素残量は意外にあるみたいだけど、時間の問題だ。
――ああ……。スナコさんのブラッシングは誰がやるんだろう。たまちゃんの癖っ毛は中々直らないんだよなぁ。スナコ兄もお風呂乱入してくるけど、スナギツネモード泡立ちいいんだよな。キタさんはいつまで僕をヤジさんと呼ぶのだろう。ギンコさんは、実はああ見えて結構雑な部分が……。
――駄目だ! 死ねるかー!
僕は自分を引っ掛けている何かの全貌を見ようと、ゆっくりと顔を向ける。
――目が合った。
呆然としている僕をそれはじっくりと見詰め、脳内に話し掛けてくる。
『コャァ』
――嘘だぁぁぁぁあああ! こんな宇宙に、【狐】がいるかぁぁあああ!!
目の前のそれは少しずつ光を抑えて、全体像が見えてくる。巨大な狐の様なもの。目玉だけでも小さな車くらいはありそう。その狐の爪が僕の宇宙服に引っ掛かっている。そして爪が動きゆっくりと、僕を口元に運ぶと……。
――あぁぁああ、ちょっと待って! 待って!
僕は巨大な口の中に放り込まれた。
**********
「いいから行かせるんだ! 私は 番 だぞ!」
「落ち着くんだスナコ! 今、管狐艦載機を用意してるから待つんだ!」
「たまちゃんも行く!」
「私もダーリンの為なら、宇宙へ飛び出すわよ!」
「落ち着け」
応急処理で穴を塞ぎつつ、必死に対応を練っている一行。人工衛星は先の衝撃で、上手い具合に太陽へ直進する移動エネルギーを得てくれたので放置である。そんな中……。
「ん……レーダーに反応! 何かが急接近して来てる! 何かに捕まるんだみんな!」
高速で接近した何かは、メタルコャの直前で慣性を無視して急停止。そして……。
『コャ』
全員の嘘だろうという叫びを無視して、メタルコャごと口の中に放り込んだ。
**********
皆が気付くと、そこは洞窟の様であった。メタルコャはまるで格納されているかの様に、無事に収まっている。何だか分からないまま、奥に光源を見付け、厳戒態勢で進む一行。そこ見たものは。
「うむ。それは王手だな」
「いやー強いな~。あ、みんなこっちこっち」
持っていた武器を取り下ろす一行。そして叫ぶ。
「ニンゲン! そして、え? あ? スナ姉?」
「ダーリン無事だったのは見ての通りだけど、どういうことなの? そこのスナコそっくりなのは?」
「似ている……」
そう、何故か将棋やら五目並べやらトランプやらをしている【僕】とスナコそっくりの人物である。
「なんかね。宇宙をあちこちさまよっていたらしんだけど、地球の文明とか気になってたらしいよ。で、僕の記憶からとりあえず話がし易い様にってスナコさんの姿になったみたい」
「ああ、流石に私の本体のままでは話をする事は困難を極めるからな。この姿を使わせてもらった。君がスナコか。すまないな。ああ、そうだ。私は先ほど君たちの船を壊してしまった様だね。私も地球に降りてみたい事たし、このまま地球に連れて行ってあげようと思うがいかがかな? もちろん、偽装して人類には見付からない様にしようとは思う。む? 何故皆黙るのだ? やはり私のしゃべり方に問題があったのだろうか。だとしたら謝罪する。すまない」
ペラペラとものすごい勢いで喋るスナコもどきに、全員が呆気に取られ、そして叫ぶのだった。
――どうしてこうなった!!
**********
その日、綺麗にチベットのチベスナ基地へと降り立った謎の物体に、付近一体の動物たちは仰天した。どうやら【人類には】偽装していた様だが、動物たちにはそのままだった様だ。
そして口が開いて中からメタルコャがゆっくりと現れた事で、一気に歓声が広がった。
「みんなお疲れ様。よくやってくれた。ところでスナコや。そこにいるそっくりさんはどなたかな?」
みんなを労いながら、出て来たスナコもどきに混乱するスナコパパに、本人が答える。
「お初にお目にかかる。私はそう……スナコもどき……もとい十部フノコとでも呼んでもらおう。よろしく頼むぞ」
辺りは再び大騒ぎになった。
「たまちゃん、私思うんだけどね」
「ギンコ姉どしたの?」
千部スナコ(ちべすなこ)
十部フノコ(とべふのこ)
「妙に文字が少ないというか、なんか画数が足りないというか……。どう考えても、やっぱりパチモノというか、もどきよね……」
「あ、うん……」
二人は、何故か巨大なサメの姿になっていた十部フノコ本体の前で、溜め息をつくのであった。
後日、一部の観測レーダーにばっちり映ってしまった映像に、巨大なサメの姿があった。それについては、十部フノコ殿がこの様に語っている。
「ああ。新しい記憶の中で、最近見た”サメえーが”というのがあってな。あれならば宇宙から降下しても問題ないのだと記憶していたぞ! なんだ? 何か問題があったのか?」
スナギツネ組が『映画のプロモーションです』と、内外に触れ回って物議を醸す事は無かったという




