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初売り大戦争

「手を放すな!」


 僕は必死にスナコさんの手に掴まると、力を込める。でも、たまちゃんが!


「うにゃぁぁあ! スナ姉! ニンゲン! にゃぁぁぁ……」

「たま!」

「たまちゃん!」


 僕も、スナコさんも手を伸ばしたけれど、たまちゃんは波に飲み込まれていった……。


「くっ……なんという場所なのだここは」


――チベットの狩人であるマヌルネコも勝てないだなんて……。僕らは、気を引き締めると、必死に波を乗り越えて先へと進むのだった。どうしてこうなったのか……!




   **********



「隣の駅前のデパートで初売りイベント?」

「そそ。なんとね、各フロアで一枚ずつ引換券を集めて、何枚か貯まったら六階の屋上で豪華景品に交換も出来るそうなのよ」


 僕の部屋で、もしゃもしゃとお雑煮を食べながらギンコさんが話してくれる。何でも、今度お仕事で入る事になったデパートでそんなイベントをやるそうだ。しかも、ギンコさんはお仕事の後にその景品はもらえるそうで、余ったチケットを三枚分けてくれた。


「どうせ大した景品ではないのだろう」


 ブランド物のバッグとかに一切興味の無いスナコさんは、我関せずと焼いた餅をお汁粉に入れて食べている。


「それがねー。幾つかある中にはね、高級料亭で出している油揚げの詰め合わせもあるのよ」


 炬燵の上に置いたカセットコンロが飛び上がりそうな勢いでスナコさんが立ち上がる。


「ふぉれはいかねふぁ!(それはいかねば)」

「ふぉうだふぉうだー!(そうだそうだ)」


 たまちゃんも、顔中をきな粉餅だらけにして喋るもんだから、辺りにブワッときな粉が飛び交う。


「もー。あんた達落ち着きなさいよ~」


 ギンコさんのツッコミにも、二人の熱意は下がらなかった。




「何だか、凄まじい事になってるよ……」

「ここまでとはな」


 駅の改札辺りから、やけに人が多いなと思ったら、その全てが集結してる位の勢いでデパートの前には人だかりが。


「開店は三十分早めて、九時三十分を予定しておりますー!」


 デパートガールな格好のギンコさんがメガホンで案内している。時刻は既に十分前だ。


「もっと早く来ないと駄目だったかねぇ」

「まさか三十分前行動でも駄目だとはな」

「スナ姉、前見えないー。抱っこしてー」


 そうこうする内に、デパートの入口にある大きな時計が時を刻んで、残り一分。辺りの殺気が上がっていく。――殺気!?


「九時三十分になりました! 新年明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願い申し上げます。開店で……キャー!」


 ギンコさんの言葉を待たずに、一斉に店内へと向かうお客達。主婦の方々がほとんどのはずなのに、それはもう戦士の群れの様だ。口々に自らの望みの品を呟く様は士気を鼓舞するウォークライの怒号。地鳴りか何かの様だ。さすがにスナコさんですらちょっと引いている……。


「ぼ、僕たちも行こうか」

「そ、そうだな」


 周りに押される様にして進んでいたのだけど、入り口に差し掛かった辺りで一気に人の密度が濃くなる。そして……。


「あ、たまちゃんが!」


 押された拍子にスナコさんに抱っこされていたたまちゃんが、人の波の上にまるで荷物の様に跳ね上げられる。手を伸ばしたのも間に合わず、ボールが連続でトスされるみたいに、店内に運ばれていった。


「うにゃぁぁあ! スナ姉! ニンゲン! にゃぁぁぁ……」

「お子様の手は、その手は! 絶対に離さないで下さい!」


 本当に戦場か何かの様に、ギンコさんの声が辺りに響いた。





 その後、どこかに運ばれてしまったたまちゃんを探しながら、化粧品売場や、食品街を駆け抜け、三階にようやく到着した。そうしたらちょうど店内アナウンスが。


『迷子のお知らせを致します。只今、四階おもちゃ売り場にて、もふっとしたお洋服をお召しになった、十才くらいの、にゃあと鳴く女の子をお預かり致しております。お連れ様は至急おもちゃ売り場までお越し下さいませ』


 ――まさか……それって……。


 化粧品の匂いで随分とやられているスナコさんを振り返ると、僕を見て頷く、


「おそらく、たまだろう」


 行くぞ、とフラフラしながら進むスナコさんに手を貸しながら僕ら二人はエスカレーターを目指した。




「うわぁぁぁん。スナ姉! ニンゲン! 寂しかったぁぁぁあ!」


 完全に小さい子扱いされて、棒付きのキャンディまで貰っていたたまちゃんと合流。迷子センターのお姉さんに見送られながら、僕らは決意も新たに歩みを進めるのだった。




「ここか」

「すんごいね……」


 何故なんだ……。ようやく辿り着いた屋上は、アスレチックコースみたいになっている……。沢山の御婦人方に混ざって、休日のお父さん達がぜーはー言いながら必死に進んでいる……。


 あなた! 絶対に取ってくるのよ!とか、俺はもう無理だ……。息子よ……俺は良い父親であっただろうかとか、まだだ! まだ終わらんよ! 等と、色々なドラマが繰り広げられている。


「チケットの枚数分チャレンジ出来ますよー」


 と言って案内している係員にチケットを渡していざ挑戦。


「途中までは共通となっております。最後のウォールチャレンジは、普通・上級とコースが分かれております。上級コースならあの頂上の旗を取ったらクリアですー。普通コースは、あちらでーす」


 スナコさんもたまちゃんも上級をやる気満々だ。――僕は普通コースにしておこう。


 水に落ちない様に飛び石を渡り、網をよじ登り、スナコさん達と分かれ普通コースへ。

 そびえ立つ岩肌に指をかけて登り、上から降ってくる岩(発泡スチロール)に耐えて僕は頑張った……。――って普通コースでこれかぃっ! 


 横で「ファイト〜いちげーき」と、強引に進んだどこかのお父さんが悲鳴を上げて落下し、下にあるマットに受け止められている。――割りと高いんですが……。

 休憩スポットに到着して、上級コースを見てみたらさらに苛酷で僕は目をひん剥いた。


「スナ姉! 手を伸ばして!」

「たまよ……。私はもう駄目だ……」


 普通コースの壁は、垂直よりも、ちょっとだけ奥側に傾いた上り坂位の壁なんだけど、上級コースは、逆の傾斜。八十五度位と言ったらいいんだろうか……。つまり、手を放した瞬間に落ちる感じ。ボルダリングとか、ロッククライミングの上級クラス。

 二人は命綱を使って、必死に登っていた。勿論ご婦人方は、早々にリタイアだ。


――一体どんだけ難易度上げるんですかぁぁぁ!!


 僕の叫びで、力が抜けた二人が落下。でも、二人はまた挑戦する為に係員のもとへ。辺りのお客さん達から応援の声が上がっている。そんな中二人は、気合の入った目で進んでいった。あれは戦士の目。僕も負けていられない。僕も休憩スポットを出ると必死に登っていった。




「おめでとうございます! 本日初めてのクリアです!」


 おぉ~というどよめきと共に、熱い拍手がこだまする。僕も普通コースをどうにかクリアしたのだけど、スナコさんとたまちゃんも、ボロボロになりながら辛うじてクリアしたのだった。


「では、是非感想を」


 マイクを向けられた二人は、口を揃えて答えるのだった。


「チベットよりもきつい」




   **********




「いやー本当に疲れたね」

「あやうくスナギツネモードになってしまうところだった」

「たまちゃんお腹空いたー」


 ようやく家に辿り着いて、無事にゲットした景品で早速ご飯にしようと、箱を開ける。僕は油揚げ詰め合わせ(並)で、二人は油揚げセット(上)だ。随分と豪華な箱に、綺麗な包装で期待が高まる。しかし、僕は気付いてしまった。箱の右下に小さく印字されている文字を。


【アブリャーゲコーポレーション謹製】


「ダギャぁぁぁぁあ!?」

「だーーーぎゃーーー!?」


 思わず彼らの台詞を叫んでしまったのだった。どうしてこうなった!

「ギンコどういうことだ!」


 電話で激高しているスナコさんに、ギンコさんが答えるのが聞こえる。


「支店名入ってるでしょ? ダギャさん所でも、あの支店だけは本気で美味しいのよ。私食べてから気付いた位よ。あれならレイカちゃんに聞いてみなさいよ」


 レイカちゃんに電話してみると……


「何か、あの支店だけ物凄い評判がいいんですよー。職人さんも凄い気合入ってるみたいなんです。支店長が、【異世界帰り】とかよく分からない噂もボク聞いたんダギャ。あ、聞いたんです」


 確かに食べてみて非常に美味しかった。でも、顔がスナギツネ顔になるのは止められないのであった。

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