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狐独のグルメ

「OH! 中々の歓迎だね」


 目の前で、暴れ狂う銃弾の嵐の中を二人は軽やかに避けながら走っていく。しまいにゃ空中で何回転かして避けているし……。


「HAHA~! 今回も随分と熱いねースナコ」

「ああ」


 そうして敵を屠っていく二人に、僕はただただ口をあんぐりと開けるしか無かったのだった。


――どうしてこうなった!




   **********




「コャヌ! コャヌじゃないか!」


 講義を終えて、さぁ帰ろうかと大学の構内を移動していたら、ベンチに座って俯いている背の高い男の人が。若干不審な感じを受けてしまい、警備員を呼んだほうがいいか悩んでいたら、スナコさんが声をかけながら近付いていく。――お知り合い?


「OH……。スナコ……」


 くたびれている……。やけに人生に疲れたかの様な気配だ。未だに怪しげな視線を送る僕に、スナコさんが教えてくれる。


「世界的な映画スターの、コャヌ・リーヴスだ。見たことがあるだろう?」


 あー、幾つか作品見た事あったはず。でも、こんなうらぶれた感じというか、覇気の無い感じじゃなかった気が……。スティーブンなコャ―ルさんは近付いただけで切れそうな気配だったというのに。


「ところで、こんな所でどうしたのだ? 撮影は来週からじゃなかったのか?」


 どうやら、スナコさんと一緒に来週から撮影のスケジュールがあったらしい。相変わらずさり気なく凄いし、どうやって大学に普通に通っているのか謎なスナコさん。


「そんな訳で、ちょっと観光しようかと思ってね。行きたいお店が幾つかあるのだけど、ちょっと場所が分からなくてさ」


 そう言って、メモを出してくる。スナコさんとそれを見てみると、ラーメン店A、ラーメン店B、C、寿司屋A、ラーメン屋D……――ってこれほとんど全部ラーメン屋さんじゃないかー!


「相変わらず大好きなのだな」

「もちろんだよ! 日本に来たら、三食食べてもいい位さ!」




 というわけで、なし崩し的に僕も一緒にラーメン屋さんを回る事に。流石に全部を食べるわけにはいかないから、場所を確認するだけのお店も。それにしてもよく食べるなぁこの人たち。大体トッピング全部乗せで完食。スナコさんも一緒になって全部乗せ。僕はそこまで何件分もは無理だ。でも、コャヌさんは楽しそうに食べたり、写真を撮りまくっていた。


「いやー。いいねラーメン屋はね。ところでスナコ。さっきから僕らの後ろをついてくる彼らは何なのかな?」


 食べ終わって歩いていた裏路地。振り返ると、いかにも怪しげな風体の男たちが後ろを塞ぎ、気付けば前も塞れる。


「貴様、さっきの店で油揚げを乗せたな」

「うん。乗せたね」


 何故か驚愕の空気が流れる。そして左右の男たちと目配せすると、先頭の男が雰囲気を変えて、銃を抜き放つ。


「ならば戦争だ!」

「うわーなんていうアトラクションなんだい? スナコ~!」


 僕は慌てて壁に身体を押し付けて弾を避ける。でも、二人は……。


――えぇぇええええ!?


 何故かものすごく綺麗な側転をしながら、空中で抜き撃ちして、相手を一人ずつ倒すスナコさん。コャヌさんも、嬉しそうな悲鳴を上げながら走り、壁を駆け上り、そのまま相手にキックやら、そこら辺のゴミ箱のフタを投げて応戦している。率直に言ってスタイリッシュだ。合間に光ってすら見える。


「よし、突破口は開いた。行くぞ」

「いいねいいね。ラーメンがまた食べたくなっちゃうね」


 ノリノリでこの場を駆け抜けていった……。




 その後も、何故か突っ込んで来るトラックを巧みにかわし、ヘリコプターから狙撃されるのを撃ち落とし、川から上がってきたワニも倒して、僕らは最後のラーメン屋にたどり着いた。


「スナコさん……。さすがに今日は激しくない?」

「さぁ、どうなのだろうな」


 意味深な笑みを浮かべるスナコさん。


「HEY! 二人とも急いでくれたまえ。ラーメンが伸びてしまうよ!」


 まだ注文もしていないのに、ハイテンションのコャヌさんであった。




   **********

 



「えぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


 たまちゃんがこの世の終わりの様な顔をしてスナコさんの服にしがみつく。


「なんで教えてくれないのー! なんで呼んでくれなかったのー! うわぁぁぁあああ!」


 たまちゃんはコャヌさんの大ファンだったらしい。あの日は動物園に呼ばれていたので会えなかったのだった。本当に子供の様に泣きじゃくるたまちゃん。


――知ってたら、サイン位もらっておいたのになぁ。


「へいらっしゃーせー」


 今日は三人で、回らないちょっとお高めなお寿司屋さんに来ていた。スナコさんの映画のギャラが早めに振り込まれたらしく、スナコさんのおごりで贅沢をしにきたのだ。それにしても、撮影予定と言っていた週に、普通に大学で講義受けてたけど、いつ撮ってたんだろう。


「たまよ。また機会はあるさ。親父、私は本日のおすすめで」

「……うん。あ、たまちゃんもそれで」


 ――僕はどうしようかなと思っていたら、横から声が。


「タイショー。ハマチで。やはりハマチは外せないね」


 ニコニコした顔で、当たり前の様に注文しているコャヌさん。もう一度、ハマチは外せないと呟いている。――あれ? 帰国したはずじゃ……。


「今度は観光だよー。この味がまた食べたくてね」

「うわぁぁあ。本物だ! あ、あのサインお願いしてもいいですか!?」


 たまちゃんが凄くキラキラした顔でコャヌさんを見詰めている。いいよいいよと、寿司が握られている間にサインをさらりと書くと、一緒に写真まで撮ってあげるサービスが素敵なコャヌさん。


「わーい。動物園で自慢しちゃうぞー。宝物にしちゃうぞー」


 キャッキャとはしゃぐたまちゃん。そこへ、するっとまた二人お客さんが。


「相変わらずハマチかコャヌ。親父、茶わん蒸しとマグロの刺し身を頂こう」

「同じものを頼む」


 コャールさんを伴って、スナコ兄までやってきた。


「コャヌよ、久しぶりだな。知っているか? ここでは裏メニューの油揚げを炙った物が絶品だぞ。醤油だけで頂くと得も言われぬ素晴らしさでな」


 スナコ兄が当然の様に、驚きもせずに挨拶をして注文する。


「なんだって! そいつは頼まないと。T国ホテルじゃ、油揚げまでは食べられないからね」


 そういって、ちょっと短い尻尾を出して大喜びで頼むコャヌさん。


――この人も狐界隈かー!?


 僕の叫びは、出汁巻き玉子が焼ける音と、お茶をすする音に掻き消されていくのだった。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

ヒロインのスナコ嬢。ハードボイルドである。 画伯:樹里様 (http://http://mypage.syosetu.com/475935/)


「映画『TONKOTU チャプチャプだぁ2』は、主演コャヌ・リーヴス。ヒロインを千部スナコでお送りするアクショングルメバトル映画だ。孤独にラーメン道を突き進む主人公の元に、謎の女性が現れて……。

 ラーメンも、バトルも、恋愛じみたものも楽しめる意欲作の二作目。大好評上映中!」


「TONKOTU2見たけど、あのヒロインと一緒に常に写ってる男性気になるよな。影が薄いんだけど、常に画面にいたぜ」

「あれが、きっと事件の謎を掴んでるんだよ」

「いや、あれこそがラーメンのスパイス的な……うんぬんかんぬん」


 後日、この間の珍道中が実は全て撮影されていたと分かり、僕は頭を抱えた。急遽、なし崩し的な撮影開始になっていたらしい。何故か僕もそのまま写っているのだけど、一切説明は無い。謎のキャラとしてひっそりと話題に上ったらしい。たまちゃんに羨ましがられたのは、いうまでもない……。


 それにしても、スナコさん。撮影時のこれ凄い気合だ。耳と尻尾隠せたのか……。

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