GO 来光!
「中々温まらないな」
「やはりチベットの山々は標高が高いからな」
「何でもいいんだけど、さすがに寒いわよー」
「ギンコ、もうあっちで休んでなって」
僕は、ただ除夜の鐘を聞いてまどろんでいただけだったはずなんだけど……。
「起きたな。すぐにお湯が沸くからな」
スナコさんが当たり前の様に、声をかけてくる。そしていつものコッフェルでお湯を沸かしている。ただ一つおかしい事は、明らかに視界全部が銀世界なんですが……。
「あ、ヤジさん。まだだから、炬燵にいていいよ」
「あらダーリン起きたのねー。みかん足してあるわよ~」
僕はたまちゃんが丸くなっている横に置いてあったみかんを手に取り……思わず地面に叩きつけた。
――完全に冷凍ミカンじゃないかー!!
雪崩防止の為に、心の中で叫んだ僕は褒められてもいいと思う。どうしてこうなった……。
***********
炬燵にみかんにマヌルネコ。そんな感じで、たまちゃんがちょっと行儀が悪いけど炬燵の上で丸くなっている。マヌルネコモードなので、普段よりもだいぶ小さいから邪魔にはならないけど。
「む。そろそろだな」
スナコさんが皮を剥いたみかんをせっせと僕に半分押し付けてくるのを食べていたら、そんな一言。そして、テレビの音声が全国各地の鐘の音を響かせる。
「スナコさん、明けましておめでとう」
「うむ。今年もよろしく頼むぞ」
みかんをもむもむと食べながら年始の挨拶を交わす。
「初日の出、見てみたかったなぁ……」
この後、初日の出を見る為に集まった人々が~と、テレビでそんな内容が流れてくるのを見て、思わず呟いたあたりで急に眠気がやってくる。意識が無くなる前に、スナコさんが了解したとぼそりと言った気がした。
夢の中、巨大な狐の背中に乗って空を飛んでいく僕。何故かスナコさんの声で、今年はメタルコャがあるから楽だとか、そっとだぞ……とか聞こえた気がする。初夢は確か、1月2日の朝に見るはずだよなぁ……。と、思いながらふと寒さで目を覚ます。炬燵の上でたまちゃんが猫の時と同じ姿勢で、人型になって同じ姿勢でスヤスヤ寝ている。
――それにしても、何だか辺りが白い様な……。
「やはりチベットの寒さは格別だな」
「うむ」
スナコさんとお兄さんが完全防寒でそんな事を話している。しかし、炬燵をそのまま運ぶのはハードなミッションだったなとかも言っている。たまちゃんが欠伸しながら目を覚ますと、僕のシャツに顔を押し付けながら、「あさ〜?」と聞いてくる。
――いつもは、あんなに僕に対してひんむいてくるのに(マヌルネコ威嚇)、まるで飼いならされた猫みたいだ。
「たまよ。チベットの朝はこれからだぞ」
「チベット!」
勢い良く起きると、スナコさん達の所へ駆けていくたまちゃん。僕も何故か着ている防寒具についた雪を払いつつ、そちらに向かう。
「スナコさん、これは一体……」
「おぉ、珈琲が来たぞ」
振り替えると見覚えのある人。いや、神様が。
「全く……。新年を祝っておる最中に呼び出すとは、何なのじゃこの狐児どもめが」
【有翼 蛇女】さんこと、ケツァールコアトルさんじゃないですか! なんでこんな山頂に。そんな僕の雰囲気を見て、顎でスナコさん達を指し示す。
「初日の出と共に、美味い珈琲が欲しい等と申すでな。まぁ、美味さは儂が保証するでの」
世界一美味しいという自負があるらしく、何だかんだ結構嬉しそうにしているケツァールコアトルさん。
「ああ。あの野性味溢れる苦味。程よい酸味。しかも収穫仕立てなら最高ではないか」
そうじゃろうそうじゃろうと、すっかり乗せられているケツァールコアトルさん。――褒められ慣れてないのだろうか……。そんなこんなで盛り上がっていると、スナコパパが凄い速さで登ってきた。
「スナコちゃんお待たせ! スナコちゃんが食べたいっていうから、パパ頑張って麓で買ってきたよ」
スナコパパが持ってきたのは鶏肉なバーレル。あれ、こんな所にファーストフードってあったけ? と疑問を浮かべる僕に、たまちゃんが教えてくれる。
「最近チベットにも出来たんだよ! 揚げ鶏がじゅーしぃだよね!」
――まさか、今買ってきたの!?
驚愕している僕に、更なるお客様の声が。
「お肉があったら、後はですねー。あれですよー。お稲荷がないと駄目ですよねー」
白装束に尻尾が九つ。たまちゃんと同じくらいの背丈の幼女な感じの狐が、ぽふぽふと歩いて来た。そしてその後ろから、天さんが、凄く大きなお重を持って追い掛けてくる。
「御倉神様ー。待って下さいよー。早いですよー。ってもうみんなお揃いなのね」
御簾越しに見た事はあったけど、直に見たのは初めてだよ神様! その後も続々と見た事がある人達が集まってくる。何でこんな山の頂上付近に……。しかも日本でもないのに。
「やはり、祝い事は盛大にな」
スナコさんがドヤ顔で立っている。少し離れた所に、メタルコャが着陸して誰かを降ろし、高速でまた離陸していくのが見えた。
野生の珈琲と、御倉神様の甘酒とお神酒が振る舞われ、どこぞの隠れ温泉の双子のお姉さん達がカレーを出してきて、それを大猿の人が手伝ったり、たまちゃんの動物園の同僚と思しき方々が、それを肴に騒ぎ始める。狸の長老さんが狸踊りを始めたのを、スナコ兄が負けじと何故だが踊りだす。こんな所だけど凄い騒ぎになってきた。と、さらに聞き覚えのある声が。
「あれー!? スナコ先輩達どうして!?」
「あけおめだな、レイカよ」
突然現れたレイカちゃんにも、少しも驚く事無く返すスナコさん。――少しは驚こうよ……。確か、家族旅行で世界を回ってると聞いてたのだけど……まさか……。
「あぁぁぁあ! おみゃーらは、にっくきスナギ……むぎゅ」
後からレイカちゃんを追いかけてきたと思しきダギャ社長。叫び切る前に、ギンコさんが口に揚げ鶏を突っ込み黙らせ、すかさずキタさんがお神酒の濃いのを渡して飲ませていく。――凄い早業だ。
あっという間に酔っ払ったダギャ社長は、そのまま騒ぎに加わっていった。
「何だか楽しそうでいいわねぇ」
「あ、お母さん! あのね、凄くいい先輩達でね!」
レイカちゃんのお母さんが、娘のそんな話を楽しそうに聞いている。
そんな宴もたけなわな中、突然スナコさんが大きな声を上げる。
「手の空いている者は左手側を見ろ。ここで今年初めての太陽だ」
ゆっくりと、世界が白から赤く染まる。それはチベットの今年初めての太陽。初日の出。――まさか、スナコさんはこの為に……?
「日本とチベットの時差は約5時間。よく眠れただろう?」
誇らしげに、だけど、恥ずかしそうにボソボソと呟くその声に、僕はそっと手を握って応えるのだった。
「ところで、ケツァールコアトルさん。少しふくよかになった様な……」
「ああ、妊娠中だそうだ」
――え!? ご懐妊ですか!?
「小谷田と、いい感じになったとは聞いていたが。めでたいな」
――小谷田さんはすごかった。




