注文が多いだろう専門店
『当店は大変注文が多い専門店の為……』
――これはまずい! まずいよ!
僕がそこに書いてある文言にあわあわしている間に、スナコさんも、たまちゃんも、お腹が空いたと扉を開けてしまう。
「ほう。履き物を脱ぐのか」
「丁寧なお店だねー!」
――ヤバイヤバイ! 僕が知っているお話だとこれ絶対やばいって!
「クリームもあるな」
「塩も……」
――うわぁぁあ! どうしてこうなったぁ!
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「あ、外した」
「今のは狙いは大分良かったぞ」
僕とスナコさんにたまちゃんは、休日を利用して山に来ていた。僕が空気銃をきちんと扱える様に。そして害獣扱いの鹿とかを狩り、可能なら美味しく頂いてしまおうという色々な狙いがあるのだ。
スナコさんなんか、鹿の横っ腹に二三発入れてしまいたいと、シャドーボクシングしながら僕に語る。
「ターンターン&くるくるドタッと行くといい具合だ」
シュッシュッとパンチの動きをしながら、何故か側転して伏せを入れている。――相手に与える攻撃だかなんだが分からない。でも、横で真似しているたまちゃんも楽しそうだし良しとしよう。
あれから、僕がメインで空気銃を撃ちつつ、スナコさんが栗の皮や、石を投げて鳥を落とし、たまちゃんが犬の様に獲物を拾いに行く。――何かがおかしい。
「この位獲れば良いだろう」
「うむー」
血抜きもしっかりと行い、持ってきたクーラーボックスには中々の戦果。
「鹿はいなかったね」
「うむ。しかし、そろそろ暗くなってきたし野宿をするか下山するかだな」
「たまちゃんそろそろお腹空いたよー」
集中していたからか、いつの間にかいい時間だ。お昼は持ってきたおにぎりを軽く食べただけだし。風がどうと吹いて来て冷え込んできてる。携行食料を温めようかテントを設置しようかと悩んでいる時に、ふとそれを見付けた。
『リストランテ YAMANEKO』
「ほう、こんな所に料理屋か」
――意外とひらけていた山だったのか。でもだいぶの山奥なんだけどなぁ。
「なんか書いてあるよー!」
『当店は大変注文が多い専門店の為、お客様には御迷惑をお掛けする事もあるとは存じますが、何卒御容赦下さい』
「ほう。人気店の様だな」
「すごいねぇ」
――ちょっと待って……。ちょっと待って! 僕は嫌な予感がビシバシしている。これあれじゃないですか、有名なお話の、お客が食べられちゃうあれじゃないですか!?
二人は何も気にせず入ってしまった。
僕も慌てて後を追って入ってみると、清潔で暖かな店内。その暖かさに少しほっとしていると、随分としっかりした靴箱があった。
『お履き物はこちらへ。ブラシをお使いの方はこちらを御使用下さい』
用意されていたふかふかの毛皮のスリッパに履き替えて、扉を開けて進む。スナコさんとたまちゃんを折角なので軽くブラッシングしておく。――なんだ……あれはお話の中だけだよね、大丈夫だよねと、何の気なしに僕も二人に続いて進む。
『貴重品はこちらへ。また、服もこちらのロッカーへ。男性は右手、女性は左手です。』
男女別れた扉があり、その先には暗証番号も設定出来る立派なロッカーが見える。
「では、たまよ。行こうか」
「ニンゲン後でねー」
――何故、脱衣所があるのか。二人は何の疑問も無く行ってしまった。僕がおかしいんだろうか。疑いを持つ僕が悪いんだろうか……。
もやもやしながら、服を脱いで扉を開けるとそこは……。
――なんでお風呂!?
呆然としている僕の耳に、二人の声が聞こえてくる。
「ほう。クリームもあるな」
「塩も……」
慌てて見ると、浴槽に入れる様に岩塩があり、さらには保湿クリームとしてシアバター入りの随分と良い物が用意されている。
――大丈夫なんだろうか……。大丈夫なんだよね!?
こわごわとお風呂につかり岩塩を入れて暖まる。ヒマラヤ産岩塩とか書いてあるし、やたら高級な気配がする。何やら落ち着かず、慌てて浴槽を出て一応クリームを塗っておく。と、出口のドアに紙が貼ってある。
『クリームをよく塗りましたか? 耳にもよく塗りましたか?』
――来たぁぁぁあ! やっぱりこれ来たよぉお!
でも耳は乾燥するからクリームは塗っちゃう僕だった。
――もしも……もしも僕らが食べられるかもしれないならば……。僕が二人を守らないといけない。二人とも油断しているし、僕だけでも気を引き締めて行こう。そう決意して扉を開けると、何故かタキシードが用意してある。
「ドレスコードがあるとは随分高級な店だな」
「たまちゃんサイズもあるよー。すごいねー」
聞こえてくる声に慌ててタキシードを着て部屋を出ると、ドレス姿の二人がいた。真っ赤なドレスを着こなしたスナコさんはやたらと似合ってるし、たまちゃんもお子様サイズなのかピッタリなサイズの淡い紺色のドレスを着て待っていた。
『大変長らくお待たせ致しました。大変注文が多くお疲れ様でございました。どうぞこちらをお召し上がり下さい』
三つのグラスに注がれた飲み物。何だか酸っぱい香りがする。――これあれだー! 今度こそ酢だー! これで僕らが【お召し上がり】されるんだぁー!
「うむ。良いワインビネガーだな」
「ちょっと喉に来るけど美味しいね」
――食前酒かいっ!
突っ込みが追い付かない僕が、手をバタバタしていると、厳かに大きな扉が開く。――ああ……ああついに!
「いやー美味しかったねー!」
「まさか、こんなにいい店があるだなんてな。む、会計はカードで頼む」
かしこまりましたと、綺麗な角度で礼をしてボーイさんが下がる。四十五度の完璧な礼だった。
山の幸を活かした前菜に、ジビエを使ったメインディッシュ。デザートには季節の果物だけで無く、手作りのジェラートも出てきて大満足だった。
「お帰りはこちらからどうぞ。まさか、初めてのお客様が、あちらの入口からいらっしゃるとは思いませんでした」
僕らが入ってきたのは、常連さん様の入口だったらしい。それにしてもお客さんも色々な方がいたけど、なんかたまちゃんのお仲間さんが多かった様な……。よくニャーとか聞こえてし。
来た時とは別の出口に案内されると、立派な白いレンガ作りの玄関があり、そこを抜けると麓までの送迎バスまで用意してあったのだった。
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帰宅してから調べたら、[ぐるめらんきんぐ]上位のお店で、ミシーランヌの星も取ってる有名店だった。
何故か我が家のこたつで勝手にくつろいでいたギンコさん曰く。
「私も前にロケで行ったんだけどね。オーナーが山猫さんなのよ〜。よく予約無しでいけたわね。お風呂とかもついてるし、高級なサロン状態なのよねー」
――ひたすら紛らわしいだけだった! もっと楽しめば良かった……。
狩猟免許に関してはかなり細かくあるので、省いて書いております。
また、栗の皮・投石で狩猟を行う場合、免許は要らないはずです。
(そもそも、狐や猫が狩りをするのはフリーダムです)




