めたるこゃっくす~天空の油揚げ~
「勇者よ、目覚めなさい。もう朝ですよ」
そんな声で、視界が明るくなった。――今、『ゆうしゃ』って聞こえた様な……。モゾモゾと起きだすと、スナコさんが「うむ」と言いながらベッドの横に立っていた。
「勇者スナコ起床だ」
――やっぱりスナコさんが勇者か! 僕じゃないよね。知ってたよ!
「優者よ、あなたも目覚めるのです」
――まさか、僕もゆうしゃ!? でも、何か音が違う気が……。
「優しき者、癒やしの担当。ユウシャよ」
優しそうな女の人にそんな事を言われ、チベスナ顔になりながら、僕らの冒険の旅は始まった。
「魔王を倒して下さい」
城で謁見すると、女王である天さんがそのように宣言した。その横で何故かドレスを着ているキタさんが、儚げに肩を震わせる。――何故ここでも女装を……。
とりあえず、目標は魔王を倒す事。さぁそうと決まれば! と、スナコさんを見ると、女王様からもらった軍資金を握りしめ、もう颯爽と歩き始めていた。
――流石勇者だ! 揺るぎない! ……でも、よく考えたらスナコさんの通常通りだ。
「高いな」
早速やって来た街の道具屋。――なのだけど、売っている物がおかしい。
銅で出来た剣や、棍棒とかの武器だけじゃなかった。料金表に『てぃーがーせんしゃ』とか『ろけっとだん』とか、無茶苦茶に物騒な名前が並ぶ。勿論、値段は手持ちのお金と7桁位違う。――もし買えたらこれ、魔王も一撃な気がするんですが。
「これでいいだろう」
スナコさんは手に持っていたハンカチを手に巻くと、バンテージにしてしまった。
「スナコさん、それもう勇者じゃなくて武闘家とかじゃないの……?」
それに対して、スナコさんはニヤリと笑う。
「殲滅できれば同じ事だ」
――魔王……逃げて。多分この狐、本気でやりかねないから……。
とりあえず、街を出て北にある村へ向かおうとしたら、いきなり何かが飛び出してきた。――おぉ!? 初めての戦闘か!
「たまちゃんがあらわれた!」
自分で名乗っているよ、たまちゃん! そして問答無用で攻撃するスナコさん。あっという間に、たまちゃんが倒れてしまった。そして、立ち上がりながら話しかけてくる。
「たまちゃんがなかまにして欲しそうに、そちらを見ている。じー!」
――全部自分で喋っている……。これは仲間にしないといけないのだろうか。
スナコさんと見ると「うむ」と、握手している。あっという間に一人、仲間が増えてしまった。
その後も、何故か油揚げギャングが被り物しただけにしか見えないモンスターを片っ端から倒しながら、色んな街で、色んなイベントをこなしながら、僕たちは進んだ。
途中、二人がダメージを食らった時は、僕がブラッシングをしたり、何故か持っている『かいふくやく(甘い炭酸水)』を飲ませたら回復した。
そうして、僕たちはついに、村人のタンスの中を漁ったり、油揚げギャングをしばいたりして貯めたお金で手に入れた『てぃーがーせんしゃ』で、そびえ立つ禍々しい感じの城へと乗り込む。
「魔王でてこーい」
「倒す」
壁を撃ち壊し、階段を踏破し、中ボスらしきものを蹴散らし、最上階へと突き進む。僕は中で座っているだけなんだけど……。何なんだろうか、この状況。そして玉座の間らしき場所で、僕らを待っていた者は!
「よく来たな、勇者よ。俺が魔王だ」
スキンヘッドに、ゴテゴテした鎧。何故かサングラス装備の……っておぉい! ――お兄さんじゃないか!
「世界の半分くらいをお前たちに、あげてもいいぞ」
「うるさい倒す」
「げきめーつ!」
物騒なセリフを言っているのが味方なのが悲しい。そして始まる魔王戦。魔法と砲弾は飛び交い、ついに炎上した『てぃーがーせんしゃ』から降りた後も戦いは続く。激しい殴り合いで荒れた毛並みを整える僕のブラッシング技術は最速で光り、そして不意をついて投げた炭酸水がお兄さんの目に入り、クリティカルダメージ! ひるんだ隙に、スナコさんの連続攻撃『くりてぃかるらっしゅ』と、たまちゃんの背後からの攻撃『すにーきんぐたまちゃんあたっく』で魔王は倒れた。それをロープでぐるぐる巻きにして、引きずりながら夕日に照らされる二人。こうして、僕達の冒険の旅は終わったらしい。魔王を天さんに引き渡して、空に花火が上がり、そしてエンディングにスタッフロールが流れた。
――製作 たま
――シナリオ たま
――音声 たま
――ドット絵製作 たま
【 めたるこゃっくす ~天空の油揚げ~ 】
さんきゅーふぉーぷれいんぐ!
たまちゃんがんばったよ!
***********
朝からスナコさんと二人で、あーでもないこーでもないと言いながら、たまちゃんが作ったゲームで遊んでいた。最近の◯◯ツクレール系ゲームは凄いね。かなり本格派だったよ。――でも、何で僕が『そうりょ(癒やし担当)』なんだ! スナコさんはちゃんとステータス表示に『勇者』って書いてあったのに! たまちゃんは『戦士』だし。細かい所が突っ込みどころ満載だった。
「あとさ、スナコさん……」
む? と振り向く顔に、僕は一番言いたい事を言い放つ。
「何でスナコさんだけ、ドット絵でちゃんとグラフィックあるのに、僕は顔の表示がハテナマークなの!?」
スナコさんは、キャットウォークで寝ているたまちゃんを見上げ、表情も変えずにこう呟いた。
「どうしてこうなったんだろうな」
台詞を取られた僕は、床に突っ伏すしかなかった。
今回の掲載のドット絵は、こちらで製作致しました。
ちびドットアイコンジェネレータ -Icon Generators- http://www.icongenerators.net/chibidot.html
その内、ドット絵のスナコさんを、うぃざーどりぃ風にも作りたいなとは思っています。




