表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/51

帰ってきたアゲレンジャー

『お姉さんとのお約束! ショーの最中は立ち上がったり、前に出て来たら危ないから、座ってお父さんお母さんと見てね。お姉さんが掛け声をかけたら、一緒に応援してね!』

「天知る、地知る、人が知る。悪を倒せと私を呼ぶ!」

「貴様、何者だ!?」


 カッコよくポーズを決め、名乗りをあげる。


「アゲレンジャーゆず! 天に代わって悪を裁く!」


 会場がどっと沸き立つ。しかし、僕は不安で手元までガクガクしている。なんで……なんであんな電柱の上でポーズを! あぁ……危ないっ! 僕の心臓が持たなくなりそうだ。


――どうしてこうなった!




   **********




 たまちゃんを連れて、日曜の昼下がりをスナコさんと行く僕。

 ホームセンターではしゃぐたまちゃんに、キャットウォークやらボールやらを買ってあげる。――まんま猫の為のグッズだ。


 後は夕飯の買い出しでもして帰ろうかと銀行の駐車場の横を通った時、前方から見覚えのあるお姉さんがやってきた。


「あ、二人とも、ちょうど良かった!」


 探してたのよ、と豆腐屋さんのお姉さん――そらさんが安堵の顔をする。僕は逆に嫌な予感で身体が震えた。




「みんなー! アゲレンジャーショーに来てくれてありがとー!」


 最早、子供だけではなく、学生も大人もご年配の方々までもが溢れかえる。

 来週だと聞いていたアゲレンジャーショーは、何故か今日開始された。朝に急遽日程変更になっていたそうで、僕がその事を報せたギンコさんとキタさんも、直ぐ様向かうと慌てて電話を切っていた。

 そして僕は、たまちゃんと二人で黒い全身タイツを着込んで、舞台の袖に待機中だ。


「楽しみだね!」


 はしゃぐたまちゃんとは逆に、僕は緊張でドキドキだ。人が足りないからと、初めの方だけ戦闘員役なのだ……。やられたら直ぐに音響さんの手伝い……。むちゃくちゃ忙しい。


「それじゃあ、みんなでアゲレンジャーを呼ぶよ!」


 せーのっ! という天さんの掛け声で、アイドルのコンサートのように歓声が響く。僕は緊張がMAXになりながらも、舞台に飛び出すのだった。




 まずアゲレンジャーの前に戦闘員が出現。でも、名乗りをあげて出てきたアゲレンジャーリンゴに直ぐにやられて退散。僕は着替えて次の手伝いだ。たまちゃんは出番が終り、裏のテントで丸くなって寝てしまった。

 舞台上では、アゲレンジャーリンゴこと、スナコさんが、相変わらず聞いた事が無いような可愛らしい声で客席とお姉さんとやり取りをしながら、ジャンケン大会やクイズ大会を行っている。後はこれが終わった頃に、音楽を変えれば僕の役目は終りのはず。

 と思っていたら、横から誰かの手が出てきて勝手に音楽を変え、さらにマイクを奪う。


――えっ! 誰!? 困るんだけど!


『ふはははは〜ダギャー! この会場は我々油揚げギャングが占拠したダギャー!』


 キャアキャア喜ぶ観客。完全に演出と思われている。そして、観客席の後ろから現れる黒ずくめのギャング達が、美味しくなさそうな油揚げを売り始める。お客達は、何故かそれを喜んで買っていた。


『このまま、商店街の油揚げは我々が牛耳るんダギャー!』

「そうはさせないわ!」


 キキーッと甲高い音を立てて、バイクが観客席の後ろに到着した。そこから飛び下りると、黒ずくめのギャング達を凪ぎ払いながら、二人が一気に舞台へとかけあがった。


「遅くなったわね! アゲレンジャーふっくら参上!」

「同じく、アゲレンジャー黒糖も到着!」


 サプライズ的な登場に、観客は大喜びだ。既に着替えていたから、これも演出みたいに見えている。倒された黒ずくめのギャングは、観客にもみくちゃにされて撤収させられていた。


『ぐぬぬ……。またしても邪魔くさいアゲレンジャーめ! 我々の計画が上手くいくよう、せっかく日程まで変えたというのに!』


――またお前らのせいか!


『しかし、我々には新たな兵器があるんダギャー! いでよ、メタルコャⅡ!』


 用意していないはずのスモークが焚かれ、舞台の真ん中に穴が開いてゆっくりと何かがせり上がってくる。――いつあんな仕掛けを!


 どよめく僕たちと観客。現れたのは、かなりダウンサイズに成功したメタルコャだった。人間より少しだけ大きい程度にまでなっている。そしてそれに乗り込んで操作しているのは……。


『さぁ! やるんダギャー! 湯葉怪人!』

「任務だからな」


 肌が見えているところは黄色く塗りたくり、袖はヒラヒラとした物がついていて、それも黄色。――サタデーナイトにフィーバーしそうな格好のスナコ兄だ。

 なんでまたお兄さんがあちら側に。そして、今回も酷い格好だ。


 こうして、動揺するアゲレンジャー対メタルコャⅡの戦いが火蓋を切った。


 安全性に一応配慮しているのか、メタルコャⅡからは花火程度の火力のロケット砲が尻尾から放たれ、さらに口からは火炎放射的なブレス(実はただ、眩しいだけ)が噴出した。

 あまりの眩しさに、アゲレンジャー達は中々手が出ない。飛び道具なんて用意していないので、どんどん劣勢に追い込まれる。さらには、巨大な油揚げがびろーんと飛んで来てアゲレンジャーを捕まえて動きを封じる。大ピンチだ!


『ハーッハッハ~ダギャー。今度こそ我らの勝利ダギャー! 壊された工場の分、売上で取り返すんダギャー!』


――なんだか目標が小さいぞ、油揚げギャング。


「みんな! アゲレンジャーはこんな事で負けたりしないわ! アゲレンジャーを応援するよ! せーのっ!」


 泣きそうな顔をした子供達が、天さんの掛け声に拳を握り締めて必死に声を出して応援する。


がんばれーがんばれーアゲレンジャー!


――その時だった!


 凄く高い所から、軽やかな笑い声が辺りに響く。誰もがキョロキョロと周りを見る中、僕はハッとして顔を上げる。


「あ、あんなところに!」


 僕が思わず叫びながら指差すと、みんなの視線がそこに集中する。なんと電柱の上に、アゲレンジャーの格好をして腕組みして立っているのがいるではないか!

 ――あれ、あの小柄なシルエットはまさか……。


「天知る、地知る、人が知る。悪を倒せと私を呼ぶ!」

『貴様、だれダギャー!?』


 カッコよくポーズを決め、名乗りをあげる。


「アゲレンジャーゆず! 天に代わって悪を裁く!」


 とうっと叫び電柱から物凄い連続前回りしながら舞台に降り立つその姿は!


「アゲレンジャーゆず! たまちゃん参上ー!」


 ――名乗っちゃたー。しかもドヤ顔だー。


『ぐぬぬ……。追加戦士など聞いてないダギャー。やるんだ湯葉怪人!』

「うむ」


 湯葉怪人ことスナコ兄は、当然のように攻撃を開始する。しかし、舞台狭しと駆け巡るアゲレンジャーゆずには当たらない。そして、その間に油揚げを食べきったアゲレンジャー三人が立ち上がる。


「油揚げを粗末にする物に災いあれ……アゲレンジャー黒糖ブラック!」


 呪詛みたいになってるよ。キタさんこと、アゲ黒糖ブラック!


「ヘルメットの外の髪の毛、油揚げでベトベトなんですけど……。アゲレンジャーふっくら!」


 お怒りだよギンコさん。アゲふっくら!


「お揚げを愛し、お揚げを慈しみ、だからこそ無駄にはしない。人それを友愛と言う……。アゲレンジャーリンゴ!」


 すっくと立ち上がり、完璧にポーズを決めるアゲリンゴこと、スナコさん。


「スーツがあったから飛び入り参加! 食べ物を無駄にしちゃダメ! アゲレンジャーゆず」


 ちゃっかり再度混ざってポーズも決める、たまちゃんことアゲレンゆず!


 天さんの〈拍手ー!〉の声と共に、会場のボルテージは今日一日で最高に高まる。


『う、うるさいんダギャー! やれ、やるんダギャー』


 アゲレンジャーのテーマをタイミングよく再生すと、それに合わせて流れるような動きでメタルコャⅡを翻弄する四人。そして舞台右側、上手側にメタルコャを追い込むと、四人が光り始める。


「出るか必殺のー!」


 観客が声を合わせて叫ぶ。


――スナギツネクラッシュ~!


 その声に合わせて、光りながら突っ込む四人。ぶつかる度にメタルコャⅡはひしゃげていく。そしてさらに!


「マヌル~あたーっく!」


 たまちゃんこと、アゲレンジャーゆずが、至近距離から伸び上がりながら放ったアッパーカットは、中にいたお兄さんといつの間にか紐でメタルコャⅡにくくりつけられた油揚げギャングを、共に星に変えて打ち出したのであった……。




   **********




「みんな本当にありがとうね!」


 当たり前のように帰って来たお兄さんも含め、控え室になっている近くの地域センターでお疲れ様会になった。


 今回は、ビデオカメラが三台も設置されており、色んな角度から楽しめるDVDを作成する予定らしい。


「そーだ! 商店街の人がね、アゲレンジャーのお稲荷さん作ってくれたのよ」


 お茶を入れてくるわねーと、天さんとお兄さんが部屋を出ても気にすることなく、目の前のそれにピクリと反応している面々。

 ふっくら、黒糖、林檎に柚子。ふっくらは普通の茶色だけど、それ以外は黒・赤・黄色とカラフルだ。


「いっただきまーす」


 手を伸ばし、それぞれ自分のモチーフのお稲荷をニコニコしながら口に入れた面々だったけれど、スナコさんがスナギツネ顔で静止し、たまちゃんが眼を見開いて口を大きく開けてフリーズした。


「え、何よスナコー、そんなに美味しかったのー。寄越しなさいよー」

「たまちゃんも余りの美味しさに絶句かい?」


 ギンコさんとキタさんが、ニヤニヤと笑いながら二人のお稲荷さんを口に入れ、そのままストップモーションのように動きが無くなる。


 僕は一つずつ食べてみる。黒糖、甘めのコクが良し。ふっくらは……柔らかさ重視でいいね。柚子は……おうふ……。


――爽やかな柑橘の香りとともに、甘さが脳天を貫く。


 視界が危うくなりそうだった。口直しにと、手を伸ばした林檎で僕はトドメを刺された。


――林檎の果汁の甘さ、爽やかな風味。フルーティな香り……が絶望的なまでにお稲荷と合ってない。




 僕たちは、天さんとお兄さんがお茶を入れて戻って来てからも、そのまま固まったままだった。

先日、たまちゃんがやってきた恐怖の日。あの時海外に行っていたスナコと兄は何をしていたのか!? 実はこんなサブストーリーがあったのです。

【色褪せる事の無い名画よ】

http://book1.adouzi.eu.org/n2478dg/

橋本ちかげ様の、ほほ袋探偵とのコラボ作品です。良かったらお楽しみください。



尚、今回出てきたお稲荷四種類は実在しており、全て私が食べた感想でございます……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ