アナコンダイズ
「あれはねー、焼いた方が美味しいんだって」
「ふむ。あれはしっかりと中まで火を通さなければな」
スナコさんとたまちゃんが、グルメ談義をしている。ただ、その食材が問題だ。
――斑やら、黄色と黒やら、緑やら……つまり……。
「ほんと、美味しいわよねー蛇」
「高タンパクは、ジャングルでは大事だからな」
ギンコさんまでもが、頷き、お兄さんが当然と腕を組む。
動くだけで汗が垂れそうな異常な湿気の中、何故か元気な狐組。――どうしてこうなったんだっけ……。
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「伝説の大豆を探しに行くぞ」
「おぉー!」
お昼の映画ショウを見終わった後、スナコさんがおもむろに立ち上がってそう宣言した。そして、たまちゃんまでも、やる気になって立ち上がる。
「行くぞ! 南米ジャングルへ!」
「おーおー!」
――ええぇぇぇぇ! という僕の叫びは華麗にスルーされた。確かに今日の映画ショウはそんな話だったけどー!
「というわけで、小型化に成功した鹵獲メタルコャだ」
小型セスナ機位のサイズになって、程よく7人ほど乗れる大きさのメタルコャ。【鹵獲】ってなんだろうって思ったら、油揚げギャングから奪った機体を色々と改造していたらしい。
「いやー。もうね、本当ずっと改良してんだよ。おかげで数話分位出て来れなくてさ。寂しかったかい? ヤジさん」
なんだかメタな発言をしながらも、だいぶ元気になったキタさんをあしらいつつ、僕らは南米辺りに飛び立ったのだった。
「流石に暑いわね〜」
「うむ」
「たまちゃん溶けちゃうー」
メタルコャがそのまま舟みたいな形になり、ゆっくりと河を上っていく。よく見ると水面下で犬かきしている……。――ハイテクなのか何なのか……。
「ところでスナコさん、当てはあるの?」
――どう考えても無策な上にノリで来た様にしか思えない南米ツアー。大丈夫なのかな。
「実はな……レイカに聞いたのだが……」
レイカちゃんのお父さんの部下――つまり、アブリャーゲコーポレーションの工場の一つがこの河の源流近くにあり、最近新種の大豆を発見したそうな。……じゃあ初めから源流辺りに着陸すれば良かったのにと思ったら、樹が密集し過ぎて無理だったらしい。
「それにな」
「うん?」
舟の舳先――メタルコャの顔の上辺りで、指差しながらスナコさんは宣言する。
「冒険が必要だと思わないか」
何故か拍手する狐達。そして川面から飛び出すワニ。
「おぉっと! ワニが出てきたぞ〜」
嬉しそうにはしゃいだキタさんだったけど、身を乗り出し過ぎて、ワニに食い付かれている。
「ワニも意外と美味しいのよねー」
「唐揚げにするといいぞ」
「うわぁ〜みんな、僕を置いてかないでよー」
食べられかけているキタさんを放置して食料談義が始まり、キタさんが危うくワニの食料にされかけたのだった。
「ここが……工場?」
煙を上げた廃墟がそこにあった。何かが無茶苦茶に暴れまわったかの様に、太く丸く道が出来ていたりする。と、うめき声が近くから聞こえて慌てて瓦礫を掘り出す。よく陽に焼けた大柄な男性が息も絶え絶えで出てきた。狐耳に尻尾も生えている。
「おぉ……助かったダギャ……。まさか本社から助けが来るとは」
メタルコャを見ながらそんな事を言う男性。――うん、ごめんね。観光なんです……なんて言えない。スナコさんが、レイカに聞いたと、一応本当の事を言うもんだから、さらに感激する男性。なんでも、噂を聞いて実際に【伝説の大豆】を発見した会社は、工場を作ってそれを増やそうとしたらしい。だけど、巨大な何かが今朝方やってきて、建設中の工場を薙ぎ払っていったらしい。
「あれは……巨大なヘビだったダギャ」
お茶とか油揚げを食べて少し元気を取り戻した男性――古谷田さん。しかし、凄い名前だ…。
「地域で募集した人達は逃げてしまったし、これから一体どうすればいいダギャ……」
元気になったと思ったら現実を見て、またしょげてしまった。それを見て、スナコさんがニヤリと笑う。――嫌な予感しかしない……。
「私にいい考えがある」
野山を分け入り、僕らは更なるジャングルの奥地へと向かっていた。道中で出てきた蛇を食欲の目でスナコさんとたまちゃんが見詰めるもんだから、最初の内は結構出てきていた蛇はすぐに見なくなった。
「ギンコさんも意外と平気なんだね」
「あらダーリン心配してくれるの? 私もこれでも野山で育ってるから平気なのよー」
普通の道の様にさっさか歩いているギンコさん。意外だった。都会育ちの狐かと思っていたよ。お兄さんは背嚢を背負って、無言でズンズン歩いて行くし、スナコさんとたまちゃんは得物(食用の蛇)を探しながら歩いていて楽しそうだ。キタさんは、いつでもメタルコャを動かせる様に、工場の辺りで待機している。さすがにこの獣道はあのサイズは入れないし、上空からでも、木々が生い茂ってるし、巨大な蛇らしきものを刺激したくないそうだ。
――あれ……これって僕が一番役立たず……。
今更ながら現実に気付いて、僕は歩みが遅くなりかける。それを見付けたギンコさんが嬉しそうに僕を引きずっていくのだった。
「これではないか?」
「何だかやたらと元気な大豆ね」
「まめー」
時々獣道と交差する様にたまに表れる踏み荒らされた道を進んで行った先。小さな滝壺の辺りに、何やら大豆めいた物が生えていた。確かに普通の大豆よりも何だか輝いている様な。それをしげしげと見ていたスナコさんが、豆を出してそのまま食べようとするのを必死で止める。
「スナコさん駄目だよ! 生の大豆には【トリプシンインヒビター】という物質が含まれていて、簡単に言うとお腹壊すよ!」 ※作者注 本当です
気合でどうにかなるだろうとか言って、食い意地を見せるスナコさんをお兄さんに拘束してもらい、滝の水をコッフェルで沸かし、そこに今収穫した大豆を入れて五分程加熱。粗熱を取ってから、まだ羽交い締めにされているスナコさんの口に放り込む。
「むぐ! ……!」
スナコさんの目がカッと開くと、拳を天に向け、涙を流しそうになっている。我が生涯に~とか言い始めた。どうなってるんだこれ。みんなが呆気に取られる中、僕も一粒口にすると……。
「はうあ!」
――なんという事でしょう。かぐわしい香り、そして野性味溢れた強みと滋味。ここまで歩いてきた疲れが吹き飛び、眉間が開くかの様……。つまり……。
「とんでも無く美味しい!」
残った豆を一粒ずつ食べると、他のみんなもやたらと感動して元気になった。これはまさに伝説の大豆……!
「でも、これほとんど生えてないよね。多分、生育に条件があるだろうし、工場のラインに乗せる量なんて無茶じゃないかな」
改めて考えると、澄んだ水に程よい日光に、ジャングルの中で奇跡的に開けた土地と、かなり条件が厳しそうに見える。と、ガサガサと木々が揺れ、何かの気配が。直ぐ様みんなが、臨戦態勢を取る。
「その豆はここでしか育たぬぞよ」
何か出てきて喋った。よく見たら女の人だ。見た目は若いんだけど、視線が物凄く刺す様で冷たい。すごくこう長老的な雰囲気をかもしている。――まるで蛇みたいな目だなぁ。
「悪いことは言わぬ。これ以上荒らさぬ事じゃ……」
そう言って去って行こうとする女の人を止めるスナコさん。
「研究用に一粒だけも駄目か」
「駄目じゃ」
「ちゃんと増やして返す」
「ダメじゃ」
「パワーアップさせて返す」
「だめじゃ」
凄まじく食い下がるスナコさんに、僕らが呆れていると、女の人がイライラを通り越してキレた。
「だめじゃと、ゆーとろうが! 力ずくで黙らせちゃるぞ狐児どもが!」
そしてみるみる身体が広がり……って、あー! あ〜! 巨大なヘビ! この人だー!
それを見上げながら、スナコさんは携帯電話で連絡を取る。あっという間に飛んでくるメタルコャ。巨大なヘビは、鎌首を上げて口を大きく開くと、何やら光の弾の様な物を発射! 滑らかに回避するメタルコャ。さらに何発も発射したけれど、華麗に空中で回避し続けるメタルコャに痺れを切らした巨大なヘビ。
――えぇぇ! 羽生えた! さらに飛んだ!
低空飛行しつつ、僕以外を回収したメタルコャは空中でホバリングしつつ空中に上がってきた蛇を迎え撃つ。
――何だろう……この二大怪獣大激突的な……。
森林に被害が及ばない様に、飛び道具も環境に優しい油揚げ砲だ。――自分で言ってても何だかよく分からない……。とりあえず、地面にいれば大丈夫な感じだ。周りで熱帯の動物達も見上げたりしている位だし。
――ん? ちょうど巨大怪獣バトルの真下、何か気になる物が。
被害が無いとはいえ、風圧が凄い中をどうにか進むと、そこに生えていた樹に僕は思わず唸り声を上げてしまう。――これはいける!
「打開策を見付けたよ! 戦闘中止して!」
僕は大空に思い切り叫んだ。
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「お、早速届いたぞ」
あれから一週間。僕が見付けた樹をめぐり、色々協議の末、商品化する事が決まった。売上は森林を守る為に使われるし、収穫もアブラーゲコーポレーションや、付近住民が行う事になり、権利元は蛇さんと、綺麗にまとまってくれた。
「でも、あんな所にあるものなんだねー」
「私も驚いた。よく見付けたな」
そう、あれは野生種の珈琲の樹。一切人間が手入れしない野生の珈琲の場合、付加価値がついたりするのだ。それに気付いて提案し、流通出来る様にさらに企画を固めたのはアブラーゲコーポレーションとスナコさん達。僕は本当に見付けただけ。
届いた試供品は、かなり丁寧な説明がなされていて、プレミア感もあって売れそうな気配だ。
《我々、森の民の昔から付き合いのある大地の味をお届け致します》
うん、謳い文句もカッコいいね。あ、生産者名とか、私が作りましたって写真まで付いてる。
《販売社:アブラーゲコーポレーション》
《製造・生産:ケツァールコアトル 有翼 蛇女》
日本人ぽい名前まで付いてる……って、聞き覚えのある感じの名前が。
「ああ、ケツアルコアトル。あの辺りの神の一柱だぞ」
――とんでもない人(神)だった。どえらい事になっていた……。
「野生の珈琲」は実際にあります。物凄く濃い味が、本当に素晴らしくて感動するお味です。通販等も行っている様なので、気になった方はお試しあれ!




