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Daily fox トロット

挿絵(By みてみん)

「こう、緩急をつけて踊るのだ」


イラストは、ニセオジロ様作(@niseojiro)

「スナコさーん、そっちチェック終わったー?」


 離れた所から、うむと、返事が返ってくる。


 冬休みはまだ続いているのだけど、こうして自分達が扱っている作物なんかを見に来るのは、ここの学生の宿命の様なもの。――まぁ、スプリンクラーとかで水はきちんと撒かれるし、動物たちのご飯も定期的に誰かがやってくれてはいるのだけど。


「じゃあスナコさん。動物たちも見たら帰ろっか」

「そうだな」


 チベットでナキウサギを増やしたり、土壌を改善して油揚げの製造をしたいという、壮大な野望を抱いているスナコさんは、大学でもそんな感じの事をやっている。その一環としてウサギの飼育もやってはいるのだけど……。


「うむ。やはりデルタ(D)は面構えがいい。フォックストロット(F)は動きがいいな。優雅だ。ブラボー(B)はやんちゃだが、よい筋肉だ」


 ――どうして『NATOフォネティックコード』で名前付けてるんだよ!?


(※作者注:Aがアンディーとか、Bがブラボーとか、音でアルファベットの頭文字が分かるという物です。軍隊物の映画でよく使われていますね)


 名前を付けたら、後々食用にする時に、食べるのが辛くなるというのだけど、スナコさんは問答無用で食べそうだ。しかし、凄い名前だよね……。


「ちなみに、フォックストロットとは、社交ダンスで緩急つけた動きでな」


 何故か実演してくれるスナコさん。本当にこの、器用すぎる。そんなこんなで片付けながら、僕らは大学を出たのだった。




「ご飯どうしようね」

「最近、お稲荷ファーストフード店が出来ると聞いたが、そこはまだオープン前か」


 何かに侵食されて来ている気がする我が町。しかし、お稲荷ファーストフードってご一緒にポテトでも付けてくれるんだろうか。


「あ、危ない!」


 T字路で横断歩道を渡っていると、横合いからトラックが突然突っ込んでくる。――しまった。これは……避けられない!?


 僕を横から抱きかかえると、スナコさんは対岸まで一気にジャンプ。悠々と回避。


「ありがとうスナコさん」

「うむ。ハーレムを作らせる訳にはいかないからな」


 ――危うく異世界転生してしまう所だった。既に動物の雌の方々にはモテモテな気がするけど、確かにこれ以上増えては僕のブラッシングが間に合わない。


 それにしても、あのトラック。運転席に誰もいなかったみたいだけど、壁に激突しちゃってひどい状態だ。一応警察を呼んでから僕らはその場を後にした。




「あ、そうだ。お金下ろしてなかった。銀行寄っていい?」

「うむ」


 お正月で結構買い物したのを忘れていた。そうして、銀行に入ってお金を下ろしていると怪しげな二人組が入ってきたのが目に入る。スキーとかで使う、目と鼻だけが空いたマスクを被った男性みたいで、何だか筒状の物を天井に向けながら叫ぶ。


「おーし! てめぇら全員動くな!」

「警察は呼ぶんじゃねーぞ! さっさとこれに金を入れろ!」


 銀行強盗に遭遇した様だ。ザワザワと不安そうなお客さんや行員達を静かにさせている犯人達。その間に椅子に腰掛けて待っていたスナコさんは、気づかれない様に、匍匐前進で僕に近付いて来ていた。


「……スナコさん大丈夫? そして何か武器持ってる……?」

「……今日は栗の皮も、銃もないぞ……」


 こっそりと小声で喋っていたのだけど、気づかれてしまった様で、犯人達に銃を突きつけられる。


「おおっと! そこの存在感の無さそうなニーチャンに、やたら目つきの据わったネーチャン! 怪しい真似するんじゃねーっぞ。ちゃんと両手を上げて立ってろ」


 言われて、アメリカ式の肘を直角に曲げて手を上げるスナコさん。


「そうじゃねーよ! ちゃんと日本式にしろよ! ほらバンザイ!」

「おお、すまない。バンザーイ」


 無表情でバンザイするスナコさん。シュールな絵面だ。でも、それが気に食わなかったのか、犯人が銃の撃鉄を上げて撃とうとする。――危ない!


「すまない。まだ営業時間だと思うのだが」


 そこへ無造作に入って来たスナコ兄。思わず銃をスナコ兄へと向けて、犯人が叫ぶ。


「今、お取り込み中だ。出直しな」

「そうか。だが俺も生憎と時間が無いのだが」


 お兄さんは普通に返してるだけなんだけど、どう見ても挑発している様にしか見えない。他の銀行のお客さんや行員も固唾を飲んで見守っている。


「えぇーいうるせぇ! とりあえずそのサングラスを外して、てめぇも手を上げな!」


 いいのか? というお兄さんの声が聞こえた後、ゆっくりとサングラスを外すと、そこにはつぶらな瞳。銀行の中全てが何だか優しい空気に変わる。


「ほら外したぞ。これでいいか」

「あ、はい。ゴメンナサイ」


 分かればいい。それと、銃はちゃんと締まっておきなさい。そう、お兄さんに言われて、素直に言うことを聞き、正気に戻った行員に取り押さえられる犯人達だった。




   **********




「それでね、たまちゃんね。今日は動物園でね」


 そうか、と相槌を打ちながら、買ってきたハンバーガーを食べるスナコさん。


「スナ姉達は、今日は何かあったの?」

「いや、いつも通りだったぞ」


 なーんだという、たまちゃんの声を聞きながら、一瞬僕も今日は何事も無かったなと思ってしまい、慌てて頭を振る。


――いやいやいや! これ普通じゃなかったよ。

 あれ?普通って何だっけ、普通……。


 僕は色々と思い出し、こういうが普段から多い事を思い出し、そうこれが日常なのかと安堵の息を……。


――つかないよ! どうしてこうなった!


「ニンゲン落ち着きなよー」


 目まぐるしく一人ツッコミをしていた僕にたまちゃんのツッコミが刺さるのだった。

突っ込んできたトラックの運転手


「ここは……どこダギャ? まだ配達の途中だったはずダギャ……。それに辺りが何だか白いんダギャ」

「お待ちしておりました勇者様」

「ダギャあ!?」


それはきっと、別の物語。

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